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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
続くものと新しい者 ~取り残したものを拾い上げ~
18/96

魔王と神様と新旧冒険者

???


一面に拡がる暗く黒い荒野。

そんな中に、一つぽつんと巨大な塔が立っている。

曲線を基調とした暗い紫色の塔は、見上げるほどに高く、その根元は非常に太い。

そんな塔の最上階は細く、円状の小さな部屋は見晴台にもなっている。

中央に置かれた丸いテーブルと椅子には、二人の人型が腰掛けていた。


「で、お主はどうするつもりじゃ?このまま見とるだけのつもりかの」


そう話した男は、がっしりとした体つきをした老人。

厳つい顔つきで太いキセルを咥えながら、対面に座る女性の顔を見る。

女性はその質問には答えず、別のことを言った。


「大地の騎士団は、逝ったのね」


目に大きなクマのあるその女性は、長い前髪で目元を隠している。

髪は濃い藍色のくせ毛で、長さはミディアム。

決して不細工ではないが、その目のクマと暗い雰囲気が美しさを隠している。


「そうじゃな。ようやく、な」


老人はキセルを放し、煙と共に息を吐く。


「団長が死んだ場所に小隊を送った訳だが、全滅させてきおった。ルティーヌには会えなんだが、アレが今回の勇者じゃのう、多分」

「今の勇者は、大丈夫なの?」

「さあの。当時のアレほど悪くはないじゃろ。団長の時も、ルティーヌは変わらぬ笑顔を浮かべておった」

「…ルテイエンクゥルヌ様が良いなら、私はそれでいい」


一切表情が動かない女性を見ながら、老人は嘆息する。


「全く、生前よりもっと無愛想になりおって」

「そういうあなたは、以前と変わらない。そんなお人好しで、大丈夫なの?」


女性は無表情のまま、小首をかしげる。

老人はその抑揚の少ない言葉から、確かに女性が心配して言ってくれているのだと感じ取れていた。


「ふん。わしとて今は四騎士の一人、戸惑いもないわい。そんなことより、問題は魔王の方じゃ」


老人はこれまでと異なり、不機嫌そうに言う。

女性の方は相変わらず無表情のままだ。


「終末未経験者が多い上に、一人は論外じゃ。死峰山は引退するし、あのガイコツはやる気無いし、全く前途多難じゃ!」

「セルセリア様は問題なかったのでしょう?」

「ああ、元大地の騎士団本体も一蹴じゃった」

「ガリオラーデ様とセルセリア様と…手が足りないわね」

「あやつらは前回だって真面目に戦ってたわい。せめて死峰山がいれば…そもそもなんじゃ引退って」


老人がため息をつく。

女性はそんな老人をじっと見つめる。


「少し早いけれど、私も出すわ」


それが「これからどうするか」という問の答えであると、長い付き合いである老人には分かる。


「そうかい。……次は、神殺しを処理しないといかんのう」


老人と女性は、話すことが無くなった後も、その場をなかなか離れなかった。









白い宮殿


円状の柱が整然と並ぶ建造物の中の一室。

外に面したその部屋で、二人と一羽が話し合っている。


「結局、あの騎士団を動かした者の意図は分からないか」


そう言ったのは、大きな白い翼を生やした美しい女性。

服装は、上半身はぴったりとした黒と白の服を着ており、その大きな胸が存在感を放っている。

下半身はひらひらとした布を重ねたような白いスカート。

銀色に輝く長髪をなびかせ、口をきゅっと引き結び、鋭い目をしている。


「来たのはこことルティナの方だけだ。はっきり言って意味不明だな」


答えたのは毛先の白い緑の長髪、頭に山羊のような角を生やした男性。

神の子であり魔王でもあるガリオラーデだ。

両手を上げてお手上げだ、というポーズをする。


「そもそもあの動きの後ろに意図があるのか?」


その若々しいしっかりとした声は、外から聞こえてくる。

開け放たれた窓の外には、体長三メートルを超える大きな青い鳥…魔王"氷帝"ソルロンが、鉄棒のような形をした氷の棒に止まっている。

その氷の棒は、ソルロンがこの場所に着いたとき、自ら作り出した物だ。


「終末から六百年、地上に居続け今行動したというのに、意図がないとでも?」


翼を持つ美女…魔王"月天使"セルセリアが強い口調で詰問する。

セルセリスの口調は強いが、その心は不機嫌な訳でも攻撃的な訳でもないことを、ここにいる一人と一羽は知っている。


「邪神や四騎士は策謀を好むタイプではなかったのだろう?なら誰があの騎士団を動かすと言うんだ?」


前回の終末において、邪神の勢力の中で理性がある、と思われる存在はかなり少なかった。

もちろんそれ以外にいないという保証はない。

しかし前回を戦った者には、冥界の者達は策というものとは縁遠く感じたのだ。


「前回の終末で四騎士の内二人は消えてるから、代わりに入った誰かがやったとか」

