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教授と院生とサザエさん

『教授、教授!』


『どうしたんだい? 院生君。そんなに慌てて。』


『実は僕の後輩の女の子で、この教室に興味がある方がいるんです。』


『ほお。どんな子だい?』



院生君は照れながら答えました。



『実は幼馴染なんです。

 世田谷区在住で、名前は「浜 タイ子」さん。

 ちょっとあわてん坊で、小学生の時のあだ名が「サザエさん」でした。』



そんな院生君を見て教授はいたずらっぽく笑い、こう言いました。



『ふふ。君の初恋の相手かな?若いのう。青春じゃのう!

 浜 タイ子君か...

 苗字が浜で、名前がタイ子、そしてあだ名がサザエさんか...

 ずいぶん複雑だがね...』


『ええ。さらに彼女にはお兄さんがおりまして、名前は「ますおさん」です。』


『これは興味深い!

 ぜひ会ってみたいのう!さっそく面接じゃ!』


『えっ?よろしいのですか?』


『もちろんじゃ。それでは明日の午後、面接をしようではないか!

 質問を考えておこうかのう。

 院生君は横で助手をしてくれたまえ。』


『承知いたしました。』



面接の当日。

空はちょっと曇っていますが、気持ちの良い気候です。

リクルートスーツを着た可愛らしい少女が、緊張した面持ちで理工学部教室のドアをノックしました。


『どうぞお入りください。』と院生君。


『失礼します。』



震える手で引き戸をあけたタイ子さん。中に院生君が座っていたのでとても安心した様子です。

院生君の横には教授が厳めしそうに佇んでおります。


『タイ子ちゃん。頑張って!』 

 にっこり笑った院生君が、タイ子さんに向かって声をかけました。



『この椅子に座ってくれたまえ。』


『はい。今日はよろしくお願いいたします!』


『元気があってよろしい!

 それでは面接を始めようかね。わしの質問に口頭で答えてくれたまえ。

 その後実技も行う。』


『よろしくお願いいたします!』



ちょっと心配そうな院生君。そして面接が始まりました!



『さて、まずは自己紹介してもらおうかのう。』



タイ子さんは汗ばんだ両こぶしをグッとにぎり、立ち上がって話し始めました。



『浜タイ子3年生。物理学とロボットに興味があり、この教室に入りたいと思いました。

 この教室にいらっしゃる院生さんとは幼馴染で、良く教授のお話しも聞かせていただいております。どうぞよろしくお願いいたします!!!』



やり遂げた感のあるタイ子さん。大きくお辞儀をして椅子に腰かけました。



『うむ。よろしい。それでは質問を始める。用意は良いかね?』



教授の分厚い眼鏡の奥で、細い目が妖しくきらりと光りました。

ごくりと唾を飲む院生君とタイ子さん。



『タイ子君は買い物に出かけたとき、財布を忘れたことはあるかね?』


『え?お財布ですか?...ええ...あります...』


『さようか。ではその時は愉快だったかね?』


『愉快!?...いえ少なくとも愉快ではなく、どちらかというと不愉快だったと思います。』


『ちっ...』舌打ちをする教授。教室の雰囲気が急に暗くなりました


『...さらに質問じゃ。財布を忘れたそのとき、子犬にまで笑われたら君はどうする?』


『こ、子犬に!?...ですか?』


『そうじゃ。子犬じゃ。それもとてもかわいらしい柴犬じゃ!さあ、どうするんじゃ?君は。』


『見て見ぬふりをすると思います...』


『そうか...まあ良い...

 質問はここまで。これから実技を行う。少し休みなさい...』



教授はそう言い残すと、ドアを開けて教室から出て行ってしまいました。

とても厳しい質問の数々に汗びっしょりのタイ子さん。あまり手応えがなかったのでしょう、今にも泣きだしそうです。

院生君と2人の間に重い空気が漂っております。

しばらくすると、教授が再び教室に入ってきました。

タイ子さんは背筋を伸ばし、教授が椅子に座るのを待ちました。



『それでは実技じゃ。

 あそこに小さな窓がある。あそこをよく見ておくのじゃ。』


『あの小窓...ですね?』


『そうじゃ。あそこから何か出てくる。それをうまく対処しなさい。

 カウントダウンするぞ。 5、4、3...』


張りつめた空気が教室を支配しております。

タイ子さんは瞬きもせず、小窓をじっと眺めております。


『...2、1、0!今じゃ!!』



小窓が開くと、そこから黒い物体が勢いよく飛び出してきました。

猫です。どら猫です!いや、どら猫の形をしたロボットです!

全長30cmくらいの、お魚をくわえた、どら猫型ロボットであります!!!

早い早い!憎たらしい顔をしながら走っております。



『どうじゃ!わしの傑作、どら猫型ロボットじゃ!

 Do-RA-P with OSAKANA ドラピー ウィズ オサカナ じゃよ!

 ドラピーと呼んでくれい!!

 さぁ!タイ子君!どうするんじゃ!?君は!あのドラピーに!!』



その時奇跡が起こりました。

なんとタイ子さんはヒールをさっと脱ぐと、履いていた靴下を高く高く放り投げ、裸足でドラピーを目がけて駆けていくではありませんか!!それも陽気に!!


『ご、合格じゃ..合格じゃよ!タイ子君!合格じゃよ!!』


教授の声が教室中に響きました。



【タイ子さんの面接結果】

 65点 (6割以上で合格)

 結果   ややサザエさん


面接時の問題と模範解答

問1.あなたはお財布を忘れたことがありますか?

問2.あなたはその時愉快でしたか?

問3.あなたは子犬にまで笑われたらどうしますか?


 正解1.忘れたことがある  配点20点

 正解2.愉快だった     配点20点

 正解3.一緒に笑う     配点15点


実技は45点満点。上記の口頭試問と足して100点満点。60点以上で合格とする。

毎年同じような問題が出される傾向があるので、対策としてはいかに実技で点をこぼさないかが合格のカギとなるであろう。

タイ子さんの場合、試問で致命的な減点をされてはいたが、実技で神がかり的なパフォーマンスをして合格を勝ち取った。


【教授からタイ子さんへ】

 お財布を忘れたときは愉快になったほうが良いでしょう。子犬に笑われても無視はしてはいけませんよ。笑顔で返してあげてください。みんなが見ていますからね。

それにしても裸足で駆けていく様は、とても素晴らしかったです。


【登場した発明品】

 Do-RA-P with OSAKANA  ドラピー ウィズ オサカナ


 教授が考案した最新の「どら猫型ロボット」。通称「ドラピー」

 憎たらしい顔をしていてお口でお魚をくわえている。

 お魚は「サンマ」「アジ」「イワシ」「ニジマス」そして「錦鯉」バージョンまであり、お子様からお年寄りまで幅広く網羅できる。

 最高時速20km。最高ジャンプ到達点2m。

 毛づくろい機能搭載。重量2kg。綺麗好き。

 燃料は軽油を使用し、近づくとやや油臭い。

 ドラピーを追いかける場合、裸足で駆けていかないと、いつまでたっても捕まえることはできないので注意が必要だ。

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