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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
新説 第参章 従者暗殺のオブストラクト
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LV.052 自慢の料理

 俺はひとり、日が暮れかけた街を歩く。


 姉さんとアーシャが宿に帰ってきたら、食事をしながら彼女らにティアラを紹介しよう。

 そして明日には共和国に戻り、軍本部と合流しなければならない。


 前世で姉さんは、たったひとりで軍と連携をとり魔王軍を退けた。

 それがどれだけ大変で、どれだけのものを犠牲にしてきたのか想像もつかない。


 訓練校を逃げ出した俺は、それからずっと何年も姉さんと連絡を取らなかった。

 そして数年ぶりに再会したのは、姉さんの葬儀のときだった――。


 姉さんの死に顔は穏やかだった。

 きっとゼバスが気を利かせて納棺師に頼み、綺麗な死に化粧を施してくれたのだろう。


 ――俺は『未来』を変える。

 そのために、この世界に時間跳躍とんできたのだ。


 未だに尻尾を見せない『もう一人の命令士』。

 アルガンの村でティアラから聞いた『元霊媒師』だという商人。

 彼はなぜ、霊媒師という職を辞してまで商人になったのだろう。

 そして彼のパートナーであった命令士は、本当に・・・不慮の事故で・・・・・・死んだのだろうか・・・・・・・・


 本来であれば時間跳躍は『絶対循守ダーク・ドレイク』の能力のうちのひとつだとティアラは言っていた。

 ならばその命令士が絶対循守ダーク・ドレイクを獲得していたとしたら、死の間際に・・・・・時間を跳躍し・・・・・・別の世界で・・・・・生きているのかも・・・・・・・・しれない・・・・


