表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
新説 第参章 従者暗殺のオブストラクト
58/65

LV.056 最強の素材

『ギョエエエェェェ!!』


 俺の聖剣が弱点である装甲の隙間にヒットし、うめき声をあげた【オリハルコン・シザーズスコーピオン】。

 全身の蔦を切り裂き、再び地面に潜ろうとする。


「させるか! 《迅雷じんらい》!」


 急に辺りに熱い雲が立ち込め、雷鳴とともにサソリに向かい雷が落ちた。

 その瞬間、身動きを止めたサソリ。


「お? こやつ雷属性が弱点かの」


「アーシャ! 姉さん!」


 すでに剣を抜きこちらに向かってきている彼女らの名を叫ぶ。

 そして俺自身も再び跳躍した。


「《シルバスター・ラッシュ》!!」

「《無速の剣閃ディメンション・ブレイド》!!」


 飛び退いた俺の背後からアーシャと姉さんの猛攻がサソリの弱点にヒットする。

 俺は上空で聖剣を構え、目を瞑り詠唱を始める。


「――《聖なる灯火ブレイズン》」


 巨大なサソリを覆うように炎が舞い上がった。

 俺たちは一旦その場を退き、様子を眺めることに。


『グググ……! ギシャアアァァァァ!!』


 叫び声と共に炎を打ち消したサソリ。

 そして徐々に緑色の光に包まれ、傷ついた身体が修復されていく。


「何なのよあれ……! あれじゃいくら攻撃したってキリがないじゃないのよ!」


「アルル。あの『自動回復』を止める良い手はないかしら?」


 喚き散らすアーシャと冷静に質問してくる姉さん。

 俺は少し考えた素振りを見せ、彼女にこう答えた。


「……ひとつだけ、ある。上手くいくかはやってみないと分からないけど」


 それだけ答え、俺はティアラに目で合図を送った。

 その間にミレイユが俺たちの傍に辿り着いた。


「ミレイユはこのまま《防御強化シールドレイン》を使い続けてくれ。奴のあの巨大な鋏は一撃でも喰らったら致命傷になるだろう。奴の間合いには決して入らないように」


「わ、分かりました……!」


「アーシャはミレイユを守りながら、俺の合図とともに『奥義』を使用して欲しい。一発大きいのをかましてくれ」


「分かったわ! どでかいのをお見舞いしてやるんだから!」


 ミレイユとアーシャの返事に満足した俺は姉さんに振り返る。


「姉さんはこのまま俺と奴に向かってくれ。足止めや拘束系の魔法はティアラが得意だから、姉さんは確実に奴にダメージを与えてくれると助かる」


「ええ、分かったわ。『自動回復』のほうはアルルに任せてもいいのね」


 彼女の言葉に首を縦に振った俺。

 全員と視線を合わせ、再び地面を蹴る。


『ギッギッギッ!!』


 回復を終えたサソリは大きな鋏を上空に掲げ、何かの魔法を詠唱しているように見えた。

 そして徐々に奴の足元から鉄格子のようなものが生えてくる。


「《鋼の檻》か! そんなものはわしがさせん! 《塗壁ぬりかべ》!!」


 上空から巨大な壁が落下し、次々と檻を破壊していく。

 その間に奴の足元まで辿り着いた姉さんは、華麗な剣さばきで弱点にダメージを与えていった。


『ギイイイィィィ!!』


 たまらず尻尾を振り上げたサソリ。

 槍のように鋭い先端には紫色の毒が塗られているのが見える。


「あれが毒を使った《ポイズン・アタック》ね。本当、相手の手の内が読めるとこんなに戦うのが楽だなんて……」


 サソリの動きを読み、難なく攻撃をかわした姉さん。

 振り下ろされた尻尾の隙間に数撃加え、さらにサソリは悶絶する。


『ギイィィ……』


「アルル! また奴が『自動回復』を使うぞ!」


 ティアラの叫びが聞こえるが、俺はすでに射程範囲内に入っていた。

 姉さんに聞こえないよう、俺は奴にこうつぶやいた・・・・・


回復を使うな・・・・・・攻撃を行うな・・・・・・防御を捨てろ・・・・・・


 世界が白黒に変わる。

