呪われた宿命の血
37日目。
盗賊のアジトまではそれほど遠くなく、人もいなかった。
おそらくあれで全滅したのだろう。
安物の家具と武器がいくつかあり、ウルフ達に背負わせて接収したが、果たして使う日が来るのだろうか。
とにかく賞金をもらいに行こう。
死体の生首が入っているらしい革袋を持ち、ルティナと共に町へ向かう。
てかこの準備を全てルティナにやらせてしまった。
すまん、次は俺もやる。
そんなことを考えながら街道を歩く。
ダンジョンの入り口は森の中だが、しばらく歩けば街道に出られる。
どちらが安全とも言いがたいが、少なくとも街道の方が歩きやすい。
途中現れる低レベルの魔物を軽くあしらいながら進み、街道の途中で一泊。
問題も無くリーベックにたどり着く。
そして今回も腕に抱きついてくるルティナ。
町に来るだけで良い思いができる。
HAHAHA。
死体は冒険者ギルドではなく、騎士団の詰め所へ。
やはり町の中心の広場に面していた。
リーベックはこの広場に大抵の施設がそろっている。
詰め所では、鎧を脱ぎラフな格好をした騎士が、フランクに対応してくれた。
「へえ、どうやら盗賊団ごと壊滅してくれたようだな。これが賞金だ、確認してくれ」
首3つと銀貨の交換だ。
受け取った袋の中には、銀貨が45枚入っていた。
ちなみにこの世界では銅貨が最低単位で、銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚だ。
「あれ?これ俺がもらっちゃっていいの?」
「それはもちろん。あまり気にしなくて良いですよ」
まあ、Sランク冒険者ならお金に困ることもないか。
そもそも神様だし。
この世界では宿を取り、一ヶ月質素に生活するのに必要な金額は銀貨12枚といった所だ。
つまり、この報酬で優に三ヶ月は生活できる計算になる。
まあ、そんなところだろう。
騎士にあいさつして詰め所を出る。
町に向かったのが遅かったこともあり、すでに夕方が近い時間になっていた。
この世界では電気なんてないので、基本的に人々は早寝早起きだ。
空が暗くなれば人は寝るのである。
「ルティ、じゃなくてシオン、宿とる?」
「そうですね。広場にあるのは高級な宿だけなので、もう少し路地に回りましょう」
「だな。一度標準的な宿に泊まってみたかったんだ」
ルティナは誰か他の人と会うときはシオンと名乗っていた。
冒険者カードも二枚持っているようで、一枚はBランクのシオンだ。
もう一枚の方は見たことがないが、多分ランクSなんだろう。
ちなみに普通の人は冒険者カードを二枚持つことはできない。
冒険者カードというのは神の加護を受けたアイテムで、偽造や改造はまず不可能。
そもそも物体が手の中に沈むなんていう魔法現象が起きる以上、そんなアイテムをホイホイばらまけないだろう。
冒険者全員に渡せるほどカードがあるのは、神のおかげでもあるのだ。
ちなみにやったのはミテュルシオンさんではなく、もっと下位の神だ。
神の階位としては、一番上に創造神。
その下に主神であるミテュルシオンさん、他の神々、天使達と続く。
ルティナに聞いたのだから正確な話のはずだ。
ちなみにるルティナは"他の神々"の位置にいる。
実際偉い。
正直口を滑らせる気がするので、町ではずっとシオンと呼ぶことにしたのだ。
多分、ミテュルシオンさんから取ったんだろう。
宿に関してはもちろん好奇心に由来する。
想像では最低ランクの宿は馬小屋、最高ランクの宿はホテルというイメージだ。
貴族や王族なんかが泊まる施設なら、値段も家具も相当なものなのだろう。
俺はとにかく普通の宿に泊まってみたい。
冒険者ギルドで宿を聞いてみたら、そのままの流れで紹介してもらえた。
リーベックの特徴である白い建材の建物に入り、夕食付きの宿を取る。
「シオン、二部屋取るか?それとも二人部屋で良いか?」
「二人部屋で良いですよ。二部屋とっても無駄なだけですし」
