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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
新説 第弐章 怪異少女のシークレット
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LV.038 傭兵の登録

 一旦孤児院に戻った俺達は、育ての親であるキサラさんにお別れの挨拶をした。

 この孤児院で10年近く、俺と姉さんを育ててくれたのだ。

 前世で姉さんが死んだ後、俺は一度もキサラさんと会うことはなかった。


 あの頃の俺は、本当に歪んでいた。

 そこをルージュに付け込まれ、仲間を全員死なしてしまったのだ。


「本当に逞しくなって……。進呈式ではついつい涙が出てしまって、もう歳ですね、私も」


 キサラさんの暖かい手が俺の手に重ねられる。

 俺はその手を、力強く握り返した。


「ここも寂しくなりますね。だが、胸を張って君達を送り出そうと思います。アルル、ユフィア。決して死んではなりませんよ。仲間を信じ、共に生き抜くのです」


「はい、キサラさん。胸に刻んでおきます」


「本当に今までありがとうございます、キサラ先生。絶対に世界を平和にしてみせますから、安心してくださいね」


 俺とユフィア姉さんの言葉に何度も頷くキサラさん。

 もう一度彼の手をぎゅっと握り返し、俺達はその場を後にした。



 これから俺と姉さんはまず、霊媒師ティアラを探す旅に出る。

 神出鬼没の彼女を探し出すことは困難だが、当てがないわけではない。

 それに、彼女の持つ『霊杖オーディウス』。

 対象のステータスを確認できるあの神器を、彼女もろとも早めに手に入れておきたい。


「お疲れ様、アルル、ユフィアさん」


 孤児院を出た所でアーシャが俺達を出迎えてくれた。

 彼女が姉さんのことを「ユフィアさん」と呼ぶようになってから、早1年だ。

 それだけアーシャも成長したということだろう。


「あーあ。とうとう2人ともこの街から出ちゃうのかぁ。私まで寂しくなっちゃうな」


 手を後ろに組み、寂しげな表情でそう呟くアーシャ。

 彼女もまた、すでに細剣士フェンサーとして訓練校を卒業し、今ではこの街のギルドで傭兵として立派にクエストをこなしている。


「ふふ、アーシャ。そんなことを言って、本当はアルルと離れ離れになりたくないだけなんでしょう?」


「んなっ……!? ちちち違うよ、ユフィアさん……! 私は、そんな――」


 ユフィア姉さんの言葉を顔を真っ赤にしながら否定するアーシャ。

 確かに前世では、勇者となったユフィア姉さんはひとりこの街を去った。

 しかし、今世では俺が勇者で、姉さんは従者だ。

 この時点で、どの程度歴史が改変されているかは定かではないが――。


「なら、一緒に行くか、アーシャ」


「……へ?」


 俺の言葉に素っ頓狂な答えを返したアーシャ。

 あまり大きく歴史を変えてしまっては、俺の記憶に残っている『前世の歴史』が変化してしまう可能性がある。

 それだけは何とかして防ぎたい所だが、当然俺にも考えがある。


「ミレイユも連れて行きたい。良いかな、姉さん」


「え? あ、うん。私は別に構わないけれど……」


 俺の意図するところが上手く飲み込めていない様子の姉さん。

 しかし、それも仕方がないことだ。

 通常であれば、勇者と従者は軍本部へと向かわなければならない。

 魔王軍も活発に動き始めた今だからこそ、俺達が最前線に立たなければ兵士達の士気も上がらないだろう。


「大丈夫。本部のほうはゼバス総長に任せてあるから」


 重戦士ゼバス・リクエリア。

 勇者不在のこの12年間で、ずっと軍を指揮してきた猛者だ。

 先ほどの『命令』により、すでに彼は俺の計画どおりに動き始めている。


「うーん、まあゼバス総長だったら、大丈夫……かな」


 責任感の強い姉さんのことだから、きっと心を痛めているのだろう。

 しかし、俺の記憶どおりであれば、彼は決して死ぬことはない。

 前世で姉さんが死んだ後、再び軍を指揮していたのも、あのゼバスなのだから。


「本当に、私も付いて行ってもいいの……?」


「ああ」


「~~~~!!」


 声にならない叫びを上げるアーシャ。

 それを見た俺も、何故か嬉しさがこみ上げてくる。


「でも、その前にちょっと寄るところがあるんだ」


「寄るところ?」


 俺の言葉に首を捻る姉さん。


 俺は何も答えず、ただ笑顔で姉さんとアーシャを案内する。





