長き放浪を終え、団長の下へ
50日目
ダンジョン第四回層
修行の合間に休憩していた俺は、突然の反応に飛び起きた。
強い魔物が続々とダンジョンに入ってきたのである。
急に立ち上がった俺を見ているルティナに声をかけ、四階層の魔方陣から五階層の魔方陣へ。
通路を駆け抜け、中枢部へ到達。
ダンジョンコアに手をかざし、とりあえず戦闘時の体勢は整った。
……!!
情報を確認してみたところ、侵入者は怨念の騎士。
その数……四十八!?
「ルティナ、えっと、怨念の騎士が四十八体です」
「四十八!?」
ルティナが驚いた声を上げる。
ああ、考えたくなかったけど今の反応で分かったわ。
…今このダンジョンが本格的にピンチだってことが。
(眷属達に告ぐ。ダンジョンに侵入者。今は入り口にいるが、鉢合わせしないようにな)
学校の放送よろしく全ての眷属及びルティナに念話を送る。
眷属と相手が鉢合わせするという事故を防止。
「騎士団か何かか?」
「うーん、死者が団体で行動するとなると、ちょっと自然では考えづらいですね。操っている人がいると思うんですけど」
「というと、この三体だけ混ざってる、"黄泉の黒煙"ってやつか?」
言いながらも、ダンジョンコアのデータベースにアクセスする。
残念ながらこのダンジョンコアに全ての魔物が記録されているわけではないし、内容も完璧ではない。
レベルの高い魔物ほど記述が少ないし、どこを探しても邪神に関しての記述がない。
「黄泉の黒煙…?」
「ああ…ダメだな、記述のない魔物だ。名前しかない」
名前だけは載ってる、というべきか?
それとも今載ったのか。
「聞いたことのない魔物です」
ルティナでも知らないか。
うーむ。
まあ何にせよ、とりあえずは命尾に情報収集を頼もう。
(侵入者は今のところ怨念の騎士四十八体、それと黄泉の黒煙という魔物が三体だ。…命尾!)
(はい!斥候ですね!)
相変わらず元気の良い声が帰ってくる。
彼女はこちらが言う前に何がしたいか分かっていたようだ。
(気をつけろ、あと黄泉の黒煙の情報を頼む)
(任せて下さい!すでに向かっているので、十分ほどお待ちを!)
フォックス達、というか命尾の判断だろうか。
俺が侵入者の報を入れた時点で入り口に向かっていた。
何というか、さすがだ。
(他はいつでも動けるようにしておけ)
返事を求めているのが伝わっているからか、大量の了解の念が返ってくる。
やべぇ、念が混じりまくって訳ワカメ。
十人の話を同時に、なんてものじゃない。
一斉に念話するときどうするかも考えておくべきだった。
(すまん、各グループごとに代表が送ってくれ、一斉に来られると聞き取れない)
(……事件中に問題が発覚したな、我が主)
ソリフィスの念話が返ってくる。
俺は今眷属全員に命令を送っているため、ソリフィスにも俺の意志が届いている。
ちなみに召喚組も儀式で戦った集団もどちらも俺の眷属だ。
……儀式無しの戦力だったら蹂躙されて終わっただろうな。
何せまともに戦力になるのが数えるほどしかいない。
未だダンジョン全体の戦力は乏しく、多対一でも、怨念の騎士の前に出せるようなのは一握りだ。
真っ正面からぶつかっても負けは必定。
こちらはホームの利点を最大限生かさなければならない。
……しかし。
「正直どうすれば良いんだろうな」
「そうですね。これほど速く本格的な戦力が侵入してくるとは思っていませんでした」
だよなぁ。
これがどこかの町や村だったらもっと絶望的だっただろう。
怨念の騎士と言ったら通常レベル6以上、そんな魔物が約五十。
並の戦力じゃない。
単純に考えてもランクB冒険者が五十人必要になる計算。
一体人口何人の町ならその戦力があるんだよ。
魔王軍じゃないんだからこんなの絶対おかしいよ。
あー、頼むからレベル低い集団でいてくれ!