ルティナは特別気にしないらしい。
考えてみれば、冒険者は男女同じ場所で眠るし、用をたすにも見張りがたつ。
まあ安全圏でもそうするかと言われればそうでも無いだろうが。
町の外に出てしまえば、男女の差など些細な違いでしかない。
ま、そんなものだろう。
値段は2人で銅貨80枚だった。
正直高いのか安いのか分からない。
夕食はルティナの料理には負けるが、決して平均以下ではなさそうなものが出た。
適正価格、だったのかな。
次の日、朝早く出発し、森の中の街道を歩く。
相変わらずルティナはフードを被ったままだ。
正直、おかしいとは思う。
どうしてこの女神であり天使のような人であるところのルティナが顔もだせんのだ。
……いや、言い過ぎたかもしれんが。
ちょっとムカつく。
「シラキさん、私は気にしていませんから」
むすっとしているのがバレたか。
いや、ムカつくものはムカつく。
……まあルティナが気にしてないんだから俺が気にするのもおこがましい。
こういうのはぱっと気持ちを切り替えるのが大事だ。
「分かった、気にしない」
「ありがとうございます。……シラキさんって、本当に聞き分けが良いですよね」
「それ、褒めてるの?」
「もちろん。頑固者や分からず屋が多いんです、残念なことに」
柔軟性が足らないのか。
とはいえ頑固なのは場合によっては大きな力になることもある。
俺なんか柔らかすぎてしょうも無いんだ。
熱くなれないから、結局平均ちょい上辺りをふらふらしてる。
「頑固も柔軟も善し悪しだよな」
「前言撤回です、シラキさんも頑固です。まったくもう」
アイエエエエ!
まあいいや、どうも自虐的になってしまう。
考えないことにしよう。
「ん」
魔力の動きを感じる。
道が曲がっていて見えないが、この先だろう。
漂う戦闘の気配にルティナも身構えるのが分かる。
気持ち戦闘モードに移り、早足で問題の場所に向かう。
木陰からのぞき込むと、30メートル程先で電撃が奔った。
戦っているのは、二人の女性。
一人は背の高い、鎧を身に纏った剣士。
堂々としており、重そうな剣と全身鎧を全く苦にしていない。
金髪で、明らかに前衛であろう。背後の女性をかばうようにしている。
二人目は、明らかに後衛で魔法使い的格好。
藍色のローブを身に纏い、手には身長と同じくらいの杖。
背は高くはなく、灰色の髪を首の辺りでまとめている。
ローブや髪の毛がはためいているのは、魔力によって発現しているであろう、風を纏っているからだ。
ぱっと見た限りだと、2人ともランクC-以上。
そんな2人が苦戦しているのが、人よりも大きな黄色い鳥。
見ただけで分かるが、レベル6の魔物、サンダーバードだ。
リーズエイジ王国の国境にある山に住んでいる魔物で、結構な強敵だ。
何でこんな所にいるんだ?
「ダメですね。このままだとあの二人、殺されます」
ルティナが淡々と現状分析した。
前衛はサンダーバードの攻撃を全て受け持っており、ほとんどタコ殴り状態だ。
そして前衛の剣も後衛の風魔法も、サンダーバードにはかすりもしない。
サンダーバードは速いし空も飛べるので逃げるのも難しい。
実際、かなり絶望的な状況だろう。
「どうします?」
「助けるか。幸い奇襲できそうだし」
ルティナが頷く。
俺は隠れたまま状況を伺い、攻防の間隙に生まれるチャンスを待つ。
2人組は状況をしっかりと把握しているらしく、かなり焦っている。
それが分かっているのか、サンダーバードは外野に対する注意が散漫になっている。
油断しているのだ。
チャンスはすぐに訪れた。
魔法使いの風魔法を回避し、空に滞空している瞬間。
可能な限り威力を集約した魔法弾を放つ。
殺気を感じ取ったのか、放った瞬間サンダーバードと目が合い、そして魔法が直撃した。
銃弾もかくやという速度で撃ち出された魔法弾はサンダーバードの胴体を消し飛ばし、ちぎれた羽が地面に落ちる。
