LV.032 全てが終わり、全てが始まりました
何も、感じない――。
何も、考えられない――。
俺はもう、俺ではない――。
全てが、無意味だった。
俺の願いも、何もかもが、無意味だった。
結局、何も出来なかった。
俺の身体はルージュに乗っ取られ。
俺はデボルを、この手で殺した――。
もう、いい。
疲れた。
このまま永遠に、眠りたい――。
『……さて』
右手に付いた血を振り払い、ルージュは森を進む。
荒野に残ったシュシュとデボルの遺体。
さっそく肉食である《オオトリガラス》が集り始めている。
それでももう、俺の心は、何も感じない。
森を更に奥へと進む。
ルージュはきっとミレイユもアーシャも殺す気なのだろう。
彼女は知っているのだろうか。
もう一人の《命令士》の事を。
ミレイユなのか?
それともアーシャなのか?
俺は、幼馴染である彼女らに、裏切られたんだ。
もう、どちらが裏切り者でも、何も驚かない。
何も、感じない――。
「……アルルさん……」
ローサとナユタを埋めた所まで戻ると、ミレイユが一人、祈りを捧げていた。
アーシャは近くにはいないのだろうか。
泣き腫らした目で俺を、ルージュを眺めている。
『くく……。治癒師ミレイユ・バーミリオンズか。もう一人の女剣士はどこだ?』
俺の声でそう質問するルージュ。
そっと立ち上がり、憐れみの目を俺に向けるミレイユ。
「……ここにはおりません」
そう言い、聖杖を構えるミレイユ。
もう既に俺の異変に感づいているのだろう。
魔剣ニーベルングについての記憶は封じたままだが、血の匂いや俺の『殺意』に気付かないほど馬鹿ではない。
「アルルさん……。私の声が、聞こえますか」
『?』
俺を見つめながらもそう言うミレイユ。
……いや、違う。
俺の中にいる、本物の俺に話しかけているのか?
もう、何もかもが無駄だというのに。
「沢山の魂が……この世を去って行きました。きっと私もすぐに彼女らを追うことになるのでしょう」
『くく……。覚悟は出来ているという訳か』
聖杖をぎゅっと握り締めるミレイユ。
何故だ?
どうして、逃げないんだ?
もう、俺の心には何も届かないというのに。
「ですが、諦めてはなりません。貴方の御姉様……勇者ユフィアは、最後まで諦めずに戦ったのですよ」
『……』
どうして?
今更、死んだ姉さんの事など、どうだっていいんだ。
きっと俺を恨んでいるに違いない。
もう、いいんだ。
どうでもいい。
「私の声が貴方に届いているかは分かりませんが、私は――」
『お前までゴチャゴチャと御託を並べおって……。聖職者気取りか? 虫唾が走るわ』
「う……」
ルージュの睨みに身動きが取れなくなったのか。
苦しそうな表情で棒立ちになるミレイユ。
『このまま殺してもつまらんしな……。どれ……1つ余興でも楽しもうか、アルル』
俺の心にそう話しかけたのか。
ルージュは立ち尽くしたままのミレイユに一歩ずつゆっくりと近づく。
「う……あ……」
ルージュの魔力に反応しているのだろう。
普通の人間では彼女と対峙した時点で命を削り取られてしまうのだ。
睨まれただけで動けなくなってしまうミレイユに、勝ち目なんてある筈が無い。
『くくく……。脱げ』
「!!」
世界の時が静止する。
白黒になる世界。
「い……や……」
《命令の力》により、自身の意思とは裏腹に聖職衣を脱ぎ始めるミレイユ。
それを眺めながら、声を殺して笑う俺――。
『くくく……くはははは! 聖職者が幼馴染の前でストリップとはな! くく……! 笑わせてくれる……!』
見る見るうちに聖職衣を脱いでしまったミレイユ。
恥辱に頬を染め、それでも抵抗出来ずに、ただただ《命令》に従うばかり。
「……こんな、事で……私の心は……折られる事など……」
『ほう?』
全ての衣服を脱いだミレイユに近づく俺。
その全身を舐めるような目で見つめる。
『そんな事を言える立場か? この聖職者の皮を被った娼婦め』
世界の時が静止する。
俺は彼女の耳元で、そう《ささやく》。
「あっ、ああっ……んっ! これは……やは、り……《命令の力》……んんっ!」
身を捩りながらも快楽に耐えようとするミレイユ。
その淫らな姿を見ても、何も感じない俺。
『……ふん。つまらん。もう少し反応があれば楽しめるものを』
その言葉はミレイユに言ったのだろうか。
それともルージュの中にいる俺に言った言葉なのだろうか。
そして、ふと背後に人の気配を感じる。
「……ルージュ様。おふざけはそれ位に……」
振り返る。
そこにはいつの間に現れたのか、片膝を付いたアーシャの姿が――。
「アー……シャさ、ん……?」
ミレイユが目を丸くする。
どういう事なんだ、これは――?