前回の怨念の騎士、レベル8クラスのヤツが数人もいたら多分負ける。
いくらソリフィスでもあんなのを三人も相手にすればやられかねない。
それこそルティナに頼らなければいけないレベルの事態だ。
そしてルティナは動かない。
元からルティナはあくまで俺を手伝ってくれるというだけで、積極的に助けてくれるわけではないのだ。
言うなれば、修行と護衛(と監督?)のみがルティナの仕事。
神の子という立場上仕方のないことなのだ。
眷属達と違い、野良の魔物は強大な侵入者に気付いていない。
交戦し、瞬く間に消失していく野良魔物の反応を眺めていると、命尾からの報告が入る。
(マスター、報告します!怨念の騎士は、かなり統率がとれているように感じます。次の分かれ道まで斥候を出し、確認してから前進しているようです)
斥候か。
こちらでも一部が集団から離れ、二人ずつ通路を進んでいることが分かる。
次の分かれ道まで進んでから戻っていることからも、これが斥候であることは容易に雨想像できる。
やはり、統制のとれた騎士団という印象だな。
("黄泉の黒煙"は肉体を持たない黒い煙の塊です。おそらく、核を中心とした魔物であり、その核を破壊しない限り倒すことはできないと思われます)
なるほど、煙の魔物か。
体が煙であることを考えると、弱点を突かない限りは無敵と言うことなのかもしれない。
逆に弱点さえ突いてしまえば倒すのは難しくないはず。
"黄泉の黒煙"という魔物において最も重要な情報が明らかになったわけだ。
(五感があるかは分かりませんが、そのような器官は見受けられません)
ふむ。
肉体がないという話だし、五感はなくても驚かない。
おそらく魔力や熱、生命力などから感知しているのだろう。
魔物ならそういうこともある。
(申し訳ありません、常に怨念の騎士の中心にいるので多くは把握できませんでした)
(何言ってる、十分すぎるほどの情報だった。正直驚いたぞ)
実際騎士達に囲まれている魔物の情報をよくぞここまで集めたものだ。
(マスター……ありがとうございます!)
命尾のうれしそうな気持ちが伝わってくる。
かわいいヤツ。
実際この偵察能力はさすがだ。
……さて。
「どーすっかな」
「シラキさん、私はちょっと確認することができたので、今回の戦いには同行できません」
「う、マジっすか」
もしもの時の最終兵器無しか。
「一応私はこの部屋にいるので、もしもの時は呼んで下さい」
「分かった、何とかやってみる」
まずは話し合って作戦を決めよう。
元からオブザーバー的立場のルティナは、ダンジョン内の戦略に積極的に関わろうとはしない。
ルティナなしでもやっていけなきゃまずいのだ。
まともに話し合えるのがソリフィスと命尾しかいないが、三人寄れば文殊の知恵。
この状況を打破する方法を考える。
(さて、では。作戦を決行する!)
ダンジョン第一階層。
それぞれの場所に集結していた眷属達全員に、シラキの号令が響き渡る。
(では、行きますね!)
騎士団からほど近い広場で待機していた命尾が、群れの全員に指示を出す。
魔力が流れ、地面から次々と泥が盛り上がる。
それらは人の形に変化していき、肌は茶色く、硬くなっていく。
泥を固めたそれらは、最終的に33体ののっぺりした土人形に生まれ変わった。
初級応用魔法、"泥のゴーレムの生成"。
いくつかの魔法が使えるという事実が、直接戦闘ではそれほどでもないハウンドフォックスをレベル3たらしめている理由だ。
ハウンドフォックスがそれぞれ一体、フォックスシャーマンがそれぞれ二体。
命尾が五体の泥人形を作り上げる。
身長二メートル程の泥の剣を持ったそれらは、石像のようなどしどしとした足取りで走り出した。
ダンジョン中枢部でシラキが見るダンジョンコアには、それらのゴーレムの位置すらしっかり表示されている。
シラキはある程度タイミングを見計らい、今度は騎兵に指示を出す。
(シルバーウルフ、ゴー!)
