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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
第一章 絶対循守のインジャンクション
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LV.005 間一髪死ぬところでした

「重い……」


 デボルの竜槍はマジで重い。

 何だか先祖代々『竜人族』で受け継がれてきた由緒正しき竜槍なんだとか。

 名前なんつったっけな……。


 とにかく、重い。


「おいアルル……。引きずるなと何度言ったら……」


「無理だろ! 持てねぇよこんな重い槍なんてよ! ていうか箸より重いものは持てないっつの!」


「あ、いや……。開き直られても困るのだが……」


 この大女は何故こんなに重い槍を軽々と振り回せるのか。

 『竜の血』?

 たしかそんなのが関係してるとか言ってたっけ。

 俺、そこらへんとか詳しく知らないんだけど。



 俺がデボルと初めて会ったのは今からちょうど2年前。

 故郷の《ギルド》にふらっと現れ、あっという間に最高ランクのクエストをクリアした化物みたいな女。

 当時はかなり注目を浴びたけど、彼女が『竜人族』と判明した瞬間、状況は一変。


 要は種族間のいざこざが原因だ。

 

 この世界に存在する『人間族』『竜人族』『獣人族』『エルフ族』『魔族』。

 その他にも細かく言えばきりが無いほどに『種族』が存在している。

 レムみたいな『ダークエルフ族』とか。


 で、特に『人間族』と『竜人族』は仲が悪い。


 数百年にも及んだ《種族戦争》。

 その中でも最後まで争っていたのが『人間族』と『竜人族』らしいから。


 とっくに戦争が終わり、唯一『魔族』だけが暴れまわっている現代でも、やはり過去の遺恨は根強く残っているみたいで……。



「かなり森の奥まで来たな。そろそろモンスター共が湧いて来そうだが……」


 デボルが周囲を警戒する。

 俺は重い槍を引きずりながらも山菜や木の実はしっかりと回収しながら進んでいる。

 でもやっぱ食欲旺盛な彼女らの腹を満足させる為には『肉』が必要な訳で。

 ミレイユはまだしも、痩せの大食いのアーシャに《竜人族》のデボルと《獣人族》のシュシュがいるのだ。

 昨日のシチューもかなり大量に作ったのに、気付いたら俺の分がちょびっとしか残っていなかったし……。

 くそ……!


「あ、いた! あれは……《アクセルラピッド》じゃね?」


 俺の指し示す方角に視線を向けるデボル。

 

 《アクセルラピッド》。

 真っ白い毛の超大型の兎型モンスター。

 なのにその素早さは俺では目で追えない程だ。

 そして鋭利な爪。強靭な牙。

 もしも俺ひとりで遭遇したら即死レベルのモンスター。


「じゃあ、宜しくお願いします。デボルさん」


 重い重い槍をデボルに渡し、俺は《アクセルラピッド》に見付からない距離まで待避。

 あとは任せたよ!


「まったく……。良いのかお前はそんなんで……」


 溜息を吐きながら軽々と竜槍を担ぐデボル。

 頑張って!

 今夜は兎の肉だよ!


 そして気付かれない様ににじりにじりと距離を詰めるデボル。

 数は……4匹。

 恐らく一番奥で大きないびきを掻きながら寝ているのがリーダーだろう。

 額に傷があるのが見えるが、歴戦のツワモノなのだろうか。

 でも、相手が悪かったね。


 手前の3匹が耳を立てるのが見える。


「(おいデボル! 気付かれたぞ!)」


パチン。


 俺の声に反応し、奥で寝ていたボスウサギの鼻提灯が割れる。


「あ」


「はぁ……。余計な真似を……」


 ヤレヤレといった表情でデボルが竜槍を構える。

 と同時に前方の3匹の《アクセルラピッド》が消える。


「さて……。眠気はばっちり覚めたし……」


 クルクルと頭上で竜槍を回すデボル。

 そしてあの3匹の兎野郎は消えた訳じゃない。

 俺の目には速過ぎて映らないだけ――。


「はああああ!」


『ギャギャンッ!』


 大きく横一文字に竜槍を振り抜くデボル。

 そして突如出現する真っ二つに引き裂かれた《アクセルラピッド》。


「流石デボル先生! 一撃で真っ二つ!」


「いいから隠れてろよアルル……」


 再度溜息を吐くデボルの頭上に2匹の白い影が。


『キイイイイイィィィ!』『キキイイイ!!』


「はっ! 猿みたいな鳴き声を!」


 デボルはそのまま振り抜いた竜槍を直角に地面に叩き付ける。

 どおん! という音と共に跳躍するデボル。


「《飛翔竜神斬》!」


 2匹の《アクセルラピッド》よりも更に高く跳躍したデボル。

 そしてお得意の《槍撃士ランサー》のスキルを使用。


『ギャギャン!』『キャンッ!』


 目にも止まらぬ斬撃であっという間に三枚に下ろされる《アクセルラピッド》。


「おっしゃあああ! ナイスデボル! さ、回収回収……」


 意気揚々と奴らのドロップアイテムを回収しに行く俺。

 最初に倒したモンスターからは『新鮮な兎肉(大)』が3つに『鋭利な兎爪』『欠けた兎牙』がそれぞれ1つずつ。

 そして今倒した2匹からは『新鮮な兎肉(大)』が計5つに『フサフサな尻尾』が1つと『鋭利な兎爪』が2つ。


 兎肉はお昼に消えるとして、爪と牙は鍛冶屋に持って行って《武具強化》に使うか売るか……。

 尻尾は裁縫店に持って行って《服》の素材にするか《アクセサリー》の材料にでもなるのかな……。


「おい馬鹿! まだ出てくるなアルル!」


「へ?」


 俺の後ろに立つ巨大な影。

 あ――。


『キキイイイイイイイイイイイイ!!』


 ボスウサギが両手を振り上げ咆哮する。

 あれ?