「よし、うまくいった」
安堵の息を吐く。
これが外れるようなら、俺の魔法のほとんどが当たらないということになってしまう。
二人組のうち前衛の方は事態を把握したらしく、すぐさま振り向いて戦闘態勢を取った。
「何者だ!?」
警戒を欠かさない態度、さすがだ。
「通りすがりだ、大丈夫か?」
片手を上げて姿を現す。
ルティナも一緒だ。
後衛の女性がこちらを見て、安心したような表情を浮かべる。
「さっきのはお前か?」
「リゼリオ、失礼ですよ。すみません、助けていただいたのに」
リゼリオと呼ばれた前衛、言われて剣はしまったが、警戒は解いていない。
「ああ、大丈夫だ。俺はシラキ、そちらは?」
近づいてみて気がついたが、どちらもかなり若い。
前衛の方は俺と同じくらい身長があるため年が分かりにくいが、少なくとも大きくは離れていないだろう。
美人ではあるが、目がキツい。
冒険者って言うよりは、軍人みたいな雰囲気だ。
一方、後衛の子はどう見ても年下だ。
16、7くらいに見える。
体型はローブに隠れて見えないが、線が太くはなさそうだ。
まあルティナを前にして見た目で判断する愚を犯すかという話だが、ルティナは雰囲気や物腰からして大人だから。
この子は美人というよりはかわいいと言った方が合っていると思う。
「私たちは依頼で来た冒険者で、フェデラといいます。彼女はリゼリオです」
背の小さい方、フェデラが笑顔で自己紹介してくれる。
リゼリオは相変わらず警戒したままむすっとしているが。
「ああ、よろしく。彼女はシオン、俺の師匠だ」
嘘は言っていない。
「師匠、ですか?先ほどの魔法を放ったのは、シラキさんですよね?」
「ああ」
「あれほどの魔法が使える人の師匠とは、きっと熟練の魔法使いなのでしょうね」
フェデラが驚き、尊敬するような目を向ける。
割と素直な子なのかもしれない。
まあルティナは剣も魔法も人間離れしているだろう、実際。
「しかし、さっきのはサンダーバードだろう?何でこんな所にいるんだ?」
「さあな。だが最近は魔物の動きが活発になっている気はするな」
「確かにおかしいですね、まだ領内の、それも街道にサンダーバードが現れるなんて」
2人とも気にはしているようだ。
実際問題、こんな何でも無い街道でレベル6モンスターなどに出没されたら、行方不明者がどっと増える。
騎士の仕事だろ、これ。
「そういえば、シラキさん達も依頼ですか?」
「ん、ああ、一応依頼だな。盗賊関係で。そっちは魔物か?」
「えっと…実は、この辺りにダンジョンがあるかもしれない、と聞きまして」
ファ!?
アカン。
声は抑えたが、顔に出たかも。
「フェデラ、それは」
「構いません、私たちは今命を助けてもらったのですよ」
あ、大丈夫そうだ。
というか何故知ってる?
ダンジョンに入ってきたヤツは盗賊だけで、奴らは全滅させたぞ。
まさか生き残りがアジト以外の場所にいたとか?
だとしても盗賊が知ってたからって冒険者に知られるには速すぎる。
「この辺りにはダンジョンはなかったと思うが」
「はい、なので最近になってできたのではないか、と」
「へぇ、気になるな」
気になるってレベルじゃねぇぞ!
とにかく、可能な限り情報を集めないと。
「俺たちもついて行って良いか?冒険者としては、未発見のダンジョンなんてほっとけないぜ」
ルティナを見る。
頷いたのが分かった。
「ええっと、それは……確かに心強いですが、お二人も依頼があるのでは?」
「フェデラ、よろしいのですか?」
リゼリオが敬語で話しかけている。
冒険者であるとしても、それなりの経緯があるのだろう。
「構いません、どちらにせよこの調子では、二人では厳しいでしょう」
リゼリオの方は、さすがにあったばかりの俺たちを警戒しているのは分かる。
フェデラの方は言っていることはその通りだが、少し心配になるな。
そんなに簡単に信用して大丈夫なのか?
