教授と院生と10分どん兵衛 ~その4~
『さーて。屯島君!!食べるんじゃ!
元気を出して!!』
『そうだよ!屯島君!!食べてよ!
勇気を出して!!』
『そうよ!屯島君!!食べなさい!
病気になって!』
『うう...みんな勝手なことを...
それならみんなが食べればいいじゃないか!!
食べてよ!みんなが食べてったら!!』
号泣する屯島君。
そして縛られた豚を眺める3人の悪魔...
『ふ...とうとう切れよったか...豚が...』
『諦めなよ。屯島君。』
『そうよ!往生際が悪いわよ!!』
『だって!腐ってるでしょ!!
常識的に考えてよ!!』
『ふ。腐ってるじゃと?』
教授が鼻で笑いました。
『馬鹿め。このどん兵衛調理システムを甘く見るなよ。
完全無菌じゃ!!
無菌操作で10年間調理しておる!腐敗はせん。
だから安心せい!安心して食ってくれ!!』
『よかったね!!
屯島君!!腐ってないって!!』
『よかったわね!!
屯島君!!
自分が腐らないで、た・べ・て♡ うふ♡』
『ではフタを開けるぞ。』
教授はゆっくりとフタに手を伸ばしました。
3人はワクワクしながらどん兵衛を覗き込みます。
屯島君は目を固くつぶっております。
『それ!』
教授がフタをパッと開けました。
『なんじゃこりゃ?』
『うわー!!』
『キャー!!』
『えっ!?なに!?いやだよ!!』
身の危険を感じた屯島君は、思わず目を開けました。
4人の視線ががどんぶりの中に注がれます。
その中にあったものは....
『なんじゃこの粉は?』
『時間がたちすぎて粉末になってしまったんですね。』
『まあ良いわ。食べるのは私じゃないし!』
『とにかく屯島君。食べなさい。無菌だから安心して食べるんじゃ。』
『そうだよ!もったいないよ!!』
『そうよ!この甲斐性なし!!』
『...はいはい...
何言っても聞いてくれないもんね...
無菌だからとかは問題じゃないのにね...』
屯島君はとうとう観念し、口を小さく開けました。
教授がスプーンで粉をすくいました。
スプーンを持つ手が、心なしか震えています。
粉末の乗ったスプーンが、屯島君にゆっくり近づいていきます。
そしてその粉は屯島君の口に吸い込まれて行きました。
『うわ...本当に食べおった...うまいか?』
『うえ...ホントに食べちゃった...おいしい?』
『きゃ...ホントに食べたのね...どうお味は?』
しばらく沈黙が続きました。
そして屯島君はゆっくりと、そしてはっきりと答えました。
『意外と美味しい...
悔しいけれど...』
【今回のお話に出てきた美味しい食べ物】
① どん兵衛
日清食品グループが製造・販売している言わずと知れた、和風即席めん。
正式名称は「日清のどん兵衛」
東日本ではカツオ風味の濃いお出汁、西日本では昆布風味の薄めのお出汁。
北海道では、地元利尻産の昆布を使っている。
② 10分どん兵衛
芸人さんのマキタスポーツさんが広めた、新しい食べ方。
通常5分で出来上がりだが、そこをあえて10分待つとあら不思議!!
もっちりとした麺にツユがしみこみ、さらにお揚げのジューシーさが際立つ。
お揚げの甘さも染み出してとても美味しい。
③ 10年どん兵衛
実験で作ってみた得体のしれないモノ。
家庭で作るとだいたい腐ってしまうが、完全滅菌状態なら粉末状になるらしい。
ちなみにカツオの風味とお揚げの甘さの混ざった粉末になるので、ごはんにかけると美味である。
作るのに挑戦するのは構わないが、腐敗すると悪臭がする。
おそらく5日も放っておけば、お家の方が捨ててしまうはずだ。
そんな時は潔くあきらめるのが肝心だ。