教授と院生と野球大会 ~その3~
『プレイボール!!』
どんよりとした空の下、ついにシルプリと Pharmacology Dopings (以下PDと略します)の試合が始まりました。
先攻はシルプリ、PDの投手はあの内海君です。
薬学部教授が投げキッスを放ち、内海君を激励しております。まさに変態です。
『あれが内海君かよ...』
中学生の時同級生だった、坂本君が呟きました。
彼によると、当時の内海君は中性的な顔立ちで色白、とてもおとなしい男の子だったそうです。
ところが目の前の内海君は別人のようで、まったく面影がないと言っています。
マウンド上の内海君は金のピアスにネックレス、はだけた胸元からはたくましい胸毛が見えています。
男性ホルモンバリバリです!
内海君が振りかぶり、第1球を投げました。
『ストライク!』
は、早い!143Kmの内角へのストレート。胸元をえぐるようにズバッときました。
先頭打者の院生君は手も足も出ません。
ボールを投げた勢いで内海君の帽子が落ちました。帽子の下から現れたのは金髪のモヒカン。
さらに日焼けで真っ黒な顔。青い瞳。
すでに彼は国籍もどこだかわからない人になっておりました。
『ううむ。こりゃ打てんな...投手戦になるのう...』
あっさりと1回の表が終了しました。
3者連続三振。打てる要素が全くありません。
『教授...無理ですよ...あんなの打てるわけないじゃないですか...』
『うむ。院生君。確かにこのままじゃ打てん。
だがな、彼は9回には突如乱れるはずじゃ。きっと。
そこまでの我慢じゃ...』
Ma-COON も負けじと初回から飛ばしました。
女房役の She-Ma との息もぴったりで、ストレートで追い込んだ後はスプリット、高速スライダーで、バッタバッタと三振の山を築きます。
『ピッチャーとキャッチャー以外は誰もボールに触れませんね...教授...』
『ほんとじゃのう。両チームのピッチングを観賞しているだけで、野球というよりはただのキャッチボールじゃのう。』
お互いノーヒットのまま9回の攻防に入りました。
『よし!ここからじゃ!!
よく見てみい。内海君、だいぶへばっておるじゃろ。』
『本当ですね!バテバテですね!』
『そろそろ薬の効果が切れてくる頃なんじゃ。』
息が上がってグダグダになってきた内海君。
9回の表、2アウトまで来たところで突如コントロールが乱れ始めました。
『フォアボール!』
なんと3者連続フォアボールです。2アウト満塁です!!
『内海君!!何やってるのよ!交代よ!キーッ!!
増村くん!あなたの出番よ!!』
薬学部教授のヒステリックな声が響き、投手交代となりました。
肩をガックリと落とし、ベンチに引き揚げる内海君。
彼が去ったマウンドに、これまた大男が仁王立ちしました。
増村君です!
『教授!増村君です!』
『彼はどんな投手なんじゃい?』
『増村 助人 (ますむら すけと)くん。
「増村」という苗字を「マシソン」と読み、さらに名前を英語風に変えて「スケット・マシソン」とみんなに呼ばれていたそうです。』
『ほう。
スケット・マシソンか。どこかで聞いたことのあるような名前じゃの。
で、ピッチャーとしてはいかがなものなのかな?』
『身長191cm、体重104Kgの巨体から繰り出すストレートは150Kmを軽く超えます。
ただちょっと怒りっぽいです。』
『ううむ。こちらも代打で行こうかの。』
『教授!屯島君はどうでしょうか?』
『とんじまくん?今ベンチで弁当をがっついているあいつか?』
自分の名前を呼ばれ、弁当箱から顔をあげた屯島君。
あーあ...顔中ご飯だらけです。
彼の横には空になった弁当箱が山になっております。
『はい!あいつです!あの豚野郎です!』
『あの豚野郎はどんな豚野郎なのかね?』
自分が話の主役になっているとわかって、屯島君は浮かれております。
無邪気に笑ってこちらを見ているのが、とても腹立たしいです。
あっピースをしました。ほんとムカつきます。
『あいつはカレーの大盛り2kgを25分で制覇しました!』
『おお!それはすごい!!...で、野球は?』
『ラーメンなら5人前くらい楽勝です!!』
『ほう!それは頼もしい!!...って、だから野球は?』
『腹部が極度に肥大しておりまして、ストライクゾーンが甚だしく狭いです!
不思議なことに血圧、血糖値など正常です!』
『なるほど!ただの豚野郎ではないんじゃな!よし、彼に任せよう!!』
『はい!デッドボールにかけてはナンバーワンです!』
代打で屯島君がバッターボックスに立ちました。
なるほど、腹部が出っ張っていて、ストライクゾーンが見えません。
緊張した顔の屯島君。なんだか不思議なくらい腹が立つ顔をしております。
そんな屯島君の顔にイライラしたマシソンが、思い切りボールを投じました。
どうやら怒っているみたいです。
『ブヒン!!』
140kmの白球が、豚野郎の胴をえぐりました。
スローモーションのようにもんどりうった屯島君は、見苦しい顔をさらに醜くして倒れこみました。。
四つん這いになってゲーゲー嘔吐しております。
なんだかちょっと良い気味です。
『やった!やった!でかした屯島君!!』
『やりましたね!教授!!!』
とうとうシルプリが念願の1点をもぎ取りました!!
瀕死の屯島君を尻目にシルプリベンチは大騒ぎです!
『よし。Ma-COON がおれば、この試合は大丈夫じゃ!』
『あそこでブヒブヒ言って苦しんでる奴はどうします?教授。』
『弁当でも与えておきなさい。今回のヒーローなのだから。』
屯島君は、弁当の山積みされたタンカに乗せられ、そのまま退場していきました。
球場を去る彼の顔は、大好きな焼肉弁当に囲まれて、とても幸せそうだったそうです。
さぁこれでは収まらない PD の面々。
マシソンは次のバッターを三振に抑え、長かった9回の表の攻撃が終わりました。
9回の裏を残し1対0でシルプリがリードしております。
『うふふふ...これで勝ったと思ってはいけませんわ...
まだ私たちの攻撃があるんですわよ...』
薬学部教授がぼそりと呟きました。
まだ余裕の表情を浮かべております。
さぁこの試合、どのような結末が訪れるのでしょうか?
続く