「おう! アルルじゃねぇか! 最終試験見事だったぜ! くぅ~、俺ももっと若ければあんな大舞台で暴れてみてぇんだけどなぁ……!」


 街の中央にあるギルド。

 そこの扉を開けた瞬間、大柄の男が俺に声を掛けてきた。

 この街のギルド長、ブレック・シルベウド。

 アーシャに仕事を割り当てる、云わば『雇い主』のような存在でもある。


「寄るところって、ここだったのね……」


 大きく肩を落とすアーシャ。

 もしかしたら、何かを期待させてしまったのかも知れない。


「よう、アーシャ! なんでぇ、時化たツラしやがって」


「ブレックさんの顔を見たからですよーっだ」


 舌を出し、苦い表情でそれだけ答えるアーシャ。

 数ある傭兵の中でも、ブレックさんにこういった言葉遣いが出来るのはアーシャだけだと聞く。

 それだけ彼女はこのギルドで重宝されている『有力な新人』というわけだ。


「で? 勇者様と従者様がうちの新人エースを引き連れて、ここに何の用だ?」


 さっそく用件を聞いてくるブレック。

 俺が用意していた答え。

 それは――。


「『パーティ』の登録をしたいんです。リーダーはアーシャ・グランディス。副リーダーはミレイユ・バーミリオンズ。その他のメンバーとして、俺とユフィア姉さんの名簿も作って欲しいのですが」


「へ?」


 俺の言葉にまたしてもアーシャが素っ頓狂な声を上げる。


「アルル? これは一体……?」


 困惑するユフィア姉さん。

 今しがた『勇者』として進呈式を終えた俺が、街のギルドに加盟する――。

 通常では考えられない申し出に、ブレックも口が開いたまま塞がらないようだ。


「おいおい、アルル。お前はもう、この世界を背負って立つ『勇者様』なんだぜ? どうして、こんな辺境の街のギルドなんかに……」


「不可能ではない筈です。それに、すでに軍本部にも連絡はしてありますから」


「いや、そうだけどよ。しかし……」


 俺の目的――。

 それは当然、余計な部分で大きく歴史を変化させないことだ。

 アーシャとミレイユを連れていくということは、『本来、彼女達がこの街で生活をしていた』という歴史が変わってしまうことになる。


 前世で俺達のパーティを立ち上げたのはアーシャとミレイユだ。

 そこに無職だった俺が加盟して、次々と仲間が増えていった。


 俺はその『未来』を変えたくはない。

 ならば、ここでアーシャをリーダーに『パーティ』を編成しておけばいい。

 仲間達が、このギルドに集まれるように――。


「うーん……。まあ、勇者様の頼みとあっちゃぁ、断れねぇしな。それに軍本部にも通達済みなら、問題ねぇか」


 そう答えたブレックはカウンターの引き出しから一枚の紙を取り出した。

 これにそれぞれサインをすれば、晴れて俺達は『パーティ』として冒険に出掛けることが出来る。


「はぁ……。一体なーにを考えているのやら、さーっぱり分かりませんねぇ」


 文句を言いながらも書類にサインをするアーシャ。

 しかし、決して怒っている顔ではない。

 むしろ喜んでいるようにも見える。


「ふふ、アーシャったら……。じゃあ、私はミレイユを呼んでくるわね。この時間だったら向かいの花屋さんにいると思うから」


「うん。頼むよ、姉さん」


 ユフィア姉さんを見送り、俺も書類にサインをする。


「……で? お前らは一体、どこまでいったんだ?」


「……はい?」


 カウンターに肘を置きながら、にやけた表情で俺とアーシャの顔を交互に見るブレック。


「ぶぶぶブレックさん! ななな何を一体……!!」


「何って……お前らもいい歳なんだし、付き合いも長いだろう? 俺もよぅ、最近はほんと歳を食っちまったんだか、小さい子供とかみるとよぅ。顔が緩んじまってな」


 ブレックの言わんとしていることがいまいち掴めない。

 俺とアーシャの事と小さい子供が、一体何の関係があるっていうのだろうか。


「いや、聞いてくれよアルル。アーシャの奴な、ここに来るたびにお前の話ばかり――」


「シャーーーーーラップ!!」


「うごっ!?」


 鬼のような形相でブレックの口を両手で塞いだアーシャ。

 息が出来ずにもがき苦しんでいるブレック。

 仮にもギルド長に対し、この態度……。

 やはり彼女は大物だ……。



 ――姉さんがミレイユを連れてくる間、ずっとギルド内ではアーシャの叫び声とブレックの悲鳴が響き渡っていたわけで。


















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