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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
新説 第参章 従者暗殺のオブストラクト
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LV.061 運命の分岐

 出陣式当日。

 早朝から首都ガロン官邸に緊張が走った。

 俺が政府に流していた情報どおり、魔王ガハトが100万の魔王軍を率いて人間族の領土に侵攻を始めたからだ。


 世界中の人々にも情報は通達され、またこれに対し政府は戒厳令を敷いた。

 各施設にあるギルドは緊急時には国民の命を守る兵士となり、所在する街々を守る盾となる。

 これはすでに人間族の領土内で暴れているモンスター化した元魔族に対する処置だ。


 モンスターには野生のものと、知能を失った種族から派生したものがいる。

 これは魔族に限ったことではなく、竜人族や獣人族にも存在する。

 魔王軍が大軍を率いて領土内に侵入すると、一時的とはいえ周囲の魔力濃度が急変してしまう。

 それにより狂暴化し、街に侵入するのを食い止めるのがギルドの主な役目だ。


「勇者アルル様、従者ユフィア殿。世界中から集まった戦士らお待ちです」


 総長のゼバスに促され、俺と姉さんは出陣式のために特別に建設された施設の屋上へと向かう。

 らせん状の階段を一歩上がるごとに、心臓の音が高鳴っていくのが分かる。


「ふふ、珍しいわね。緊張しているの? アルル」


 俺の後ろに続きらせん階段を上る姉さん。

 その声が俺の気持ちを安定させる。


「俺は姉さんみたいにいつも堂々となんてしていなかっただろう? 昔は人の前に出るのだってやっとだったんだから」


「あら、そうだったわね。懐かしいわ。いつもキサラ先生の後ろに隠れて、私が代わりに皆にアルルを紹介したりして……。あの頃のアルル、女の子みたいで可愛かったなぁ」


 昔を懐かしむ姉さんに少しだけふくれっ面で振り返る。

 それを見て優しく笑った姉さんだが、彼女の優しさはもう十二分に感じている。

 俺が不安そうにしていると、常に傍にいて気にかけてくれていた姉さん。

 それは前世でも現世でも変わらない。


「いつか私もお会いしてみたいですな。アルル様らを育ててくださったキサラ殿に」


「ええ、是非。この戦争が終わったら家にご招待しますね」


 ここ数日、ずっと険しい表情だったゼバスがこのときだけは表情を緩めた。

 魔王を倒し世界に平和が戻ったら、彼は総長を引退する決心を固めたのだ。

 俺の命令でそれを食い止めることは可能だったが、彼にも彼の人生がある。

 時期総長には巨竜兵長のレイヴンがすでに内定している。

 彼ならば人間族の代表としても相応しいだろう。


 階段を上りきったところで門の前で待機していた兵士が頭を俺達に下げた。

 そして扉が開かれ、眩いばかりの光が俺達を照らしだす。


「行きましょう、アルル。皆が貴方のことを待っているわ」


 俺の横に立った姉さんが手を差し伸べてくれた。

 その手をそっと握ると、姉さんは俺の前に跪いた。

 そして頭を垂れたまま俺の手を額に当て、彼女は呟く。


「……勇者オリビア様。どうかアルルをお守りください。そして私達に未来を。希望を。勇気を――」


 淡く光りが灯り、俺と姉さんを包み込む。

 これは姉さんのおまじないのようなものだ。

 小さい頃から魔法が使えた姉さんは、こうやって俺を安心させるためにおまじないを掛けてくれる。


「ありがとう、姉さん。俺のことはオリビア様が守ってくれる。だから俺は、姉さんを守るよ」


「うん。信じてる。アルルだったらきっと、私のことも、皆のことも幸せにしてくれるって」


 俺を見上げニコリと笑った姉さん。

 再び立ち上がり、眼下に広がる戦士達に視線を向けた。


 ――総勢70万の兵士達。

 人間族。竜人族。獣人族。エルフ族。そしてアルガンの民。

 周囲には近隣国から出陣式を見物に来た民間人もいる。

 恐らく200万近い人々が、勇者である俺を待っている――。


「姉さん」


「アルル」


 同時に互いを呼び、大きく頷いた俺と姉さん。

 一歩前へと歩み、皆の前に姿を現すと、広場全体に歓声が鳴り響いた。

 歓声は大空を駆け抜け、首都全体を包み込む。

 

 ――遂に、この日が来た。

 俺と姉さんの運命を大きく変える、重要な日が。


 拳を強く握り、大きく開く。

 そして聖剣デュラハムをゆっくりと抜き、天に翳した。


 それを合図に会場に集まった全ての戦士、そして全ての観衆が跪き、頭を垂れる。

 

 光に照らされた聖剣は、一筋の光を放つ。


 魔王軍が進軍を始めた、あの忌まわしき魔王城へと――。


「これより出陣式を行う!! 皆頭を上げよ!!」


 ゼバスの声が施設に広がり、皆が一斉に立ち上がった。

 そして再び歓声が沸き起こる。


 ――必ず、勝利する。



 その言葉だけを胸に、俺は――。


















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