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教授と院生とガチャピンとムック

『教授、教授!』


『どうしたんだい? 院生君。そんなに慌てて。』


『ガチャピンとムックってご存知ですか?』


『もちろん知っているよ。

 出っ歯のトカゲとモップの妖怪じゃ。

 前者は将来的に歯科矯正が必要じゃね。

 後者は抜け毛の時期は、布団がえらいことになるじゃろうな、きっと。』


『あれは恐竜および雪男の子供ですよ。』


『ほう、それは知らんかった。』


『それにしても、ガチャピンの身体能力には、いつも驚かされますよね。』


『そうじゃのう。

 彼はスカイダイビングやらスキューバ、さらには空手まで難なくこなしてしまう。

 中に入っている人物はすごいのう!』 


『教授!なんて夢のないことを...

 あれはガチャピンと言う生物で、中には誰も入っていないんですってば!』



ものすごい形相で、教授に食ってかかる院生君。

これにはさすがの教授もびっくりです。



『すまんすまん。院生君。君がそんなにガチャピン、ムックに入れ込んでたなんて。』


『教授。僕の方こそ取り乱してすみませんでした。

 生まれた頃からテレビでは、あのお二方にはお世話になっていますもので...』



落ち着きを取り戻した院生君。

目の前にあるマグカップに手を伸ばし、すでに冷めてしまったコーヒーを、グッと飲み干しました。


『よし!お詫びじゃ!君に新しい友人を作ってあげよう!

 院生君は寂しかったんじゃな!わかる、わかるぞ!

 ガチャピン、ムックに次ぐ最強の癒し系キャラクターを作ってやろう!』



教授は軽やかに立ち上がると、院生君にウィンクをして颯爽と実験室に消えていきました。



『教授!教授ったら!!寂しくなんてないですよ!

 それにカッコつけたみたいですが、ウィンクできてませんからね!

 片目が上手くつぶれないから、両目をシバシバさせているじゃありませんか...

 あれじゃお線香の煙で目がショボショボしている、お墓参りのじいさんですよ...』



取り残された院生君は、仕方なく机にある資料を読み始めました。

教授が姿を消してから数時間後、実験室のドアが勢いよく開きました。



『院生君!待たせたね!』



またウィンクしているのでしょうか?

目をショボショボさせながら、教授が実験室より出てきました。


『どうだ!見たまえ!!』



教授が誇らしげに実験室内を指さしました。



『うわー!!こ、これは!!

 ........って...

 ...何をですか?』


『何をって、あれが見えんのか?』


『ええ僕の見えるのは何だか形が不安定な、黄色のカビのようなものしか見えませんが。

 どこにも癒しのキャラなんか存在しませんが...』



教授と院生君の目の前には、黄色の不定形な塊がぷるぷる震えています。よく見てみると、ゆっくりですが動いております。


『いや、それが新キャラクター「ネバオ」じゃよ!』


『えっ!?これが新キャラですか?』


『さよう。

 ガチャピンが爬虫類、ムックが哺乳類なら新キャラは粘菌類しかないじゃろう。』


『ね、粘菌類!?』


『そうじゃ。今では変形菌と呼ぶらしいが、生物学者である南方熊楠みなかた くまぐす先生がかつて発表した、とても身近な生物じゃ。

 あの有名な科学誌、ネイチャーにも掲載されたんじゃよ。』


『....で、僕にどのようにこの生物に対応しろと?』



あまりにも唐突なキャラの出現に、院生君はとても戸惑っております。

そうこうしているうちに、新キャラクター「ネバオ」はゆっくり院生君に近づいてくるではありませんか!



『教授!教授!!近寄ってきますよ!怖いですよ!!』


『大丈夫じゃ。人懐っこくてかわいいじゃろう!

