表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
新説 第参章 従者暗殺のオブストラクト
60/65

LV.058 日々の鍛錬

 廃屋でのアーシャとの行為の後、俺達はその足で鍛冶屋へと向かった。

 そして店主にオリハルコンを託し、そのまま宿へと戻った。


「お帰りなさい、アルルさん、アーシャさ……うん?」


 ミレイユが俺とアーシャの様子の違いに気付いたのか。

 あどけない表情で俺達の周囲をぐるりと回った。


「な、なに……? ミレイユ……?」


「うーん……。アーシャさん、なにかいいことでもありましたかぁ?」


「べ、別になにもないわよ!」


「あ……逃げた」


 その場に俺とミレイユを残し、部屋の奥にいる姉さんたちの所へと向かったアーシャ。

 ……あれだけ顔が真っ赤だと、何も隠しきれていないとは思うが。


 アーシャを見送ったミレイユは、今度は俺に向き直り、真面目な表情で語る。


「……アルルさんも知ってのとおり、彼女の性格はああです。やはりアーシャさんだけグレイスキャットに帰すのは難しいかと」


「心配かけてごめんな、ミレイユ。それはもう解決したんだ。アーシャは一旦、故郷に戻ってくれるって」


「へ……? …………あー」


 何かを察した様子のミレイユ。

 そしてそのまま口元に手を当て、俺の耳元で囁く。


「(アルルさんも、なかなかやりますねぇ。女の子の扱いを心得ているというわけですかぁ)」


「(ば、馬鹿! そんなんじゃないよ!)」


 俺の反抗も空しく、ミレイユは嬉しそうな顔で微笑んだ。

 あの顔は、本当に俺達を祝福してくれている顔だ。

 俺達にとって、もう一人の『姉さん』であるミレイユ。

 ――いつか、ちゃんとミレイユにも報告したい。


「アルル様。鍛冶師のほうは見つかったのでしょうか」


 部屋の奥からレイヴンが現れ、ミレイユは彼と入れ替わるように部屋の奥へと戻っていった。


「まったく……ミレイユの奴……。ああ、この街一番の鍛冶師にオリハルコンを託してきた。鍛冶に丸一日かかるそうだから、今日はもう身体を休めることに専念しよう」


「そうですね。あの強敵との戦いの後にも戦闘に次ぐ戦闘でしたからね。たった三日の旅とはいえ、私も英気を養っておかねば」


 深くため息をついたレイヴン。

 彼には十二分に活躍してもらっている。


「予定では出陣式は7日後だったよな。アルガンの民から連絡は?」


「はい。彼らは明日には到着する予定だと。竜人族、獣人族、エルフ族の族長らも同じく到着予定のようです。メルシュ殿らアルガンの民の合流を期待しているとの報告も」


 事態は着々と、予定通りに進んでいる。

 しかし魔族以外の全種族から戦士を集めても、魔王軍100万には数で劣ってしまう。

 史実と同じ70万の兵に、アルガンの民、そして勇者となった俺やミレイユ、ティアラが加わったくらいだ。


 しかし、必ず勝利できる。

 犠牲者を最小限に抑え、俺は勝利を収めることができる――。


「今回は『竜姫』と噂される竜人族の猛者と、同じく『獣童子』と噂される獣人族の娘も参加するそうですからね。彼らの秘伝である『竜化』や『獣化』は、ごく一部の者しか使えないと聞きます」


「……そうか」


 俺はそれだけ答え、レイヴンの肩を叩く。

 不思議そうに俺の顔を見つめたレイヴンだが、本当のことなど知る由もない。


 ――まだ、俺達は知り合う時期ではない。

 早く彼女らと知り合い、互いに信じあい、助け合い、背中を預け合いたい衝動に駆られてしまう。

 でも、まだなんだ。

 俺はこれから、歴史を変えなくてはいけないんだから――。


ポン!


「いてっ!」


 物思いにふけていると、何かが頭にぶつかってきた。

 頭を押さえ、上空に視線を向けると、そこには天井に張り付いているティアラの姿が。


「……なにしてんの、ティアラ」


「よっと……。ああ、別に何でもないぞ。霊媒師としての日々の鍛錬じゃ」


「日々の鍛錬……ですか」


 天井から器用に床に着地したティアラ。

 というか、どうしてその『鍛錬』とやらで俺の頭を杖で小突く必要がある……?


