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教授と院生と「うどん」

『教授、教授!』


『どうしたんだい? 院生君。そんなに慌てて。』


『今日お昼に、いつものお蕎麦屋さんに行ってきました。』


『ほう。

 で?』


『お蕎麦屋さんと言っても、食べるのはうどんなのですがね。ぷっ!!』



ウケたかと思い、教授をチラ見する院生君。

院生君の口元がにやけています。

ところが院生君の思惑は思いっきり外れたようで、ウケるどころか教授は怒りを露わにしております。



『教授!そんな怖い顔しないでくださいよ~』


『はっ!!

 すまんすまん。あまりにもつまらなかったもんで...

 と言うか、今のはギャグなのか?』


『まあ怒らないで続きを聞いてください。』



院生君は行きつけのお蕎麦屋さんで、いつもの通り「オールスター天うどん」を頼んだそうです。

その天ぷらの具は「エビ・イカ・ほたて・マイタケ・レンコン・なす」で、とても美味しかったとのことでした。



『教授。

 ここまでは良いのですが、なぜこの具たちがオールスターなんでしょうかね。

 僕としてはサツマイモとかカボチャとかもオールスターに入れても良いんじゃないかと。

 個人的にはレンコンは補欠にしてしまってもよろしいのじゃないですか?』


『うむ。

 確かにわしとしては、ホタテは天ぷらにすると硬くてよく噛めん。

 ホタテは補欠じゃのう。』


『そこで提案なのですが、我々で本格的なオールスターな具を探して、お蕎麦屋さんに提案してみてはと思うのですが。』


『ふむふむ。

 あまり気は乗らないがやってみようかね。』


『そうこなくっちゃ!!

 書き出してみましょう!!』



あれあれ。今日も研究はせずにお遊びですね。

2人はキャッキャッと言いながら画用紙を広げ、各々天ぷらの具を書き始めました。

しばらくすると、2人の画用紙は天ぷらの具の名前でいっぱいになりました。



『やはり横綱は「大エビ」かのう!』


『いやいや教授。キスの天ぷらも侮れませんよ!』


『さつまいもはどうじゃろう?』


『いやあ、僕は断然カボチャですがね!』



おやおや楽しそうですね。

シシトウもおいしいですよ!



『わしはシシトウはきらいじゃ。』


『教授!僕もです!』



...2人とも生意気ですね...

楽しそうに画用紙を眺めていた教授が、ふと我に返りました。



『...ところで院生君。』


『はい?なんでしょうか?』


『オールスターって、何なんじゃろうね...』



しみじみ語る教授。

切なそうな表情を、夕日がぼんやりと赤く染めています。

その瞳には、うっすらと涙が浮かんでおります。



『...そうですね。一体何なのでしょうね...

 僕たち、踊らされているんですかね...』


『そうかもしれんな...

 健気に生きていた物を天ぷらにする。

 それだけでも罰当たりなのに、さらにそれを「オールスター」だの「二軍」だの「補欠」だの、さらには「球拾い」だのに分けてしまって...』


『...「補欠」や「球拾い」はないですけどね...

 でも教授の言っていることは良く分かります!!

 人間の思い上がりです!!これは!!

 さっそくお蕎麦屋さんに話してみます!!』


『そうしてくれるか!!』


『はい!!』



後日教授と院生君は、お昼ご飯を食べに例のお蕎麦屋さんに行きました。



『なあ、院生君。この前の話はもう店長さんにしたのかいな?』


『はい!あの後すぐに電話しました。

 快く承諾してくださいました!!』


『よかった!話のわかるお方じゃ!』



大喜びでメニューを見た2人。

メニューには「オールスター天うどん」の代わりに、「オールスクラップス天うどん」と言う新メニューが記載されておりました。

値段は750円と、前回のオールスター天うどんと同じ金額です。



『院生君...

 なんじゃいこの「オールスクラップス天うどん」とやらは。』


『なんでしょうね...

 さっそく頼んでみましょうか...

 大将さん!

