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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
新説 第弐章 怪異少女のシークレット
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LV.043 魔法の検問

 数十分ほど街の中をぶらつき。

 宿へと戻った俺は姉さんらを引き連れ、魔法検問所へと向かった。

 

 検問所では通行証の発行を待つ人々で行列が出来ていた。

 しかし一か所だけ、『政府専用』と書かれたエリアにだけは検問官以外に誰もいない。

 俺は迷うことなくその場所まで向かい、暇そうにしている検問官に声を掛ける。


「すいません、通行証の発行をお願いしたいのですが」


「……あぁ?」


 カウンターで頬杖を突き、ぶっきらぼうにそれだけ答えた検問官。

 訝しげな表情で俺の頭のてっぺんから足の先まで凝視したあと、少し後ろで待機していた姉さんらに視線を向けた。


「女を3人も連れて旅行とは、いいご身分だな坊主。でもな、ここは政府専用の検問所だ。坊主みたいな女ったらしが来る場所じゃねぇ。帰んな」


 そこまで言った検問官は姉さん、アーシャ、ミレイユと、順番に舐めるような視線を向け鼻の下を伸ばしている。

 俺は軽くため息を吐き、腰に差した剣を抜き、切っ先を検問官に向けた。


「なっ……!? 貴様、テロリストか……!」


 慌てて軍刀を抜こうとする検問官に、俺はそっとつぶやいた・・・・・


動くな・・・


 世界が白黒にゆがみ、一瞬だけ時間が停止する。

 そして俺の命令どおり、検問官はそのまま動きを停止し、引き攣った目で俺を見下ろしていた。


「はぁ……。よく見てくださいよ、この剣を」


 命令を解除し、目を白黒させている検問官に剣に刻まれた紋章を見せる。


「!! こ、この剣は……聖剣デュラハム……!! ということは、貴方は……!!」


 慌てて剣から手を放し、敬礼をした検問官。

 ようやく俺が勇者だと気付き、徐々に表情が凍りついていく。


「後ろの3人は俺の連れです。従者ユフィア・ベルゼルク、細剣士アーシャ・グランディス、治癒師ミレイユ・バーミリオンズ。リノン首相と会談をするためにグレイスキャットからここまで来ました」


