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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
新説 第弐章 怪異少女のシークレット
44/65

LV.042 戦友の言葉

「……ルル」


 ――声が聞こえる。

 これは、誰の声だろう……?


「ア……ル……。アルル! 起きなさいったら!」


「うわっ!」


 耳元で叫ばれ、慌てて飛び起きる。

 確か昨晩はテーブルに伏せたまま眠ってしまって、それで……。


「ふふ、おはようアルル。よく眠れた?」


 ユフィア姉さんの優しい顔とアーシャの鬼のような顔を交互に見比べる。

 背中には毛布が掛けられ、どうやらそのまま朝まで眠っていたことに気付く。


「ごめんね。なんかアーシャと2人でいい感じに寝てたから、毛布だけ掛けておいたの」


「いい感じってなんですか!? ユフィアさん!」


 顔を真っ赤にして叫ぶアーシャ。

 どうして朝っぱらからこんなに元気が良いのだろう。

 俺は両手で耳に蓋をし、その場から逃げるように洗面台へと向かった。


 冷たい水で顔を洗うと眠気が飛び、頭がスッキリしてくる。

 タイミングよく横から布を渡してくれる姉さん。

 俺はそれを受け取り顔を拭いた。


「今、ミレイユが朝食を取りに行ってくれているわ。さっきゼバス総長から連絡があって、リノン首相にはもう会談の了解を得ているって」


「そうか。ありがとう、姉さん」


 それだけ答え、再び席に着く。

 と、同時に部屋の扉が開きミレイユが朝食を運んできてくれた。


「あ、手伝うよ、ミレイユ」


 4人分の食事を乗せたカートから皿を取り出し、テーブルに並べるアーシャとミレイユ。

 姉さんも席に着き、俺の「いただきます」の合図とともに全員が箸をつける。


「でも、リノン首相といえばリベリウス連邦国のトップの要人よね。ゼバス総長の元戦友だって話だけど、それにしても会談までの話がとんとん拍子に進んでいるような……」


 食事に手をつけながら姉さんが先ほどの話を振ってくる。

 当然、俺は事前にゼバスに『命令』を仕掛けてある。

 タイミング良く会談の了承を得られたのも、首相とゼバスが旧知の仲だと知っていた上で、話を有利に進められるようにゼバスにおねがい・・・・をしたからに他ならない。


 リノン首相と面識はないが、実際に会ってしまえばそれで条件はクリアとなる。

 『会談』とは建前にすぎない。

 要は魔王軍襲来に備えて、ラグーンゼイム共和国に全面的に協力するよう、俺が『命令』すれば良いのだから――。


「ゼバス総長は国民の英雄だからね。友好国の英雄で、しかも戦友とあらば頼みを聞かないわけにはいかないんじゃないかな」


 サラダを平らげ、パンを頬張りながら俺は適当に答える。


「英雄ですかぁ……。確かにちょっと格好良いおじさまというか、渋い魅力を感じますよねぇ……」


「あら、ミレイユ。貴女、ああいった年上がタイプなの?」


 ミレイユの言葉に瞬時に食いついた姉さん。

 また昨晩のような展開になるのだろうか……。

 俺はさっさと朝食を平らげ、その場を離脱する。


「あ、逃げた!」


 後ろからアーシャの叫び声が聞こえたが、俺は振り返ることなく部屋を飛び出す。

 それとなく後ろに視線を向けたが、追ってこないところを見るとアーシャはあの2人に捕まってしまったということだろう。


 アーシャ……。


 後は、任せたぞ――。





 宿の外に出ると、強い日差しに目を細め、一瞬視界を奪われてしまう。

 昨晩と同じくらいの人でごった返している街。

 俺は街の中央に聳え立つ『檻』に視線を向けた。


 あれが、ラグーンゼイム共和国とリベリウス連邦国を分ける国境線だ。

 網目状に張り巡らされた魔法の糸が天まで伸び、いっさいの侵入を許さない『魔法の檻』――。


 しかし、まるでそこに檻など存在しないかのように、国境を行き来している人が大勢いる。

 彼らは通行許可を得た商人やギルドで働く傭兵、もしくは政府で働く役人だろう。

 魔族により世界情勢が圧迫している中、呑気に旅をする者などいるはずがない。


 俺はアーシャ達が食事を終えるまで、街をぶらつくことにした。


 この国境の街シグルドには様々な人種が住んでいる。

 同じ街とはいえ、国境により2つに分断されているため、北と南とでは種族に大きく差があるのも特徴だ。


 ラグーンゼイム側である『南街』には人間族やエルフ族が。

 リベリウス側である『北街』には竜人族や獣人族などが多い。


 そもそもリベリウス連邦国は世界協定の中心国という位置におり、種族や職業を超え、すべての人民に平等を掲げている国でもある。

 本来であれば、そこに『魔族』も含まれるのだが、魔王ガハトを中心とする魔族は世界協定の加盟を拒否した。

 数百年前に起きた種族戦争の遺恨を今でも残し、世界を破滅させようと目論んでいる魔族たち――。


 人間族と竜人族も最後まで争い合った種族戦争だったが、歴史上は和解したとされている。

 前世でデボルが俺たちと初めて出会ったときも、彼女と分かり合えるまでかなりの時間を費やしたのを思い出す。


(ティアラを仲間にしたら、彼女も……)


 前世でのデボルの最後の言葉を思い出す。


 『アルル。アルル・ベルゼルク。お前は……無能ではないぞ』

 『だから、負けるな。力の誘惑に……。魔王の陰謀に……。負け――――』


 彼女の言葉を最後まで聞くこともできず。

 俺は魔剣ニーベルングで彼女の身を貫き、殺してしまった。


 彼女は、死の間際まで闇落ちした俺に声を掛け続けてくれた。

 仲間を殺した俺を、憎んでいたはずなのに――。

 ルージュと融合し、快楽の海に溺れ、世界の滅亡を望んだ、この俺を――。


(……デボル……)


 彼女に再会したら、きっとまた彼女は俺を嫌うだろう。


 でも、今度こそ、俺は負けない。


 力の誘惑にも、魔王の陰謀にも。



 デボルが命を賭けて残してくれた言葉は、今でも俺の心に強く残っているのだから――。

















 

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