主からの指示を受け、銀色の狼が群れを率いて走り出す。
騎士団のいる場所から二部屋離れていた彼らは、瞬く間に目的の相手にたどり着く。
騎士の本隊から約二十メートルの距離、横幅三メートル程の通路を進んでいた斥候。
シルバーウルフはとっさに盾を構えた騎士二人の中央に割り込み、左にいた騎士の足にかみつく。
流れるように体を動かしたシルバーウルフは、相手に反撃の間を与えず力任せに投げ飛ばし、右にいた騎士にたたきつける。
壁に叩きつけられ、体勢を崩した二人の騎士の亡霊に、後ろから続いていたハウンドウルフ達が襲いかかった。
四肢にかみつき動きを止め、牙で剣をはね飛ばし、飛びかかって押し倒す。
首元の鎧の隙間にかみついた狼の一体が、触れることのできないはずの煙に牙を立てる。
そのままギリギリと音を立て、噛みちぎる様な動きをすると、抵抗していた怨念の騎士は糸が切れた人形のようにその動きを止めた。
肉体を持たず、紫色の煙を全身鎧で包み込んだ怨念の騎士は、物理的には鎧を破壊されない限り動き続ける。
剣や槍で戦うには実に相性の悪い相手だと言えるだろう。
しかし、物理以外の攻撃方法が存在しているのがこの世界。
物理攻撃がすり抜けるような相手にも、魔法を使えばダメージを与えることができる。
ここで鍵となるのがウルフソーサラーの存在。
彼が使うことのできる"魔力の牙"は、武器に魔力を帯びさせる魔法。
これによって牙や爪を強化したハウンドウルフは、肉体を持たない相手とも戦えるようになっていたのだ。
レベル6の魔物である怨念の騎士が、レベル1の魔物に為す術も無く引き倒される事実。
シルバーウルフに率いられ、ウルフソーサラーに補助されたハウンドウルフ達は、もはやレベル1魔物ではない。
その上ダンジョンによる補正すら受けたハウンドウルフは、単体でレベル3魔物を凌駕する。
瞬く間に二体の怨念の騎士を屠った狼の群れは、本隊へと強襲を仕掛ける。
泥のゴーレムに対応していた騎士団の横から、数匹で横一列になって体当たりを敢行。
決して軽くない重量を持つ騎士は、しかし吹き飛ばされ、ドミノ倒しのように奥の数人を巻き込んでしまう。
無論この程度ではダメージにすらならないが、狼の群れは一撃加えただけで向きを変え、止まることなく戦場を離脱していく。
泥のゴーレム達がが騎士達に瞬く間に駆逐されていく中、狼の群れは流れるような動きで一撃離脱を終える。
泥のゴーレムが全滅し、敵を見失った騎士達が取った行動。
それは泥のゴーレムが来た方向への進軍だった。
ゴーレムの多くはある程度の距離を離れると操作できない。
騎士達が向かう先には、確かに命尾率いるフォックス達の群れがいるのだ。
(命尾、本隊がそっち行くぞ!)
(お任せ下さい、マスター!)
主からの声を聞いた命尾が、群れ全体に指示を出す。
操るゴーレムが全て撃破され、手が空いた狐たちが移動を開始すると、後ろにはもう騎士達の先頭が見えている。
斥候が泥のゴーレムが来た方向を補足していた騎士達は、重装備に見合わぬ機敏さで命尾達を追いすがっていた。
怨念の騎士はその全身鎧の頑強さを持ちながら、決して鈍重ではないのだ。
しかし、命尾達フォックスも簡単に追いつかれるような魔物ではない。
命尾は走る速度を加減し、騎士達とつかず離れずの距離を走る。
向かう先は、数ブロック先の転移トラップ。
このダンジョンの数少ないトラップであり、しかし十分すぎるほどの実用性を持った罠。
誘蛾のような命尾達に誘われ、騎士達は疑うこともなくトラップまでたどり着いた。
(全隊、行け!)