『ふん、良いではないか。今の私は男ぞ? せっかく手にした男の身体と《命令の力》――。これを使わずして、何を楽しめと?』
「……」
ルージュの言葉に何も返答はせず。
そのまま懐から何かを取り出すアーシャ。
あれは――。
『ほう、見つかったか』
「……はっ。消滅の寸前に、異空間に隠した様で御座いました」
彼女の手には、見慣れた『杖』が――。
あれは、ティアラが持っていた――?
『くく……そうか。あの年増女め……。《霊杖オーディウス》。我にこの杖だけは、渡したくはなかっただろうな……くくく……』
「霊杖……オーディウス……」
ミレイユがその言葉に反応する。
「私の役目は果たしました。今度はルージュ様の方で御座います」
そう言ったアーシャは杖を置き、立ち上がる。
そして腰に差した細剣を抜き、俺に切っ先を向ける。
『くく……さあて。何のことだ、アーシャよ』
「! ……お戯れはよして下さいルージュ様。契約を交わした筈です。《霊杖オーディウス》をお渡しすれば……アルル・ベルゼルクを殺害する許可を頂けると!」
「!!!」
驚愕の表情になるミレイユ。
俺を――殺害する、許可?
アーシャ……お前まさか……。
「……憎んでいた……。ずっとずっと、何年も、憎んでいた……。ユフィアさんに全てを押しつけ、自分だけ勝手に逃げ続けていたアルルを……。そして……そしてユフィアさんは……!!」
『くくく……』
「アーシャさん……」
頭を鈍器で殴られたような衝撃が俺を襲う。
アーシャが、俺を、憎んでいた――?
殺したいほどに、ずっとずっと――?
ならば俺をパーティに誘ったのは――。
幼馴染のアーシャはいつもユフィア姉さんと一緒に行動をしていた。
それこそ街の人間から見たら、本当の姉妹の様に仲が良くて。
姉さんの親友のミレイユともアーシャはすぐに仲良くなった。
俺は彼女らの仲の良さを敬遠した。
出来の悪い弟が入り込む余地なんて、微塵も存在しなかった。
でも、姉さんは違った。
いつもいつも俺の事を気に掛けて。
俺を必死に輪の中に入れようとして。
『我が素直にそのような契約を守るとでも思ったか? せっかく手にしたこやつの身体と《命令の力》。それを簡単に手放すとでも?』
「っ――!」
アーシャの表情が変わる。
憎悪に満ちた目。
それは魔王ルージュに向けられた物なのか。
それとも俺に向けられた物なのか。
『くく……さあ、どうする? 我に歯向かうか? 我ごと、憎きアルルを打ち倒すか?』
魔剣ニーベルングを構え、挑発的な笑みを浮かべるルージュ。
俺の心に、少しずつ感情が戻って行く。
何が、どこで、食い違ってしまったのだろうか。
俺は、何を間違えた?
魔王ルージュを信じてしまった事か?
《命令の力》を欲してしまった事か?