「確かに候補はそれくらいしかない。だが警戒しない訳にもいかない」


セルセリアはカップにつがれた茶を飲むが、その鋭い表情は変わらない。

その姿が素であることを知っているガリオラーデは、もう少し柔らかい表情をしたら良いのに、と思う。


「相手の動きは謎。死峰山も勝手に引退するし、新しい魔王達は危機感に欠ける…」

「折角これから戦争だって言うのにな」


セルセリアはつぶやくように。

ソルロンはもったいないとでも言うかのように言う。

セルセリアは内心どう思っていても、表情は硬いままだ。

ソルロンは普段はクールだが、ひとたび戦闘が始まると、氷帝という通り名に似ても似つかない程熱くなる。

本心から戦いを喜んでいるのだ。

ちなみにセルセリアの言う「新しい魔王達」にはソルロンも入っているが、彼は分かっていてスルーする。


「新しい魔王の中では、ソルロンは一番まともなんだがな」


ガリオラーデが苦笑しながらフォローする。

しかし、そのフォローに返したのは当のソルロンだ。


「いや、まともというなら皆まともだろう。真面目ではないだけで」


ソルロンが真顔で言う。

ソルロンが言っていることは正しいのだ。

その証拠に、セルセリアが深いため息をつく。


「なんなのよ、引退って……前代未聞よ」


セルセリアの口調が変わる。

キリッとした表情も、少しだけ拗ねるようなものに変わった。

セルセリアは不可解なことや驚くようなことがあると、口調が女性的になる癖がある。


「セルセリアに前代未聞と言わしめるとは、やるじゃないかあいつ」


セルセリアは魔王達の中でも最古参。

力においても全生物中で最高峰。

セルセリアの生きてきた年月は、数千年とも数万年とも言われている。

そんなセルセリアが前代未聞という以上、実際に初めての出来事なのだろう。


「先代の死峰山のことは良く知らんが、俺は終末のために魔王になったようなものだ。終末が終われば俺も魔王を止めるかもしれんぞ?」


そういうソルロンを、セルセリアが何とも言えない様子で見る。

表情が硬いので、知らない人が見れば睨んでいるように見えるかも知れない。


「それ以前に、生きていられるか分からないぞ?」

「クハハ。なに、どうせ終末が終わってみなければ分からん。負ければ地上の歴史は終わってしまうしな」


ガリオラーデの忠告に、ソルロンは楽しそうに答える。

そんなソルロンを見て、セルセリアは心の中でため息をつく。


「……無事に終われば良いけど」


前回の終末では、魔王も死んだ。

そしてセルセリアは今の魔王達が、前回よりも戦力的に劣っていることを知っていた。









白い開始地点


目が覚めたら、俺は白一色の殺風景な場所にいた。

空も地面も壁も真っ白で……と、途中で気付いた。

ここはこの世界に来るとき、ミテュルシオンさんと話した場所だ。

そう気がつくと、目の前に白髪の美しい老婆…ミテュルシオンさんが現れた。


「こんばんは」

「こんばんは、この場所は相変わらずですね」


この場所は前回来たときと一緒だ。

俺とミテュルシオンさんも同じ場所に座っているように思う。


「いくつかお伝えすることがあるので、いくつか説明しますね」


女性らしい高くて綺麗な声が、耳に心地良く響く。

話し方は見た目に反することなく、穏やかでゆっくりだ。


「聞きます」

「まず、ダンジョンコアのレベルが2に上がりました。いくつかできることが増えていますよ」


ダンジョンコアにレベルなんてあったのか。

多分召喚できる魔物が増えたとか、魔物データベース更新とかかな。


「それに伴い、ボーナスでマナが20000贈呈されます。目が覚めたら確認してみて下さい」


レベルアップボーナスか、単純にうれしい。

これから魔物を大量に召喚する予定だし、第2階層の整備にも沢山使うはずだ。


「あと、シラキさんはマナの収入に特化した魔物が欲しいようですね」

「ああ、そうでした、戦闘力も繁殖力も0で良いので、収入が高くなるようなものを召喚できるようになりません?」


良く思うことだが、あのマナの構造は戦闘無しじゃ収入が少なすぎる。

レベルという存在が、今後そのルールを変える可能性はある。

しかしご褒美をくれるというのなら、マナ生産力が欲しいところだ。


「では、追加しておきます。願望桜という木です」

「ありがとうございます」


特に話し合うこともなく決まってしまった。

まあミテュルシオンさんならそう悪い物でもないだろう。


「最後に、野菜や動物を召喚できるようにしておきました。バランス良く食事して下さいね?」


言葉だけを聞けば当然のことしか言っていないが、ミテュルシオンさんのいたづらっぽい笑顔を見れば、それが冗談であることが分かる。


「ルティナが食事を作ってくれる限り問題ないかと」


私はルティナに全幅の信頼を寄せております。

言い方を変えれば信仰とも言う。

食費も料理も全てルティナ持ち。

ヒモかな?