「し、ししし失礼いたしましたぁ!! すぐに4人分の通行証を発行いたしますぅ!!」


 完全に裏返った声でそう叫んだ検問官。

 そして通行証を発行するための魔導具を使い、震える手で4枚の通行証を俺に渡す。

 俺はそれを受け取り、3人の元へと戻った。


「……なんかあの検問官、何度も何度もこっちに向かって頭を下げてるけど……何かあったの?」


 俺から通行証を受け取り小さな声でそう尋ねてくるアーシャ。


「ううん、別に。あ、でも姉さんとミレイユに見惚れてたみたいだから、嬉しくて頭を下げているとかじゃないかな」


「……どうしてそこに私の名前が無いのよ」


「いて! なんで俺の指を抓るんだよ!」


「なんとなくよ」


 アーシャに抓られた指を摩りながら、俺は残りの通行証を姉さんとミレイユに渡す。


「あーあ。こう目の前でイチャイチャされちゃうと、なんだかヤキモチを焼いてしまいますねぇ」


「ちょっとミレイユ!?」


「ふふ、そうね。でもまあ、アルルは昔から女の子に好かれるタイプだったから、それも仕方ないんだけど」


「ちょっと、ユフィア姉さん!?」


 アーシャと同じような格好で姉さんに食ってかかる俺。

 それを見てさらに笑い出した2人。


「ほら、何だか知らないけど、目立っているわよ。貴方達」


「へ……?」「え……?」


 姉さんに言われ周りに視線を向けると、確かに徐々に人だかりが出来はじめていた。

 集まってきた野次馬からは『勇者』や『従者』という単語が聞こえてくる。


「……さっきの検問官の仕業だな。口の軽い役人め……。行こう、みんな。騒ぎになる前に、『檻』を通過しよう」


 俺の掛け声とともに『檻』へと向かう俺と姉さんたち。

 そして淡い光に包まれ、そのまま国境線を抜ける。



「よーし、リベリウス連邦国にとうちゃーく」


 一足先に国境を越えたアーシャは俺たちに振り返りポーズをとった。

 その姿に一瞬見惚れてしまう俺。

 しかし彼女と目が合った瞬間、俺は頬を掻きながら目を逸らしてしまった。


「ほう……? その反応は、まさか……?」


 ニヤニヤしながら俺に顔を寄せてくるアーシャ。

 それを見て溜息を吐いている姉さんとミレイユ。


「もう、お腹いっぱいですねぇ」


「そうね……。さすがに、見ていられないわね」


 呆れた表情でそのまま先に行ってしまう2人。

 俺はアーシャを突き放し、慌てて姉さんらを追う。


「おい待てこの勇者! ぜーーったい、今わたしのこと『かわいい』って思っただろ! 認めなさいよー!」


 アーシャの嬉しそうな声が街中に鳴り響く。


 俺は今日このときほど、彼女に『命令』を掛け黙らせたいと思った日はなかったわけで――。





 国境の街シグルドの『北街』を抜け、そのまま北東へと向かう。

 ここから首都のゼネゲイラまでは徒歩で2日の道のりだ。


 丁寧に舗装された道は、途中でいくつかに分岐している。

 それぞれ主要な街や村に繋がっており、リベリウスでは当たり前の『魔物除け効果』が付加された道だ。


 大型モンスターや狂暴化したモンスターには効果が薄いが、世界協定の中心であるリベリウスで開発が進んだ、『世界で最も安全な道』――。

 各国にも導入が求められているのだが、やはりその妨げとなっているのが『魔族』なのだという。


 世界に混沌を齎したい魔族からしてみれば、平和に直結するような魔法技術は邪魔でしかない。

 魔王ガハト率いる魔王軍は、各国に試験的に配備されたこれらの設備を破壊し、凶悪なモンスターを放っているのだとキサラ先生から教わったことを思い出す。


「ほんっと、この国は平和よね。モンスターは寄ってこないし、どの種族も協力して生活しているし。さすがは世界協定の中心国。早いとこ、どの国もこれくらい平和になってくれたらいいのに」


 アーシャが俺が考えていたことと同じことを口にする。


「そうね。でもそのためには魔王を倒し、魔王軍を無力化しないといけないわ。世界協定は全種族が加盟してこそ、本当の平和を築けるものだから。もちろん『魔族』もね」


 アーシャの言葉に姉さんが続く。

 昔からずっと姉さんは言い続けてきた。

 魔王ガハトを倒せば、魔族も世界協定に参加してくれるはずだと――。


「もう過去のような『種族戦争』を引き起こしてはなりませんものね。魔王を倒せばきっと、今の人間族と竜人族のように、魔族とも仲良くできるはずです」


 姉さんの言葉に同意するミレイユ。

 彼女もずっと、姉さんの描いていた『夢』に賛同していた友のひとりだ。


「……」


 ――でも、俺はこれから起こる未来の出来事・・・・・・を知っている。


 魔王ガハトの死後、娘のルージュが後を継ぎ、魔族は再び世界に反旗を翻すのだ。

 奴らは決して屈服しない。

 手を差し伸べようとも、その手に噛みつくどころか喰いちぎり、自らの血肉に変え、世界に戦禍を齎す存在となるのだ。


 誰かが、それを止めなければならない。


 そしてそれが出来るのは――。


「……アルル?」


 俺の表情を見上げ、不安げな顔を見せたアーシャ。


「……ごめん、何でもないよ」


 俺はそれだけ答え、彼女に背を向けた。


 そして無理に笑顔を作り、3人に向き直り、こう言った。



「さあ、早いとこゼネゲイラまで向かおう。滞在予定は10日だ。首相と会談し、霊媒師ティアラ・レーゼウムの情報を入手するんだ」


















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