LV.006 意外な事実が判明しました
テントまで戻った俺達3人。
レムとの再会の宴という名目でさっそく『新鮮な兎肉』の調理に入る俺。
それ以外にも『ヤマイモ茸』『ワライ草』『歪な人参』『トウモ殺し』といった山菜や野菜。
『マヨイの実』『ペンペンの実』『桜の棒実』などの果実もたっぷりと採取してきた。
なので結構豪勢な昼食を作ることが出来た訳で――。
「はぁ……。お腹いっぱいだわ……。生き返った気分……」
「お粗末様。俺もレムがこんなに食う所は初めて見た気がするよ」
あれだけ大量にあった兎肉も8割方は皆で平らげてしまった。
というか大半はデボルとシュシュ。
そして――。
「な、何よ! その目は……!」
彼女らに負けないくらいの残り骨がアーシャの座っているテーブルの前に転がっている。
竜人族や獣人族に張り合えるだけの食欲を持つ人間族の女。
幼馴染とはいえ信じられない……。
「なんでもないです」
「なんでもない目じゃないでしょう! 仕方ないじゃない! 検証であたま使ってお腹が空いちゃったんだから……!」
顔を真っ赤にしながらそう喚くアーシャ。
いや、別に旨そうに食ってくれたから作り甲斐があって嫌な気分では無いんだけど……。
でもいったいお前の細い身体の何処にあの大量の肉が消えて行くんだ……?
これぞ七不思議の1つだな。
「アーシャは年取ったらデブババアになるニャ。……げふっ」
「ちょっとシュシュ! 私の倍くらいは食べた癖に、貴女にだけは言われたく無いわよ!」
「シュシュは別に大丈夫なのニャ。《獣人族》の中でもシュシュは全然小食の部類に入るのニャし」
小食の部類……。
これで小食だったら食いしん坊の《獣人族》は一体どれくらい喰うのだろうか……。
「だ、だったらデボルは……!」
「私も《竜人族》の中ではかなり小食の方だな。うちの長だったらこの10倍は食べるぞ。しかも1日10回は食事を摂るしな」
まあ、《竜化》と《獣化》するようなとんでもない種族だからなこいつらは……。
人間族と同じ食卓に立つ時点でかなりの変り種なんだろうし。
「もう認めちまえよ。お前の腹ん中はブラックホールいででで!」
思いっきり頬を抓られ泣き叫ぶ俺。
おい!
誰か俺を助けろよ!
暴力女がここにいるぞ!
てか助けてください!
「仲が良いのだか悪いのだか……。昔っから変わりませんわね。このお二人も」
のんびりと笑いながらそう言うミレイユ。
お願い助けて……。
爪が食い込んでるの、爪が……。
「取り敢えず少し休憩したらナユタとローサを探しに行きましょう。そんなに遠くへは行っていない筈だから」
同じく俺達をスルーし、話を進めるレム。
あんまり無視するなら後でこっそりおっぱお揉むぞこの野郎!
「アルルの馬鹿! 馬鹿馬鹿馬鹿!」
「いでででで! いだいがらもうはなじで! ゆるじであーじゃ! いだい! じぬ!」
嗚呼……。
もうほっぺたに感覚が無い……。
痛みを超えて痛覚が麻痺して来ました……。
「まあ、気の済むまで夫婦喧嘩をしているんだな。ふわぁぁ……。喰ったらまた眠くなっちまったよ……」
トボトボとテントの中に戻って行くデボル。
それについて行くシュシュ。
ミレイユとレムは何だか食後の珈琲を飲みながら談笑し始めたし。
おい。
俺はこのまま放置ですか。
酷くね? 皆……。
◆◇◆◇
休憩後、探索を進めた俺達だったが、その日の午後も収穫は無く。
そして残りの肉と山菜を夕食に回し、就寝の時間となった。
「本当に良いの? 夜目が利く私の方が夜の警備には向いていると思うけれど」
「ああ。俺もちょっと考えたい事があるし、レムも昨日の今日で疲れているんだろう? 交代してもらいたかったらまた俺から声を掛けるからさ。取り敢えず今夜はゆっくり休んでくれよ」
「そう……。有難う、アルル……」
お礼を言い、テントへと戻って行くレム。
他のやつ等もこれくらい優しいこととか言ってくれれば、普段役に立たない俺だって張り切って夜の警備くらいはするんだけどな……。
『いい乳をしておるなあやつ……。羨ましい限りじゃ』
「(うお! びっくりした!)」
ギリギリの所で大声を出さずに済んだ俺。
同じ轍は二度は踏まない。
たぶん。