「ふふ。他に何かありますか?」

「いえ、ぱっと思いつくこともないので、大丈夫だと思います」

「分かりました。では、また会いましょう」

「了解です。また今度」


あいさつを済ませると、自然とまぶたが落ちる。

一ヶ月ぶりの再開は、短い時間で終わった。









数日前

リーベックのとある路地裏


人々は寝静まり、表通りにも人のいなくなった町は、月明かりに照らされている。

そんな中暗がりを歩く女性は、後ろから近づいてきた気配に足を止めた。

その女性は若く、金髪が首の辺りまで伸びている。

銀の軽鎧けいがいを身に付け、手に持つコルセスカには、槍頭そうとうに三つ編みのような、鳥の尾のような装飾が付いている。

戦士特有の雰囲気を持った女性は、一度月を見上げ、そして振り返る。

右手に持ったコルセスカを立て、その場に直立していると、闇の中から白髪の男性が現れた。

音も無く歩くその男性は暗い色の服を着て、布で口元を隠している。

月明かりの下まで来ると、男は閉じていたその目をゆっくりと開ける。

開かれたのは鋭く、血のように赤い目だった。

夜の闇に紛れ、がっしりとした肉体を持ち、鋭く赤い目をしたその男は、まるで悪魔か、冷酷な暗殺者と言った印象を受ける。

女性はその姿を見ると、驚いた様に声を掛ける。


「まさか、フェンルですか!?」

「ああ。久しぶりに会ったな……シャンタル」


フェンルと呼ばれた男性の言葉に、女性…シャンタルは、まるで花が咲いた様な笑顔を浮かべる。

良く通るシャンタルの声に比べ、フェンルの声はまるで闇に溶けるように消えていく。

その姿は明るい月明かりの元でもはっきりとは見えず、まるで存在そのものが闇と同化しているかのようだ。


「こんなところで会うとは……一体、いつの間にリーベックに?」

「ついさっきだ。それよりお前は何をしている?」

「いえ、何か予感がしたので……あなたのことだったのかもしれませんね」


シャンタルは屈託無い笑顔を浮かべる。

シャンタルをみていたフェンルは、しばらくしてため息を付く。

すると闇のような男が、急に普通の人間になったように気配を発するようになった。


「相変わらず勘で突飛な行動をしているのか」

「ふふん、これでも聖女ですから」

「確かに常人なら取らない行動を取っているな」

「…何かバカにされたような気がするのは気のせいでしょうか?」


フェンルは表情を変えず、言葉だけで笑う。

シャンタルは少しの間釈然としない表情をするが、すぐに表情を緩める。

シャンタルはフェンルの元まで近づき、顔を見上げながら聞いた。


「それで、他のみんなはどうしてるんです?リーベックには?」


すぐ側まで来たシャンタルを見て、フェンルは手を少しだけ持ち上げる。

しかし数瞬迷った後、結局所在なげに持ち上げた手を下ろした。


「いや、今は全員別れて行動している」

「そうなんですか。"震える白い影"がリーベックで一体何を?もしかして、フェデスト伯爵がらみですか?」

「いや、別件だ。青い髪の、ただ者でない女を見なかったか?」

「ええっと……いえ、見てませんね。それがフェンルの探し人?」


シャンタルは首をかしげる。


「俺達全員の探し人だ。まあ、見てないならいい」

「そうなんですか……あ、フェンル、来たばかりなら宿がありませんよね?私の家に来ませんか?」


シャンタルが楽しそうに純粋無垢な笑顔を浮かべる。

完全に善意で構成されたその言葉に、フェンルは眉をひそめる。

そしてシャンタルをその場に残し、すれ違うように歩き出す。


「シャンタル、いくらお前でも、不用意に男を家に招くな」


そう言ったフェンルの気配はまた闇に溶けていく。

シャンタルが残念そうな顔をするが、フェンルが気にする様子はない。


「でも、折角久しぶりに会ったのに」

「また会うだろう。次はこんな闇の中ではない場所でな」


フェンルが月明かりでできた建物の影に入ると、その気配は瞬く間に消えていく。

そうして残された聖女は、残念そうに自らの家に戻って行った。


次回予告

更地だった第二階層が整備され、開放される。

新たな仲間!

漫才に走る魔物達!

シラキ「貧乏性の俺がマナを全放出するなんて……屈辱だ!」

ルティナ(マナを得るためにマナを使うのは、貧乏性に反するのかな…?)

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