それとも、姉さんに全てを押しつけ、一人だけ逃げてしまった事か――?
「……ミレイユ!」
アーシャがミレイユに何かを投げる。
彼女の身体に掛けられた薄紫色の液体。
「! 身体が……動く……」
硬直が解かれた様子のミレイユ。
すぐさま地面に落ちた聖職衣を拾い、アーシャの後ろへと飛び退く。
『それが……貴様の答えか』
「最初から契約を守るつもりなど無かったのはそっちでしょう!」
『くく……いい目だ。だが貴様も同じ事だぞ。幼馴染を騙し続け、命を狙い続けて来たのだからな。仮面を被り、魔王と精通し、仲間をも裏切ってきたパーティのリーダー……。くくく……くはははは! 貴様にも素質があるな! この世界を混沌へと叩き落す《魔族》の素質が!』
高らかと笑い、魔剣を大きく振りかぶるルージュ。
「……ごめん、ミレイユ」
「……いいえ。今は魔王ルージュの方を」
「……ええ、そうね」
小さく頷いた2人。
そして、最後の戦いが始まる――。
◇
一方的な展開だった。
無理も無い。
勝てる訳が、無い。
「くっ……! ミレイユ!」
「ええ! 《ヒール》!」
淡い緑色の光に包まれる2人。
もう何度、回復魔法を掛けているのだろうか。
明らかにルージュは手を抜いている。
すぐには殺してしまわない様に。
死の寸前まで恐怖を与え、回復の猶予を与える。
もう、彼女に対抗できる者などいるはずも無い。
ルージュこそが最強。
ルージュこそが、この世を統べる新たな王――。
『くく……そろそろ魔力が尽きる頃か? 我も飽きてきたぞ。どれ……』
標的をアーシャに定めたルージュは、彼女に《命令》する。
たったそれだけだ。
たった、それだけで、全てが終わる。
『ミレイユを殺せ』
世界の時が静止する。
白黒になる世界。
「アーシャさん!」
慌てて駆けつけようとするミレイユ。
アーシャより手渡されていたのだろう。
薄紫色の液体の入った小瓶を構え――。
『ふん。それが奥の手か。どうやって手に入れたのかは知らんが……さしずめ《命令解除の秘薬》といったところか』
「きゃあああ!」
ルージュの放った魔弾により小瓶を弾かれてしまうミレイユ。
地面に落ちた薄紫色の液体は無情にも蒸発してしまう。
「に……げて……。ミレイユ……」
「あ……」
細剣を構えたアーシャはミレイユに切っ先を構え。
そしてそのまま前へと――。
「嫌……嫌……こんなの……」
アーシャの手にミレイユの血が流れ落ちる。
心臓を一突きされ、アーシャに抱かれる様に絶命するミレイユ。
『くくく……くははははは!! さあ! 貴様もすぐに後を追わせてやる!』
戦意喪失のアーシャに魔剣を構えるルージュ。
もう、やめてくれ。
これ以上、殺さないでくれ。
アーシャが俺を憎んでいたのは仕方が無い。
全部、俺が悪いんだ。
だから、もう――。
「……」
目を瞑るアーシャ。
死を覚悟したのだろう。
しかし、構えた魔剣を一瞬止めるルージュ。
『……くく……。そういえばまだ、貴様に言っていなかったな。勇者ユフィア……。我が父、先代魔王ガハト・オーザーランドとの相討ちにより死亡――。くくく……その情報は……真実だと思うか?』
「え――」
そして彼女はそっとアーシャの耳元でささやく。
《命令》ではない。
彼女自身の言葉で。
冷徹で、無慈悲な『真実』を――。
『勇者ユフィアを殺したのは……我なのだよ、アーシャ・グランディス』
絶句するアーシャ。
全ての、元凶。
憎むべき、本当の相手。
それが――。
「あああ……あああああああああああ…………!!!!」
悲痛にも似た叫び声を上げるアーシャ。
涙を流し、細剣を大きく振り上げ。
全ての恨みと絶望を、その細い腕に込め――。
『絶望の淵に、死ぬがいい』
ズシュ――。
魔剣がアーシャの腹部を貫く。
そして俺の中で、何かがブツリと音を立てた。
アーシャ。
アーシャ。
アーシャ――――!
