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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
新説 第壱章 再生勇者のリスタート
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LV.035 未来の改変

 街の西門を抜け、草原をひた走る。

 今日は実地訓練の日だ。

 街の周辺にいるモンスターを規定数撃破し、ドロップ素材を持ち帰り『証明』とする。


 ここは『クライム草原』という場所だ。

 延々と続く草原の何処かにいるボスモンスターを倒せば、訓練の評価が上がる。


 辺りを見回しても他の訓練生の姿が見当たらない。

 きっと皆、別の場所で訓練をしているのだろう。


『キキー! キキキィー!』


 さっそく大猿型のモンスターが遠くから俺を威嚇しているのが見えた。

 数は3体。

 俺は腰から騎士剣を抜き、戦闘態勢に入る。


『キィキィ!!』

『ギギィ!!』


 地面を蹴り、突進してくる2体のモンスター。

 一匹は上空から、もう一匹はそのまま真っ直ぐに俺に向かってくる。


「――《聖なる灯火ブレイズン》」


 その場で一回転し、炎を纏った騎士剣を振りぬく。


『ブギャアアア!』

『ギシャアアア!!』


 瞬く間に燃え上がる2体のモンスター。

 消し炭と化した後には、ドロップアイテムと僅かなGゴールドが零れ落ちた。


『キキッ!! キキキィッ!!』


 残りの1体のモンスターが、顔を真っ赤に高揚させて威嚇する。

 俺はそのまま地面を蹴り、騎士剣を上段に構えた。


「――《無慈悲の剣断ルセルス・ブレイド》」


『キ――』


 神速の剣閃がモンスターを両断する。

 悲鳴を上げる間もなく消滅するモンスター。


 俺は無表情のままドロップアイテムとGを拾う。

 クライム草原のモンスターでは肩慣らしにもならない。

 前世で無職だった俺であれば、一瞬で噛み殺されていたのだろうが。


 素材を拾い終え、ふと両手に視線を落とす。

 まだ勇者として覚醒をしていないとはいえ、この1年でかなり実力が付いたように思う。

 他の職業のように勇者は『飛び級』が存在しないから、残り2年は訓練校での特訓を我慢しなければならないのだが。


ズシン――。


 背後で大きな足音が聞こえ、ゆっくりと振り返る。

 そこには俺の背丈の、ゆうに5倍はあるだろう、超大型の猿のようなモンスターが。


 こいつは、この草原のボスモンスターだ。

 今日はついている。

 なかなかお目に掛かれないボスと、こんなに早く遭遇できるなんて――。


『グオオオオオオ!!!』


 大きな咆哮とともに、その巨体からは想像も出来ないスピードで突進してくるモンスター。

 それを紙一重で避け、一旦距離をとる。


『ガアアアアアッ!』


 もう一度地面を蹴ったモンスターは、今度は大きく跳躍した。

 太陽がすっぽりと隠れ、草原の一帯に影が落ちる。


 俺は騎士剣を鞘に納め、目を瞑る。

 そして、念じる。


 俺の本当の力――。

 前世から・・・・受け継いだ・・・・・この世界を・・・・・変える力・・・・――。


「……死ね・・


 まさに今、牙を剥き出しにして俺を頭から喰い千切ろうとしていたボスモンスター。

 しかし俺の言葉が草原に響いた瞬間、世界は白黒の世界へと暗転した。


 空間がぐにゃりと歪み、一瞬だが時が止まる。

 そして歪みに反発するように、暗転した世界は元の姿へと急速に戻ろうとする。


バンッ――!


 というけたたましい音と共に、ボスモンスターが弾け飛んだ。

 俺の半身に真っ赤な返り血が飛ぶ。


 消滅したボスモンスターの後には同じくドロップアイテムと、さきほどとは比べ物にならない額のGが日の光にキラキラと反射して、そこに存在していた――。





 俺が前世から受け継いだ『力』――。

 この世のありとあらゆる事象を、自身の思い通りにすることができる力。


 ――『命令の力』。


 霊媒師ティアラから授けられたこの力のお陰で、俺は『最悪の未来』から時間を跳躍することができた。

 姉さんが死に、仲間が死に、俺の心と身体は魔王ルージュに乗っ取られた。

 その未来を変えるために、俺はここに来たのだ。


「ティアラ……」


 半身に付着した血を拭い、俺はティアラに想いを馳せる。

 霊媒師ティアラ・レーゼウム。

 生涯に一度だけ、命令の力を与えることが出来る特殊職業である霊媒師ミスティック

 一説によれば、世界を影で支配しているのが霊媒師だと噂されているが、ティアラは違う。


 もう、何度も彼女を疑った。

 その疑心暗鬼に付け込まれ、俺は魔王ルージュと契約してしまったのだ。

 

 訓練校を卒業し、勇者となることが出来たら、俺はティアラを探す。

 彼女の協力がなければ、未来を変えることは出来ない。

 彼女であれば、俺が何故・・・・ここにいるのか・・・・・・・を理解出来るはずだ。


 それに彼女の持つ『霊杖オーディウス』が無ければ、俺は自身のステータスを確認できない。

 この1年でどれだけ『命令士』として熟練できたのか。

 勇者としての技能も確認できないし、未知の敵との遭遇で相手の強さを把握することもできない。


 あの霊杖は魔王ルージュも狙っていた。

 そして、『もう一人の命令士』に操られていたアーシャも、あの杖を――。



『グルルルゥ……』


 低い唸り声が聞こえ、思考を中断する。

 いつの間にか狼型モンスターに周囲を取り囲まれていたようだ。


 俺は溜息を吐き、もう一度騎士剣を抜く。

 命令士としてだけではなく、勇者としての技量も高めておかなくてはならない。


 あと2年。

 俺は死に物狂いで特訓を続ける。

 

 絶対に、未来を変えてみせる。


 誰も、死なせやしない――。



「はああああぁぁ!!」


 俺の咆哮が草原に鳴り響く。


 未だ拭えぬ不安を断ち切るように――。



 ――もう一人の命令士に、俺の執念の炎が届くように。


















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