ダンジョンと自然と白い花
まずはマナの残量を再確認。
第二階層の整備に使った残りである100,640マナの内、約半分を魔物の召喚に使う。
召喚する魔物は以下の通り。
レベル 名前 数 マナ
lv2 マッシュ 40 8000
lv3 バウム 20 10000
lv5 魔術師(各種補正) 1 7500
lv3 見習い魔術師 15 7500
lv3 ウルフソーサラー 5 2500
lv1 ハウンドウルフ 15 1500
lv6 ゴブリンヒーロー 1 6500
lv3 ゴブリンシャーマン 10 5000
lv4 ドリアード 5 5000
合計 53500 マナ
早速召喚していく。
まず、マッシュ。
召喚を行うと、いつも通り光の繭が現れる。
そこから出てきたのは、体長一メートル程の歩く人面キノコだ。
こいつは戦闘力こそかなり低いが、相当な速さで増殖する。
また、育つ前の状態だと普通のキノコと変わらず、取って食べることができる。
飯とマナの両立だと考えればそれで良いだろう。
次に召喚したのは、バウム。
体長5メートル程の太い木の魔物。
人面樹と言って間違いないが、その顔は厳ついと言うよりは老人と言った方が正しいだろう。
こいつは見た目木と変わらないので、森の中に混じってしまえば見分けるのは難しい。
一応森は幻樹だけでなく、複数の種類の木で構成されているので、紛れることはできるはずだ。
戦闘力も高めであり、奇襲や森の中での間諜に使う。
次に召喚するのは、今回召喚する中で、単体で最大のマナを消費する魔物だ。
すなわち、レベル5の魔物である"魔術師"。
ここでいう魔術師とは職業ではなく、種族としての魔術師であり、魔物の名前だ。
名前の通り魔法を操り、前衛と組んで現れると、レベル以上の危険度を持つ魔物として有名だ。
個体によって使う属性は異なるが、その全てが中級魔法を操るとされている。
ちなみに肉体の力は弱く、近接戦闘では酷く脆い。
名実ともに後衛の魔物であろう。
彼らの見た目はまさに"ローブ"の一言。
元々ゆったりとした魔術師のローブに加え、顔はフードで隠し、手には手袋を着用、肌が一切露出していない。
その上フードの下は闇が覆っていて、その素顔を見た人は誰もいないとされている。
しかし肉体自体はしっかりと存在し、切ったり突いたりで殺せるんだとか。
今回、そんな魔術師に各種の補正を付けるのだが、一番の目玉はこれ。
"人型"の補正。
これは人間に近い肉体を持って生まれる、つまり擬人化だ。
説明を見る限り、人語を話せるし、人に混じってもそこそこ気付かれない、らしい。
人型補正自体は、コアがレベル2になって使えるようになっていたものだ。
一つのテストみたいなものだが、他にもそれなりに補正を掛けているので、魔法役としてしっかりと活躍して欲しいものである。
一方複数召喚する"見習い魔術師"は、完全に弱い魔術師だ。
レベル3の魔物である見習い魔術師は、初級応用魔法を操る。
それ以外はローブの色くらいしか違いが無く、見習い魔術師が赤いローブを着ているのに対し、魔術師は青いローブを着ている。
ちなみに魔術師の上には"大魔術師"という魔物が存在し、それらは紫のローブを着ているようだ。
魔術師の方は特に補正も掛けないので、そのままの召喚となる。
設定を終え、召喚を開始。
魔術師と見習い魔術師を一遍に召喚する。
現れたのは、ローブに身を包んだ集団。
一目見て怪しいと分かる様な集団に、少し笑ってしまった。
するとその中で一番前にいた青いローブを着た魔物が、自らのフードを取った。
現れたのは、真っ白な髪。
若い女性だ。
両側から小さな三つ編みが垂れ、髪全体が肩の下のあたりまで伸びている。
その女性は少し縮こまりながら俺を見ると、持っていた杖を腰の辺りで横に両手で持ち、ぱっと頭を下げた。
「魔術師です、得意な魔法は水と冷気です!よろしくお願いします!!」
その女性の仕草には、どこか初々しさがある。
ただそう思ったのは一瞬で、水と冷気が得意と聞いた瞬間、俺は思わずガッツポーズを取っていた。
「良くやったぁ!!」
「ふえっ!?」
間髪入れずに放った俺の言葉に、女性は驚いてのけぞり、両手を胸の前に持ってくる。
っは、しまった、つい。
「いや、すまん。俺の一番苦手な魔法が水だから、バランス良いと思ってつい」
「そ、そうですか。お役に立てそうで良かったです」
女性はほんわかした笑みを浮かべる。
もう一度よく見てみると、顔立ちには少し子供っぽさが残っている。
背は160ちょっとで、体つきはローブに隠れてよく見えないが、ほっそりしているように見える。
「えと、シラキ様?」
「ん、どした?」
「名前を戴いても良いでしょうか?」
彼女は少しうつむき、胸に手を当てて言った。
「この体に生まれたからでしょうか、何か、無ければならない物のようなな気がして」
「そうか、考える」
名前を欲しがるか。
そういえば無いから名前を欲しがる、というのは初めてのような気がするな。
人型だからだろうか?
