LV.030 ティアラに再会できました
《!CAUTION!》 残酷描写が御座います。ご注意ください
誰だ。
誰だ。
誰だ――?
俺の敵は、誰だ?
俺の心を惑わす奴は、誰だ――?
「アルル?」
いつの間にか森を抜け、荒野に出た所でシュシュと出会う。
こんな所で何をしている?
「……何なのニャ。そんな神妙な顔をして」
「……」
鼻水を啜りながらもそう答えるシュシュ。
泣いていたのか?
仲間の死を悼んで?
俺は何も答えずにシュシュの傍へと寄る。
「この匂い……。アルル……レムと一緒にいたのかニャ?」
「……ああ」
鼻の効く獣人族のシュシュに嘘を言っても仕方が無い。
俺は正直にそう答える。
そして死の間際のレムの言葉。
『竜化と獣化の秘密』。
一体秘密とはなんだ?
何故、それがレムの『自害命令』のスイッチとなったのだ?
「……なあ、シュシュ。教えてくれ。レムを俺達のパーティに誘ったのは、お前とデボルなのか?」
「? どうしたのニャ? 急にそんな事……。そうニャ。あの魔王軍の襲来の時に、人間族の富豪の下で奴隷戦士をしていたレムを誘ったニャ」
「金は? 引き抜くにしても金が必要だっただろう? あの時の俺達はかなりの金欠だったはずだ」
「う……。それは、だニャ……」
返答に詰まるシュシュ。
富豪から奴隷を引き抜くには、最低でも10万Gは必要だったはず。
あの頃の俺達のパーティは全財産をかき集めても、せいぜい1万かそこらしか持っていなかったと記憶している。
「……答えなきゃ駄目かニャ……?」
「……教えてくれ、シュシュ。おねがいだから」
静止する世界。
白黒の世界。
「……分かったニャ。アルルのお願いじゃ、仕方がないのニャ。実は『契約』を交わしたのニャ」
「契約?」
何の契約だ?
レムを引き抜く為に、契約を交わした?
「そうニャ。私の《獣化》とデボルの《竜化》。この力を人間族の富豪に売ったのにゃ」
売った……。
力を、金で――?
「勿論、全部の力を金で売ったわけでは無いニャ。いわゆる《召喚》というやつニャ。アルルも《召喚石》は知っているのニャ? あれに私の魂とデボルの魂を埋め込んで、売ったのニャ。1個5万Gでニャ」
《召喚石》。
召喚士という職業の者が作り出す事が出来るという、魔力の篭った石。
ある一定の条件の下で、その石に込めた魔獣を召喚することが出来る魔法石。
これが、彼女達の秘密?
レムの『自害命令』のスイッチとなった、秘密――。
「…………はっ! ……あれ? 私いま、一体ニャにを……」
命令の力より目覚めるシュシュ。
当然、今話した内容の記憶は無い。
レムを買っていたという富豪。
デボルとシュシュの《召喚石》とレムの奴隷権利書の交換。
どうしてそこまでしてシュシュ達はレムを引き取ったのだ?
彼女らに恩があるのはダークエルフ族であるレムの方だろう。
まだ、俺の知らない事がある。
俺の知らない『真実』が、答えが、そこに――。
「なあ、シュ――」
彼女にもう一度《命令の力》を使おうとしたその時。
横腹に激痛が走った。
なんだ?
血――?
どうして、横腹から血が――?
「……アルル……どうしてニャ?」
そのすぐ横にシュシュの顔があった。
口元を赤く濡らして。
俺の衣服が口元にこびり付いている。
腹の肉と皮もろとも、こびり付いている。
シュシュに、横腹を、食い千切られた――?
「どうして、どうして、ローサとナユタを、殺したのニャ?」
鈍い痛みが徐々に全身を襲う。
血が、止まらない。
シュシュはクチャクチャと音を立てながら、光の無い目を俺に向け、
俺の横腹の肉を咀嚼している。
「シュシュ……お前……」
眩暈がして崩れる様に片膝を突く。
あの光の無い目……。
あれは命令の力が発動したときの目だ。
何処でスイッチが入った?
彼女に掛けられていた《命令》は、俺の殺害か――?
「答えるニャ。どうして、アルルは、お前は、レムを殺したのニャ?」
「俺は……」
俺が、殺したのか?
ローサもナユタもレムも。
俺のせいで、彼女達は――。
「答えるニャ、アルル。どうして、お前は、私も――――」
肉を飲み込んだシュシュは口元を拭い。
今度はまた泣きそうな顔に変化し。
最後にこう言った。
「――――殺すのニャ?」
「やめ――」
彼女に手を伸ばす。
でも遅かった。
彼女は獣化させた右手を自身の胸に刺した。
ずるり、と嫌な音が鳴り響く。
彼女は自身から取り出したそれを高々と挙げ――。
天に何かを懇願するように――。
――絶命した。
◇
腹部を押さえながらも考える。
血が止まらないが、脳内はグルグルと同じ言葉が回り続ける。
誰だ。
誰だ。
誰だ。
俺の敵は、一体誰なんだ――。
自身の心臓を取り出し、絶命したシュシュ。
何故こんな惨い死に様を、俺に見せつけるのだ?
