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異世界で小柄な女神様とダンジョン運営  作者: バージ
新界定礎の始点 ~未知は尽きぬもの~
1/96

始まりは真っ白から



準備は、すべてつつがなく整った。

このためだけに、ダンジョン運営のシステムを用意した。

ぴったりの相手も見つけた。

ルティナ(むすめ)はすでに待機している。

私は人間とコミュニケーションをとることができる。

驚かせず、私の言葉を鵜呑みにさせるわけでもなく、スマートな対話を実現させる。

……あとは、呼ぶだけ。


この私を用意して以来、初めて生まれた願いを。

どうか、叶えてください。


「愛原、白木」





















目が覚めたら、俺は白一色の殺風景な場所にいた。

空も地面も壁も真っ白で、どこまでが壁なのか、あるいは壁が存在しているのかさえも分からない。

そんな真っ白な空間に置かれた丸テーブルとふたつの椅子は、まるで浮き上がっているかのように見える。


……?


自分は椅子に座っているはずだが。

どうして外から椅子を眺めたような感想を抱いたのだろう?

自分を意識し、ようやく状況を認識する。


俺が座る椅子の対面には、見ず知らずの老婆が腰掛けていた。

少しの間見つめるが、目を瞑り微動だにしないその姿はまるで死んでいるかのようだ。


「夢?」


つい、自分は意識へと浮かび上がってきた言葉をそのまま口に出してしまう。

自分の口から出てきた言葉は明瞭に自らの耳へと入っていき、夢らしからぬ現実感を感じさせる。


「夢っぽい現実……夢みたいな状況」


そんなことをつぶやく俺は、この夢としか思えない、しかし夢にしては現実感のありすぎる状況に戸惑っているのかもしれない。



俺の名前は愛原白木あいはらしらき

日本に住むごく一般的な青年。

趣味はアニメゲーム小説などの創作物全般。

親が人外だったり、超能力が使えたり、人に見えない物が見えたりといったことは、もちろんない。


「夢、みたいなものですね」


声。

のんきに自分が何者か思い出しながら状況確認していた俺は、声がした方、つまり老婆に目を向けた。

閉じていた目を開け、老婆が顔を上げる。

皺がより、髪の毛は白く、相当な高齢に見えるが、背筋はまっすぐと伸びている。

最初に見たときは気付かなかったが、なんとも美しい、美しい老婆であった。

何を見て美しいと感じたのかは良く分からないが、実際にそう感じたのだから仕方ない。


「私は真実と絆の女神ミテュルシオン。ここは、夢に近い場所。愛原白木さん、私があなたを招きました」


自分は少しの間、見とれていたのかもしれない。

だとしたら自分が誰かに見とれるなど、人生で初めての経験だった。

そして、何故俺の名前を?などと聞きそうになった。

聞かなかったことに理由はないが、"神様だから"の一言でばっさりやられてしまうかもしれない。


「神様ですか……ご存じみたいですが、愛原白木です。えっと、どういったご用件で?」


少しどもった。

突然のことに驚いているらしい。

そんな俺の様子を見たからか、老婆は少女のように笑う。


「かしこまらなくていいですよ。その方が話しやすいですから」

「ん…分かりました」


綺麗とか、かわいいとか思うことがあっても、人を見てこれほど美しいと感じたことは、人生で一度たりとも経験したことがない。

この女神様からは、不思議な雰囲気を感じる。

何というか、神様であることを一瞬で信じさせるような存在感、というのだろうか?

何にせよ、俺はこの人が神様だと、ほとんど疑うこともなくすぐに納得した。


「ここにあなたを呼んだのは、大切な頼みがあるからです。聞いていただけますか?」

「もちろん聞きますよ。引き受けるかは分かりませんが」

「ありがとうございます。あなたにはこの世界、つまり今あなたが生きている世界とは異なる世界へ降り立ち、成して欲しいことがあります」


つまり、異世界。

俺はすぐに興味を惹かれた。

いわゆる異世界ものと呼ばれる創作群、俺は結構好物である。


少しだけ沸き上がってきた興奮を意識して抑え、一泊開けるミテュルシオンに頷き、先を促す。


「成して欲しいこと。まずはそのために、この世界で何が起こったかを話さなければいけません」


ミテュルシオンは俺をまっすぐ見つめながら、語り出した。

俺は時折頷きながらも、無言で話を聞いた。

まとめると、ここは時代的には中世に近く、魔法や魔物が存在するファンタジー世界。

世界は人間と魔族が争っていたものの、比較的平和であった。

しかし、今から数百年前に地上と冥界を繋ぐ扉が開き、邪神の王が侵攻してきたことで、世界の平和は脆くも崩れ去った。


邪神とは、冥界に住む凶悪な者達、"亡者"の親玉。

彼らが望む物はただ一つ、世界の終末。

簡単に言えば、地上全てが焼け野原、生物全滅。

確かにこれは、地上征服をもくろむ一部の魔族とも相反するものだ。

彼らはあくまで地上を支配したいのであって、破壊したいわけではないのだから。


邪神の軍の侵攻が始まってから数年、世界は荒廃するも、地上のあらゆる種族が協力し、最終的には邪神を追い返すことに成功する。

扉は封印され、地上は平和を取り戻した。


ところが最近、扉の封印が解けそうになっている。

邪神の力が強くなっているからだ。

封印を維持する力より、邪神が封印をこじ開ける力の方が強くなっているのだとか。

神々は直接手出しすることができない。

そういう盟約なのだそうだ。


そこでミテュルシオンさんは俺を呼び、間接的に事態を収拾しようとしている、と。

ツッコミ所は沢山ありそうだが、とりあえず話を続けよう。


「だいたい分かりました。それで、具体的には一般人の俺に何をさせたいんです?」

「あなたにはダンジョンを運営して欲しいのです」


……ん?