『よう。美女に囲まれた若いの。元気してたか』
「(……挨拶がもんのすっごく軽い……)」
予想通りティアラは皆が寝静まった深夜に現れた。
いや、深夜というにはまだ早い時間だ。
恐らく日が沈んだと同時に、気配を消してそこら辺にいたのではないかと推察する俺。
『ふわぁ……。眠いな……。というか腹が減ったぞ。ワシにも何か作ってくれんか、若いの』
「(幽霊も腹が減るのかよ! ていうか何でお前の食事の面倒まで俺が見なきゃいけねぇんだよ!)」
『……冗談じゃ。幽霊が飯を食うわけが無かろうて……。何をそんなに興奮しておるのじゃ? 何かあったのか?』
「……あった」
この様子だと本当に昼間は眠っていて何が起きたのかは知らないんだな……。
俺は昼間起こったことを掻い摘んでティアラに説明する。
『……成程な。どれ……』
何処からか取り出したあの杖を俺の頭上の空間にトントンする。
するとまたあの文字が俺の目の前に浮かび上がった。
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【命令士】 LV.3
『スキル』 おねがい LV.3
ささやき LV.7
絶対循守 LV.99
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「(あ……)」
この前見たのと少し変化している。
というかこれって――。
『ふむ。順調にレベルが上がっておるではないか。お主の《命令士》としての現在のレベルは3じゃな。これでお主は《命令スキル》である《おねがい》を使うことが出来る様になったという訳じゃ』
「やっぱり……」
『おや? その反応は既に《おねがい》を使用してみたのか?』
俺の様子に小首を傾げながらそう言うティアラ。
相変わらず年齢不詳の謎の女だな……。
「話違うけどさぁ。お前って生きていた時は一体何歳だったんだ?」
ちょっと話を脱線させティアラ自身の事を聞いてみる俺。
『ワシか? ……まさかお主、ワシに気があるのか?』
「違います」
『あそう……』
思いっきり凹んだ様子のティアラ。
いいから質問に答えろよババア!
『そんな不躾に女性の年齢を聞くお主もお主じゃが……まあよい。かれこれ1000回は年を越したとは思うが……』
「・・・」
うん。
なんか耳が悪くなったかもしんない俺。
1000とか途方も無い数字が聞こえたような気がしたし。
『今はあの頃と違い《種族戦争》も無いからの。魔王さえ打ち倒せば世界に平和が訪れると思い討伐の旅に出たまでは良かったのじゃが……このざまじゃよ』
「(マジかよ! え? ホントにババアだったのかよ!)」
『……そこまで驚かれるとワシ……立ち直れないかも知れない……』
地面にのの字を書き始めたティアラ。
マジで……?
顔の下半分とか布で隠してるから分からなかったけど、あの下は皺くちゃの顔ってことか?
うわー……。
「(……その布は取らないほうがいいよ、ティアラ)」
そっと彼女の肩に手を置き慰める俺。
幽霊だから手は置けないけど。
『失敬な! ワシかて《霊媒師》の端くれじゃぞ! 《若返りの魔法》くらいはマスターしておるに決まっておろうが! ほれ!』
急に立ち上がり顔の布を剥ぎ取り急接近して来るティアラ。
うわ……!
目の前に皺くちゃのババアの顔が…………あれ?
「・・・」
『の! ピチピチのお肌じゃろ! の!』
「お前……その顔……」
『なんじゃ! この顔じゃ不服か! どうせお主の周りは美女ばかりだからの! ワシなんて……ワシなんて……!』
いや、そうじゃなくて……。
え? 少女……?
どう考えても10歳かそこらの女の子の顔にしか見えない……。
え?
もしかしてお前――。
――あの巷で有名な…………ロリババアだったの……?
【登場人物⑦】
NAME/ティアラ・レーゼウム
SEX/女
RACE/???
JOB/霊媒師
SIZE/???
突如空から降ってきた謎に包まれた女性。
超がつくほどの希少な《霊媒師》という職業に就いている。
歴史上では先の《種族戦争》で暗躍したと言われている《霊媒師》だが詳細は不明。
生涯でたった一人に与えられる『絶対』の力――《命令の力》を授けると言われている。
ロリババア。