「依頼については大丈夫だ、どうせ時間はかかってもいい依頼だからな」
「…ありがとうございます。では、一緒に行きましょうか」
さて、どうなることやら。
街道を4人で歩く。
「フェデラは」
「はい、なんでしょう?」
リゼリオの方はともかく、フェデラは口調からして上品だ。
冒険者ってもっとぶっきらぼうなイメージがあったのだが。
ただどんな人間でもなれるっていうイメージもあるからそっちは合ってる。
貴族の娘が家を飛び出して冒険者になったり。
…そんな経緯だったらもっと活発だろうな。
「ダンジョンに何かあるのか?いや、答えたくなければ別にいいんだが」
思えば2人だけでダンジョン、というのもおかしな話だ。
基本的に冒険者は3人~6人ほどでパーティを組む。
2人では少々危険ではないだろうか。
「シラキさんは、呪いは知っていますよね。実は私の家族が、呪いにかかってしまいまして」
「もしかして、呪いを解くアイテムを探してるのか?」
ダンジョンでは様々な物が手に入る。
いつの間にか宝箱が設置され、様々な物が入っているのだ。
なんとその宝箱、ダンジョンマスターである俺ですら干渉できない。
全くもって謎だが、実際そうなのだから仕方ない。
ちなみに俺のダンジョンに置かれる宝箱は、レアな物はもれなく回収している。
しかしレアといってもそれほど高価な物は出ていない。
ほとんど消耗品や武器の類いだ。
回収した物は倉庫に放置されている。
それ以外は1階層に放置だ。
「はい、氷解の宝珠と言うのですが、ご存じありませんか?」
「いや」
聞いたことがない。
ルティナの方を見てみる。
「黒結晶……悪性の魔力結晶を安全に消せるアイテムですね。かなり珍しい物です」
ルティナの方はさすがに知っていたらしい。
「その通りです。市場には出回りませんし、消耗品ですから」
フェデラは悲しそうな、どこか諦めを含んだような顔をしている。
買えない、消耗品、レア。
相当入手は難しいだろう。
ところで、悪性の魔力結晶なんてあるのか、黒結晶というのもはじめて聞いた。
魔力結晶というのは、魔法を使うときに魔力を肩代わりさせたり、あるいは自分の魔力を回復したりできる消耗品だ。
作れる人がいないからそれなりに貴重なのだが、悪性になるとどうなるのだろう?
まあ、良い影響はないだろうけど。
…ちなみに俺は普通の魔力結晶なら作れる。
"結晶"支配だからな。思わぬ副産物だ。
「それで、人の少ないだろうダンジョンへ?」
「はい。新しいダンジョンなら、宝箱も手つかずでしょうから」
すまん、俺が取ってる。
「もしかして、黒結晶が体内にあるんですか?」
ん、そういえばそうか。
でも呪いってそういう物なの?
「その通りです。呪いの影響で体内に黒結晶ができてしまうんです」
「ん、でもそれじゃ黒結晶を消せても意味無いんじゃ?」
一時しのぎにしかならないぞ。
「氷解の宝珠はすぐには壊れないそうです。生きている間くらいなら、何とかなるかも知れません。そうで無くても、時間は稼げます」
そう、か。
「呪いは解けるのか」
「……難しいです」
それはそうだ。
呪いというのは場合によっては死ぬまで解けない。
いや、下手をしたら死んだ後すら開放されず、アンデットになり朽ちるまで解けないものまであるとか。
「シラキさんなら、黒結晶は取り除けるかもしれませんね」
「えっ!?」
「なにっ!?」
えっ?
「どういうことだ、詳しく話せ!」
リゼリオがくってかかる。
とりあえずお前はその命令口調を何とかしろ、と一瞬思った。
そんなシラキクオリティ。
「シラキさん、取り除けるのですか!?」
「いや…」
え、できるの?
俺魔力結晶は作るのも壊すのもできるけど、悪性でしょ?
そもそも他人の体内にある結晶を壊そうと思ったらかなり難しいぞ。
「なんだ?早く言え!」
フェデラがすぐに静止をかけない。
おそらくそれだけ重要なことなのだろう。
「いや、できるかは分からんけど、とりあえず見てみないことにはな」
他人の体内というのは、本人の魔力で包まれている。
他者の体内に直接炎を出したり凍らせたりできないのはそういう事情があるのだ。
よほど魔力に差がなければできないし、んなことしたら身体に毒だ。
そもそも俺の魔力じゃ無理だろ。
いや、試したことはないけどさ。
「そう、ですか」
こういう場合ってどうするんだろう?
無償でやるのもどうかと思うし。
いや、どのみちできるかどうかも分からないけどさ。
依頼として受けるのがいいのかな?
まあ、見るだけならタダで良いよね。
「看ようか?まあダメ元で」
フェデラは迷っているようだ。
そんなに大事な問題ならダメ元でも見せてみる物だと思うが。
あ、もしかして病人がかなり遠くにいるとか?
金がない……てことはないよな、冒険者だし。
冒険者というのは、基本的には金持ちではない。
しかし依頼報酬として即金が手に入る。
なので金が手に入ったときに必要なことをすれば良いのだ。
ところで何故フェデラはこんなに悩んでいるのだろう?
