LV.049 念願の再会
蛮族の村アルガン。
死を司る魔法を使う、死霊使い達の村。
飛竜に乗った俺達は約1日半かけてこの村の近くに到着した。
村の直前にある岬に飛竜を休ませ、村人らを刺激しないように徒歩でアルガンへと向かった俺とレイヴン。
閑散とした土地には褐色の肌の民族が多数存在し、肌の色が違う俺たちに敵意の視線を向けている。
リベリウス連邦国に入国してからすでに4日が経過している。
ここでティアラを見つけ出せなければ、彼女抜きで魔王軍と戦わねばならない。
村の入口で槍を構えた褐色の肌の青年2人に足止めされた俺とレイヴン。
「俺達の村に何の用だ。今は大事な儀式の最中だ。よそ者は出てい――」
「通してくれ。ここに俺の仲間がいるはずだ」
最後まで青年の言葉を聞かず、俺は『おねがい』を発動した。
世界が暗転し、一瞬だけ時が止まる。
その間にもう一方の青年に対し俺は『目』を使用した。
時が動き出す瞬間、青年は口を開いたまま俺からの指示を待っている。
「霊媒師ティアラ・レーゼウムはこの村にいるか?」
「あ……う……」
俺の質問にうまく答えられない様子の青年。
これは『命令』が不発しているのではなく、知らないから答えられないという症状だ。
俺は質問を変え、もう一度『目』を使用した。
「今、大事な儀式の最中だと言っていたな。神事を行っているのは誰だ」
再び世界が暗転し、命令が発動する。
「……顔を隠した女……。名前は知らない……。族長が正体を知っている……」
「そうか。ならばお前たちはここで待っていろ」
青年の発した言葉に満足した俺は別の命令を下した。
そのまま彼らを素通りし、村の中へと足を踏み入れる。
「レイヴン。俺はこのまま族長の家に向かう。お前は他の村人に事情を説明し、こちらに敵意がないことを伝えてくれ。余計な血は流したくない」
「はっ、アルル様の仰せのままに」
俺の言うとおりに行動を始めたレイヴン。
徐々に集まりつつある村人らを集め、こちらに敵意がないことを説明し始めた。
(ティアラ……。いるのか、この村に……?)
村の中を黙々と進み、呼び止められそうになると『命令』を発動し、村人らをその場に留まらせる。
今は儀式の最中というだけあり、村内は人はまばらだ。
これならば『命令』を共鳴させる必要はない。
(あれか……)
村の一番奥に一際大きな建物が見えた。
俺はそこまで一直線に向かい、扉を開ける。
――中には誰もいない。
建物から外に出ようとしたが、首筋に冷たいものを押し付けられ一旦停止する。
「……何者だ? ここが族長の家だと知っていて、無断で立ち入ったのか?」
小さな刃物の先を押し付けられ、それがククリナイフだと気付く。
(女……? しかし俺に気配を気付かれないように近づくとは、この村の用心棒か何かか?)
俺は敵意が無いことを示すため、両手を上にあげ口を開く。
それと同時に賊の耳元で『ささやき』を発動した。
「怪しい者ではありません。人を探しているだけです」
白黒に世界が変化し、時間が止まる。
その間にククリナイフを喉から引き離し、女の顔を確認する。
まだ幼さの残る顔立ち。
肌の色からこの村の人間だと想像がついた。
再び時間が動き出し、女の表情が変わる。
「あっ……う……! な、なんだ、これは……! お前、ボクに何をした……!」
身をくねらせ悶える女。
『ささやき』により異常なほど性的感度が上昇し、頬を真っ赤に染めながら女は敵意剥き出しの顔で俺を睨みつけている。
「何もしていませんよ。何かしたのは貴女のほうでしょう。いきなり刃物を俺の喉に押し当てて」
「うっ……! くぅ……!!」
そのまま膝から崩れ落ちた女。
俺は彼女の前に屈みこみ、『ささやき』を解除する。
「族長はどこにいったか知っていますか? 知っていたら教えて欲しいのですが」
『目』を使い、彼女の回答を待つ。
しかし、さきほどの青年のようにうめき声を出すだけで何も答えは帰ってこない。
諦めて別の質問に変えようと思ったところで、女がゆっくりと口を開いた。
「ぞ……族長は……ボク……だ」
「え?」
彼女の言葉を聞き間違えたのかと思い、もう一度質問する。
しかし、帰ってくるのは同じ答えだった。
(こんな少女が族長……? ……いや、確かこの村は……)
「入るぞ、メルシュ。いやー、今回の神事もそりゃぁ大変だった……」
「……」
「……」
急に扉が開き、入ってきた怪しい格好の女と目が合う。
口元を隠し、すっぽりとフードを被り。
全身に様々な装飾品を身に付けた、占い師のような出で立ちの女――。
「おおおおぬし! ここで何をしておる! ワシの旧友のメルシュに手を出すなど……はっ! まさか、おぬし! この村の輪廻転生の秘密を暴こうとする輩かっ!」
そう叫んだ怪しい女はどこから取り出したのか、身丈よりも大きな古びた杖を構え臨戦態勢だ。
「……ティアラ……」
俺は立ち上がり、彼女に一歩近づいた。
身の危険を感じたのか、同じように一歩後退する彼女。
「め、メルシュの次はワシを襲おうというのか……! くっ、貴様あれか! 巷で話題の偏愛主義者か! 確かにそこにおるメルシュもワシも幼女のような顔立ちじゃが、それが目的か! この野蛮人が!」
こちらが聞いてもいないことを次々と持ち出し、喚き散らしている彼女。
……間違いない。
こんな変人を、俺は2人と知らない――。
「ティアラ!」
「わっふ!?」
居ても立ってもいられなくなった俺は、そのままティアラに抱きついてしまった。
その拍子に俺と彼女は床に転がる羽目に。
「ぎゃー! 誰か助けてー! ワシ、賊に襲われてるー!」
ジタバタするティアラを、俺は抱きしめたまま放さない。
――ようやく、逢えた。
ずっとずっと逢いたかったティアラに、ようやく――。
「……あれ? 襲わないの? というかおぬし……誰?」
彼女の言葉が、心地良い。
もう俺はこれできっと、誰にも負けることはない。
今までの不安が一気に消し飛んだ俺は、笑顔で彼女にこう語りかけた。
「俺はアルル。アルル・ベルゼルク。――――君の『命令士』だよ」
『新説 第弐章 怪異少女のシークレット』 fin.
next 『新説 第参章 従者暗殺のオブストラクト』