確かに人間は名前がある生き物だが。
ソリフィスの時は、俺が明確にこうと思って召喚したからか、最初から名前も知ってたみたいだし。
そう考えると命尾はなんで自分の名前を知ってたんだろう?
自分で考えたのかな。
っと、それより彼女の名前か。
俺ネーミングセンスダメだからなぁ。
今回もアナグラムで決めよう。
女性なら花とか安牌だよな?
暗い中明るく光る魔草を見ながら顎に手を当てて、しばらく考える。
結構長い時間考えていたのだが、誰も止めなかったのは意外だった。
名前というのは大切な物だし、それなりに一生懸命考えた結果だ。
「リースウェーデ…なんてどうかな?」
エーデルワイスのアナグラムだ。
真っ白な髪が印象的だから、悪くないのではないだろうか。
センス無い?そんなことは言われなくても分かってんだ!
「リースウェーデ。ふふ、綺麗な名前ですね」
魔術師……リースウェーデは自らの名前を噛みしめるように繰り返し、そしてはにかんだ。
「では、改めて。魔術師のリースウェーデです。よろしくお願いしますね、シラキ様。そして皆さん」
リースウェーデはまず俺に、その後横にいた魔物達に頭を下げた。
律儀と言うべきか、真面目と言うべきか。
多分人型にしたからという理由では無いと思う。
魔族も人も多種多様だ。
「ところで愛称はどうするんですか?リース?リズ?…リーゼ?」
それまでのやり取りを微笑みながら見守っていたルティナが聞く。
「確かに呼ぶには少し長いですね。シラキ様は何が良いと思います?」
「そこまで考えてなかった」
俺みたいな男がそんなところまで頭回るわけ無いだろ。
即答した俺に、ソリフィスが呆れるでもなく言う。
「だろうな」
(この短時間で愛称まで考えろって方が酷じゃないか?)
レフィルは似たような考えのようだ。
リースウェーデが魔物達にもあいさつしたせいで、外野が騒がしくなった。
まずい、奴らにしゃべらせると召喚が途切れる!
「呼んで欲しい愛称とかないか?」
「ええと…じゃあ、リース、かな?」
「よし、じゃあ俺はリースと呼ぼう。後の話は召喚が全部終わってからと言うことで」
ピッと平手をまっすぐ向けて、俺は召喚する作業に戻る。
リースを含め、全員普通に静かになってくれたから気持ちが楽だ。
次に召喚するのは、ウルフソーサラーとハウンドウルフ。
突撃役であるウルフ隊の補充だ。
主力でもあるし、役割的に騎兵であるウルフ隊の層を厚くしておきたい。
今いるグレーウルフの中から、儀式で仲間にする新たなウルフ達の隊長を決めようという構想もある。
フォックス隊はレベルの関係でウルフ隊ほど気軽に補充できないので、今回は保留だ。
「レフィル、任せていいな?」
(ああ、任せてくれ)
レフィルは何でも無いように頷く。
シルバーウルフであれば、ハウンドウルフの100体くらいは統率している者もいるらしい。
人数的にはまだまだ余裕だろう。
その後も俺はテンポ良く召喚していく。
ゴブリンヒーローはゴブリン隊の新しい指揮官だ。
役割的に歩兵であるゴブリンは一言で言えば戦争の基本。
強力な指揮官を配し、補助要員を追加。
召喚組と儀式組を混ぜるつもりだし、これくらいは必要だろう。
最後に、レベル4のドリアード。
ドリアードとは、木の精霊のことだ。
美しい女性の姿を持つが、本体である木からはあまり離れることができない。
通りがかった人を魅了して、自らの養分にしてしまうとかしまわないとか。
その話の通り精神系の魔法を使い、また弓や槍などの武器も使えるらしい。
それにダンジョンの恩恵で、ダンジョン内なら距離に関係なく移動できる様だ。
本体さえ無事なら人の肉体の方は死んでも問題ないため、本体の場所が重要だ。
これ、下手なアンデットよりも不死生が高いな。
また、ある程度植物の管理もできるそうなので、野菜を育てて欲しいと思う。
ミテュルシオンさんに「野菜食べろ!」と言われてしまったので、喜んで栽培する。
その野菜はダンジョンコアから生成する。
この場で生活するに当たり、必要な物は全てミテュルシオンさんに帰結する気がする。
とりあえずドリアードの本体である巨木は第五階層の中心に召喚する。
そしてダンジョンコアの能力で、ドリアードを召喚した場所に転移。
