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教授と院生と「みきちん」

『おや。院生君。

 どうしたんだい?いつもと服装が違うじゃないか。

 おめかしして。

 もしかしてデートかい?』



赤いラルフローレンのポロシャツを着て、髪をスッキリ整えた院生君に、笑いながら教授が声をかけました。



『あっ。教授!

 ばれちゃいましたか!

 今日これからデートなんですよ!!』


『若いのう。

 相手はどんな子かい?』


『理工学部教室に残った「美樹ちゃん」です。

 てへ。照れるなぁ。

 「みきちん」って呼んでます。

 あっ。もう行かなきゃ!!

 教授!お先に失礼します!!』



微笑んでいる教授に手を振り、カバンを肩に背負うと、院生君は大急ぎで教室を飛び出しました。

さぁ、これから「みきちん」とデート。

うまく行くのでしょうか?

がんばって!院生君!!



渋谷駅。

ハチ公前改札付近。

待ち合わせ時間の10分前。

院生君は緊張しながら「みきちん」の来るのを待ちました。

「美樹ちゃん」は茨城県出身の、ちょっととぼけた天然娘。

黒髪の素朴な娘で、目のくりっとしたとても可愛らしい女の子です。

そんな「みきちん」が、半蔵門線の階段を元気よく駆け上がってきました。



『院生さーん!!』



まだ二十歳になったばかりの彼女。

ピンクのワンピースをなびかせて、院生君に手を振りながら走ってきます。

その飛びっきりの笑顔。可愛らしい透き通るような声に、院生君の顔が自然にほころびます。

息を切らせて、院生君に向かってくる美樹ちゃん。

ぱた!

あっ!みきちんコケちゃいました!



『あ、イタ!!』


『みきちん!!大丈夫!?』


『てへ!コケちゃった!

 恥ずかし!!

 院生さんの前でコケちゃった!!』



頬を赤く染めるみきちん。そんな彼女に院生君はデレデレです。

やさしくハンカチで埃を払う院生君。

とても仲の良い感じですね!やったね!院生君!!



『まったく、みきちんはあわてん坊なんだから。

 でもそこがかわいいね!!』


『ごめんなさい!!うふ!!』


『今日はどこ行こうか。

 2人きりで出かけるの初めてだね!!』


『はい!!院生さんとのお出かけ、楽しみにしてました!!』



おやおや。こっちが恥ずかしくなっちゃいますね。

本当にいい感じです。

2人はそのまま歩き出し、鍋島松濤公園なべしましょうとうこうえんに行きました。


『みきちん!

 ベンチがあるよ!ちょっと休もうか!』


『はい!!』



夏の太陽が、若い2人をさらに熱くしています。

今日は日曜日なので人も多く、子供達も遊んでいます。



『院生さん!

 子供たち、かわいいですね!』


『そうだね!元気があって良いね!』


『院生さんは子供さん、好きですか?』


『うん!子供たちは大好きだよ!!』


(えっ...!?

 院生さん?今なんて言ったの?

 「うんこども達は大好きだよ」!?

 うんこども達が大好きだなんて...幻滅だわ!)



美樹ちゃんの急に顔がこわばりました。



『どうしたの?みきちん?

 顔色が悪いよ!!』


『...いえ、なんでもないの...

 院生さんがそんなだったなんて意外だったから...』


『何が意外なのかな...』


『良いんです...

 あっ!そうだ!

 私お弁当作りました!食べましょう!!』


『待ってました!!』


『お弁当箱開けますね!

 あれ、あれ?どうやってこれ開けるんだろ?』


『みきちん。

 ちょっと見せて!どれどれ...

 わかったよ!!』


『開けられそうですか?』


『うん!こう持ってね。』


(えっ!!?

 院生さん?今なんて?

 「うんこを持ってね」?

 私にうんこを持てって!?

 この人変態かも知れないわ!)



キッと院生君を睨む美樹ちゃん。



『みきちん!?どうしたの?怖いよ!!』


『...いえ。なんでもないの...

 期待しすぎるとロクなことがないから...

 男なんて...

 で、どうやるのですか?そのあと。』


『うん!こうしてね!』


(えっ!?

 院生さん?今また何か変なこと言った?

 「うんこをしてね」って?

 私にここでうんこをしろって!?

 スカトロなのね!?この変態院生!!)


『そうそう。その後みきちん!こう持って!!』


(えっ!?

 院生さん?最低よあなた!!

 「みき、ちんこを持って」って?

 後輩に、それもか弱い女の子に、あなたのちんこを持てって!?

 もうついていけないわ!!)



さりげなく美樹ちゃんの方に乗り出そうとした院生君。ベンチの手すりに手を置いたとき、何かねっとりするものを触ってしまいました。



『なんだろ?この粘るもの...』



院生君は思わず手についた粘着性のものを、舌でなめてしまいました。

その粘着性の物質は、乾ききっていないニスでした。



『うわ!!

 ペッ!ペッ!ニスだ!

 ペッ!!ペッ!!ニスを触って思わずなめちゃったよ!!』



その言葉を聞いた美樹ちゃんは、大きな瞳から涙をポロポロこぼし、院生君の左頬を大きく叩きました。



『院生さんのバカ!!もう知らない!!

 自分のペニスを触って思わずなめるなんて...

 それも初めてのデートの時に!!

 うんこが好きだのちんこを持てだの!

 さらには自分のペニスをなめたですって!?

 私帰る!!バカ!バーカ!!』


『えっ!?

 一体何のこと!?

 誤解だよ!!誤解だってば...みきちん...』



泣きながら走っていく美樹ちゃんの背中がどんどん小さくなり、やがて見えなくなりました。



『僕だって泣きたいよ...』



こうして院生君のはかない恋は終わってしまいました。

でも院生君!大丈夫!!

まだ出会いはあるからがんばって!!

きっと....

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