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教授と院生とお料理

『教授!教授~!』


『どうしたんだい?院生君。そんなに慌てて。』


『美樹ちゃんがテレビの取材を受けたそうなんです!

 さすがみきちんですよね!!』



得意気に話す院生君。

あたかも自分の彼女のように...

前回も前々回も振られたくせに、偉そうですね。



『ほう!どんなテレビかいな!?』


『噂の東京マガジンの「やってTry」という企画だそうです!』


『すごいじゃないか!

 昼間に放映しているあの番組かい。

 素人の女の子に料理をさせる企画じゃね!』


『それが本日放送されるそうなんです!

 観てみませんか!!』


『そうじゃのう!

 ちょうど始まる時間じゃ。』



2人は研究をそそくさと中断し、教室に置いてあるテレビの前に飛んで行きました。


ここで説明です。

ご存知の方もいらっしゃると思いますが、「噂の東京マガジン」の「やってTry」とは、お昼に放送されている番組です。

街にいる素人の女の子に声をかけ、その日のお題の料理を作ってもらうという企画です。

突然の事なのでなかなか上手に作れる女の子もいないのですが、リアクションがかわいいので個人的に大好きな企画です。


ちなみにこのお話では茨城弁が出てきますが、私は埼玉生まれなので茨城弁の使い方は分かりません。

間違っていてもご了承くださいね...



『おっ!!美樹くんが出てきたぞ!』


『ホントだ!!

 今日のお題は「肉じゃが」ですね!!

 みきちん、ちゃんとできるかな?

 心配だな...』



放送が始まりました。

テレビの向こうに映る、黄色のワンピースを着た美樹ちゃん。

そのはにかんだような笑顔は、院生君のハートをさらに燃え上がらせます。



『ねえキミ。どこから来たの?』



ナレーターの声がスピーカーから聞こえてきました。



『私ですかぁ!?

 えっこれテレビですかぁ?

 恥ずかしい!!

 生まれも育ちも三軒茶屋です!!

 大都会で産まれちゃいました!!てへ!』


(えっ!?みきちんの嘘つき...

 生まれも育ちも茨城のくせに...)


『そんな都会育ちのお嬢様に、肉じゃがはできるでしょうかね?』



あおるナレーション。



『私こう見えても料理得意なんですよ!!

 見ててください!!』



美樹ちゃんは元気に答え、置いてある食材を物色に行きました。

まず人参を手に取り、皮をむき始めました。



『おーおー。なかなか上手じゃないか。美樹くんは。なあ院生君!』


『そうですね!これなら良いお嫁さんになれますね!!てへ!』



手慣れた手つきの美樹ちゃんを見て、教授と院生君は一安心しました。

ホッとした2人。テレビにかじりついていると、ナレーターの声が聞こえてきました。



『なかなか上手だね。』


『んだ。これくらいで、いがっぺな!』


『いがっぺな!?

 もしかしてあなた茨城の人?』


『ええ!?

 何言うんですかぁ!?違いますよ!!

 私は生まれも育ちも二子玉川ですってば!!』


『あれれ。三茶じゃなかったっけ?』


『どっちも同じなんです!!私の中ではね!

 あっ!お湯が沸いた!良いやんばいになったべよ!!』


『...やっぱり茨城?』


『なにさ言うか?

 私は生まれも育ちも経堂だって言ってるべ!!』


『...はいはい。とりあえず料理作ってね...』


『任せてくださいって!!

 生まれ故郷でさ、おっかがいつも作ってくれた料理だっぺ!』


『.....』



美樹ちゃんは煮え始めた人参を確認し、自信満々に再び食材を取りに行きました。

持ってきた食材を見た教授と院生君は驚きの声をあげました。



『えっ!?みきちん!!

 キミが作っているのは肉じゃがだよ!!肉じゃがだってば!!

 それは違うよ!!』


『ホントじゃ!

 それは違うぞ美樹くん!!』



彼女の持ってきた食材は....


体重20kg超の「アンコウ」でした。

美樹ちゃんは手慣れた感じでアンコウをフックに吊るすと、ヒシャクを使ってそのアンコウの口の中に水を入れ、手際よくさばき始めたのです!


数分後、とても美味しそうな「アンコウ鍋」が画面に映し出されました。

美樹ちゃんは肉じゃがを作っていたつもりなのですが、いつの間にか「アンコウ鍋」を料理していたのです。

再びナレーターの声が聞こえてきました。



『...美味しそうな「アンコウ鍋」だね...

 肉じゃがではないけどね...』


『んだっけが!?

 でもアンコウ鍋、おっかがいつも作ってくれるだもの。

 おらの実家ではこれがなきゃ始まんね!

 これくらいだったらおらだって上手にできるべよ!』


『お嬢さん...あなた...本当に東京の人?』


『まーだ言うか!

 生まれも育ちも三宿だって言ってるべ!!

 もうけーる!!さいなら!!』




次の朝、美樹ちゃんは何事もなかったように理工学部教室にやってきました。



『...美樹ちゃん。おはよう...』


『あら!院生さん!!おはようございます!!』


『...テレビ観たよ...』


『あっ!観てくれたんですかぁ!!うれしい!!

 実家がある世田谷のお母様も観てくれて、すごい喜んでくれました!!

「さすが我が娘だっぺ!!

 東京弁もさまになってたでよ!!いがったいがった!!」って!うふ!!

 院生さん!!ありがとうございます!!』


『世田谷ね...

 みきちん...僕、みきちんの故郷知ってるから、もう嘘はつかなくて大丈夫だよ...

 どうでも良いけど...』


『どうしたんですかぁ!?

 元気ないですよ!!』


『みきちん...確か出身は古河市じゃなかったけ?』


『えっ!?何ですかぁ!?』


『みきちん、古河市じゃなかったけ?』


(えっ...!?

 院生さん?今なんて言ったの?

 「みき! ちんこ餓死」!?

 ちんこが餓死するって!?

 最低だわ!!

 院生のバカバカバカ!)


『どうしたの?みきちん!?』


『ううん。なんでもないの。』


『なら良いけど...

 ところで古河市って、非公認キャラの「こがにゃんこ」がいるんだよね。』


『えっ!?何がいるんですか!?』


『みきちん、「こがにゃんこ」で良いんでしょ?』


(えっ...!?

「みき! ちんこが「にゃんこ」で良いんでしょ」ですって!?

 良いわけないじゃない!!

 最低だわ!!

 院生なんか大っ嫌い!!)


『...院生さん...』


『うん!こがにゃんこ!』



院生君が言葉を発した瞬間、美樹ちゃんの右手が大きく彼の左頬を払い、彼はもんどりうって床に倒れました。



『もう!

 院生さんなんか大っ嫌い!

 何よ!

 うんこが「にゃんこ」って!!

 ちんこが「にゃんこ」だったり餓死させたり!

 おらが田舎もんだって言うんだべ!

 院生さんのうんこったれ!!』


『みきちん!!誤解だよ!!!』



そんな院生君の声に耳も貸さず、美樹ちゃんは泣きながら去っていきました。



『僕も泣きたいよ...』



こうして院生君の三度目の恋は無残にも散ってしまいました。


でも院生君!大丈夫!!

まだ出会いはあるかもよ!!

きっと....

きっと....

きっと....

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