「シラキさん達は、リーベックからですよね?」
「ああ」
「では、リーベックに帰ったら正式に依頼として頼ませていただきます」
依頼として、か。
つまり報酬は確実に送られる。
お互い事前にルールをきめ、それは遵守されなければならない。
やましいことが無い限りは正式に依頼された方が得だ。
「了解した」
結局何を悩んでいたかは良く分からないまま、四人は俺のダンジョンに向かって進む。
考えたんだがダンジョンが人間にバレるデメリットって何だろう?
人間が入る、ダンジョンの危険性がバレる、ガチ攻略部隊が来る、ダンジョン崩壊。
そこまで国が過敏に反応するか…?
今はまだ周りに迷惑をかけているわけでもない。
それに1階を1割ほど壁で埋めて入り口塞げば何とかなる気がする。
そんなに敏感になることはないのだろうか?
いや、塞いだ後どうすんだって話だが。
……何とかなる気がする。
むしろ今の問題はこの二人、フェデラとリゼリオをどうやって生きたまま帰すかだ。
できればダンジョン入り口付近で撤退させたい。
いろいろと考えている内にダンジョンの上まで来た。
ちなみにダンジョンは地下に拡がっているので地上からは一切見えない。
「ここの近くのはずです。入り口を探しましょう」
夕方近くなってきたが、まだ空は明るい。
二手に別れて入り口を探すことにした。
俺としては入り口の場所は分かっているし、家の近所的な安心感がある。
しばらく探索したが、大した時間もたたない内にフェデラとリゼリオが入り口を発見した。
速いな!
本当にどうなっているんだ、何故バレた。
「考えたんだが」
「なんだ」
実際考えた。
この二人を無理のない方法で撤退させるにはどうするかってことを。
「サンダーバードはここから出てきた可能性もあるよな」
「新しいダンジョンと、普段見ない魔物。確かに、関連はあるかもしれませんね」
もちろんダンジョンにサンダーバードなんていない。
しかし状況的には十分にあり得る。
「もしダンジョン内部でサンダーバードクラスの敵が出てきた場合、撤退した方がいい」
てか俺だったら逃げる。
そもそもサンダーバードってCランク冒険者が6人で挑む敵だろ。
「ダンジョン内ではサンダーバードの機動力も落ちる。4人で勝てない相手でもあるまい」
「ダンジョン内は魔物の能力も上がる。敵は1人とも限らないし、消耗した状態で生きて帰ってこれるかも怪しい」
フェデラとリゼリオは元々ここを目的に来たのだ。
ポンと帰ってくれるわけではない。
とはいえ、強敵が出てきたら逃げるのが冒険者の常套手段だ。
「リゼリオ、シラキさんの言うとおりです。未開のダンジョンである以上、魔物のレベルが高いようなら撤退するべきです」
「フェデラ、しかし」
「リゼリオ、死んでしまっては意味がありません」
「……分かりました」
なにか主人と従者みたいだな。
まあ奴隷を連れた冒険者もいるらしいし、多少はね?
初見ではリゼリオは短絡的というか、脳筋のような印象を受けたが、実際はそうでもなさそうだ。
今のも意識していたかどうかは知らないが、俺の意見を受け入れるつもりなのにわざと反論した様な雰囲気がある。
確かに物見遊山で俺たち二人がいるおかげで、普段避ける敵でも戦えるということはあるだろう。
リスクと目的のさじ加減の話だな。
四人とも言葉少なにダンジョンに入る。
入り口の洞窟から坂を下っていくと、そこは蟻の巣のように拡がる洞窟型ダンジョンだ。
そして俺がやるべきことは1つ。
(ソリフィス)
(はっ)
(状況は把握しているか?)
