教授と院生とワンマンバス
良く晴れた水曜日。
教授と院生君は、学会のため大阪大学に向かっていました。
千里中央でバスを待っている2人。
8月のお盆過ぎ。とても暑い日です。
このお話では関西弁を多用しますが、間違った使い方をしている時もあると思います。て言うか、間違っています。
私の感性で使う言葉ですので、どうぞご容赦ください。
『教授!教授!!』
『なんだい?院生君?』
『大阪では何を食べましょうか?
たこ焼きですかね!それともお好み焼き?』
『ううむ。どれも美味しそうじゃ。
あとは冷たいビールがあれば最高じゃな!!』
『これが学会の醍醐味ですよね!!』
おやまあ。研究の成果はいかがですか?
『今回はポスター発表ですから、多少飲んでも大丈夫ですよね?』
『まあ、多少はよかろう。』
『やったー!!
あっ!教授!
バスが来ました!!』
『おお。良かった。
この暑さじゃ。早く来てくれてありがたいのう!!』
バスがこちらに向かって進んできます。
ところがなかなか減速しません。
教授と院生君の目の前に来ても、止まりそうもありません。
あわてて院生君が、バスの運転手さんに向かって手を振りました。
『すみません!すみませーん!!
僕たち乗りますよ!!』
運転手さんは何事もなかったようにバスを止めました。
バスに乗り込む2人。
乗り込む際に運転手さんをちょっと睨みましたが、向こうは知らん顔です。
一番後ろのベンチシートに2人は座りました。
『教授...ずいぶん横暴なバスですね。』
『確かに...ちょっと横暴じゃね。』
『とりあえず乗れて良かったですね。』
『うむ。』
院生君は、ハンカチで汗をふきながら周りを見渡しました。
不思議なことにお客さんがほとんどいません。
『教授...
乗客があまりいませんね。
大阪のバスってこんなもんなのでしょうか?』
『院生君の言う通りじゃ。
お客が少ないのう。』
『それに、降りるための降車ボタンがありませんが、どのように降りるのですかね?』
『ホントじゃ。
ちょっと聞いてみるか。』
一つ前に座っている、上品な女性の方に教授は声をかけました。
『ご婦人様、ご婦人様。
ちと教えてくれんか。』
『はい、なんでっしゃろ?』
『大阪のバスには、何か作法とかあるんですかいな?』
『ほほほ!
あんたたち、大阪は初めてでっか?』
『大阪は初めてではないんじゃが、バスはあまり乗らなくてな。
よくわからんもんで...』
『あんたたち、よう覚えとき。
このバスは、バスはバスでも特別なバスなんよ。』
『特別なバス?
教授!一体どういうことなんでしょうね?』
『ううむ。どう見てもただのワンマンバスじゃがね。』
『これからわかる。黙って乗っとってみ!』
教授と院生君は、ご婦人に言われた通り黙って座っていました。
横を流れる景色を見つめながら、院生君があることに気付きました。
『教授、少しおかしくありませんか?』
『わしもそう思った。なかなかバス停に止まらんのう。』
『そうですよね。小1時間乗っていますが、どこにも止まりませんね。』
『ご婦人様、ご婦人様。
バス停はこんな遠いもんなんかいな?』
『あんたたち、どこまで行くん?』
『阪大本部前です。教授と一緒に学会に来ました。』
『今日は止まるかわからんね。』
『えっ?どういうことじゃ?
ご婦人さんはどこまで行くんじゃ?』
『うちは決まっておらんよ。』
『はっ?』
『このバスは運転手さんが勝手に行く先を決めるんや。
阪大本部前にはおととい行ったから、今日は行くかわからへん。
今日はどこ連れていくんやろな。』
『そ、そんな...
それでいいんですか?ご婦人様?
ね、教授?』
『運転手さん!運転手さん!
わしら阪大本部前に行きたいんじゃが、降ろしてくれんか?』
『あかんあかん!それだけはできまへん!!
行く先はわてが決めるんや。
なんてったって、わては運転手やから。
お客さんやからって、わがまま言うたらあかんよ。
わては誰の言うことも聞かへんよ。
あんたがたは黙って座っとってな。』
『なんてワンマンな...』
『それや!それなんや!!
わてが言いたかったことはそれや!
あんたがた、よう気ぃ付いたな!
わてが運転するこのバスは「ワンマンなバス」なんや!
「ワンマンバス」じゃあらへんよ。
「ワンマンなバス」なんや!!』
『.......』
『よし!!
今日の行き先決めた!!
気分ええから「吹田市役所前」まで行ったる!
飛ばすで~!!
あんたたち、振り落とされんようにな!!』
こうして教授と院生君は、阪大本部前とはまるっきり反対側の「吹田市役所前」まで、法定速度よりはるかに遅いスピード(時速30Km)で連れていかれました。
そこから帰るのは一苦労でしたが、とても良い思い出になったということです。
大らかな大阪を、教授と院生君は大好きになったということです。
ナイスな街大阪。
私も大好きです。
【このお話で出てきた「働くクルマ」】
ワンマンなバス
通常のワンマンバスは運転士が一人で運行するバスを言うが、運転士がワンマン気質になると、あら不思議!ワンマンなバスに早変わり!!
このような運転士は、通常の場合強制的に退職させられるが、ごくまれに面白半分で運転させている会社もあるらしい。
仕事や大切な約束などで、急いでいる人が誤って乗車してしまうと大変なことになってしまう。
ワンマンなだけあって、出すスピードも自分勝手。法定速度をはるかに下回る速度しか出さない。
一見ごくごく普通のバスの姿をしているので、バスに乗るときは要注意だ。
ワンマンなバスは、今日も静かに日本のどこかで次の獲物を狙っている。
あなたの前に止まっているそのバスは、もしかすると「ワンマンなバス」かも知れない...




