LV.053 仲間の強さ
料理を食べえた俺は食後の紅茶を用意する。
慌ててアーシャが俺と代わろうと立ち上がったが、今日くらいは俺がやってもばちは当たらないだろう。
「ふむ……。話には聞いていたが、おぬしの周りは見事に美女ぞろいじゃな。これが今後ますます増えていくとなると、色々と大丈夫なんじゃろうかの……」
「今後増えていくってなにが? ティアラちゃん?」
ティアラのひとりごとを聞き逃さなかったアーシャ。
幸いにも姉さんとミレイユは台所で食器を洗ってくれている。
聞こえたのはアーシャと俺だけだったようだ。
俺はアーシャに見えないように鋭い目つきでティアラを制した。
「う……こほん。まあ、なんじゃ。小娘もなかなかのものじゃな。もうちょっとあの綺麗系お姉さん2人みたいに淑やかな感じになれば、世の男どもは放っておくまい」
うんうんと頷きながらアーシャに向かいそう言ったティアラ。
「た、確かにユフィアさんやミレイユには大人の魅力があるわね……。落ち着いてるというか、余裕があるというか……。私たちも頑張らなくっちゃね、ティアラちゃん」
そう言いティアラの頭をぽんぽんと優しく叩いたアーシャ。
もう完全に自分の妹かなにかだと思っているらしい。
一人っ子だったアーシャはずっと姉妹を欲しがっていたのを思い出す。
「わしは十分大人じゃ! くそ、子供扱いしおってからに……!」
頬を膨らませてそっぽを向いてしまったティアラ。
その姿が可愛かったらしく、余計にキャッキャと騒ぐアーシャ。
「おいアルル! ぼーっと見てないでわしを助けろ!」
「え? あ、俺?」
5人分の紅茶を淹れおわった俺に助けを求めるティアラ。
「あー、そうだな……。アーシャ。お前、ティアラが仲間になったら『自分のステータスを知りたい』とか言ってなかったっけ」
「あ! そうだ!」
俺の言葉に食いついたアーシャ。
その仕草でほっとした様子のティアラ。
「ティアラちゃん、おねがいしてもいいかな」
「ああ、別に構わんぞ。その代り、今後一切わしを子供扱いしないと誓うのであればな」
「う……わ、分かった。でも、ティアラちゃん可愛いからつい……」
「『可愛い』のは許す。わし、可愛いから」
何だか知らないけど、嬉しそうなくすぐったそうな複雑な表情でそう答えたティアラ。
そして気分を良くしたのか、霊杖を召喚させてアーシャの頭上の空間を叩いた。
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【NAME】アーシャ・グランディス/LV.29
【JOB】細剣士
【HP】2560/2560
【SP】4400/4400
【MP】0/0
【ATTRIBUTE】『風』
【TYPE】『突』
【SKILL】『シルバスター・ラッシュ/LV.31』『デルタ・アタック/LV.14』『ウインド・カッター/LV.10』
【MAGIC】---
【SECRET】 『牙突煉真斬/LV.7』
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「うわ、すごい……! 本当に『強さ』が表示されてる……!」
驚きのあまり声を上げたアーシャ。
そしてステータスを見ながら説明を始めたティアラ。
「ほう、レベルは29か。細剣士の攻撃タイプは『突』じゃろうから、おぬしの属性の『風』とも相性は良いな。それにこの奥義はシルバスターなんたらの上位版といったところか」
「う……これ、本当にすごいわね……。相手の持っている特技や魔法だけじゃなくて、奥義まで判明しちゃうなんて……。ティアラちゃんの言うとおり、私が訓練校時代に習得した奥義は『シルバスター・ラッシュ』を熟練して強化させたものだよ。威力はこっちのほうが桁違いに高いんだけど……」
ティアラの指摘に応えたアーシャ。
そこにちょうど洗い物を終えた姉さんとミレイユが加わる。
「ありがとう、姉さん、ミレイユ。はい、紅茶」
「ふふ、ありがとうアルル」
「いただきます」
2人とも紅茶を受け取り席に座る。
どうやら途中からティアラたちのやりとりを見ていたようだ。
「どう? 姉さんもステータスを表示させてもらったら? ミレイユもさっきやってもらったし」