眷属達にのみかかる号令。
その瞬間、待機していた全ての隊が動き出す。
転移トラップが設置された部屋に続く何本もの道。
後方も含め、その全てから魔物達が飛び出した。
ゴブリン、リザードマン、ニードルビー、イートアント。
グリズリー、食人花、ハウンドウルフ、コボルト。
声を上げられる者は怒号を上げ。
そうでないものは無言のまま、しかし雄々しく突撃した。
騎士達は一瞬で身構え、部屋の中央に固まる。
外周と二段目が盾で防ぎ、その後ろの三段目が剣を突き刺す。
外周は完全に防御に全精力を注ぎ、内側が攻撃を妨害する。
全体の指揮官である命尾は、その陣が突き崩せないことを覚悟した。
それはすなわち、時間を稼ぐために戦果0の戦いを続けると言うこと。
しかし、命尾は諦めない。
シルバーウルフと連絡を取り合い、強制転移の際の隙を待つ。
彼らの役目は、あくまで転移を実行するまでの時間稼ぎであるが、彼らはそれだけに甘んじるつもりはない。
大勢の魔物でいっぱいになった部屋での戦いが始まり、少しの後。
転移の魔方陣が、起動した。
作戦はとりあえずうまくいった。
作戦と呼べるようなものであったかはさておき、実際状況は想定通りに推移した。
今回の目標は、黄泉の黒煙と数体の騎士をボス部屋に転送すること。
騎士が何十体も固まっている内は、現在の戦力ではどうしようもない。
しかし騎士達が何の躊躇もなく命尾の誘いに乗ってくれたおかげで、転送自体は楽だった。
中枢にて魔物を転送した直後、黄泉の黒煙は全滅する。
事前にソリフィスと詰めておいた作戦の通りだ。
すなわち、転移直後に雷の上級魔法である裁きの鉄槌を撃ち込むというもの。
彼らは転送された直後、巨大な稲妻に飲み込まれた訳だ。
目の前に突然上級魔法が現れれば、低レベルの魔物はそれで死ぬ。
転送が完了した直後、全部隊に可能なら撤退するよう命令し、俺は魔方陣に駆けだした。
最高指揮官といえど、戦力を遊ばせておけるほど余裕がない。
ボス部屋の戦いは、強い魔物だけを集めた。
ソリフィス、グリフォン四体、コボルトヒーロー、そして俺だ。
命尾とシルバーウルフという指揮官職を除いた、ダンジョン内で個人戦闘力が高い者を上から集めた。
魔方陣を起動してボス部屋に転移すれば、お互いににらみ合い、まさに戦闘が始まろうとしていた。
怨念の騎士達は裁きの鉄槌も受けきったらしく、それぞれが剣を構えている。
俺は最近覚えた複数に同時に魔法を掛ける方法で、この場にいる眷属全員に補助魔法を掛ける。
肌の防御力を上げる"ストーンスキン"
肌の表面に攻撃を吸収する透明な膜のような物を張る。
オーラのような物だが、体表が鱗だろうが毛だろうが効果があるので種族を問わない。
脚の速さを上げる"ラビットフット"
脚の速さを上げるとか言って移動に脚を使わない鳥とかにも効果がある。
攻撃力を上げる"マッスルパワー"
これは単純に筋力を上げていて、攻撃以外にも使えないことはない。
自己再生能力を上げる"ライトリジェネレーション"
効果はそれほどでもないが、戦闘中のちょっとした出血などは気にする必要がなくなる。
また、毒や麻痺などの治りも少し早くなる。
この四つの基本的な補助魔法を、味方全体に掛ける。
「補助完了!」
さすがに七人同時に補助魔法を掛けたため消耗がバカにならない。
具体的には俺の総魔力量の1/3弱くらい使った。
……使いすぎたかも。
(賜った、行くぞ!)