うわあああああああああああああ
ああああああああああああああああ!!!!
『くくく……そうだ……! 叫べ……! 苦しめ……! その声をもっと我に聞かせろ……!!』
俺の叫びに合わせ、歓喜の声を上げるルージュ。
そして血を吐き、命の灯が消える寸前のアーシャを見下ろす。
「……あれ……はは……。なんだろ、私……。どうし、て……アルルに……剣を刺されて……?」
……アーシャ……?
お前、何を――?
『くく……くはははは!! これは傑作だ! まさか貴様まであの方に命令されていたのか!』
命令、されていた――?
記憶を、失っていた――?
死の寸前で命令が解かれて――?
「……ふふ……。まあ、いっか。大好きなアルルに殺されるのなら……本望…………」
俺の腕の中で、静かに息を引き取ったアーシャ。
眠るように。
幸せそうな表情で――。
『聞いたか、アルルよ? くく……! こやつはお前の事を恨んでなどいなかった様だぞ……! くくく……! むしろ好いていたのだとさ……! くくく……くはははははははは!!!』
ルージュの歓喜の雄叫びが森中に広がる。
――認めない。
こんな結末、俺は認めない――。
アーシャ。ティアラ。ローサ。レム。
ナユタ。デボル。シュシュ。ミレイユ。
ユフィア姉さん――。
俺は――――!
『さあ、《霊杖オーディウス》よ。我の力を指し示すが良い』
アーシャの亡骸から杖を取り出すルージュ。
そして俺の眼前に広がる情報。
====================
【命令士】 LV.32
『スキル』 おねがい LV.3
ささやき LV.7
ゆうわく LV.18
時間跳躍 LV.32
絶対循守 LV.99
====================
『ほう……? これまた一気にレベルが上昇したな……。くくく……! 槍撃士デボル・ラグナロク、治癒師ミレイユ・バーミリオンズ。それに細剣士アーシャ・グランディス……。3人もの兵を打ち倒した功績か……! くくく……くははははは!!』
どくん――。
何かが、警笛を鳴らす。
この感覚――。
俺は、知っている――?
どくん――。
《時間跳躍》――。
新しい、《命令士》のスキル――。
俺は、これを、知っている――。
どくん、どくん――。
鼓動が、早まる。
これは俺の鼓動?
俺の意思はまだ、この身体に根付いている――?
どくん、どくん――。
ドクン――――。
『? なんだ? 胸騒ぎ……?』
俺は、俺自身に命令する。
全ての懺悔と、全ての願いを込めて、命令する。
『まさか……』
事態に気付くルージュ。
俺は、お前を許さない。
待っていろ。
必ず、お前に会いに来る。
力を付けて、お前に――。
『くっ……! まだ自我が残っていたか……! 完全に潰したと思っていたが……!!』
俺は、願う。
そして、最後の《命令》を下す。
『やめ――――』
――――時間跳躍――――!
第一部 fin.
目を覚ます。
ここは、俺の家――?
「ちょっと、アルル! 起きなさいよ! もうとっくに時間過ぎてるわよ!」
「うわ!」
ベッドから叩き落される。
頭から思いっきり床に落ちた俺は、軽く眩暈状態。
「う……いてぇ……。何なんだよ一体――」
頭を抑えながらも声の主へと視線を上げる。
そして俺は絶句する。
「? 何よ、その顔は……。うわ、もしかして頭からいっちゃった……?」
「……アー……シャ?」
目の前には腰に手を当てながら、俺を見下ろしているアーシャの姿が。
いや、アーシャの幼き姿が。
「もう、アルルが寝坊するから、ユフィアお姉ちゃんは先に行っちゃったわよ……。まったくもう……」
ユフィアお姉ちゃん……。
そうだ。
アーシャは昔、ユフィア姉さんの事をそう呼んでいた。
じゃあ、本当にここは――?
