教授と院生とサムライ
『教授、教授!』
『どうしたんだい? 院生君。そんなに慌てて。』
『とうとうワールドカップが始まりましたね!』
『なるほど。だから浮かれてサムライブルーのユニフォームなどを着ているのだね。君は。
それもサッカー場ではないこの教室でね!』
『あちゃ。気付かれちゃいましたか。てへっ!』
舌を出しておどける院生君。その仕草に教授はイライラし始めました。
『院生君...
君は無邪気なフリをしているようだが、どう見ても邪気ありまくりじゃぞ...』
『まぁまぁ教授。そんなに怒るとしわが増えて寿命が縮まりますよ!
お年なんだから!』
『うがぁぁぁ!!!』
通常穏やかな教授ですが、さすがにご立腹のご様子です。
その表情はあたかも阿修羅の如し。
このような事例を『吠える犬にけしかける』と言います。気をつけたいものですね。
とりあえずこの場は丸く収まりました。以下2人の会話です...
『そんなに怒らなくても...うっうっ...』
『まあ泣くな院生君。わしもサッカーは大好きなんじゃから...』
『だってだって...』
『ええい。女々しい。
院生君にはやってほしいことがあるんじゃから、さっさと泣き止まんかい。』
『ぐすん..なんですか?やってほしいことって...
やったらなにかお小遣いでもくれるんですか?』
『まぁ仕方ないか...今日研究が終わったら「弁慶」にでも連れていこう。
それで良いか?』
『そうこなくっちゃ!!よ~し!飲むぞぅ!!』
ようやく泣き止んだ院生君。ちゃっかりしていますね。
さて、教授から院生君への要求は何なのでしょうか。
2人は研究室に入っていきました。
『実は1人、元気づけてほしい学生さんがいるんじゃよ。』
教授はお茶を飲みながら話し始めました。
『どのような学生なんですか?女の子ですかぁ?
まいったなぁ...仕方ないなぁ...えへ、えへへ...』
『今日の午後1時に理工学部教室に来る。会えばわかる...』
そう言って教授は、院生君の肩を叩きました。院生君は居酒屋『弁慶』でのビールのため、快く用件を承知しました。
~ その日の午後1時 ~
『院生君!頼んだよ!学生さんは研究室で待っているからのう。』
『はい!頑張ります!!』
お昼休みから教室に帰ってきた院生君は、歯を磨きながら元気に答えました。
『一体どんな学生さんなのかな?
女の子かな?女の子なら良いな!
ちょっと楽しみだな!恋が芽生えちゃうかも!!
念入りに歯を磨いてと!』
よこしまな考えをしながら、そしてあれこれ妄想しつつ、院生君は研究室のドアを元気に開けました。
『やあ!!お待たせ...』
研究室に足を一歩踏み入れた院生君。
しかし彼は、踏み入れた足をそっと引き、ドアを元の位置にゆっくり戻し、大急ぎで教授の元に向かいました。
『はぁ、はぁ、はぁ...きょ、教授~!!あの学生さんは何者ですか?』
『どうじゃった?』
『はぁはぁはぁ...ああびっくりした...
どうもこうも...すごいブルーな感じで、おまけに「ちょんまげ」ですよ...
あれじゃまるっきりサムライですよ。
それに帯刀しているじゃないですか!
髭なんか生やしていたし...』
『実はな、彼はブルーなサムライなんじゃよ...』
『ブルーなサムライ!?』
『そう。ブルーなサムライじゃ...
サムライブルーな院生君なら何とかできるじゃろ...』
『一体何をしたらいいんですか?』
『とりあえず友達になってやってくれんか?
どうも友人が出来ないらしくてな。いつも一人で、教室の片隅で般若心経を唱えているらしいんじゃ...』
『...それは本人に何か問題が...』
『つべこべ言わず友人になってやらんかい!』
『じゃあ教授もお友達になってやってくださいよ!!
なんで刀を持った変態と友人にならなきゃいけないのですか!』
『わしはいやじゃ!』
『そんなのずるいですよ!教授だって友達になれば良いじゃないですか!』
『なにを!この院生が!院生のくせに!!』
取っ組み合う2人。
そんな2人を物陰からジッと、悲しそうに見つめる人物がいました。
『はっ!!教授?教授!!
お侍さんがこっちを見てますよ!やばいですよ!やばいですったら!!』
『なに!?』
パッと離れる教授と院生君。
彼らの視線の向こうには、ショックのあまりホロホロと泣いている、ブルーなサムライの姿がありました。
『あっ!お侍さん!!今キミとお友達になろうと準備運動していたんだよ!
ねっ!そうですよね!教授!?』
『そ、そうなんじゃよ。お侍さん。わしらはキミの友人なんじゃ!』
『...本当でござるか?...』
『そうなんだよ!お侍さん!
だから涙を拭いて!そんな小刀なんか、下においてさ!切腹なんかよくないよ!』
『そ、そうじゃそうじゃ。我々には介錯なんか出来んからのう!』
『この小刀は竹光でござる。まだ父上が本物を持たせてはくれないでござる...
この腰の刀も模擬刀なんでござるよ...うっうっうっ...』
『本物を持っちゃいけないよ!お父上が正解だよ!
...って、君のお父上は本物を持っているの!?
それに「ござる」なんて言ってたらいけないよ!』
『そうじゃのう。徐々に現代の若者風に変化させよう。ところでお侍さんは、おいくつかのう?』
『拙者、18でござる。』
『18!?
18でこの貫禄!?
髭はあるけど髪は薄いし...』
『こら!院生君!髪のことは言わん方が良い!!
落ち武者なんて言ってはいかん!!』
『落ち武者なんて言ってませんからね!教授のほうが大変失礼ですよ!』
そんな2人の姿をみて、ブルーなサムライはまたオイオイ泣き始めました。
『あ~あ...泣かせちゃった...』
『うむ...ちょっとかわいそうじゃのう。
なぁ、お侍さん。今までに何があったか教えてくれんかい?』
涙を拭きながら、お侍さんはポツリポツリと話し始めました。
話によると、彼は山梨県出身の『武田くん』と言い、その苗字と出身地、風貌と言葉遣いから、みんなに『お侍さん』と呼ばれていたとのことでした。
『日本がサッカーで活躍するようになって、拙者のあだ名は「ブルーサムライ」と呼ばれるようになったのでござる。ブルーはこの青白い顔色が由来でござる。
ただその後日本が負けると拙者のせいになり、悲しくなった拙者はやがて無口になり、いつしか「ブルーなサムライ」と揶揄されるようになったのでござる...うっうっうっ...』
『そうかそうか...つらかったのう...』
『そうだ。教授!今日の飲み会に武田くんも連れていきませんか?』
『そうじゃのう!パッと行こうか、パッと!!』
『かたじけない!!!』
研究もしないで3人は夜の街に出かけていきました。
そして次の日、教授は東スポに再び登場することになるのでした...
居酒屋「弁慶」に落ち武者見参!
懲りない教授、今度は未成年と飲酒
そしてその未成年の学生は、なんと銃刀法違反!!
厳しい警察の取り調べにも
「サムライブルーとブルーなサムライ。そして私はブラッとさすらう。」
と、こちらが「寒さでブルッ」とくるようなダジャレでのらりくらり