 俺はあの時・・・、もう一度人生をやり直したいと心から願った。

 そして時間を跳躍した。


 ならば、その命令士も――。


「……あ」


 考えごとをしていたら雑貨店を通り過ぎてしまった。

 俺は頭を掻きながら元きた道を戻っていく。


「はいはい、いらっしゃい。今日はそろそろ店じまいだから、全品半額にしとくよ」


 閉店間際だったのか、雑貨店に並べられた商品はすべて半額の札が貼られていた。


「鬱孤閨の卵に怪面鳥の肉か……。あ、玉王葱と獰猛牛の乳もあるじゃん」


 目についた食材を次々と手に取り、かごに入れていく。

 ここに米宝穀は置いていなかったが、確か宿で出された食事には米宝穀を使った料理がでてきたはずだ。

 オーナーに頼めば少しは分けてもらえるだろう。

 部屋の台所にも調味料が置いてあったのを確認済みだし、今夜はあれ・・を作るか……。


「毎度あり~」


 買い物を終えた俺はそのまま宿へと戻った。





「あ、お帰りなさい」


 宿に戻るとミレイユが俺を出迎えてくれる。

 部屋の奥に視線を向けると、ティアラは大人しく本を読んでいるようだった。


 姉さんとアーシャはまだ帰ってきていない。

 ならば早めに食事を準備しておき、彼女らが帰ってきたらすぐに食べられるようにしておこう。


「ミレイユ。ここのオーナーに頼んで『米宝穀』を分けてもらってきてくれないか。……ええと、5人分かな」


「米宝穀ですね。分かりました」


 部屋を出ていったミレイユを見送り、俺はさっそく買ってきた材料を台所に並べた。


「ほう、おぬし料理ができるのか」


 手際よく準備を進める俺に興味津々といった様子のティアラ。

 俺は手を休めることなく彼女に答える。


「ああ。前は・・アーシャ達のパーティの食事当番だったからな。最近は全然作らなくなったけど、たまにはいいだろ」


 玉王葱をみじん切りにし、怪面鳥の肉を一口大に切り分ける。

 慢陀羅油をひいた鉄鍋で肉を焼き、そこにみじん切りにした玉王葱を加えてさらに炒める。

 肉の香ばしい匂いが部屋に漂い始めたころ、ミレイユが米宝穀を持って部屋に戻ってきた。


「うわぁ、良い匂いですねぇ。はい、アルルさん」


「ありがとう、ミレイユ。ちょっとそこの調味料をとって」


 台所に設置された調味料箱から血茶負、薬師の奇跡、無重色の塩、くしゃみの出る粉を俺の指示どおりに取り出したミレイユ。

 その間に2人分の米宝穀を鉄鍋に入れ、4つの調味料と合わせてさらに炒めていく。


「おお! なんか知らんがうまそうじゃな!」


 鍋に顔を寄せ匂いを嗅いでいるティアラ。

 そんなに顔を寄せると火傷すると思うんですが……。


 炒め終わったころにはミレイユが気を利かせて5人分の皿を用意してくれていた。

 そのうちの2つに均等に盛り合わせ、俺は同じ工程をもう一度繰り返す。


「お前も手伝えよティアラ。この鬱孤閨の卵を割って、獰猛牛の乳を加えて混ぜてくれ」


「ほう、わしを頼るか。いいじゃろう。この卵を割ればいいのじゃな」


 ニヤリと笑ったティアラは何故か霊杖を召喚した。

 そして真剣な眼差しで杖を構えている。


「……なにしてんの」


「へ? なにって……割るんじゃろう?」


 キョトンとした表情でそう答えたティアラ。

 俺は何も答えずにミレイユに冷めた視線を送る。


「は、ははは……。あの、私がやりますから、大丈夫ですよ」


 苦笑いで卵を取り上げたミレイユは、手際よく卵を割っていく。

 そこに少量の獰猛牛の乳を加え、長箸で混ぜ合わせていく。


「よし、出来た」


 炒め終わった残りの3人分を器に盛り、もう一度鍋に慢陀羅油をひく。

 そこにミレイユに混ぜてもらった卵と牛乳を適量流し込んだ。


 少し火を通したらゆっくりと長箸で混ぜる。

 程よく半熟状態まで炒めたら鉄鍋をひっくり返し器に盛った。


「たっだいまー! お? なんか良い匂いがする……!」


 タイミングよく部屋の扉が開き、アーシャの声が聞こえてきた。


「ふふ、これはアルルの得意な『御武来栖おむらいす』ね」


 アーシャに続き姉さんが部屋に入ってくる。

 俺は彼女らを笑顔で迎えながら、残り4つの卵を手早く焼き上げた。


「ちょうどいま出来たから、さっそく夕食にしよう。そこでこいつを紹介するから」


 すでに勝手につまみ食いを始めていたティアラの襟を掴み、姉さんたちの前に掲げる俺。

 まるで拾ってきた猫のような姿のティアラに笑い出す3人。


「か、可愛い……! ティアラちゃんってこんなに小さい子だったんだ……!」


「あ、ちょ、おま……! 小さい子って、わしはお前のような小娘よりも遥かに年上――ぐえぇ!」


 アーシャに抱きしめられ、うめき声をあげたティアラ。

 それを横目に俺とミレイユは料理をテーブルに運ぶ。


「あらら、さっそくアーシャのお気に入りになっちゃったわね。つもる話もあるでしょうけど、せっかくアルルが作ってくれたんだから、熱々のうちに食べましょう」


 姉さんの言葉で全員が食卓に集まった。

 渋々ティアラを解放したアーシャだったが、ちゃっかり彼女の横に陣取っている。


「じゃあ、いただきまーす」


 俺の掛け声と共に皆が食事を始めた。


「うわぁ、おいしいですぅ!」


「本当ね。久しぶりに食べたけど、まだまだ料理の腕は落ちていないわねアルル」


 ミレイユと姉さんに褒められ、悪い気がしない俺。


「ほら、ティアラちゃん。食べれる? あーん」


「ひとりで食えるに決まっておろうが! おぬしは一体何なんじゃ! わしをおちょくるのはいい加減に――むぎゅぅ……」


「可愛いー! ほんっと、ティアラちゃんかわいい!」


 恍惚の表情のアーシャに再び抱きしめられ、彼女の胸に完全に顔が埋まってしまったティアラ。

 手足をバタつかせているが、放そうとしないアーシャ。


「ほら、早く食べないと料理が冷えてしまうわよ」


「うぅ……。はーい、ユフィアさん」


「ぶはっ!! わ、わしを殺す気かっ!! 窒息するとこじゃったわ!!」


 肩で息をしているティアラに微笑みを返したアーシャは、幸せそうにオムライスを口に運んでいる。



 俺は彼女らのやり取りを眺めながら、たまには手料理もいいかなと心の中で感じていたのだった――。


















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