1,夕暮れ
「夜遊びしてみようぜ!」
長浜が言う。
「いいじゃんいいじゃん、中学最後の夏だしね〜」
笹沢も続いた。
僕は笹沢も言うように、中学最後の思い出だ、と僕も同意を述べた。
「オッケー!じゃあ親が寝静まったら、そうだなぁ大体11時にここ集合な!」
それだけ告げると、左手を振りながら長浜は、家へ向かってかけ出した。
「じゃあ、俺は1回寝てから行くよ〜」
簡単な別れを告げ、気だるそうな雰囲気を醸し出しながら僕も帰路につく。
後ふたつ・・・後ひとつ・・・2度も角を曲がれば、もう姿は見えまい、
僕は、ワクワクとも、ドキドキとも取れない、初めての夜遊びに向けて高鳴る感情を抑える事をやめ、表情に出すことにした。
口角があがり、目が細まる。小学、中学と何百回と通ったこの道が違って見える。
歩調も早くなる。静かに家を出るシミュレート、約束の時間までの暇つぶし、
同じ思考をパターンを変えて繰り返す。
気づけば見慣れた我が家の前に居た。表札には誇らしげに 相田 と掘られている。
「ただいま」
誰も居ない我が家に声がこだまする。反響して自分の耳に入る声が、驚く程明るい。
我が家の両親は共働き、祖母は夕方まで出かけており、祖父は僕が生まれる前に他界した。
兄は少し離れた所の大学に通っており、週末意外は帰って来ない。
今日は水曜日だ。夜の7時頃までは誰も家には居ない。
机の上には、おやつ代と称して2日に1度、千円が置かれている。
(この千円、夜に使おう)
目的などはない。夜遊びに、2日分の千円を一度に使ってしまおう、そう思えただけで、この千円は、一万円でも、十万円でも買えない千円に変わった。
(僕も少し寝ておこう、どうせ親が帰ってくればご飯の時間に起こされるんだし。)
自室に戻る。今日はいつもと違いPCには手を掛けない。
時計を見る。まだ15時を20分程経過した所だ。
布団に入る。落ち着かない。なぜなら目を覚まし、食事を済ませ、親が寝たかどうかの駆け引きの先には、クラス委員も、バスケ部の部長も、生徒会長も見たことのない夜の町に消えるのだ。