(フォックスシャーマンが監視している)
(ん、この二人を無事に撤退させたい。レベル7以上の戦力を差し向けてくれ)
(7、か。了解した、我が行こう)
この魔物の層の薄さよ。
やっぱりこのダンジョンまだしょっぱいなぁ。
今度ルティナに相談しよう。
入り口から侵入するのは2回目だが、俺の頭の中にはマップが入っている。
それに中枢にいなくても、ダンジョンコアにアクセスすること自体はできる。
マップの確認くらいしかできないが、迷う心配はない。
まあダンジョン内ならソリフィスと念話し放題なので迷ってもどうとでもなるが。
しかし侵入者の視点から見てみると、このダンジョンは迷路もいいところだ。
代わり映えしない景色、無数の分かれ道、感覚を麻痺させるダンジョンの魔力。
十分も潜れば帰れなくなること間違いなし。
しかしフェデラもリゼリオもそれなりになれているのか、道順を覚えながら慎重に進む。
通路、広場、通路、広場の連続で、通路も何又にも別れている。
5つめの広場、すでに俺の記憶力が怪しくなってきた頃、最初の魔物に出会った。
ソリフィスだ。
広場の先に立ってこっちを見ているだけだが、はっきりいって身体から溢れる魔力がすごい。
フェデラとリゼリオが見た瞬間ギョッとしたがわかる。
「フェデラ、逃げましょう」
「リゼリオにもわかりますか?」
「魔力に疎い私でも分かります。あれはまずい」
うむ、さすがソリフィスだ。
彼女達だってダンジョン慣れしているだろうに、いや慣れているからこそ一瞬で撤退を選択した。
Cランク冒険者じゃ束になってもかなわないだろう。
とりあえず、足の遅い後衛から下がるのが吉。
「フェデラ、先に下がれ」
「……すみません、シラキさん」
ルティナにも下がってもらい、リゼリオと顔を見合わせる。
あまり仲良くできる雰囲気じゃないリゼリオも、このときは考えが一致した。
お互いにソリフィスの方をみながらも、後ろの通路へと退避。
ソリフィスが見えなくなったところで、即ダッシュする。
道順を覚えていたフェデラが先導し、入り口まですぐに戻ってきた。
「絶対勝てないだろ、あれ」
本音だ。
「そうですね、あれほどの魔物が出るとは、思ってもみませんでした」
「……確かに、悔しいがあれとは戦いたくない」
「このダンジョン、止めた方が良いと思うな」
積極的に止めていくスタイル。
いや、ホント来ないで下さい。
「フェデラ、どうしますか?」
「そうですね…今のところは、難しいかと思います」
「そう、ですよね」
どうやらこのダンジョンは諦めてくれそうだ。
ほっとする。
「シラキさんは、これから依頼ですよね?良ければお手伝いします」
「ああ、いやいいよ。偵察が主だから人数は少ない方が良いんだ」
俺たちは盗賊の調査なり何なりで来た冒険者。
ということにした。
もちろん聞かれるまでは答えない。
「分かりました。では、私たちは一端リーベックに戻ることにします。依頼の件もありますし、後日どこかで合えませんか?」
「ん、一週間後なら大体空いてるよ。そちらの都合のいいときで」
「ありがとうございます。では、7日後の正午に冒険者ギルドの前で待ち合わせしましょう」
「ああ、じゃあまたな」
手を上げて別れる。
俺たちはダンジョンとは別の方向に歩き出した。
向かうのは元盗賊達のアジトだった場所だ。
小さな洞穴の中に入ると、魔方陣が隠してある。
ダンジョン内に設置してあるのと同じ移動用魔方陣だ。
ダンジョンマスターである俺だけは、この魔方陣から一階層ボス部屋まで飛ぶことができる。
ここ一応ダンジョン外だから
(ソリフィス、今からそっち飛ぶ)
(了解した)
今気付いたが、純粋な人間と話したのは久しぶりだった。
39日目終了
設備投資
・転移魔方陣設置
合計マナ1000消費
シラキ・ヒュノージェ(愛原白木)
総合C+攻撃C- 防御D 魔力量B- 魔法攻撃B- 魔法防御C すばやさC+ スタミナC- スキルC
スキル
ユニークスキル「結晶支配」
ユニークスキル「 」
ダンジョン
保有マナ
31,810
ダンジョンの全魔物
ボス:ソリフィス(ヒポグリフ)
迷宮植物:
ヒカリゴケ4400、ヒカリダケ550、魔草440
眷属・グループ(能力順):
グリフォン4
シルバーウルフ1、ウルフソーサラー5、ハウンドウルフ20
フォックスシャーマン10、ハウンドフォックス10
クイーンビー1、ニードルビー10
ゴブリン30
野良、その他:
ゴブリン27、ホブゴブリン2、コボルト17、コボルトロード1、ハウンドウルフ28、食人花16、インプ5、グリズリー4
一階層
洞窟・迷宮
二階層
更地
三階層
更地
四階層
更地
五階層
コア、個室2、ダイニングキッチン、大浴場、保存庫
今のところいつの間にか増えてるけど、野良の魔物が増えたときとかとか書いた方が良いのかな?うーむ。