 一瞬だけ時間が停止したが、その間に3つの『命令』を使用した。


 さあ、どういう結果が出るか――。


『……ギギィ』


 時間が元に戻り、世界が動き出す。

 しかし、サソリは小さく唸るだけで回復行動を行わない。


「姉さん! ティアラ!」


 俺の掛け声で2人が同時に攻撃を仕掛ける。

 それに反応し、反撃を開始したサソリ。

 しかし彼女らの攻撃を防ごうとはしなかった。


(3つの命令のうち2つは発動したか……。しかし、これで――)


 俺はミレイユを守っているアーシャに振り向き、彼女の名を叫んだ。

 大きく頷いた彼女は、そのままサソリに向かい猛突進を仕掛ける。


「もう一度行くぞ! 《迅雷じんらい》!!」


『ギギギギ……!!』


 ティアラの雷属性攻撃により身動きがとれなくなったサソリ。

 そこにアーシャと姉さんの奥義が炸裂する。


「はああああぁぁ!!! 《牙突煉真斬ブースター・ラッシュ》!!」

「業火にその身を焼き尽くされなさい……!! 《聖なる業火の宴ラスト・ブレイズン》!!」


『ギシャアアアアアアアアァァァァァァ!!!』


 一際大きく叫び声をあげたサソリ。

 それでも弱点部位を曝け出したまま、防御も回復も行わない。


「ティアラ」


「分かっておるわ!」


 俺の合図と共にティアラが同時に跳躍する。

 そして奴の目をめがけて急降下し――。


「《巨人ジャイアント破砕クラック》!!」

「《咎人断罪の勇剣断オルタナティブ・ブレイド》!!」



『ギシャアアアアアアアアアアアァァァァァァ!!!!!!』



 ――そして最後は断末魔の叫びを上げ、消滅していったのだった。





「はぁ、はぁ……つ、疲れたぁ……」


 その場にへたり込んだアーシャ。

 全ての力を出し尽くして、精も根も尽き果てたのだろう。


「おお! 宝の山じゃぞ! 『オリハルコン』に金もたくさん……!」


「お金……?」


 ティアラの言葉に眉を吊り上げたアーシャ。

 今しがた討伐した【オリハルコン・シザーズスコーピオン】が消滅したあとには、多くのモンスター素材とGが溢れんばかりに出現していた。


「うわわ……! なにこれ……! い、1000万G!?」


「この素材も高級素材ばかりね。これも売れば、全部で1000万Gくらいになるんじゃないかしら」


「合わせて2000万……! ブクブクブク……」


 姉さんの言葉に泡を吹いて気絶してしまったアーシャ。

 俺も一回の討伐でここまでの高額報酬を得たことは一度もない。


「これだけあれば、戦争孤児にもある程度は行き渡るけど……」


 そう言い俺の顔を覗き見た姉さん。

 俺はため息を吐き、笑顔でこう答えた。


「分かってるよ姉さん。首都ガロンに到着したら全額教会に寄付しよう」


「ほ、本気ですかアルルさん……!」


 俺の言葉に驚いた様子のミレイユ。

 でも、最初から姉さんがこう言うことは分かっていた。


「でも寄付するのはお金全部と、素材の残り・・・・・だ。向うに到着したら姉さんの武器を新調する。それでいいかな」


 これから魔王軍と戦うにあたって、姉さんの武器では彼女の実力を100%発揮できないだろう。

 オリハルコン製の武器だったら、彼女ももっと戦いやすくなるはずだ。


「うん。ありがとう、アルル。……でも、私の武器だけでいいの? アーシャの分は?」


 気絶したままのアーシャを介抱しながら、姉さんは質問してくる。

 俺は少しだけ考える素振りを見せたが、思い切って皆に伝えることにした。



「――首都で戦争の準備が済んだら、アーシャは故郷のグレイスキャットに帰すつもりだ」



 俺の言葉に、皆が驚いた表情を向けた。


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=454028032&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