ローサの死を。
ナユタの死を。
レムの死を。
シュシュの死を。
何故俺は、眺めている事しか出来なかったのだ――?
精神が、崩壊しそうになる。
もう、いい。
誰か、誰でも良い。
助けれくれ。
俺を、助けて――。
『…………ルル…………』
遠くから何かが聞こえる。
幻聴か?
意識が落ちそうになる。
『…………ア…………ルル…………』
あれは?
あの声は――?
「……ティアラ……」
荒野の向こうから凄いスピードでこちらに近づいて来る。
ふざけた女。
霊媒師ティアラ・レーゼウム。
『ワシ登場おおおおおおおおおお! アルル! 会いたかったぞい!』
いつもの調子で叫びだすティアラ。
何なんだよ、一体。
お前、今までどこをほっつき歩いてたんだよ。
俺がどんな思いで今までいたと思っているんだ。
言いたい事はいっぱいある。
でも、今は――。
『うおっ! なんじゃアルル! 怪我しているではないか! ……ていうか仲間が死んどるぞ!? どういう事じゃ! ……おっと、その前に……《ヒール》!」
俺の全身を淡い緑色の光が照らし出す。
みるみるうちに血が止まり回復する。
「おい、ティアラ。お前今まで一体何処に――」
立ち上がり、ティアラに声を掛けようとした所で、眼前の空間に穴が開いた。
現れたのは――。
「やはり戻って来たか。思ったより早かったな」
『!! お前は……魔王ルージュ!!』
俺とティアラの間に立つ様に現れたルージュ。
やはり監視していたのか?
俺とティアラの接触を危惧して――?
『まさか……アルル? お主、ワシに《命令》を……?』
「……」
事態を一瞬にして飲み込んだ様子のティアラ。
心が、痛む。
騙していたのは俺なのか。
それともティアラが俺を騙しているのか。
『くっ……! 小汚い真似をしおって……! 魔王ルージュめ……!』
「何を言っている。我はアルルと契約を交わしたのだぞ? パートナーとなる為の契約――。《霊媒師》と《命令士》の暗躍の歴史を覆す為、我とアルルは――」
『嘘を言え! そんな暗躍など存在せんわ! 目を覚ませアルル! お主はこやつに騙されておるだけじゃて!』
騙されている――?
誰が、俺を騙している――?
俺は、どちらを信頼したら良い――?
『アルル!』
「アルル」
同時に二人が俺に手を差し伸べる。
分からない。
何も、分からない――。
『くっ……! 魔王ルージュ……! 《偽りの魔女》という通り名は本物じゃったか……!』
杖を取り出し臨戦態勢に入るティアラ。
「ふん、人聞きの悪い。やはりお前とは決着を付けねばならん様だな」
『笑止……!』
俺は、ただ見ているだけ。
何も、出来ない。
何も、変わっていない。
何が真実で何が嘘なのかも見極められない。
あの時と同じだ。
ユフィア姉さんを置いて、逃げ出したあの時と――。
◇
「アルル。すまんが借りるぞ」
何かを詠唱するルージュ。
突如俺の背後に魔剣ニーベルングが出現する。
彼女の魔法により隠されていた事にも気付かなかったのか。
その大きな剣を抜き、ティアラに向かい切っ先を向けるルージュ。
『魔剣ニーベルング……! 良いじゃろう! 相手に不足は無いわ!』
詠唱を始めるティアラ。
詠唱を断ち切る様に魔剣を振るうルージュ。
『《玄翁》!』
「《ダーク・ソウル》」
力と力。
技と技がぶつかり合う。
『《梔子》!』
「《デビル・スクリーム》」
二人の戦いが目で追えない。
結局、俺には何も出来ない。
どちらに加勢する事も。
真実を暴く事も。
もう、疲れた。
俺の事は放っておいてくれ。
疑う事も信じる事も、もう疲れた。
楽になりたい。
何も考えず、ただただ楽になりたい。
『アルル……! ワシは信じておるぞ……! お主は世界を救うのじゃ!』
ティアラが戦いながらも俺に声を掛けてくる。
もういい。
もう、やめてくれ。
俺に期待しないでくれ。
期待なんて、重荷にしかならないんだよ。
だから俺は逃げ出したんだ。
世界中の『期待』から。
ユフィア姉さんの、アーシャの『期待』から。
『アルル……! もう気付いていると思うがの……! ワシはお主に――』
もういい。
聞きたく無い。
ティアラが俺に気があったとしても、それは俺が《命令士》だからだ。
勘違いなんだよ。
それは恋じゃない。
ただの、勘違い。
嘘で塗り固められた、茶番。
「《シルバー・レイン》」
休む事無く攻撃を続けるルージュ。
彼女の行動は一貫している。
動揺しているティアラとは両極端な行動。
そして――。
『くっ……! アルル……! ワシは本気じゃぞ……! お主が……お主という人間が……ワシは……ワシは……!!』
「無駄吠えを」
一瞬の隙を付き、無慈悲にも魔剣を振り下ろすルージュ。
そして一瞬の静寂。
ティアラの全身が淡い光に包まれて――。
「あ――」
『――――ワシは、おぬしの事を――――』
最後まで俺に手を伸ばし。
そしてティアラは――。
――俺の目の前から消滅した。




