少年がひたすら不審者のおっさんを煽っていく話
晶「あーあ、退屈だな……。なあ、なんか面白いものとか持ってない?」
祐一「いや、面白いものはないな。あるのは、このお菓子くらいか。お前も一つどう?」
晶「うわ、さんきゅ! おお、これ凄いうめぇ!」
祐一「え……美味いとか、お前の味覚おかしいだろ。これ、ゲロマズと噂のスナック菓子なんだけどな。――って……お?」
晶「おいこれ『新規開拓ポテチシリーズ・ドジっ子が料理に失敗しちゃった、てへ☆(炭)味』って書いてあんぞ、なんだこれ! でもクセになる味だ、炭の香りがたまらん! ……あれ、どうかしたか?」
祐一「――かなりヤバそうなおっさんが、今そこを歩いていったんだよ。どう見ても不審者だ。いや、それを美味く感じるお前もなかなかヤバいけど。あ、そのポテチは全部やるよ。……んでほら、そこの路地の先」
晶「気味が悪いな。ヤバそうって、どんな奴だったんだ? 教えてくれよ詳しく」
祐一「詳しくって……えっとそうだな、なんか刃物っぽいの持ってて、何故かセミヌードのおっさんだった。どう見ても変態。露出狂、って云うんだっけ?」
晶「警察呼ぼう! さっさと通報しないと……ってあれ、僕の携帯どこ?」
祐一「ここにあるよ。なあ、ちょっと俺たちで後追いかけてみようぜ? ほら最近良く聞くじゃん、ここら辺のヌシの噂」
晶「さあ、聞かないな。どんな噂なんだ? ヌシ?」
祐一「しょーもない噂だけどな。この辺り一帯を取り仕切ってるおっさんがいるんだってよ。もしかしたら今のおっさんのことかも。という訳で俺は、これから彼の後をつけてみようと思います」
晶「凄くどうでもいい。そしてポテチ上手いもぐもぐ。……ていうか思わず流しそうになった。僕の携帯返せ」
祐一「折角なんだし、ちょっとくらいいいじゃん。ヤバくなったら通報すればいいしさ。お前に携帯返したらすぐに通報しちゃうだろ? それじゃ面白くないし。……あ、ちょっと待てそんなに一気に食べたら! そのポテチ、隠し味に味噌……」
晶「そ、そういうことは早く云えよ! あああ、かっら、塩辛い! 水、水! ひーっ、さんきゅ! ……んぐんぐ、ぷはっ、何でスナック菓子の袋の底に味噌が塊になって入ってるんだ? 隠し味なのに隠しきれてねぇよ! これじゃあ『ドジっ子が料理に失敗しちゃった』じゃなくて『工場で注入する味噌の量の設定間違えちゃった』だろ。あー、酷い目に遭った」
祐一「『たくさん味噌入れちゃった、てへ☆』って設定なんじゃね? いやでも炭って書いてあるよなあ……。まさかそのドジっ子、料理は火を通した後に味付けするタイプの人だった、っていうオチ?」
晶「注釈つけないとな、『※料理初挑戦! チャームポイントは思い切りの良さ!』みたいな。……って祐一、後ろっ!」
祐一「冷たっ……て、え、ナイフ? そして背中から直に人肌の温もりがっ! うわ待って待って、これ絶対半裸のおっさんでしょ、やめて!」
不審者「手を上げろ、さもなくばコイツの喉を切るからな! ったく。こんなところで、訳の分からんくだらない漫才をしやがって……下手な真似はするなよ、ほら、ゆっくりと手を上げるんだ。そっとだぞ、そっと」
晶「と、とりあえず落ち着こう、おっさん。そんな軽々しく人殺しちゃいけないって、な?」
不審者「何でもいい、さっさと手を上げろ! コイツがどうなっても……ってあれいない? 一体どこにいった!」
祐一「逃げる隙ありありだっつの、おっさん! ……それよりおっさん、ナイフなんて物騒なモノ持ってちゃ駄目だよ。刺さったら死んじゃうからさ。うん、刺さされたら死ぬ、絶対死ぬ」
不審者「ぬう……確かに人を殺してしまうのは本意ではないが。いや待て、お前達さっきから俺のことを『おっさん』て呼んでるな? 老け顔なだけで、これでもまだ二十代半ばだよ! ……ちくしょうお前らやっぱ死ね!」
