教授と院生と「おトイレ」
『教授、教授!』
『どうしたんだい? 院生君。そんなに慌てて。』
『昨日ちょっと恥ずかしい思いをいたしました。』
『ほお。どんな?』
院生君は恥ずかしそうに答えました。
『JRにはトイレがあるではないですか。』
『うむ。あるね。ちなみに阿波弁で言うと 「JRにはトイレがあるでないで」 だね。
あるんだかないんだか分からないよね。
それが何か?』
院生君は顔を赤らめながら話し始めました。
『実はですね....』
お話は昨日の午後4時にさかのぼります。
JR熊谷駅にて。友人と院生君が改札を抜けました。
『ちょっとトイレに行ってくるね』
『院生君。行ってらっしゃい。ここで待ってるよ!』
院生君がトイレに近づくと、こんな放送が流れ始めました。
『ご利用ありがとうございます。
手前が「多機能トイレ」、左側が男子トイレ、右側が女子トイレです...』
用を足して帰ってきた院生君。満面の笑みを浮かべ、勝ち誇ったかのような表情で友人にこう話しかけました。
『ねえ。熊谷駅のトイレってすごいね!
やっぱり熊谷次郎直実さんの影響なのかな!』
『何が?院生君。』
『だって、「滝のおトイレ」があるんでしょ!
すごいよ!どんな風にお尻を洗うんだろう!華厳の滝のようにかな?それともナイアガラ?
とにかくすごいよ!!きっと肛門が激しく洗われるんだろうね!!』
『何をほざいているんだい?君は。
広くてベビーチェアがあって、どなたでも使用できるトイレだけど、お尻はやさしく洗ってくれるよ。 春の小川の如く。』
『だって滝でしょ!「滝のおトイレ」なんでしょ!激しいんでしょ!!
激しいって言ってよ!!!
そんな洗い方じゃ滝じゃないよ!!!』
滝のように汗を流しながら、友人に食い下がる院生君。
呆気にとられる友人。
そして友人は一言、彼にこう優しく言いました。
『なぁ、落ち着いて、院生君...
滝のおトイレなんてどこにも存在しないんだよ...
おそらく日本、いや地球上にはね...
君の思い込みなんだ。それもとても甚だしい勘違いだよ。
「滝のおトイレ(たきの、おトイレ)」なんかじゃない。
「多機能トイレ(たきのう、トイレ)」だよ。』
再び理工学部の研究室。
遠くを眺める院生君の肩を叩いた教授は瞼を拭い、ゆっくり話し始めました。
『よし!
君の悔しさは良く分かった!作ってあげよう!!』
『えっ?何をですか?』
『決まっておるではないか!「滝のおトイレ」じゃよ!
その友人をぎゃふんと言わせようではないか!!
もう何も言うな。言わなくて良い...』
教授は白衣を軽やかに翻し、右手の親指をぐっと立てて実験室に消えていきました。
『教授! 教授~!
別に悔しくなんかないし!
あ~あ行っちゃった...また変なもの作っちゃうんだろうな...
仕方ないな。研究でもしようか...』
取り残された院生君は大きくため息をつくと、机の上の資料を読み始めました。
日が陰ってきたころ、教授の声が勢いよく聞こえてきました。。
『院生君!!できたよ!!滝のおトイレが!!』
『あ~あ...できちゃったんですか...とうとう...』
『さぁ見たまえ!
私の傑作『滝のおトイレ:Ke-GONじゃ!』
教授はニヤリとして実験室のドアを開けました。
『うわ~...』
院生君は目の前の光景に、口を大きく開けたまま固まってしまいました。
10畳ほどある実験室には木々が覆い茂り、部屋の真ん中には純白の洋式便座が置いてあるではないですか。
『院生君!これが滝のおトイレ:Ke-GON。
実際の「華厳の滝」をモチーフにしておる。
水の落下距離は97メートル。直下型じゃ。
この水圧で君の肛門を洗い流す。
1回の洗浄で2トンの水が流れるんじゃよ。
水は中禅寺湖から引いてきておるよ。』
高笑いする教授。
恐る恐る便座に近づく院生君。
『教授。肛門どころか体の中まで綺麗になりそうですね....。
ところでこのボタンはなんですか?