ソリフィスが飛び出し、それにグリフォン達が続く。
ソリフィスの暴走トラックの如き突撃で、一人の怨念の騎士が部屋の端まで吹っ飛ばされる。
人型が宙を舞い、何十メートルも吹っ飛ばされるのは見ていて壮観だ。
やはり前に戦った怨念の騎士が特別強かっただけで、本来レベル6の怨念の騎士が耐えられる攻撃ではないのだろう。
こちらに向かってくる騎士達をグリフォン達が牽制し、こちらにまで向かってくるのは二体。
集団で固まらない理由は、指揮官がいないからか、個別で戦った方が良いと判断したからか…。
何にせよ、元々俺とコボルトヒーローの二人で、二体の怨念の騎士を相手にする予定だった。
うまく数を合わせたグリフォンを褒めたい。
こうして予定通り戦いを始めることができた。
状況としてはソリフィスが六体、グリフォン四体が二体、俺とコボルトヒーローが二体を相手にするという構図。
戦いのグループ毎にそこそこ距離があるため、それ以上のことは分からない。
というか結構ギリギリの勝負だ。
補助を掛けたコボルトヒーローは、じりじりと押されながらも二体の怨念の騎士を捌いている。
一体二ではかなり分が悪いが、後ろには俺が後衛に徹している。
俺がちょっとでもサボろう物なら、すぐにコボルトヒーローがやられるだろう。
有利と不利が簡単に入れ替わる状況だが、俺たちは攻め続ける。
魔法の矢で支援しつつも、隙あらば魔法弾をぶつけることを繰り返す。
肉体に疲労やダメージと言った概念があまりない怨念の騎士には、十八番のストーンスローも効果が薄い。
直接魔力をぶつけている魔法の矢の方が効きやすいのだ。
状況的にはギリギリだが、コボルトヒーローが身を盾にして前衛を張ってくれたおかげで、俺は攻撃に専念できる。
大した時間もかからず四発目の魔法弾が直撃し、吹き飛ばされた騎士がばらばらの鎧に分解された。
怨念の騎士は力尽きると、剣と鎧になるわけだ。
一応前回の怨念の騎士が落とした鎧も倉庫に突っ込んである。
性能的には良質だそうだが、魔法使いが全身鎧とかしょうもないからな。
そして一人になった相手を二人でボコる。
結果的には、相手にほとんど何もさせずに倒すことができた。
そこからは流れ作業だ。
三体が牽制、一体が攻撃という戦い方で騎士二人を抑えていたグリフォン達に加勢し、一方的に殴る。
おかげで俺も魔力の節約ができた。
その後ソリフィスに加勢しようとしたのだが、最初に六体いた騎士はすでに三体になっていた。
ソリフィス一人ですらこんな有様なのに、そこに俺たちが加わり完全に消化試合。
ボス部屋に招かれた十人の騎士は掃討され、十の鎧に変わった。
「ソリフィス、どうだ?」
「うむ、我はまだある程度力を残している。残りの奴らと一戦交えることは可能だ」
ううむ、ソリフィスがすごい。
俺なんか一連の攻防で半分以上魔力使ったのに。
「主の補助魔法のおかげだ」
おおう、心を読まれたかのように。
「それに、やつらレベル6にしては弱い。実力的にはレベル5と言った所だろう」
「そうなのか?」
「ああ。怨念の騎士は生前の強さに左右される。とはいえ、弱い怨念の騎士というのも珍しいが」
「ふうん…?まあとりあえず、むこうの戦況を確認する」
コアに直接触れていなくても、ダンジョン内にいれば一部の能力を使用可能だ。
俺は魔方陣に向かって歩きつつ、ダンジョン内の状況を確認する。
魔物や人の数と位置は、ダンジョンのどこからでも確認できる。
騎士の本隊がいる方では、すでに戦いが終息している様だ。
現在の敵の数は、残り三十二体。
最初は四十八だったから、十六体倒した計算。
転移魔方陣のあった部屋からはすでに離れ、一塊になっている。
魔物達は遠巻きに包囲するように、二ブロック離れた距離でそれぞれ固まっている。
(命尾、こっちは終わった。そっちはどうなった?)