出てきた言葉は、さすがに予想外だった。


「えっと、ちょっと待ってください。ダンジョンって、魔物や罠が溢れ、危険で、冒険者が宝を求めて探索する、そんなダンジョンですか?」

「はい。おおむねその認識で合っています」


話の流れからして、てっきり勇者かあるいは神官として何かするのかと思ったのだが。

逆の立場なのか?いや、これまでの話の流れ的にそれはないだろう。


「ダンジョンって、運営するものなんですか?」

「通常は人間のダンジョンマスターなど存在しませんが、今回作るダンジョンは特別です」


作るって。

わざわざそのためにオーダーメイドしたのだろうか。


「あなたが操作できるようなコアを配置し、魔物や罠、構造に至るまで全てあなたが操作できるようにします」


めちゃくちゃだな、さすが神様。

この程度できない訳がないということか。

しかし、この人は俺にダンジョンマスターをやれといっている。


「ダンジョンって、普通魔族側では?もしかして、あなたは魔族側の神?」


俺としては別に人間側でも魔族側でもどちらでも良いので、直球に聞いてしまう。

すると、また老婆は少女のように笑った。


「言ったでしょう?私は真実と絆の女神。人間側でも魔族側でもありません」


なるほど。

この世界では人と魔族どちらでもない神がいるようだ。

善なる神と悪の神が争ってるとか、そういうこともないのかもしれない。


「となると……何のために?」


世界の危機が迫っているというのだから、それに抗する何かを頼まれると思ったのだが。

ダンジョンがどう関係しているのだろう?


「実際にダンジョンを運営し、習熟し、そして来る邪神の侵攻時には、侵攻を止めるための要塞として欲しいのです」


俺の想像してなかったところに着地した。

いや、対邪神のためというのは前提の通りだ。

驚いたのは、ダンジョンを人間その他では無く邪神用に使う、ということ。


「もしかして、ダンジョン最下層に冥界の扉がある、とか?」

「そういうわけではありません。しかし、将来的にあなたがダンジョンに十分習熟したら、扉が最奥に設置されたダンジョンを作ってもらおうと思っています。そこに種族の垣根を越えて実力者を集め、邪神侵攻に対する防波堤とします」

「はあ……でも種族の垣根というのは、そう簡単に超えられますか?」

「下地はある程度整っています。しかし、協力してもらう条件に、あなたのダンジョンがあります」


うぐ。

こ、これは重大な責任を負うものなのでは。


「そ、それは一体?」

「…魔王軍が総出で挑んで攻略できないダンジョンの作成」

「冗談じゃ…」

「真実です。というより、魔王軍総攻撃を耐えられない様なダンジョンでは、邪神の軍を退けられないでしょう」


強いな邪神の軍。

魔王軍より総力上なのか。

いや、全生物抹殺をやろうとしているのだから、ある意味当然か。


「俺にできますか?」

「大丈夫。そのための、特別製のダンジョンです。できなければ、地上のあらゆる生物が全滅してしまうかもしれませんが」


なるほどね。

分からないことは一杯あるが、とりあえずある程度のことは分かった。

ため息を一つ。


「申し訳ありません。地上の全生物の存亡を、一部でもあなたの肩に背負わせることになってしまいます」


この人は俺にそれくらいのことをしろといっている。

とはいえ別に、いやなら話を断ってもいいのだ。


「ところで、どうして俺なんですか?候補は他にいくらでもいるのでは」

「それは……あなたがいい人だから、です」

「いい人?」

「私はここに招く前に、夢としてあなたの世界の人々の魂と接触しました。その中で、あなたが一番ふさわしい、と思いました」

「どこら辺が?」

「……秘密です」


その言葉と共に、ミテュルシオンは笑った。

対する俺は、その笑顔に少し見とれた。

相手は女神とはいえ、見た目八十歳くらいの老婆の笑顔に魅せられる青年。

俺の常識でははかれない程度の魅力はあるということか。


「わかりました、やりますよ」

「その前に、よっつ、大事なことがあります」


やる、といったのにミテュルシオンさんは遮った。

少し好感が持てる。


「今更大抵のことでは驚きませんけど」

「ひとつ、あなた自身の命に関わります。ふたつ、あなたの人生を大きく歪めてしまいます。みっつ、ダンジョン運営にあたって人間を含む多くの命を奪うことになります。よっつ、あなたに力を与えるにあたって、名字を代償にしなければなりません」