「強」「弱」はわかりますが、「激」とは一体何なんですか?』
『うむ。「激」その字が表わす通りじゃ。
お尻を洗う時の水を激しくトルネードさせて破壊力を上げてみた。』
『破壊力?そんなものはいらないのでは...』
『たまに拭いても拭いてもペーパーに汚物がついてくることがあるじゃろ。
それを防ぐのじゃよ!ただし絶対に使ってはいけない...
一度押すと10トンもの水が吹き出し、さらにその噴き出した水がトルネードする。
台風並みの破壊力なんじゃ。まあつべこべ言わず使いなさい。実験じゃ実験!!』
『そんな危険なおトイレ...
それになんで絶対に使っちゃいけないボタンがあるんですか?
「激」ボタンのほうが直径30cm位あるのに対して「強」「弱」ボタンは5mmくらいで見にくいし、さらには押しにくい場所にあるし。
それに「強」「弱」ボタンを使おうとしたら、どうしても肘が「激」ボタンに触れちゃうじゃないですか!』
『それは遊び心じゃ。「大」「小」ボタンは強く押さないと動かんよ。
「激」ボタンは触れただけで作動するようにしてみた。
スリル満点じゃろう!さあトイレに入った入った!』
ぐっと院生君を実験室に押し込もうとする教授。
『いやです!いやですってば!』
『早く座って大便をしなさい!思う存分排泄してくるがいい!
そして肛門を洗うのじゃ!さぁ!早く!!』
『いやですってば!座りたくないですってば!!』
2人はもつれるようにして実験室に倒れこみました。
『それなら教授が座ってくださいよ!!』
『何を馬鹿な!私の肛門は耐えられない!』
『僕も嫌ですよ!えいっ!!』
院生君が教授を便座に無理やり座らせました。
『こら!院生君!
悪ふざけも程々にしなさい!』
あわてて教授が立ち上がろうとしたその時、教授の肘が「激」ボタンに触れてしまったのでした。
大きなうなりをたてて迫りくる大量の水。その水は怒り狂った竜の如く、そして確実に教授の老いた肛門をしっかりと捉えるのでした。
『うわーー!!!!肛門が、肛門がぁ~!!』
『教授!教授~!!どこに行くのですか!?』
『うわー....』
教授は凄まじい水圧とトルネードで吹き飛ばされ、天井を突き破りどこかに飛んで行ってしまったのでありました...
その翌日、教授は東スポの1面を飾っていました。
『懲りない聖職者! 水素、オゾン爆破事件の次はトルネード!?
群馬の山奥で発見された教授、ズボンの臀部は大きく丸く開いていてお尻丸出し。
警察の厳しい追及にも「姿は汚くても、お尻はきれいですよ」とのらりくらり。』
【今回出てきた発明品】
・滝のおトイレ:Ke-GON
本物の華厳の滝をお手本とした激しいウォシュレット。肛門洗浄するその水は、中禅寺湖から取水している。
お尻を洗う水力については「強」「弱」そして「激」がある。
洗う力は高さ97メートルから垂直落下させた水の圧力を利用し、1回の洗浄に使用する水量は2トンである。
「激」については10トンの水量を惜しげもなく使い、さらにはトルネードさせてその破壊力を増している。
極めて扱いにくいウォシュレットで、別名『水の暴れ神』とも呼ばれている。
教授によるとナイアガラの滝をモチーフとした、改良型ウォシュレット:Ke-GON 双竜も開発すると豪語しているが、あまりにも危険なため、おそらくお蔵入りになるであろう。