 ちとカビ臭いが、仲良くしてやっておくれ。

 頭も良いんじゃよ。』


『うわーー!!いやですよ!いやですったら!!』



泣きながら逃げようとする院生君。教授はそんな院生君の首根っこを掴んで離しません。

どんどん近づいてくる「ネバオ」の恐怖に、院生君はとうとう気絶してしまいました。



『おや、あまりにもうれしくて院生君は寝てしまったか。

 そうそうこのキャラクターのプロフィールじゃが、ガチャピンとムックに合わせておこうかの。

 何々...

 ガチャピンは南の島で4月2日に生まれて特技はスポーツ。

 ムックは北極の近くの島で4月2日に生まれて、特技はなんでも食べることか。

 それなら「ネバオ」は国営武蔵丘陵森林公園生まれ、4月2日が誕生日と設定しようかのう。

 ガチャピンとムックと同級生じゃ。つまり同い年。

 特技は大酒を飲むことにでもしようか。のう、院生君?

 おや、院生君はまだ寝ておるのか、じゃ起こさないでこのまま眠らせておこう。

 ネバオ、あとは頼んだぞ。

 さてフジテレビにでも電話しようか。新キャラを使ってくれと...』



気絶している院生君をそっとして、教授は笑いながら実験室を後にしました。


数時間後、実験室から院生君の悲鳴が聞こえてきました。

ガチャピンとムックのプロフィールを研究していた教授は、ハッと立ち上がりました。



『すまん!院生君!私としたことが...今行くぞ!!』



実験室のドアを開けた教授。

ドアの向こうには真っ青な顔をしている院生君がいました。

そして院生君の体中に、黄色のネバオがまとわりついております。



『許してくれ!院生君!!』


『教授...教授ー!!助けてくださいよ...

 とてもカビ臭くて気持ち悪いです。』


『本当に悪かった。院生君...』


『もう...ひどいですよ。』


『よく調べたら、ネバオのプロフィールは訂正せねばならん。』


『はっ?』


『ガチャピンとムックは5歳なんじゃよ。

 同い年のネバオが大酒飲みでは、子供の番組に支障が出るじゃろう。』


『えっ?そっち?そんなことでここに来たのですか??

 助けに来たのではないの?』


『うむ。そうじゃ。本当にすまんかった。ネバオの特技は「子供が大好き」にしよう!!

 子供をあやすのは大得意なんじゃ!』


『無理です!こんなのにあやされたら子供は大泣きします!

 ていうか、この風貌で子供に取りついたら「子供が大好き」と言うより「子供の血や肉が大好物」と間違えられますよ!

 それにこれを放映したら、視聴者から苦情が殺到ですよ!』


『そうかのう...』


『どうでも良いから助けてくださいよ!!』




【ガチャピン、ムック】

 誰でも知っている、フジテレビの人気者。

 ガチャピンは南の島で産まれた恐竜の子供。特技はスポーツ全般。年齢5歳。爬虫類。

 並外れた身体能力で、あの体でどんなスポーツも難なくこなしてしまう。

 人間など入ってはいないと思うのだが、もしかするとあの緑色のスーツの中に達人が存在するのではないか、などと勘ぐってしまうのは私だけではないだろう。


 相方のムックは北極の近くの島で産まれた雪男の子供。特技はなんでも食べること。年齢5歳。哺乳類。

癒しキャラに徹しているが、雪男だけに、怒らすと本当はものすごく怖い生物である。


【ネバオ】

 教授が国営武蔵丘陵森林公園で採取してきた変形菌。

 ガチャピンとムックの後釜として、フジテレビに送り込む予定。

 当初特技は「大酒を飲むこと」だったが、ガチャピンとムックが5歳で、ネバオも同級生という設定上、世間体が悪いので「子供が大好き」と変更した。

 ところがその風貌から、いかにも「子供の新鮮な生き血と、やわらかな生肉が大好物」に思われ、そのキャッチフレーズは逆効果なのではと酷評されている。

 だが実際はとても心優しい生物で、森林の中にひっそりと暮らしているユーモアたっぷりの癒し系存在だ。

 今後いつか、「ネバオ」の時代が来ることは、ほぼ間違いないだろう。

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