LV.048 団長の実力
首都ゼネゲイラにある監視塔。
そこに足を運ぶとレイヴンとともに一匹の巨大な飛竜が待機していた。
「お待ちしておりました、アルル様。さっそくアルガンに向かいますか?」
「ええ、お願いします。すいません、兵士長にこんなことを頼んでしまって」
周囲にいる部下の手前、遠慮がちにそう礼を言っておく。
勇者である俺に不信感を抱いている者はまだ見受けられないが、勘の鋭い者がいないとも限らない。
(最低でも魔王軍を撃破するまでは、俺が『命令士』であることを隠し通さなければ……)
「カイト。後のことは頼んだぞ」
「はっ、お気をつけて。レイヴン様、アルル様」
巨竜兵団の一番隊隊長、カイト・シルバリオン。
俺が命令を仕掛けた3人の兵士のうちの1人だ。
俺の不在時に何か起きたときは、命を張ってでも姉さんらを守るように『命令』を掛けてある。
「では、アルル様」
レイヴンが手綱を引くと、飛竜が頭を下げた。
その肩に足を掛け、背中に乗る。
俺とレイヴンが背に乗ったのを確認すると、飛竜が大きく翼を広げた。
そして大きく翼を羽ばたかせ、俺たちは上空へと飛び立つ。
「行け!」
レイヴンの命令により猛スピードで空を滑走する飛竜。
さすがは『最速の獣』と言われる飛竜だ。
俺は振り落とされないように、しっかりと竜の鱗を掴む。
あっという間に首都ゼネゲイラが見えなくなり、ひたすら北へと向かう。
(……ティアラ……)
彼女に逢ったら、まず初めに何と伝えよう――。
飛竜の背に乗りながら、俺はずっとそのことだけを考えていた。
◇
丸一日北へと進んだ俺たちは、日暮れとともに近くの森で夜を明かすことにした。
薪に火を焚き、森で狩った猪の肉を焼き、飛竜に分け与えるレイヴン。
俺は残った肉と同じく採取した山菜を使い、軽く炒めてそれらを夕食とした。
「この調子ですと、明日の早朝にはアルガンに到着すると思います。見張りは私が付きますから、アルル様はお休みに――」
そこまで言いかけたレイヴンだったが、獣の気配に気づき巨竜剣を手に掛けた。
『グルルゥ……』
飛竜も牙を剥き出しにして唸っている。
きっと薪の火と肉の焼ける匂いにつられてきた猛獣だろう。
俺は聖剣を抜き、立ち上がろうとする。
しかし、それをレイヴンに制された。
「ここは私にお任せください。わざわざアルル様の手を煩わせるわけにはいきません」
立ち上がり巨竜剣を構えたレイヴン。
猛獣の数は恐らく……10は超えている。
しかしここでレイヴンの強さを把握しておくに越したことはない。
俺はそっとレイヴンに聞こえるくらいの小さな声でつぶやいた。
「お前の強さを知りたい。全力でいけ、レイヴン」
「承知いたしました」
言い終わると同時に地面を蹴ったレイヴン。
この真っ暗闇の森の中でどうやって猛獣らを仕留めるのか――。
『ガルルゥ!』
『ガウウゥゥゥ!!』
レイヴンを挟み込むように両側から襲い掛かってきた2匹の狼型モンスター。
それを素早く避け、さらに森の奥へと進んでいく。
(何故攻撃しない……?)
レイヴンの戦い方に興味を持った俺は、立ち上がり森の木々に飛び乗り戦況を見守ることにした。
『ワオオオォォォン……!』
狼の遠吠えによりレイヴンの周囲に次々とモンスターが集まっていく。
数は15に増え、徐々に彼との距離が狭まってきていた。
(あれは……わざとモンスターを周囲に集めて……?)
少しだけ開けた森までモンスターを誘導したレイヴンは、巨竜剣を構えたまま微動だにしない。
そしてついに彼を包囲した狼達が一斉に飛びかかっていった。
「――《竜殺・一閃》――」
一瞬だけ光を灯した巨竜剣。
そしてその巨大な剣が、飛びかかる狼を一刀両断する。
15もの数の猛獣が一瞬のうちに空中で弾け飛び、周囲に血の雨が降り注いだ。
あれが、巨竜兵団団長、レイヴン・クライシスの力――。
個対個ではなく、個対多に特化した戦術と能力。
その真価は戦場でこそ生かされるというわけか。
(集団戦を得意とする巨竜兵団を軸に部隊の編成を組めば……)
機動力の竜騎兵団。各個撃破で真価を発揮する獣斧兵団。
そして長距離射撃を得意とする弓撃兵団――。
ここに回復や補助魔法を特化させた魔法部隊が加われば、さらに勝率が上がる。
(ゼバスは魔法部隊は期日までには間に合わないと言っていた……。どこかに魔法が使える者がまとめて見つかれば、俺の『命令』で――)
「アルル様。敵の殲滅、完了いたしました」
レイヴンの言葉を聞き我に返る。
息ひとつ乱すことなく、俺の前に跪いたレイヴン。
「レイヴン、ひとつ聞きたい。この国に魔法に特化した者が住む街などはあるか」
「魔法に特化、でしょうか。それならば、これから向かう蛮族の村アルガンがいいでしょう。日々怪しげな儀式で我が国民を惑わし、金品を奪っている者もいると聞きます。恐らく人心を操る魔法を使っているかと」
「……そうか」
彼の言葉を聞き、口元にだけ笑みを零した俺。
上手くいけばティアラと再会できるだけでなく、魔法部隊を調達できるかもしれない――。
死者を祀る民族だと言っていたから『死霊使い』である可能性も高いが、魔力を有しているのであれば訓練次第でどうにでもなるだろう。
ティアラだったら、短期間で彼らを強化する術を知っているかもしれない。
「早めに休むぞ、レイヴン。明日中にティアラを見つけ出し、味方に引き入れるんだ」
「はっ。アルル様のご命令どおりに――」
静かになった森で俺とレイヴンの声が木霊する。




