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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
新説 第弐章 怪異少女のシークレット
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LV.045 歴代の勇者

「ようこそいらっしゃいました。我が国に勇者様がお見えになるのは12年ぶりですな」


 官邸に到着し、会議室へと招かれた俺は大柄な軍人に声を掛けられた。

 彼が首相のリノン・アルセイジ――。

 ゼバスの戦友というだけあり、戦場でいくつもの勲章を手にした、まさに『猛者』という風貌だ。


 周囲に視線を向けると、10人前後の側近が俺に対し目を光らせていた。

 ここで悪印象を持たれては今後の計画に支障をきたす。

 俺は当たり前のように腰に差した聖剣をはずし、後ろに立っているレイヴンに手渡した。


 軽く頭を下げ、宝物でも扱うように布を取り出し聖剣を包んだレイヴン。

 すぐさま別の側近がそれを受け取り、俺からだいぶ離れた場所で俺を監視するようだ。


「聖剣デュラハム――。懐かしいですな。私も前勇者オリビアやゼバスと共に戦地を駆け回ったものです」


 首相に促され、円状に設置された席に座る。

 『勇者オリビア』といえば、歴史の教科書にも出てくる戦乙女として有名な人物だ。

 前世でユフィア姉さんが勇者になったときも、戦乙女の再来か、との噂が世界中に広がった。


 彼女もまた魔王軍との戦いで命を落とし、その後12年もの間、新たな勇者はこの世に誕生しなかった。

 俺や姉さんのような『勇者の血族』は毎年、グレイスキャットにある訓練場に集められるが、要は卒業試験に合格した者がこの12年間ずっといなかったというわけだ。


「おっと、いけない。最近歳をとったせいか、よく昔話をするようになりましてな。……改めまして、勇者アルル殿。私はリベリウス連邦国首相、リノン・アルセイジです」


「アルル・ベルゼルクです。リノン首相のことはゼバス総長からお聞きしております。かつては『武神』と呼ばれ、数々の武勲を上げた猛者だと」


「はは、それは大昔の話ですな。ゼバスもよく現役を続けていられる。奴こそが本当の『武神』ですな。今もなおラグーンゼイム共和国で彼の右に出るものはいないと聞く。羨ましいかぎりです」


 そう言い軽く笑ったリノン首相。

 それに合わせて幹部らも遠慮がちに笑い声を上げた。


(リノン首相とレイヴンを合わせて、12人か……。距離的には問題ないが、ギリギリの数だな。ならば――)


 俺がリノン首相だけでなく、その場にいる全員に同時に『命令』を発動することに拘る理由――。

 それは、発動中に起こる『記憶喪失』にある。

 通常であれば、いわば副作用ともいえるこの症状は『命令士』という存在を隠すために重宝するのだが、同じ空間にいる者ごとに記憶の差異がみられれば、何かの術を掛けられたのだと察知する者が現れるだろう。


 その場にいる全員が同時にその間の記憶・・・・・・を失っていれば、問題は起きない。

 相手が仲間ではなく、軍関係者であればなおさら慎重になる必要がある。


「さっそくで申し訳なのですが、ゼバス総長から大体の話はお聞きいただいていると思うのですが――」


 リノン首相を見つめ、彼に目を合わせようとする。

 が、なかなか視線を合わすことができない。

 これは恐らく、意図的に俺の目を見ないようにしているのだろう。


(まさか……『命令士』の能力を把握しているのか……?)


 俺が『命令士』だという情報は、この世界のどこにも伝わっていないはずだ。

 知っている可能性があるのは、霊媒師であるティアラか、もしくは俺が追っている『もう一人の命令士』のみ――。


 一旦言葉を飲み込み、息を整える。

 まだ、結論を出すには早すぎる。


「ええ、もちろん伺っておりますぞ。しかし、あの話・・・には信ぴょう性が欠けますな。それがもしも本当であれば、世界中を巻き込む大変な事態となってしまいますから」


 周囲にいる幹部に配慮し、言葉を選んだ首相。

 あの様子から察するに、まだ側近にも話をしていないということか。

 まずは俺から直接この場で話をさせ、それを元に今後の対応策を話し合う算段というわけだ。


 俺はその間も脳をフル回転させる。

 先に『おねがい』を首相だけに発動し、俺の提案に首を縦に振ってもらうか――?

 ――いや、それだと後で個別に幹部らに命令を仕掛けても、やつらに記憶の祖語が生じてしまう。

 

 やはり、ここは先に『目』を使って――。


 俺は決心し、その場から立ち上がる。

 そして一呼吸置き、再び口を開いた。


「……『世界を巻き込む大変な事態』……。ええ、そのとおりです。今から数週間後、魔王ガハトが全魔族を・・・・率いて・・・大遠征を仕掛けてくるのですから」


 俺の言葉に幹部からどよめきが上がった。

 首相も予期していなかったのか、いきなり核心を話した俺に対し目を見開いている。


(今だ……!)


 その瞬間を見逃さず、俺は首相の目をみつめた・・・・

 世界が白黒に変わり、一瞬だけ時間が停止する。


 その間に、俺はもう一つの『命令』を発動する。

 この場にいる全員に、同じ効果が伝わるよう、共鳴・・させるように――。


 停止した時間の中、ぐにゃりと反転する世界。

 白と黒が混ざり合い、世界の理を無情にも破壊する。


 命令を共鳴させることにより、その効果が分散することはすでに検証済みだ。

 『死の命令』など身体や精神に関する命令は発現せず、意図しない結果が現れることもある。

 訓練校の教官らにかけた命令の時限装置もその類だ。

 姉さんに手を出そうと考えたときだけに発動するように仕掛けたのだが、『自害命令』は発動せず、精神汚染だけに留まった。


 共鳴により分散する命令の力は、その数に比例する。

 今この場にいるのは12人――。


 ならば、今の俺の力で同時に『命令』できることは――。



俺に力を・・・・貸してください・・・・・・・。勇者として世界を救うためには、あなた方の力が必要です。魔王ガハトを倒し、魔王軍を壊滅させるために――――」


















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