2,夜
妄想の糸を張り巡らせている内に、眠ってしまったようだ。
「ーーーご飯よー! ーーーーーーご!は!ん!」
飛び起きる。時計を見ると、時刻は7時35分を少しすぎた所だ。
「いまいくー。」
企みがバレないよう、普段どおりの自分を演じる。100点の演技だ。親も気づくまいと、よだれを拭き取り階段を降りた。
既にテーブルには両親、祖母が着席しており、料理も並べられている。
気の早い父は、既に一人で食べ始めている。
テレビ、料理、全く頭に入って来ない。
味も食感もわからないほど、【夜遊び】というワードの魔力に引き込まれて居た。
そそくさと食事を済まし、食器を台所に下げ、
「ごちそうさまー。」
もう一度普段通りの自分を演じた後、少し急ぎ足に階段を駆け上がった。
自室のドアを開ける。
大きな窓が目に入る。
窓の外には倉庫があり、その倉庫の上に飛び乗り、倉庫から降りる。
このルートで行こう。
時刻はまもなく8時20分。
通常、祖母は9時には、両親は10時には寝る寸法になっていた。
普段どおりなら僕も10時を少し過ぎた頃には眠ってしまう。
僕達のクラスには宿題は設けられていない。
8時30分。残りの2時間半、この高ぶった感情を何処にぶつけてまとう?
ふう、と溜息をつき、PCのスイッチに手を伸ばした。
「ようこそ」 いつもどおりのwindowsXPの起動画面。
何度でも反復するが、PCは普段どおりでも、PCを使っている僕は普段どおりではない。
この後、親が寝静まったら、外に飛び出すのだ。
そう思うとPCが使えるようになるまでの数分間ですら、じっとしては居られない。
時計を睨む。まだ8時35分にすらなって居ない。
テストの終盤にはあんなに早く進む時計が、こんな時は僕をあざ笑うかのようにだらだらと進んでいる。
PCの準備もできたようだ。いつものようにインターネットエクスプローラーを起動した。
YAHOOのトップページが表示される。
普段なら 【数学 解説】 【小説 無料】 【宇宙 仕組み】
等といった、至って普通の中学3年生のようなワードが入力されるバーには、
無意識の内に
【夜遊び】 と入力されてしまっていた。
普段より強くエンターキーを叩いて見る。
慌てて【戻る】のボタンをクリックした。
”大人”の夜遊びにまつわるページが表示されたからだ。
少し冷静さを取り戻した僕は、トラブルに巻き込まれない為に
【中学生 門限】と入力し、エンターキーを叩いた。
知恵袋や、おせっかいな大人の作ったWEBページには、20時、23時、早いものでは18時等の情報が掲載されている。なんとか条約のような難しい漢字も見受けられたが、無視を決め込んだ。
ページ下部にスクロールして行くと、心霊体験を集めたようなタイトルがある。
自分で出鼻をくじくわけにはいかない。検索などせずとも、後数時間後には僕がこの目で、身体で感じるのだ。野暮な詮索はよして、youtubeやニコニコ動画などの動画サイトの徘徊をすることにする。