LV.007 ロリコンに目覚めそうです
「・・・」
『……なんじゃその目は……』
初めて見た。
ロリババア、初めて見た……!
「なあ、ティアラ。おねがいだから、もっと近くで顔を見せてくれよ……」
『ちょ……! お主――』
「え?」
またあの世界の時間が止まる感覚――。
一瞬にして風景が白黒になって――。
なんか頭の中がぐにゃりって――。
『……ああ。良いぞ。好きなだけ眺めるが良い……』
俺の顔の目の前にグッと顔を寄せるティアラ。
まるでキスでもせがむ様に。
俺の唇にティアラの唇が触れそうな位の距離で――。
「可愛いなお前の顔……」
ついそう呟いてしまう俺。
お世辞なんかじゃない。
ティアラが顔を隠していた意味はこういう事だったのかと納得してしまう程だ。
『………………はっ!』
うっとりとした表情で俺の顔を見つめていたティアラが正気に戻る。
やばいな俺……。
ロリコンに目覚めてしまいそうだった……。
『おおおお主! ワシに《命令の力》を使うで無いわ! 何をした! いまワシに何をしたのじゃ!』
「え? 何って……」
『お主いまワシに向かって《おねがい》のスキルを使ったじゃろう! 願いが叶えばスキルの効果は解除されるのじゃが……その間の記憶は対象者には無いのじゃぞ!』
記憶が……無い?
ていうかやっぱり俺、《命令》のスキルを使ったんだな……。
そういえば昨日も、デボルに竜槍を持って行ってもらう様に《おねがい》した後、しきりに首を傾げてたっけ……。
そういう事だったのか……。
『だから何をしたかと聞いておる! 何をした! キスとかしたか! ワシの唇を奪ったか!』
「あ、いや……。お前の顔をガン見しただけだけど……」
『本当じゃな! ワシの貞操は奪ってはおらんな! 信じて良いのじゃな!』
こいつは一体何をそんなに心配しているんだ……?
訳わからん……。
『……こほん。これで理解したじゃろう。お主はこうやって徐々に《命令士》としての能力を開花させ、最終的に《絶対循守》のスキルをマスターする事が当分の目的じゃ』
「目的……? じゃあその目的とやらを達成したらどうなるんだ……?」
『……いまお主……エロい事を考えたじゃろう』
「考えてねぇよ! 純粋に質問しただけだろ! アホかお前!」
唾を飛ばしながらもそう突っ込む俺。
なんだか段々こいつとのやり取りが分かって来たような気が……。
『お主はお主の好きな様に《命令の力》を駆使し、生きて行けば良い。ただし――』
「……やっぱりな。条件があるってんだろ? 言ってみろよ」
この流れは当然予想していた。
ティアラにはティアラの考えがある。
俺にこんなチート能力を伝授したこいつの企み――。
俺の予想が正しければ――。
『話が早くて助かるの。まあ、いくつか条件はあるのじゃが……まず1つは魔王を倒す事じゃ』
やっぱりな……。
だってティアラは魔王に殺されたのだから。
魔王を倒すために旅に出て、返り討ちに遭ったんだろう?
恨みか?
それとも世界平和の為か?
『奴の強さは尋常では無い。歴代の《魔族》の中でも卓越した能力の持ち主――。それが現魔王、ルージュ・オーザーランドなのじゃ』
魔王ルージュ。
《種族戦争》がとっくに終結した現代に於いて、最後まで戦争の手を緩めない悪の権化。
ティアラが一体どのくらいの戦闘能力を宿しているのかは知らないが、彼女がここまで言うのだ。
相当な強さの《魔族》である事は間違い無いのだろう。
「で? その魔王に《絶対循守》を使って『死ね』と命令して……それからどうなる?」
『簡単に言うで無いわ。今のお主では彼女の前に立つだけで、《命令の力》を発動するまでも無く蒸発してしまうわ』
「え? そんなに?」
足が震えてきました。
え? なに『蒸発』って……。
凄く怖い。
『まずは鍛錬を積め。彼女の前に堂々と立てる位の力を付けよ。いくら《命令士》としてのスキルを高めたからと言って、命令すら出来ない状況ではどうしようも無かろうが』
「……ごもっともです……」
痛い所を思いっきりぶっ刺されました。
結局まだまだ駄目駄目な俺のままって事じゃんかよ!
先は長いなおい!
『まあ、焦っても仕方無かろう。ワシもすぐにお主が《命令士》として成長するとは思ってはおらん。当面の目的はそうじゃな……次のスキルを身に付ける事かいの』
「次のスキル……」
もう一度杖で文字を出現させるティアラ。
ていうかその杖、俺にくれないかな……。
お前が日中寝ている時でも自分のレベルがいくつになったとか確認出来たら便利なんだけど……。
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【命令士】 LV.3
『スキル』 おねがい LV.3
ささやき LV.7
絶対循守 LV.99
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「次はレベル7の……《ささやき》?」
『ああ。それを目指して精進するが良いわ』
「……またどんな《スキル》なのかは教えてくれないんですねティアラさん」
『当然じゃろう。自分で効果を試してみて、そこで検証するのが楽しいのじゃろうが』
いや……。
別に俺は楽しみたい訳じゃ……。
・・・。
あ。
いいこと思い付いた。
「……なぁ、ティアラさん。おねがいだから――」
『その手には乗るか! さらばじゃ! アルル!』
どろん、といきなり目の前から消えるティアラ。
お前は忍者か!
「ううん……。さっきから何をブツブツ言っているのニャ……」
(げっ……。猫娘が起きて来ちまった……!)
「? アルル? いま誰かと話していなかったかニャ?」
目を擦り擦りしながら俺に尋ねるシュシュ。
寝癖がボサボサで凄い事になってるし……。
「あー、悪ぃ。ちょっと発声練習? 朗読の練習? なんかそんな感じのをしてました」
苦し紛れの言い訳をする俺。
大丈夫。
シュシュは馬鹿だからこれでやり過ごせる筈。
「ふーん。アルルも多感な時期なんだニャァ……。何か悩み事があったらこのシュシュが聞いてやるからニャ」
「シュシュ……」
意外なシュシュの言葉にちょっと感動してしまう俺。
「またたびご飯大盛り3杯でニャ」
「……ですよね」
たった3秒の感動でした。
「じゃあ、私はおしっこ行ったらまた寝るニャ。付いて来なくてもいいニャ」
「行かねぇよ! さっさとションベンして寝ろ!」
そう吐き捨てた俺はシュシュを見送り、寝袋で就寝する事に。
――もちろん一人、テントの外で凍えながら。
【登場人物⑧】
NAME/ナユタ・ガルーンハイド
SEX/女
RACE/人間族
JOB/刀剣士
SIZE/B84W58H85
『倭国』という辺境の地から上京してきた人間族の女性。
前衛・後衛万能型である《刀剣士》という職業に就いている。
様々な種類の刃物を極限以上に使いこなす倭国特有のユニーク職業でもある。
自分の事を『俺』と呼称し、女と揶揄される事を最も嫌う。
アーシャ達のパーティでは最も個の戦闘能力が高い。
一対一の戦闘では最大限の能力を発揮する。