(マスター!ご無事で何よりです!)
一時的に指揮官に任命していた命尾に話を聞く。
指揮官に関してはシルバーウルフとどちらにするか迷ったが、結局言葉を使える命尾に任せることにしていた。
(転移の後、しばらく戦った後敵が一丸になって移動を開始しました。こちらも退くつもりだったので、双方の思惑が重なった格好に)
なるほど。
誘い込まれた訳だから、罠があるであろう部屋から早々に出たかった訳か。
……その判断ができるなら、なんでそんなホイホイ誘いに乗ったんだ…?
(戦力的には、怪我もあって全体の七割は戦闘不能かと)
(なるほど、了解)
やはりそうだよな。
いくら数で勝っていても相手は怨念の騎士。
簡単にはいかないだろう。
しかし、予想よりも敵が弱かったのは良いが、それでも敵はまだ三十二体いる。
転移の魔方陣はこのボス部屋の物と違い、一度使ったら数時間は使用不可。
どうしたものか。
「俺とソリフィスで上級魔法ブッパしたら終わってくれないかな?」
「上級魔法を使う時間と、撤退する時間が稼げるなら有効だろうな」
「溜めはともかく、撤退が厄介だな。あいつら硬い上に遅くないし」
一撃で倒せるような相手じゃない。
現にレベル5相当と言われた怨念の騎士でさえソリフィスの裁きの鉄槌耐えてるし。
多分二人で撃っても致命傷にはならないだろう。
で、撃った後に向かってくるであろう怨念の騎士三十二体。
ソリフィスなら逃げられる。
あ、なら俺もソリフィスに乗れば良いじゃん。
……倒せない以上ほっときゃ治ってるだろうしやるなら回復してからだな。
いや、アンデットって傷治るのか?
「ソリフィス、あいつらって傷治るのか?」
「鎧についた傷は治らないだろうが、ダメージ自体は少しずつ治っていくはずだ。今なら向こうもある程度消耗してはいるだろうが」
「んー…どうするかな」
両方消耗した状態で始めるか、両方回復してから始めるか。
これが肉体を持つ相手なら、ダンジョンを適当にうろつかせて消耗を図れるのだが。
飯いらない疲労しない魔法使わないと三拍子そろった怨念の騎士相手に持久戦は無意味。
(命尾、相手はどれくらいダメージを負ってる?)
(全体的に軽傷です。こちらで倒した四体は集中攻撃で倒したので、他はノータッチでして…申し訳ありません)
(いや、四体倒しただけで十分だよ。てか時間稼ぎしか考えてなかったから、むしろうれしい誤算だし)
(悔しいですが、倒せたのはウルフ達のおかげです。攻撃と撹乱の両方をになってくれまし、彼らが今回の戦果の立役者です)
ああ、命尾が睨み合っていたシルバーウルフを認めてる。
素直に喜んで良いよね。
(それも命尾が全体の指揮をしてくれたからできたことだろうよ)
(マスター…!)
いやまてそんな感動したような念話を送ってくるんじゃない!
何故こんな当然の言葉でそんなに感動できる!?
俺思ったこと言っただけだから!
「あー、それでどうする?我が主よ」
…うむ。
安価スレならここで安価だな。
まあこちとら結構消耗してるし魔物は怪我してる。
(休憩だな。魔物は退避してくれ)
(では、全員でボス部屋へ移動でよろしいですか?)