晶「ね、ねえ祐一。このおっさ……お兄さん、さっきから云ってる事めちゃくちゃじゃないか? ……って何してるの?」
祐一「残り香が……うあー、さっきおっさ……お兄さんに後ろから抱きすくめられた時の匂いがついてしまった。あれ、そういえばあのおっ、兄さんは?」
晶「羽交い締めにされておにーさんの匂いがついちゃったかー。あの人なら急に泣きながら走り去っていったよ。やったぜ、死亡フラグ回避!」
祐一「酷いこと云っちゃったかな? いやでも、『おっさん』とは云い切らなかったしセーフ?」
晶「普通に考えてアウトだよ。でもまあ、そうだなあ。殺されそうになったとはいえ、礼儀として謝罪の手紙でも書いてみるか? 『――親愛なる、さっき出会ったばかりの半裸のおっさんへ』」
祐一「『平気でおっさんとか云ってしまって申し訳ございませんでした。心からの謝罪と共に、まじで反省しています。だけど大の大人が号泣しながら逃走するとか、流石にそれはアホ』」
晶「『本当に申し訳なく――』って、ええっ!? そこで罵声浴びせるの? ――ん? そこに今……」
祐一「……また性懲りも無く現れるとはな、妖怪『おっさんセミヌード』! 略してセミ!」
不審者「見る影もねーよ、なんだその呼び名! ああもう、ちょっと脅してやろうと思っただけなのに、何やってんだ俺……くそ、頭が痛む」
祐一「無理すんなよセミ。いいから家帰って休め」
不審者「目を逸らさず真っ直ぐ顔見て堂々と『セミ』って呼ぶとか、鬼畜すぎるよ君。ああもう、本当に家帰って休も……」
祐一「もう帰るのかい、つれないなあ。おにーさん、もう少し俺たちと遊んでいかない? って、おや?」
不審者「やめて! もうホントにやめて、俺が悪かったから許してください! マジで君ら面倒くさいから。一体何なの? さよなら、バイバイ、シーユー!」
晶「祐一、流石に可哀想に思えてきたから止してあげよう。あの人、予想を遥かに上回るレベルの豆腐メンタルだったみたいだよ」
祐一「よし、鬼ごっこだな! いいねぇ、血が騒ぐぜ。うららー!」
晶「……楽じゃないな、一度火がついたあいつのテンションについていくのは。涙目で逃げ回る半裸のおっさんと、それを心底楽しそうに煽って追い回す祐一の図……ああ、僕もちょっと頭痛くなってきた。それにしても何であの人は半裸で出歩いているんだろう。――ってどこまで行った、あの二人」
不審者「理解に苦しむよ! 何故お前は、ナイフを向けられても物怖じせずにふざけた態度を取っていられるんだ! ていうかどうしてついて来る!」
祐一「類友って言葉知ってる? ほら、類は友を呼ぶって。そもそも、そっちこそふざけてるとしか思えない恰好してるのによく云うよ! ……とと、そうじゃなくて、一つ気になってることを訊きたいんだった。この辺の『ヌシ』って、いったい誰?」
不審者「礼儀知らずな子供に教えてやるつもりはないさ! だからもういいだろ、いい加減逃げるの疲れたから、勘弁して帰ってくれ! それを訊きたかっただけなら、もう追いかけるのをやめろ!」
祐一「ロクに答えて貰ってないんだけどなあ……まあいいや、ナイフ持ってるあたり何となく察せそうだし。じゃあなおっさ……セミ、楽しかったわ!」
不審者「わざわざセミに言い直すなっての! じゃあな、もう二度と会わないことを願うよ、祐一君」
祐一「ん〜……っ、はあ。ずいぶん愉快なおっさんだったな。さて、晶のところに戻るかあ」
仕掛け、分かりましたか? 答えは
・セリフの始まりが、「あいうえお……」と順になっていること
・セリフの終わりが次のセリフの最初の文字、つまりしりとりになっていること
の二つです。
無理矢理そのルールに合わせようとして、こじつけたようなセリフもあったり、話自体も不完全燃焼な感が否めませんが、今の自分ではこれが精一杯です。
最後に。茶番100%の話を読んでくださって、ありがとうございました!