教授と院生とドラえもん ~その2~
教授がドアをゆっくり押すと、扉はギシギシと開きました。
開いた隙間から眩しい光が差し込み、2人は思わず手で目を覆いました。
その手をゆっくり瞼から離し、目をシバシバさせながら扉の向こうを覗くと、そこには木造の家屋が立ち並んでいます。なんだか懐かしい風景です。
冷たい風がドアから吹き込んできました。どうやらあちらの季節は冬のようです。
家屋のほとんどが平屋建てか長屋で、まっすぐ伸びる道がありますが、歩いている人はいませんでした。
教授と院生君はキョロキョロ辺りを見渡します。
昔ながらの銭湯や、駄菓子屋が目に入りました。
『ところで教授?ここはどこですか?いつの時代ですか?
そう言えば、時代も場所も設定していないじゃないですか!』
『良く気が付いた!!設定などないんじゃ!
この「どこでもいつでもドア」の欠点とは、時代と場所の設定ができないんじゃよ。
いつの時代にどこの場所に出るか、その時次第なんじゃ。』
『うわ~...致命的だ...
なんていい加減な道具でしょ。
まあ良いや。
しかし金髪美女はいそうもありませんね。どう見ても日本ですもんね。』
『そうじゃのう。ちょっくら歩いてみるか。』
『ところでちゃんと元の時間と場所に帰れるんでしょうね?』
いぶかしげに院生君が教授に聞きました。
『もちろんじゃ。この物語を執筆しておる「たけぼ」は適当な人物じゃから、なにがあっても戻れるから安心せい。
どんなハプニングがあっても、いつのまにかうやむやになって、気がついたら次の話になっておるよ。』
『「たけぼ」はいい加減な人物ですもんね。』
『そうじゃそうじゃ。適当な人間じゃ。』
おやおや、2人とも勝手なことを言ってますね。
まぁ大体当たっておりますが...
教授扮する「変態猫」と、院生君扮する「偽小4」はドアをくぐり、未舗装の道の上に足を下ろしました。
寒さが身に沁みます。
『教授!めちゃくちゃ寒いですね!
この寒さに半ズボンとTシャツではね。
教授なんかレインコート1枚ですもん。
どうにかなりませんか?
あれっ?あそこに何かありますよ!!』
『院生君!こちらの世界では、わしのことは「ドラえもん」と呼びなさい。
それもできるだけ情けなく。ため口でかまわん。
そしてわしは君のことを「のび太君」と呼ぶ。
これがこの道具の醍醐味じゃ。
それに寒さなんかはいずれ慣れる!我慢せえ!!』
『醍醐味って...
はいはい。やればいいんでしょ...やれば...もう...
ドラえも~ん。あそこに何かあるよ~!』
『のび太く~ん!本当だね!
あそこに行ってみようよ!!』
2人はキャッキャッ言って、院生君の指さす方向に走って行きました。
本当に楽しそうですね。
たどり着いたそこは駅でした。
『ドラえもん!
駅だよ!高岡駅って書いてるよ!!』
『そうだね。どうやら富山県のようだね!
あっ駅の中に男性の方がいる!
のび太君!あの人に聞いてみよう!今日はいつなのかね!』
変態猫はウィンクをしたつもりでしょうが、片目だけつぶることができず、どうしても両目をつぶってしまいます。その姿はお墓参りに来て、線香の煙で目をショボショボさせている変質者です。
2人は両手を振りながら、その人に向かって走り出しました。
『うわ~!!
変態たちが寄ってきた!
来ないで!こっち来ないで!!』
この寒い中、パンツ一枚で青いレインコートを羽織った顔の真っ白な変質者と、うっすらすね毛の生えた足を半ズボンから惜しげもなく露出した「偽小4」がはしゃぎながら近づいてくるものですから、それはそれは恐ろしいことでしょう。
『ごめんなさい!!
私が悪かった!だから許してください!!命だけは!!』
『命だけはって...
御屋形様、僕たちは怪しいものじゃありませんよ!』
『怪しいどころか変態じゃありませんか!
こんな11月の寒い日にそんな恰好で!!
命だけは助けてください...』
『御屋形様、わしら本当に怪しいものじゃないんじゃよ。ほれ、この通りじゃ!』
教授はレインコートをバッとはだけました。
『うわ~!!やっぱり変態だ!!警察!警察!!』
『しまった!すまんすまん!つい...
あっ!のび太君!押さえつけて!!』
2人は逃げようとする男性を取り押さえました。
動けなくなった男の人は、とうとう観念しました。
『はあはあ...わかりました、わかりました!!
もう逃げませんから!!
本当にあなたたちは一体何者なんですか?』
待ってましたとばかり、2人は胸を張って答えました。
『ぼ~く~ド~ラ~え~も~ん~!!』
『僕のび太!!野比のび太だよ!』
『.....
...で?
...』
『で?って...御屋形様はドラえもんを知らないの?
この有名な国民的ヒーローを?
ねえ!ドラえもん!!僕らを知らないって!!』
『御屋形様、今日は一体何年何月ですかいな?』
『西暦1969年の11月ですよ...』
『あっ!なるほど!!
ドラえもん!わかったよ!
僕らはまだこの世に存在していないんだ!
ドラえもんが正式に漫画化されたのが1969年12月だもん!!』
『で、本当に君らは一体何なの?』
そろそろこの場を離れたそうな男性。とても人の良さそうなお方です。
でもどこかで見たことのあるような顔立ち...
『わしらは21世紀から来たんじゃ。
このドアを使ってな。』
『そうなんですよ!嘘じゃありませんよ!』
『ほう...21世紀から...
おもしろい!!
ちょっとその空想話を聞かせてくれませんか。』
どうやら2人の話に興味を持った様子です。
彼は黒い革のカバンから、メモ帳を出しました。
『空想話じゃないんですけどね...まっいいか。
実はここにいる変態...いやネコ型のじーさんは、ドラえもんと言って未来のロボットなんです。
お腹にある4次元ポケットから秘密道具を出して、この僕つまり「のび太君」を助けてくれるんです。』
『ほうほう...』
その男性は一心不乱にメモをしております。
のび太君のお話が終わると、彼は2人にお礼を言ってきました。
『変質者のみなさん!!
アイデアをありがとう!
これで締切に間に合います!!』
『えっ?締切って?』
その男性の言うことには、彼の職業は漫画家で、12月に連載が始まる漫画のアイデアがどうしても浮かばず途方に暮れていたとのことでした。
男性は何度も何度も2人にお礼を言い、教授と院生君が「どこでもいつでもドア」をくぐるまで、ずっと手を振ってくれました。
『教授。良い人でしたね。』
『うむ。見上げた青年じゃったのう。』
『でもどこかで見たことのある顔でしたが。』
『そうじゃのう...』
2人は後ほど気付くのですが、実は高岡駅でお会いした方は、あの「藤本 弘」大先生だったのでした。
そう、あの有名な国民的ヒーローのモデルとなったのは、なにを隠そうこの2人の変質者たちなのです!
ただこの事は日本では最高機密となっていて、世間には発表されておりません。
そしてこれからも、ずっとずっと隠され続ける事実なのです。
また都市伝説が一つ増えましたね!