 俺、死んだ――?


「《ブラスト・シュート》!」


『ギギ……!』


 振り下ろされた両腕に突き刺さる一本の矢。

 これは――。


「デボル!」


 森の木の上から女の声が響き渡る。


「ああ、ナイスだ! レム!」


 安堵した表情で再度跳躍するデボル。

 そして――。


「《竜刃一閃》!」


 そのままの勢いで縦に振り下ろされる竜槍。

 断末魔を上げる事無く、頭から真っ二つのボスウサギ。


「た、助かった……。死ぬかとオモタ……」


 ちょっとおしっこちびっちゃった俺。


「アホかお前は! 気が緩みすぎだぞ! 死ぬ所だったんだぞ!」


「う……」


 思いっきりデボルに怒鳴られる俺。

 その通り過ぎて何も言い返せない……。


「間一髪間に合ったわね……。良かった、無事で……」


 木の上から飛び降りてきた色黒の女。

 『ダークエルフ族』で《弓射士シューター》であるレム・ダークレイジ。

 胸の谷間にどうしても目が行ってしまう……。


「助かったよレム……。お前がいなかったら死んでたな俺……」


「本当よ全く……。たまたまナユタ達と逸れちゃって、森の奥で戦闘の音が聞こえてきたから覗きに来ただけだったし……」


「なんだと? ナユタ達は一緒ではないのか、レム?」


 口を挟むデボル。

 その間にちゃっかりとボスウサギのドロップアイテムを回収する俺。

 《新鮮な兎肉(特大)》が3つに《稀代の大兎牙》と《稀代の大兎皮》が1つずつ。

 これぐらい腹が据わっていないと冒険者なんてやってられないし。


「ええ。途中で逸れてしまったわ。そっちはどう? アーシャ達は無事なの?」


「ああ、あいつらは今テントで《結界》の対策を練っている。私達は食料調達をしにここに来たのだ」


「そう……。良かった……」


 ほっと胸を撫で下ろすレム。

 見た目はエロそうなダークエルフだけど、実は優しいお姉さん系ボインなんだよなレムって。

 ていうかどうして『ダークエルフ族』ってだけで周りからエロい目で見られるんだろうな。

 大抵そっち系の奴隷として売られたり、そっち系の商売をしている奴らが多いのも理由の1つなのかも知れないけど……。


「……ところでアルル」


「うん? どうしたレム?」


「……相変わらず私の顔じゃなくて胸を見ながら話すのね、貴方は」


 うん。

 だって仕様が無いじゃん。

 自己主張の大きい胸を持ったお前が悪い!


「取り敢えず食料の調達は十分だろ。一旦テントまで戻るぞ。アーシャ達も腹が減っているだろうし」


 デボルの提案に首を縦に振る俺達2人。


「……実は私も3日間くらい何も食べていなくて……」


 ぐうぅ、とお腹が鳴るレム。

 そして笑う俺ら3人。


「じゃあ、戻るか。……なあ、デボル。帰りくらいはこのクソ重い竜槍を持って行ってくれねぇか……? おねがい・・・・だから・・・


 駄目元でそうお願いしてみる俺。

 そして次の瞬間、空気がピンと張り詰める。


「え――?」


 一瞬、時間の流れが止まったかの様な感覚。

 え? なにこれ?

 今一瞬……世界の・・・風景が・・・白黒に・・・――。


「……ああ・・いいぞ・・・それぐらいの・・・・・・おねがいならば・・・・・・・


「へ?」


 デボルが……俺のお願いを聞いて……?


「……珍しい事もあるのね。アルルのお願いをデボルが素直に聞くなんてね……」


 何が起きたのか全く分らないといった様子のレム。


(……まさか、な……)


 そしてそのまま何事も無かったかの様にテントへと戻って行く俺ら3人。

 

 うーん……。


 また夜になったらティアラにでも聞いてみるか……。

















 

【登場人物⑥】

NAME/レム・ダークレイジ

SEX/女

RACE/ダークエルフ族

JOB/弓射士シューター

SIZE/B98W62H88


エルフ族の亜種である《ダークエルフ族》の女性。

後衛攻撃特化型である《弓射士シューター》という職業に就いている。

見た目がエロいダークエルフ族であるが、内心は優しい者が殆どらしい。

先の《種族戦争》では真っ先に敗退し、奴隷売買に利用されてきた歴史のせいか、今も尚奴隷や娼婦として売買されている者も多い。

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