教授と院生とあんぱんまん ~その4~
5分間のトイレ休憩が終わり、第二部の始まりです。
姪っ子ちゃんはすっかりザンパンマンというヒーローが大好きになっていました。
お母さんの膝の上にちょこんと座り、カーテンが開くのをまだかまだかと待っております。
その可愛らしい右手には、アンパンマンのぬいぐるみがしっかりと抱かれています。
お家から持ってきたのでしょう。
『ザンパンマン!ザンパーンマーン!!
早く出てきてよ!!』
『...うう...ザンパンマンじゃないんだよ...
...ザンパンマンじゃぁ...』
デブのか細い声が、カーテンの向こうから聞こえてきます。
『ばーびぶーべぼー!!!』
独特の声が教室内に響き、カーテンがゆっくり開きました。
暗幕の後ろには、頭に角のようなものを2本携えた、馬鹿な見苦しい生物が立っています。
真っ黒のつなぎを着用し、背中には羽が生えています。
なんだか酒臭いです。
『俺様はバイキンおとこ!!
*(以降「バイキンおとこ」は「バイキン男」と表示いたします)
ザンパンマンを倒しに来たんだ!!
ばーびぶーべぼー!!!!』
台本ではザ・アンパンマンだったデブは、ザンパンマンに改名されているのでした。
『ザンパンマン、覚悟しろ!!』
馬鹿は大見得を切りましたが、案の定会場内は反応が少ないです。
それどころか、なんだかざわついています。
しかし姪っ子ちゃんだけは真剣です。
『ママ!!バイキン男だって!!
ザンパンマンやっつけるんだって!!』
『そうみたいね。姪っ子ちゃん。
いい大人が頑張ってるみたいだから、応援してあげようね...
かわいそうだから...
でも本当にバイキン男って感じね...酒臭いし...
それにしても、残飯だのバイキンだのって...』
どうやらその声が馬鹿にも届いたようで、バイキン男扮する院生君の目にも涙が浮かんでいるようです。
『...うう...
同情されてるなんて......
それにバイキン男って感じなんだ...僕は...
...でも頑張ろう!!
気を取り直して始めるよ!!』
バイキン男は流れ落ちる涙も拭かず、寸劇を再開しました。
『ザンパンマンをやっつけるぞ!!
悪の女王様!!出てきてよ!!!』
『私をお呼びかい!?
バイキン男!!!』
『悪の女王様!!!』
『ザンパンマンをやっつけるんだね?
このバイキン男!!!』
『そうです!!』
『わかったわよ!このバイキン男!!』
『...なんかバイキン男、バイキン男って連呼されると腹が立つなぁ...
それにその言い方、ちょっと悪意があるんじゃないかなぁ...』
『そうかい!?このバイキン男ったらバイキン男!!!』
『やっぱりむかつく...まあいいや...とにかく何かしてよ...悪の女王様...
どうでもいいけど、なんなのかな。その格好...
学食のおばちゃんでしょ?』
『よく気が付いたわね!
見るがいい!!』
悪の女王様の衣装は、なぜか黒のミニスカートのドレスで、顔に黒い蝶の仮面を被っています。
あたかも仮面舞踏会のようです。
スタイルが良ければまだ良いのですが、完全なおばちゃん体形で、ずん胴でムチムチしております。
しかし本人は全く気にしていません。
『おほほほ!
どう!?バイキン男!!』
ひらりと体を翻す学食のおばちゃん。
ミニスカートから短パンがちらりと見えてしまいました。
『おえーーー...』
『おほほほほ!!
この短パンは見せパンよ!!
楽しいわね~!』
こちらは全く楽しくありません。
60過ぎの加齢ババアの短パンを、誰が好んで見るのでしょうか。
しかしノリノリの加齢ババアは、さらに歌って踊り始めるのでした。
『ジリジリと焼け付くその瞳 ♪
誘うように髪をかき上げるわ... ♪』
『あ~あ...
ランバダ始めちゃったよ...
ピースなんかしてる...むかつくなぁ...』
ババアはランバダを踊りながらピースをし、ダンダンダンと床を踏み鳴らしております。
調子に乗っているババア。
大人の反応とはまったく違い、姪っ子ちゃんはステージに向かって声援を送ります。
『ザンパンマンをやっつけないで!!
がんばれ~!!
ザンパンマン!!』
そして黒いカーテンがまた閉じていきました。
第二部が終わったようです。