「そうなの? へぇ、なんだか面白そうね。お願いできるかしら、ティアラちゃん」
姉さんの言葉に気を利かしたアーシャは、彼女と席を代わることに。
「……おぬしがアルルの姉の……ふむ」
何故か考えるような素振りをしたティアラだったが、すぐに思い直したように霊杖を振るった。
アーシャと同じように姉さんの頭上にステータスが表示される。
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【NAME】ユフィア・ベルゼルク/LV.42
【JOB】従者
【HP】8640/8640
【SP】12700/12700
【MP】5420/5420
【ATTRIBUTE】『炎』
【TYPE】『斬』
【SKILL】『無速の剣閃/LV.50』『無慈悲の剣断/LV.35』
【MAGIC】『神なる欲望/LV.36』『聖なる灯火/LV.25』『天なる裁き/LV.22』
【SECRET】 『聖なる業火の宴/LV.10』
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「うわ……」
「すごいですね……」
姉さんのステータスが表示された瞬間、アーシャとミレイユから溜息がこぼれた。
俺も彼女のあまりの強さに鳥肌が立ったくらいだ。
「炎属性を持つ勇者の血族、か。おぬしが従者ではなく勇者であったのなら、『勇者オリビアの再来』と世間は騒いだのであろうな」
「あら、ティアラちゃんはオリビア様を知っているの?」
姉さんの意外な答えに俺とティアラは押し黙ってしまう。
「あ、ごめんね。私、小さいころからずっと憧れだったの。『炎の勇者オリビア』といえば、英雄ゼバスとともに学校の教科書にも載っているくらい有名なひとじゃない? でもまさか、私も彼女と同じ炎属性を持っているなんて、なんか嬉しいなぁ」
彼女の言葉に大きく息を吐く俺。
もしも小さいころに勇者オリビアと姉さんが面識でもあったら、それが理由で『もう一人の命令士』に狙われた可能性も捨てきれない。
奴の狙いは定かではないが、『勇者』『魔王』『霊媒師』『命令士』のどれかに深く関わる人物に接触していることだけは間違いないのだから。
「……こほん。とにかく、おぬしの強さは一騎当千レベルじゃな。まあ、本来従者とは勇者と変わらん力をもつ者に与えられる『職』じゃから、当然といえば当然なのじゃが……さて」
そこまで言って、何故か俺を見るティアラ。
それに同調するように3人がニヤニヤしながら俺に視線を向ける。
「……なんでしょう」
「決まってんでしょうが! 最後はアルルのステータスを見るのよ!」
「うわっ!」
急に俺を押さえつけようとするアーシャ。
俺はそれを咄嗟に避ける。
「どうして逃げるのよ!」
「どうしてって、急に飛び掛かってくるからだろ!」
「大人しくしなさい! 今からあなたを丸裸にしてやるんだから!」
「ほう……。言いことを言うな、小娘。アルルを丸裸か……。ふふ……ふふふ……」
霊杖を構えながらティアラがすごい悪い顔をこちらに向けた。
鳥肌が立った俺はそのまま後ずさりをする。
「ね、姉さん……」
ここは従者である姉さんに助けを求めようと彼女に視線を移すが、俺はとんでもないものを見てしまう。
「うん? なあに?」
……彼女は、何故かロープのようなものを持っていた。
そしてその端をミレイユが持っている。
「さあ、アルルさん。恥ずかしがらないでください。私達がアルルさんを受け止めてあげますから」
そう言いニコリと笑ったミレイユ。
アーシャ、ティアラ。
ユフィア姉さん、ミレイユ――。
俺を笑顔で取り囲む4人の女。
なんだ、これ……?
「ち、ちょっと落ち着こう。な? ほら、別にステータスを表示するのは構わないから。でもロープとかは必要ないと思うし、皆のその笑顔とか、すごく怖いっていうか――」
そこまで言い終わった瞬間、俺の目の前は真っ暗になる。
色々な柔らかいものが俺の顔やら身体に押し付けられ、もう何が何だか分からない。
そして、誰か分からないが、どさくさに紛れて俺の身体を触っている奴がいる……!
なにしてんの……!!
――そして俺はもみくちゃにされ……これ以上は言いたくありません。