LV.003 とうとう職業に就きました
「『命令士』……? え……?」
まさかこれって……。
『《命令士》。れっきとした《職業》じゃよ』
「俺が……《職業》に就いた……」
生まれてこのかた十数年。
何度試みても、どの《職業》にも就けなかったこの俺が……?
いやいやいや。
え? だって訓練場で教官に言われたんだよ?
『ここまで才能の無い奴は訓練場始まって以来だ』って。
その俺が《無職》を脱却した……?
え? 泣きそう。
泣いても……いいですか?
『まあ《職業》に就いたとは言っても《命令士》としては欠陥品じゃがな』
「欠陥……!」
俺の夢と希望はたった3秒で終わりました。
「……そうだよね……。だって『俺』だもんね……。何しても成功する事の無い人生を歩んできた俺だもんね……はは……」
期待感に満ち溢れた分、凹む量が尋常じゃないです。
いっそさっきのやつで焼け死んだ方がマシだったかもね……。
『感情の浮き沈みが激しい奴じゃなお主……。欠陥品とは言ったが、訓練しだいでお主は化けるというのに』
「……どうせ『化ける』っていうのも『お化けになる』っていう意味なんだろ」
『上手いこと言って不貞腐れるでないわ。良く見てみい、お主のステータスを』
ティアラは先ほどの杖でもう一度文字を空間に出現させる。
ていうか何で空間に文字が浮かび上がるんですかね。
そんなの聞いた事が無いんですけど。
====================
【命令士】 LV.0
『スキル』 おねがい LV.3
絶対循守 LV.99
====================
『お主の《命令士》としての今のレベルはゼロじゃ』
「……レベルってなんですか?」
『それは説明しなくても分るじゃろ』
……いや、分らないから質問したんですけど……。
でもたぶん『強さ』とかそんな感じなんだろうけど……。
『この《LV》というやつは、訓練次第で数値が上昇して行くのじゃよ。今はレベルゼロという《欠陥品》じゃが、レベルが3まで上昇すれば……』
一つ一つ丁寧に杖で文字を指し示しながら説明するティアラ。
「あー、成程。この《おねがい》とかいうスキルが使えるようになるって訳か……」
てか《おねがい》って……。
どんなスキルなんだよそれ……。
『ご名答。そして徐々にレベルが上がれば新たなスキルも覚えるじゃろうて。……そして問題はこのLV.99のスキルじゃ』
杖を『絶対循守 LV.99』という部分に指し示すティアラ。
絶対循守……。
要は『絶対に守るべき事柄』とかそう言う意味なんだろうけど……。
『本来《命令士》とはこの《絶対循守》というスキルを使いこなす職業でな。ここまで達してようやく一人前の命令士という訳じゃな』
えんばりと胸を張りそう言うティアラ。
行動は子供っぽいのに言動は婆臭いから年齢が全く読めない。
まあ、全く興味無いけど。
「へー……。で? そこまで使えるようになったらどうなるの?」
『・・・』
え?
なに、この間。
俺変な事言った?
『……ここまで鈍い奴じゃったかお主は……』
はぁ、と溜息を吐くティアラ。
元無職を馬鹿にすんじゃねぇ!
『お主の職業はなんじゃ?』
「無職ですがなにか?」
『……今の《職業》を聞いておる』
当然の突込みを貰う俺。
「……《命令士》です……」
『ならばおおよそ予想は付くじゃろうて。絶対循守の命令じゃぞ?』
「『じゃぞ?』って言われても……」
いやだから、どこまでその命令? とやらが効果を発揮するのかとか……。
相手の目を見なきゃ駄目とか、喉を潰されたら発動できないとか色々あんじゃん……。
『まだ理解せんか……。ならば問おう。お主の願いは何じゃ?』
「いや……いきなりそんな事聞かれても……」
『いいから答えい』
強く言われました。
「えー? じゃあ、お金持ちになりたいです」
『叶うぞ。いとも簡単に』
「・・・」
え?
「えと……。モテモテになりたいです」
『なれば良い。お主に寄って来る女子など制限無くおるぞ。望むのならば、この世の全ての女子にお主の子を身篭らせる事も容易じゃな』
「・・・」
今……なんと仰いましたか?
下半身の方が先に反応しました。
『他には?』
「ち、ちょっと待った……! え……? どうゆう事……? いやいやいや! え? マジで? あー、じゃあこれは無理だろ。『魔王を倒して世界に平和を齎す』」
『だから《絶対循守の命令の力》じゃと何度も言っておろう。魔王に直接会い《命令》すれば良い。《死ね》と一言だけ』
「こわっ! え? それだけで死ぬの!? 魔王が!? いやいやいや!」
いま一瞬おしっこちびったよ!
ないないない!
そんな《スキル》を持った《職業》なんて存在するわけないだろ!
どんなドッキリだよこれ!
『勿論、お主の考えている通り《条件》は存在するが……。まあ、おいおい分るじゃろうて。まずは訓練を積み、最初の《命令スキル》である《おねがい》を使える様にする事じゃな』
「訓練ったって……何すりゃ良いんだよ」
発声練習とか?
俺昔、みんなの前で発表とかやらされて顔真っ赤になって声が震えちゃった経験とかがトラウマになっちゃって、声には自信が無いのですが。
『通常の《職業》の訓練と同じじゃよ。モンスターを倒し、職業レベルを上げて行けば良い』
……いやだからレベルって……。
普通そんなの無いのですけど……。
ティアラは変な杖を使ってトントンすればレベルとか見られるのかも知れないけど……。
……ん?
「え? じゃあアレか? お前、ずっと俺の……その……背後霊?」
『……出来れば《守護霊》と言って貰いたいのじゃが……』
あ、なんか凹んじゃった。
背後霊も守護霊も似た様なもんじゃんかよ。
「まあ、その『霊』として、付いて来るって事なのか? ていうか俺に『取り憑いた』っていう解釈で宜しいのでしょうかね……」
『まあ、そうなるな』
「……霊媒師の霊に取り憑かれた訳ね……俺……」
これは幸運と言っても良いのだろうか。
神出鬼没のこいつを見ていると、俺のプライバシーとか尊重してくれる気がしないし……。
というか絶対何か企んでるだろ……。
俺の意思を確認すらせずに『お主に託す』とか何とか言っちゃって、俺の命を天秤に掛けやがったし……。
信じて良いものか……。
『さあ、もうそろそろ夜が明ける。お主の仲間達もじきに目覚めるじゃろうて。これから是非とも宜しくお願いするぞ。《命令士》、アルル・ベルゼルクよ』
「あ、ああ……宜しく、ティアラ」
なんか流れでそう挨拶を返しちゃった俺。
……あれ?
なんでこいつ……俺の下の名前を知ってやがるんだ……?
俺、名乗ったっけ……?
うーん……。
【登場人物④】
NAME/ミレイユ・バーミリオンズ
SEX/女
RACE/人間族
JOB/治癒師
SIZE/B85W61H80
パーティには欠かせない《回復魔法》を使いこなす聖職者の女性。
後衛・回復特化型である《治癒師》という職業に就いている。
また、回復魔法以外にも数々の強化魔法や付与魔法を使いこなす支援職でもある。
おっとり系の美人でアルルやアーシャとは付き合いも長く、彼らの姉的存在でもある。