「一から三は織り込み済みです。四はどういうことです?」

「あなたに力を与える代償、だと思ってください。あなたは自らの名字を無くします。具体的には言えませんが、名前は非常に大切なものです」


名前、か。

神様が重要と言うからにはかなり重要なものなのだろう。

名前を取られることによって記憶を奪われた少女もいたな。

そういえば、本の中に入った少年が、願いを叶える代わりに失うものの中で、一番最後まで残っていたのが自らの名前だったような気がする。

"Bがみっつだな"、"Kがみっつですね"。

名前まで失った人の末路は、ひたすら彷徨い続ける亡者……ぞっとしない。


「……それによって記憶や自分を無くす、といったことでなければ構いません」


ミテュルシオンは、話しを始めてから初めて、その力強い瞳を伏せた。


「あなたは、それらを無くしません。無くすのは、元の世界との絆です」


…?

気になる言い回しだな。

正直言って、ミテュルシオンさんの様子は、俺に不安を抱かせるものだ。

終始真剣で、力強い彼女が、このときだけは目を伏せているのだから。

とはいえ、どちらにせよ自分の中ではすでに決心がついている。


「受けます。ただ、失敗したらすみません」

「例えダメだったとしても、それはこの世界の住人ですらないあなたに任せた、私たちの責任ですから」


ミテュルシオンは伏せていた目をこちらに向け、力強く言い放った。

俺、この人好きだわ。

多分やろうと思えば有無を言わさず強制させることもできただろうに、ちゃんと説明もして選択を選ばせてくれた。

いや、自覚できないだけで、何かしている可能性はあるけれど。

俺も、気楽に、しかし頑張らせてもらおう。

もし失敗しても、自分たちの世界を自分たちで守れない彼らが悪い。

しかし、ミテュルシオンさんの期待には答えたい。

なぜなら、俺は少しこの人を好きになったから。


「あなたには、私から特別な加護を与えます。将来的には、邪神との戦いで指揮官が務まるくらいには実力を付けてもらうつもりです」

「お、ようやくいい話が聞けました。何か特殊能力をくれたりするんですか?」

「そうですね。名字ももらうことですし、1つだけ、無茶な能力でなければ渡すことができますよ」


特殊能力、つまりお楽しみタイムか。

さっき割とシリアスになっていたが、一転してテンションが上がるのを自覚する。

俺はご機嫌でどんな能力をもらおうか考え始める。

思慮というものの少ない若者らしく、お気楽なものである。


「よろしいでしょうか?」

「はい?」

「結晶支配の能力は、いかがですか?」


言われて俺はドキッとする。

それは俺個人としてはかなり欲しかったものだからだ。

つまり、趣味に合っている。


「そういえば、俺の魂とも接触したんでしたっけ?」

「はい」


ほとんど心の内を全部見られたようなものではないだろうか。


「ということは、俺の望むような能力が、あなたには分かっている?」


手からダイヤモンドの剣を出したりする能力だ。

そんな能力があったら、元々の世界では億万長者になれる…かもしれない。


「その通り、ほぼあなたの思い描くような能力です。最初は能力も弱い物ですが、鍛えればダイヤモンドで小さな城くらいは作れるでしょう。あなた自身の望みとも合致しています」


すごくテンション上がる。

神様が目を伏せるレベルの代償を払うことなど忘れてしまいそうだ。

……いや、忘れないけど。

鑑定能力とか吸収能力とか、欲しい能力は色々あったけど、そこまで欲張るつもりはない。


「ありがとうございます。この後はどうします?俺はダンジョン直行ですか?」

「はい。全5階層の地下ダンジョン、その心臓部にお送りします。私の娘にあなたを手伝わせるので、分からないことは全て彼女に聞いて下さい」


なるほど。

なんだかとんとん拍子に話が進んだな。

なんだか、この展開はなるべくしてなったことのように思える。


「また会えますか?」

「一ヶ月から、数ヶ月に一度は」

「それは良かった」


心配だったが、また会えるのなら安心だ。


「では、あなたをダンジョンへ送り、加護、特殊能力と共にこの世界の一般的な知識を与えます」

「…知識って、最初の内にもらっておいた方が良かったんじゃ?」


その方が能力を選ぶのにずっと有利だ


「あくまで一般的な知識ですから。それに、かなりの量になりますから、あなたが気絶してしまいます」

「ああ、そういうことですか」


気絶したら能力を選べないか。

次会えるのは数ヶ月後。

一体、その期間で自分はどれほど変わっているだろうか。


「では、よろしいですか?……目を閉じて、楽にして下さい」


ミテュルシオンさんは右手を俺に向かって掲げる。

目を瞑ると、俺の意識は次第に遠のいていった。


「よろしくお願いします。シラキ」















『ヒュノージェの子が誕生しました。彼の者を祝福します』






愛原白木

総合F 攻撃F 防御F 魔力量F 魔法攻撃F 魔法防御E すばやさF スタミナF スキルF

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[良い点] あらすじで飛ばしても……的な内容を書いてましたけど、主人公や神様の人柄が窺える良いシーンだと思います。 物語のピースとして必要な部分だと感じました。
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