(頼む)
そうしてこの日の戦いは終了した。
51日目
魔力が全快したので再戦だ。
騎士達の近くに転移魔方陣がないので、今回はガチのど突き合いである。
この広いダンジョンで相手が転移魔方陣に近づくのをひたすら待つのもアレだし、仕方ない。
戦略としては、上級魔法当てたら魔物達に壁になってもらい、準備ができ次第二発目を発射。
もうこれで良いと思う。
敵は思ったよりも弱いのが多いようだし、不確定要素である黄泉の黒煙もつぶした。
レベル5や6なら上級魔法三発も当てれば倒せるだろう。
前回の怨念の騎士と同レベルのヤツが一体でもいたら危険な戦術だが、話を聞いたところいないだろうということになった。
俺とソリフィスで合計四発撃つわけだし、全て倒しきれるはず。
こちらはあまりある時間を使って入念に準備を重ねる。
包囲の指揮は変わらず命尾に取ってもらい、こちらは上級魔法を撃つための溜めに入る。
相手の斥候を気にする必要はあまりない。
ダンジョンの複雑さが幸いして、相手はうまく探索できていない。
百人にも満たない人数では、斥候も満足な探索ができないのだろう。
それに下手に戦力を分散させれば、シルバーウルフの格好の的だ。
「しかし、戦略的にソリフィスに跨がる時が本当に来るとはな」
最初は趣味全開でソリフィスを呼んだため、それが実際に役に立って感慨深い。
「ふっ。我はいずれ来るだろうと思っていたぞ」
「そうなの?」
「そうだとも」
ふうむ。
まあ、そんな物か。
(マスター、準備完了です!)
(オッケー……仕掛ける!)
今日も命尾の声は元気だ。
出撃前には良いものだ。
俺は気合いを入れて声を出す。
「行くか、ソリフィス!」
「任せろ、我が主!」
翼を広げ、ソリフィスが走り出す。
俺を乗せていながらも、ソリフィスは瞬く間に速度を上げる。
決して狭くはない洞窟も、ソリフィスの速度で駆ければ非常に狭く感じる物だ。
そんな思いも一瞬で、目の前に騎士達が現れる。
驚いた様に、しかしすぐに構えを取る騎士達に向かい、俺達は叫んだ。
「「裁きの鉄槌!!!」」
二人、同時に同じ魔法を放つ。
俺はすでに裁きの鉄槌も習得済みだ。
ガイアストライクを撃つには部屋の高さが足りないし、ソリフィスと合わせるなら同じ魔法を使うべきだろう。
裁きの鉄槌は、一言で言えば電撃のハンマーだ。
電気の線がつながる先に、バチバチと音を鳴らす巨大な電気の塊がくっついている。
それをモーニングスターの様に打ち付ける。
ルビにトールハンマーと振っても違和感の無い技だろう。
また電気の線がつながっている間は自由に操作することができる。
疾走を続けるソリフィスに代わり、俺は二人分の裁きの鉄槌をコントロールする。
直径にすれば十メートル以上ある電撃の球が、騎士の一団を飲み込んだ。
爆音のように響く電撃を横目に見ながら、ソリフィスは部屋を駆け抜ける。
上級魔法を走りながら撃つなんてことは俺にはできないが、ソリフィスならできる。
そのための溜の時間は十分にあった。
騎士達のいた部屋を抜け、通路を駆け抜ける。
先にある部屋で止まり、魔物の反応を確認するが、一体も脱落していなかった。
大したタフネスだと感心する。
しかし、彼らにとってはここからが本番。
一つ隣、通路を抜けた先が闘争の声と音で満たされる。
騎士達のいた部屋に通じる全ての通路から、ダンジョンに住む全ての魔物が襲いかかったのだ。
俺とソリフィスが上級魔法が撃てるくらいに魔力を溜める時間。
その時間さえ足止めできればこちらの勝ちだ。
前回戦った怨念の騎士なら、自爆覚悟でガイアストライクをカウンターで合わせるくらいやったと思う。
しかし、今回はそんなことができる程の強さを持った敵はおそらくいない。
ソリフィスに跨がり、大きく深呼吸しながら魔力を溜める。
決して短い時間で溜まりきった訳ではないが、敵の一人も通路を抜けてくることはなかった。
「ソリフィス、行けるぞ」
「ああ。我が主、号令を!」
(行くぞ、全員下がれ!)