居住区画以外まっさらな第五階層の中心に、五本の巨木が生えていた。
そしてそんな巨木達の幹から、すり抜けるように美しい女性が現れる。
膝を突いた彼女達は、五人が五人とも違った姿をしていた。
「お初にお目にかかります、主よ」
中心にいた女性があいさつする。
明るい緑色の髪が肩まであり、肌は褐色。
その体は人間と大きな差は無いようで、生地の薄いドレスに身を包んでいる。
「ああ、よろしくな。とりあえず今は上で顔合わせ中だ。転移するけどいいか?」
「もちろんです」
またダンジョンコアに手を掛け、第二階層にとんぼ返りする。
人の体だけ転移したドリアードも、新たに召喚した方のグループに加わる。
自分一人の時はそれほどでもなかったが、複数人で転移すると、魔力もそこそこ使う。
残念ながら、何十人も一片に転移するのは難しいだろう。
気絶するくらいの気概があればできるかもしれないが、危ない。
「ところでドリアード、人語を話せるのは元からそのような魔物だからか?」
「その通りです。私たちドリアードは、例外なく人の体を持っていますから」
「なるほどね」
元々人語を話せる魔物は、最初からその力を持って生まれてくるのか。
こう言っては何だが、ドリアードはなかなかコスパが良いのかもしれない。
「野菜の管理も任せちゃって良いのか?」
「任せて下さい。人間が作るよりも、ずっと良い物を作って見せますわ」
「ん、それは重畳。ただ、第五階層の整備は陽光結晶ができてからになる」
野菜を育てるのは第五階層で行うつもりだ。
だが野菜を育てるに当たって太陽光は必要だと思うので、そこは陽光結晶を使う。
こちらもマナ削減のため俺が自ら作るので、それが終わってから育て始めることにする。
第二階層と違ってこちらは天井がそこまで高くないので、数日もあればできるだろう。
なにやら早く育つらしいので、好奇心的な意味で少し楽しみだ。
「で、野菜分のマナは後にするとして、高レベル魔物用の食料、"魔物の木"も召喚」
魔物の木は、レベル5~10のあらゆる魔物の食物になる木だ。
食べれるのは果実の部分で、赤、青、緑の三色からなるしましま模様の丸い果実を実らせる。
これでソリフィスの飯も何とかなるだろう。
消費マナは5000と多めだが、必要経費と割り切ろう。
「残りのマナは願望桜に全ツッパする」
事前に話していたルティナを除き、魔物達がはてなマークを浮かべる。
お互いに顔を見合わせて知らないことを確認した後、命尾が心の口を開いた。
(マスター、願望桜とは一体?)
「ああ、ミテュルシオンさんが用意してくれたんだ……けど」
俺が「ミテュルシオンさん」と口にしたとたん、ルティナ以外の全員がギョッとした様な表情をした。
「……ルティナ、まずかったか?」
「眷属や魔族達は良いですけど、亜人の前では言わない方が良いでしょうね」
気をつけなければいけないな。
まあダンジョンにいる限りは構うまい。
「あー。うん。まあ何にせよ五階層に召喚しておくから、興味がある人は後で見てみてくれ」
そういって俺は願望桜を召喚した。
願望桜。
ミテュルシオンさんお手製(?)のオリジナルだ。
消費マナ10,000、収入マナ100/日。
戦闘力0、完全なマナ収入用の魔物(?)だ。
また値段の桁が大きい買い物だが、単純な話、百日経てば元が取れる。
千日経つと枯れるらしいが、それだけの期間無事なら1万が10万に変わるわけだ。
まあ千日経つ前に終末が来るだろうから、そのとき残っているかは謎だが。
これを第五階層の壁際に四本召喚し、これでマナは使い切った。
元々のマナの総量は150,640。
階層整備に50,000、魔物の召喚に53,500、魔物の木に5000、願望桜に40,000。
残りの2,140は全て野菜につぎ込む予定なので、これでもう貯蓄はほとんど無い。
しかもこれからは必要にならない限り、マナは全て願望桜に突っ込むつもりだ。
シュミレーションゲームで一番最初にするのは、資源の確保だと思う。
マナ収入を増やすことに関して俺は、いささかの躊躇もない。
思わず顔がにやけてしまう。
いやぁ、まともな収入源ができて楽しいなぁー。
まあいつまでもダンジョンコアを見ながらにやけているとアレなので、表情を引き締めてダンジョンコアから手を離す。
