教授と院生と野球大会 ~その2~
柔らかな日差しが降り注ぐ、春の荒川の河川敷グラウンド。
ぽかぽかして穏やかな気候の下、これから大学研究室対抗野球大会が始まろうとしております。
教授率いる理工学部チーム「じゃこ天 シルバープリングルス」は、薬学部教室チーム 「Pharmacology Dopings」 との試合を1時間後に控え、選手全員緊張の面持ちです。
シルバープリングルス(以後シルプリと略します)は3塁側ベンチに道具を置くと、選手各々準備運動を始めました。
まだ薬学部は到着しておりません。
『教授!我がチームは誰が先発ですか?』
『院生君!よくぞ聞いてくれた。
あちらがドーピングでくるなら、こちらも考えがあってな...
諸君!あれを見よ!!』
教授の指さす方向を見た選手たちは、一瞬目を疑い、間を置いて一斉に歓喜の声をあげました。
彼らの視線の向うには、信じられない光景が広がっていたのでした。
誰かがブルペンでボールを投げております。
彼の鞭のようにしなる右腕から投じられた白球は、糸を引くように低い弾道でキャッチャーミットに吸い込まれていきました。
パシン!!
キャッチャーミットにその白球がおさまった瞬間、乾いた音が球場に響きました。
あのフォーム、あの体格、あの笑顔!
そうあの人です!!あの人に違いありません!!
あのスーパースターが投球練習をしております。
BGM はもちろん「ももクロ」です!!
『まーくん!?教授!あれはまーくんじゃないですか!
今の球、早くて見えませんでした!』
『ふふふ。
あれは「まーくん型ロボット、Ma-COON (マ・クーン)」じゃ!
昨日大急ぎで作製したんじゃよ。
6種類の変化球を投げることができるんじゃ。
そして圧巻は高速スライダーとスプリット、ツーシームじゃ!
今投げたストレートは150kmを軽く超すんじゃよ!
大学生レベルのキャッチャーじゃ捕球はおろか、触ることさえできないぞ!』
『えっ?・・・
...ダメじゃないですか...捕れなきゃ...
いくらマ・クーンがすごくても...
後ろにバックネットがないから振り逃げのオンパレードですよ...』
『そんなこともあろうとな。
安心せい!
Ma-COON の放っている球を捕球しているのは誰じゃと思う!?』
Ma-COON の剛速球を軽々とキャッチしている影があります。
よく見ると、この方もあのスーパースターじゃありませんか!
『えっ!? 嶋選手!?』
『さよう。嶋形ロボット、She-Ma (シーマ)じゃよ!』
『す、すごい...これなら勝てるかも...』
『よし!勝てるぞ!勝てるんだ!!』
大喜びのシルプリの選手たち。教授も感激し、号泣しております。
彼らは勝利の雄たけびを上げ、鬼の首を取ったように騒いでおります。
しかしその時でした。
その雰囲気をぶち壊すかのように、低い声が彼らの後ろから響いてきました。
『お待たせしましたわね!!理工学部の み・な・さ・ん!!』
球場がシーンと静まり返りました。
そう、薬学部がついにやってきたのでありました。
『理工学部のみなさん。今日は正々堂々と戦いましょうね。
ね、理工学部の教授とその仲間たちさん!
そんな怖い顔しちゃ、い・や・よ!うふ!』
『来おったな。薬学部教授...』
薬学部教授。 性別 男
まだ若くして教授にまで成り上がった、いわば天才肌の人物。
そのがっちりした身体と日焼けした褐色の肌。
とびっきりの笑顔からこぼれる真っ白な歯。
ぴちぴちのTシャツの上からわかる割れた腹筋。そして分厚い胸板。
サーフィンを趣味とし、乗っている車はレクサス LS F SPORT。
女性に大人気なのに、男にしか興味がないという薬学部教授。
やがて薬学部教授の周りに、大男たちが集まってきました。
彼らは金のネックレスを首から垂らし、チューインガムを噛みながらニヤニヤしています。
さらに少し遅れて金髪美女の集団もやってきました。
『あれが大学生かよ...メジャーリーガーにしか見えないよ...』
震えあがる理工学部。全員今にも泣き出しそうです。
さっきまで穏やかだった天候が、急に暗くなってまいりました。
稲妻が大きく天を裂き、雷鳴が低く轟きわたり、グラウンドが不気味に揺れています。
どうやら一筋縄では行かなそうなこの試合...
プレイボールの時間が、刻一刻と迫ってまいりました...
続く