眷属全員に念話を送ると同時、ソリフィスが走り出す。
通路を抜け、二度目の邂逅。
周囲の眷属達が下がっていく中、騎士達の集団の中心にいた騎士と目が合った、気がする。
「「裁きの鉄槌!!!」」
「スペルウェザリング!」
俺たちと同時、騎士が叫ぶ。
放った裁きの鉄槌に、油の様に流れる土黄色のオーラが絡みつく。
「ッ!?」
俺とソリフィスは、同時に息をのみ、駆ける脚を止める。
その瞬間、自らが放った魔法から、魔力が急速に抜け出していくのが分かる。
息を止め、歯を食いしばって拡散していく魔法を維持する。
しかし、こちらは二人がかりだ。
魔法自体のスピードが非常に速い雷魔法である裁きの鉄槌は、魔力の多くが抜けきる前に騎士達に激突した。
それは数秒の間の出来事だった。
裁きの鉄槌がその効果を終えたとき、中心には一人だけ…おそらく、あの魔法を放ったヤツだけが立っていた。
魔物達、そして俺たちが遠巻きに眺める中、その騎士はゆっくりと剣を天に掲げ。
そして、崩れ落ちた。
51日目終了
対怨念の騎士団(大地の騎士団)戦勝利
戦闘による死亡
・眷属
lv1 ハウンドウルフ2
lv4 リザードマン3
lv3 ホブゴブリン2
lv2 ゴブリン2
lv2 ゴブリン36
lv2 ニードルビー12
lv2 ニードルビー2
lv1 イートアント87
lv2 ゴブリン30
lv3 グリズリー4
lv2 食人花13
lv1 ハウンドウルフ17
lv1 コボルト9
合計 マナ+8820
・野良
野良のコボルトの群れが3つ壊滅
lv1 コボルト13
野良のハウンドウルフの群れが半壊
lv1 ハウンドウルフ9
野良の食人花の群れが壊滅
lv2 食人花11
野良のホブゴブリンを中心としたゴブリンの群れが2つ壊滅
lv3 ホブゴブリン2
lv2 ゴブリン16
合計 マナ+3540
倒した敵
lv5 怨念の騎士30
lv6 怨念の騎士16
lv7 怨念の騎士2
lv3 黄泉の黒煙3
合計 マナ+104750
総合 マナ+117110
シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)
総合B攻撃C- 防御C- 魔力量B+ 魔法攻撃B 魔法防御B- すばやさC+ スタミナC+ スキルB-
スキル
ユニークスキル「結晶支配」
ユニークスキル「共鳴」
ダンジョン
保有マナ
150,513
ダンジョンの全魔物
ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)
迷宮植物:
ヒカリゴケ4400、ヒカリダケ550、魔草440
グループ(勢力順):
シルバーウルフ1、ウルフソーサラー5、グレーウルフ18
命尾、フォックスシャーマン12、ハウンドフォックス10
グリフォン4
ホブゴブリン2、ゴブリンシャーマン2、ゴブリン40
リザードマン4
ホブゴブリン2、ゴブリンシャーマン1、ゴブリン20
クイーンビー1、ニードルビー20
クイーンビー1、ニードルビー10
単体・その他(能力順);
コボルトヒーロー1
野良・その他:
ゴブリン13、ホブゴブリン1、コボルト5、コボルトロード1、ハウンドウルフ19、インプ5、グリズリー1
一階層
洞窟・迷宮
二階層
更地
三階層
更地
四階層
更地
五階層
コア、個室2、ダイニングキッチン、大浴場、保存庫