LV.050 時間の跳躍
アルガンでティアラと再会した俺は、今までの経緯をすべて彼女に打ち明けた。
族長であるメルシュもその場にいたが、彼女はティアラと旧知の仲というだけあり『命令士』の存在や能力にも詳しかった。
ならば今後俺達と共に魔王軍と戦ってもらうためにも、俺の『前世』を聞いてもらう必要がある。
一通り話を聞き終えたメルシュはその場に俺とティアラを残し、騒ぎつつある村の者に事情を説明するために外へと出ていった。
「……話はよく分かった。しかし、まさか『時間跳躍』の命令とはな。おぬしの話を聞く限りでは、まだおぬしは『命令士』として本来の力を覚醒しきれていないということじゃが……どれ」
再びどこからか取り出した霊杖を俺の頭上に振りかざすティアラ。
そして何もない空間を叩くようにして、俺の『ステータス』を表示させる。
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【命令士】 LV.75
『スキル』 おねがい LV.3
ささやき LV.7
ゆうわく LV.18
時間跳躍 LV.32
あやつる LV.45
つぶやく LV.53
みつめる LV.62
きょうめい LV.70
絶対循守 LV.99
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「新しい『命令』が4つ……。レベルは75か……」
俺が時間跳躍をするまでに覚えていた『命令』は「おねがい」「ささやき」「ゆうわく」の3つだけだ。
その後、5年前の世界に辿り着き、今に至るまでにさらに4つの『命令』を獲得したことになる。
「やはりな。おぬしはまだ『絶対循守』を獲得しておらぬ。本来であればこの『時間跳躍』は絶対循守の命令の中のひとつなのじゃ。しかし魔王の娘に身体を乗っ取られ、極限状態にあったおぬしは――」
「――まだ獲得していない『絶対循守』の中から、時間跳躍のスキルだけを発動できたってわけか」
俺の言葉に首を縦に振ったティアラ。
「時を遡ることは『命令』の中でも最上級であることはおぬしにも分かるじゃろう。なにせ命令対象が『時間』なのじゃからな。絶対循守を獲得しておらん状態で時間に命令を下せるなど、それだけでも前代未聞の話なのじゃが……ふむ」
顎に手を乗せ何かを考え込む素振りを見せるティアラ。
俺は彼女が口を開くのをじっと待つ。
「『もう一人の命令士』、か……。わし以外にも現存している霊媒師は確かにおるが、奴はもう現役を引退し、命令の力を与えた者もとうにこの世を去ったと聞くが……」
「ティアラ以外にも霊媒師がいるのか?」
確か一人の霊媒師がその生涯で『命令の力』を与えられるのはたった一人だけだと、前にティアラから聞いたことを思い出す。
「ああ。じゃが、未だに生きておるのはわしとそやつだけじゃ。今は確か……どこかの国で商人をやっていると風の噂で聞いたな。数十年前に命令士のパートナーを作ったそうじゃが、そやつも不慮の事故でこの世を去ったとか」
「不慮の事故……」
もしもこの話が本当だったら、『もう一人の命令士』はこの世には存在せず、俺ひとりだけということになる。
しかし『時間』にすら干渉できる命令士であれば、別の時間軸からこの世界に飛んできたということも考えられる――。
とにかく、いずれその『商人』にも会わなくてはならない。
しかし、今俺がやるべきことは――。
「ティアラ。俺は人生をやり直すために、この世界に来たんだ。そのためにはお前の協力が必要だ。どうか、力を貸してほしい」
彼女の手を握り、俺は真剣なまなざしで彼女を目を見つめた。
「と、当然じゃ。わ、わしはおぬしの『パートナー』じゃからな。それにこれはおぬしだけの問題ではない。わしだって魔王の娘になんざ殺されとうないわ。霊媒師が霊体になってこの世を彷徨うとか、シャレにもならんし」
何故か頬を染め、目を逸らしたティアラ。
――いや、俺はその理由を知っているはずだ。
彼女もまた、俺に好意を持ってくれていた女性の一人なのだから。
「ありがとう、ティアラ。お前に再会できて本当に良かったよ」
「ぐっ……! そのキラキラした瞳……! 破壊力ぱないの……! も、もう分かったから手を放せ!」
無理矢理俺の手を引き剥がし、そっぽを向いてしまったティアラ。
その姿があまりにも可愛らしくて、俺は背後から彼女を抱きしめてしまう。
「どわっ!? や、やめんか! 年寄りをからかうんじゃない!」
顔を真っ赤にしながら手足をバタつかせるティアラ。
「ティアラは覚えていないかもしれないけど、俺たちはいつもこうやって抱き合ってたんだよ」
「い、いつも……!? だだだ抱き合ってた……!?!?」
「ああ。こうやってぎゅってやると、嬉しそうに頬を染めて、俺の目を見つめて――」
「な、ななななんてことをわしは……! は、恥ずかしい! いますごい恥ずかしいっ……!!」
「まあ、嘘だけど」
「嘘かああぁぁぁ!!」
俺の腕をすり抜け、そのまま顔から床に落ちたティアラ。
そしてすごい小さい声で何かを呟いている。
「……こんな小童に言葉責めされて……ちょっとドキドキしてるわし……。ああ……駄目だ……わし、駄目だ……」
メルシュが戻ってくるまでの間、彼女はずっとこのままの格好で嘆いていたわけで――。