 オールスクラップス天うどん2つお願いします。

 冷たいので!!』


『はいよ!!3番テーブルさん、冷やしスクラップ2丁!!』


『3番テーブルの冷たいスクラップ達に2丁!!』


『3番テーブルの冷酷なポンコツ達に2丁!!』



厨房からも威勢よくスクラップ、スクラップと声がかかります。



『教授...何だかあまりいい感じしないネーミングですね...

 自分達がスクラップみたいで...

 ちょっと気になったのですが、「スクラップに」だの「ポンコツ達に」だのって聞こえませんでしたか?』


『気のせいじゃろう。すごいうどんが来るかも知れんよ。』



眼鏡を外し、冷たい濡れタオルで顔を気持ち良さそうに拭いている教授が答えました。

待つこと5分。

お待ちかねの「オールスクラップス天うどん」の登場です。



『スクラップさん達!お待ち!!』


『わーい!来た来た!!

 って、明らかに我々をスクラップ呼ばわりしてません?』



2人の目の前に、太めのうどんがザルに乗せられて運ばれてきました。。

とてもみずみずしいそのうどんはツヤツヤと光り、いかにも涼しげで食欲をかきたてます。

もっちりとして、今にも踊りだしそうなくらいにピチピチしております。

ザルの横には、なにやら木箱がおいてあります。



『教授。とても美味しそうですね!

 ところでこの木箱は一体何でしょう?』


『ううむ。これがオールスクラップスだろうね。』


『楽しみです!開けてみましょう!!』


『そうじゃのう!!』



ワクワクしながら2人は、木箱を手に取って勢いよく開きました。



『きょ、教授!これは!!』


『むむむ。まさにオールスクラップス!!』


『大将さん!!

 これは一体!?』


『教授さん!!院生君!!

 そうこれがオールスクラップスなんです。

 私も馬鹿でしたよ。

 生きていたものを天ぷらにした挙句、それをオールスターなどとランク付けするなんてね。

 おこがましいですよね。

 それでこれを考案しました!』


『...でもこれでは...なあ院生君...』


『...ええ...

 これではただの天かすでは...』


『はい!そうです!!

 具材はなし!!

 具を入れた結果としてランキングができるわけですから、一切具をいれません!!

 天ぷらの具抜きです!!

 どうですか!?』


『...どうですかって...ねえ教授...』



『...うむ。確かに英語で天かすを Tempura Scraps とも言うらしいがのう...』


『ええ...これではただの「冷やしタヌキ」では...』


『えええええ!!!?

 そんなうどんがあったんですか!?』


『逆にこちらが「ええええ!!!?」ですよ...大将...

 何年お蕎麦屋さんやってるんですか...』



こうしてこのお蕎麦屋さんは、ただの「冷やしタヌキ」を「オールスクラップスうどん」として売り出しました。

このメニューにお客さんの注文が殺到したかどうかは定かではありませんが、学生さんの間ではウケていたみたいです。

余談ですが、シシトウの天ぷらも美味しいですがね。



【このお話で出てきた新メニュー】

 オールスクラップス天うどん


 オールスター天うどん(エビ・イカ・ほたて・マイタケ・レンコン・なす)に対して、そのランク付けに虚しさを感じた、言わば悟りを開いた人が考え出した究極のうどん。

 「究極のエコうどん」と評する専門家も存在する。

 そのうどんの出来栄えはとてもすばらしく喉越しも最高で、1日3食これでも構わないという人が続出中だ。

 ただ惜しいことに、付いている天ぷらには具がなくただの天かすであり、見方によっては平凡な「冷やしタヌキ」ではないかと陰で悪口を言う人もいる。

 温かい「オールスクラップス天うどん」になると、これはまさに「タヌキうどん」で、こうなってしまうと反論する術もない。

 出来上がるまでにいろいろな思考と工程を踏んだ「うどん」が、たまたま「タヌキうどん」になってしまったいわば悲劇のうどんであるが、今後日本全国、いや世界中で食べられるようになる日も近いだろう。

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