「アーシャさん? アルルさん? 大丈夫ですか? なんか凄い音がしましたけど……」
部屋のドアを開けて入ってきたのは――。
「もう、ミレイユお姉ちゃんからもきつく言ってよー。アルルがだらしないとユフィアお姉ちゃんが困るんだからー……」
「ミレイユ……」
苦笑しながらも俺を見つめるのは、まだ髪が少し短かった頃のミレイユだ。
ちょうど俺の年齢くらいなのだろうか。
いや、『昔の俺の年齢くらい』と言った方が良いのか――。
「あら、アルルさん。私の事を呼び捨てだなんて……。ふふ、何だか嬉しくなっちゃうわ」
「! ちょっとミレイユお姉ちゃん! アルルをこれ以上甘やかさないでよ! それとアルル! さっさと起きなさい!」
「いて! ちょ、分かったから引っ張るなよ! いててて!」
強引にアーシャに起こされる俺。
それを見て微笑むミレイユ。
――戻ってきたんだ。
俺は、本当に、過去に――。
◇
家を出て、街を歩く。
笑顔で見送ってくれたミレイユ。
両親のいない俺達姉弟を何かと心配して面倒を見てくれていた。
「ほうら、ちゃっちゃと歩く」
「うるさいなぁ……」
俺の尻を軽く突きながらもアーシャは嬉しそうだ。
……ここは何年前の世界だ?
少なくとも5年以上は前の世界か?
「あ、やっと来たわね」
門の前で笑顔で手を振る一人の女性。
あれは――。
「ちょっと聞いてよユフィアお姉ちゃん。アルルったらまた寝坊して――」
「姉……さん……」
俺の悪口を散々喚くアーシャ。
それを嬉しそうに聞くユフィア姉さん。
「? あら、どうしたのアルル? なんで泣いているの?」
「え?」
「うっわ……。私の悪口で泣くなんて……。アルルはやっぱ情けない男よね……」
いつの間にか俺の頬には涙が流れていた。
姉さんが、生きている。
それだけで、俺の心は洗われて――。
「う、うっせぇなアーシャ! お前は少し黙れよ!」
世界の時が静止する。
白黒になる世界。
「え――」
《命令の力》……?
まさか……《命令士》としての力を有したまま、俺は――?
「……仕方ないわね。アルルがそう言うんだったら……」
「あら、珍しいわね。アーシャがアルルの言う事を素直に聞くなんて……」
「? え? 何が?」
我に返ったアーシャはユフィア姉さんに質問する。
記憶が無い――。
やはり、これは《命令の力》――。
「……そうか。分かったよ、神様」
俺は2人に分からない様に、そう呟く。
今度こそ、失敗しない。
俺は、逃げない――。
「さ、アーシャはもう帰りなさい。有難うね、ここまでアルルを連れて来てくれて」
「うん。ユフィアお姉ちゃんもアルルをお願いね。先輩として、厳しく接してあげてね!」
手を振り、その場を後にするアーシャ。
そう。
ここは、俺が以前、逃げ出した《職業訓練場》――。
という事は、やはりここは5年前の世界だ。
そして俺は、これからここの1年生として入学し、勇者候補としての訓練を受けるのだ。
「アルル。これから結構厳しい訓練が待っているけれど、私達は――」
「大丈夫だよ、ユフィア姉さん。俺はもう、逃げないから」
「え?」
もう、逃げないから。
ユフィア姉さんに、全てを押し付けたりしないから。
ユフィア姉さんを死なせたりは、しないから――。
俺は決意する。
俺はこの《訓練場》を無事卒業し、《勇者》になる。
そして未来を、変えてやる――。
待っていろ。もうひとりの《命令士》。
そして魔王ルージュ・オーザーランド。
全てを、取り戻してみせる。
仲間も、信頼も、未来も――。
――この《命令の力》を駆使して、世界を、変えてみせる。