「アルルよ。お前は考えていることが顔に出やすいのじゃ。どうせまた、運命を背負いすぎてナーバスになっていたのじゃろう?」


 そう答えながら、今度は俺の背中をよじ登ってきたティアラ。

 そして俺の肩の上に乗り、肩車みたいな形になって落ち着きました……。


「……別に、ナーバスになってなんか……」


「いいや、ワシには分かる。ワシだから、分かる。そんなワシだからこそ、お前の悩みを聞いてやれる。つまり、お前はワシに何でも包み隠さずに相談しなくてはならない。……で? 小娘はどうじゃった?」


「……」


 ……途中までいいことを言っている、とか思った俺が馬鹿でした。

 ティアラの顔を見上げると、興味本位いっぱいの顔で俺を見下ろしています。


「……聞きたいか、ティアラ」


「聞きたい! めっちゃ聞きたい! 今後の参考にぜひ聞きたい! 聞いて妄想して楽しみたい!」


「あら、なんか楽しそうね。私も混ぜてくれるかしら」


 ティアラを肩車したまま部屋の奥にいくと、姉さんが声を掛けてきた。

 その横にはアーシャが顔を真っ赤にしたままソファに蹲っている。

 が、ティアラの叫びを聞いたのか、姉さんを押しのけて慌てて俺の前に――。


「言ったの!? ティアラちゃんに言っちゃのアルル!?」


「あ、いや、まだ……」


「まだっ!? ていうことは、これから言おうとしていたのね!?」


「おう、そこの小娘。ワシのアルルに手を出すとは、なかなかやりおるなお主」


「手を出すっ!?」


 あー……。

 これはもう、駄目なパターンだ……。


「あら、アーシャ。だからそんなに顔を真っ赤にしてソファに蹲ってたのね。ふーん……」


「ち、違うわよ、ユフィアさん……! ちょっと、アルルもなんとか言って――」


「俺はアーシャのことが好きだよ」


「あ……うん。私も――ってそうじゃない! 馬鹿ー! アルルの馬鹿あああぁぁぁ! うわああぁぁぁん!!」


 再び両手で顔を押さえて、今度は宿から出て行ってしまったアーシャ。

 追いかけようかと一瞬悩んだが、俺と目が合ったミレイユが代わりに宥めに行ってくれるようだ。


「……はぁ。さすがに今日はもう疲れたな。降ろすぞ、ティアラ」


「うむ。許可しよう」


 ティアラを床に降ろし、さきほどまでアーシャが蹲っていたソファに腰を下ろす。

 その様子を嬉しそうに見下ろしている姉さん。

 本当はきっと姉さんも嬉しいのだろう。

 ミレイユと同じ顔をしているからすぐに分かる。


「で、教会のほうはどうだったの、姉さん?」


「ええ、すごく喜んでくれたわ。今は戦争の準備金にお金が掛かっちゃて、恵まれない子供達には回ってこないもの。これで少しは食べ物とか着る物に困らなければいいのだけれど」


 椅子に腰を下ろした姉さんは、教会での出来事を嬉しそうに話してくれる。

 俺と姉さんも孤児院の出身だから、子供たちの気持は痛いほど分かる。


「キサラさん、元気かなぁ」


「ふふ、きっと元気よ。戦争が終結したら、真っ先に挨拶に行きましょう」


「うん」


 姉さんと会話をしていたら、少しずつ瞼が重くなってきた。

 ティアラの言う通り、少しだけ疲れてしまったのかもしれない。


 ――これからが、一番大変な時だ。


 ひとつひとつ、歴史を細かく整理していこう。

 俺がもう一度『時間跳躍』を使える可能性は低い。

 つまり、もう俺は失敗が出来ない。


 姉さんとティアラが談笑しているのが、遠くに聞こえてくる。

 

 俺は瞼の重さに耐えきれず、そのままゆっくりと眠りに落ちた。

















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=454028032&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