一息ついてから、周りの面々を見渡した。
暗い顔をしている者がいないのを確認し、俺は少し大きな声で話す。
「さて、魔物はしばらくこのメンバーだ。これからは儀式中心で増やしていくことになるだろう」
マナの使い道は決まってしまったので、何か無い限りは今のままだ。
儀式はこれからも行うので、それによってどのような魔物が仲間になるか。
不確定な領域だ。
「全員普段は好きに過ごして良いが、訓練は欠かさないように。あと、何かあれば気軽に声を掛けてくれ。そんなにかしこまる必要は無いぞ!」
そうして全員の表情をうかがう。
あまり今の状態を変えるつもりはなさそうだ。
今まで恭しくされることなんてなかったから、この扱いには慣れないのだが。
いや、慣れるしかないか。
「何も無ければ解散!…ああ、ドリアードは送るから。あとリースも残って」
考えてみれば、ここにいるのは誰も第一階層には戻らないんだな。
レフィルは群れを連れて早速崖登りを…えっ?
角度70度あまりの崖を走って登っていく様は違和感がすごい。
重力仕事してるのかこれ?
「機嫌良さそうですねぇ」
ルティナが楽しそうに言う。
「あれは機嫌が良いのか。まあそれなら良いけど」
ルティナが言うならそうなんだろう。
グリフォン達は飛び立ち、レフィル達の後を追う。
マッシュ、バウムは森の中へ。
命尾達はなにやら魔法を使っている。
「あれは?」
「使い魔の召喚ですね。第二階層を探索するんだと思います」
リースが言う。
これから魔法はリースにも聞けるな。
同じことを複数の相手に聞ける。
そういうのが層が厚い、と言うのでは無かろうか。
「てかリース、別にかしこまる必要は無いぞ?様付けする必要も無いし」
「そうですか?」
人と変わらない見た目の相手にうやうやしくされると少々恥ずかしい。
頷くと、リースはしばらく悩んでいたが、決まったのか頷き、一つ咳払いをした。
「じゃあ、シラキ君、って呼んで良いですか?」
「もちろん」
「えへへ♪」
リースはうれしそうに笑う。
この娘はなんだかのんびりした感じだった。
53日目終了
シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)
総合B攻撃C- 防御C- 魔力量B+ 魔法攻撃B 魔法防御B- すばやさC+ スタミナC+ スキルB-
スキル
ユニークスキル「結晶支配」
ユニークスキル「共鳴」
ダンジョン
保有マナ
2,574
ダンジョンの全魔物
ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)
迷宮植物:
ヒカリゴケ4400、ヒカリダケ550、魔草440、幻樹5000、魔物の木1、願望桜4
グループ:
レフィル、ウルフソーサラー10、グレーウルフ18、ハウンドウルフ15
命尾、フォックスシャーマン12、ハウンドフォックス10
リース、見習い魔術師15
グリフォン4
ゴブリンヒーロー1、ホブゴブリン4、ゴブリンシャーマン13、ゴブリン49
ドリアード5
バウム20
クイーンビー1、ニードルビー20
マッシュ40
リザードマン4
クイーンビー1、ニードルビー10
単体・その他(能力順);
コボルトヒーロー1
野良・その他:
ゴブリン13、ホブゴブリン1、コボルト5、コボルトロード1、ハウンドウルフ19、インプ5、グリズリー1
一階層
洞窟・迷宮
二階層
幻樹の森
三階層
更地
四階層
更地
五階層
コア、個室2、ダイニングキッチン、大浴場、保存庫
祝、20個目。
感想とかくれるとうれしいです。
魔物の詳しいマナだして!とか、魔物の一覧出して!とか、〇〇についてもっと説明して!とか、要望もあったら遠慮せずに言って下さい。
内容が変わるかはともかく作者が喜びます。
次回予告。
多分フェデラの話は大部分端折る。
「魔王と神様と新旧冒険者」で出てきた聖女が多分話に絡んでくる。
頭空っぽにして読んでも全然問題なし。
なぜなら、作者自身が何も考えずに書いているから…!
この次回予告って気まぐれに始めたけど、読者的にはあってうれしい物なのかな…?どうでもいいに分類されそう。