LV.002 変な力を手に入れました
「(……で?)」
霊媒師なのに幽霊。
それが魔王に殺されて空から降って来た、と。
で?
『……お主、Sじゃろ……』
いや、たぶんMだと思うけど……。
現状を考えると……。
「(お前……ティアラ、だっけか。ティアラは俺に何を託すつもりなんだ? お前、さっきそう言ったよな?)」
『ああ。お主には素質があると思ってな』
「(素質?)」
『そうじゃ、《素質》――。《霊媒師》が生涯にたった一人だけに授ける事の出来る能力……』
「(はぁ?)」
ティアラがなんかネックレスの束をジャラジャラと鳴らしながら変な動きをしている。
怪しい。
明らかに、怪しい。
『ちょうどお主が《無職》なのが好都合じゃったわ。今時おりゃせんからな。《無職》の若者など』
「いま俺のハートはブロークンしました」
立ち直れなくなったら俺のパーティみんな餓死するよ!
俺しかまともな食事を作れないんだから!
言葉に気を付けて!
『揶揄した訳では無いわ。好都合だと言ったじゃろう』
徐々にティアラの変な動きは激しさを増す。
え? 呪いのダンス?
すごく怖い。
『お主に託そう――。《霊媒師》の禁断の秘術……《命令の力》を――』
命令の……力?
「うわっ! なんだよこの光は……!」
俺の全身を強烈な閃光が包み込む。
なんだこれ……!
眩し――。
《――世界の理を覆す者》
《――世界の矛盾を正す者》
《――世界の欲望を満たす者》
「なんか……直接『脳』に流れて……?」
《――我に抗う者は無し》
《――我に仇なす者は無し》
「おい! なんだよこの『声』は! お前の声とは違う別の声が――」
《――神なる力》
《――真なる力》
《――汝に授けよう》
《――絶対循守の命令の力を……汝に》
強烈な閃光が更に輝きを増して俺の全身を蝕んで行く。
焼ける様な痛みが全身を襲う。
息が……出来ない……!
『おや……? 適合失敗かのぅ……』
「お、ちょ! 今……なんつったお前!」
失敗……?
え? 適合失敗したら……どうなるの?
『大丈夫じゃ。死んでもワシが魂だけはこの世に残してやる。…………肉体は無理じゃが』
「おいいいいいい! それお前と同じ状態になるって事じゃねえかよおおおおおおおお!!」
嫌だよ!
俺まだ死にたくねぇよ!
どんだけ悲惨な人生だったんだよ俺えええええええ!
何一つ良い所なんて無かったじゃんかよおおおおおおおおお!
マジ勘弁してくれよおおおおおおおお!
「くそっ! ふざけんじゃねぇよ! 死んで堪るかよおおおおおおおおおおおお!!」
『お?』
全身を蝕んでいた光が急速に弱まって行く。
あれ?
もう熱くない……?
「・・・」
『……ふむ。これは……』
顎に手を乗せ思案顔のティアラ。
ていうか失敗したら死ぬとか、最初に教えておけよボケ!
あっぶねぇ……。
三途の川がチラ見してた……。
「アルル! 今の光と叫び声は…………あれ?」
癇癪を起こしたアーシャが鬼の様な顔で再度テントから顔を出す。
そして続けざまに他の面々もゾロゾロと……。
「ふわぁぁ……。何事だ、アルル。今の閃光は一体……」
デボルが竜槍を構えながら眠そうな目を擦っている。
寝覚めの悪い竜人族は起床後が最も使えない。
「うーん? なんか微妙に《魔力》を感じるのですが…………はて?」
同じく目を擦りながらもミレイユの頭の上には?がいっぱい出ているし。
おっとりにも程があるだろ!
急襲されたら終わりだな! このパーティメンバーは!
「クンクンクン……。私もニャにかの気配は感じるんニャけど…………鼻詰まってて分らニャいニャ」
「使えねぇな! このメンバー駄目じゃん!」
つい声に出してしまう俺。
馬鹿ばっかりだろ!
それでも俺が一番使えないとか、凄く凹むわ!
「……何だか知らないけど、貴方は無事なのね……。良かった……」
なんか俺に聞こえないくらい小さい声で何かを呟いたアーシャ。
どうせ俺の悪口に決まってるんだろうけどね!
その後メンバー全員で周囲を探索するも何も出ず。
まあ、出る訳無いんだけど。
「何だったのよ一体……。アルルは本当に何も見ていないの?」
「へ? あー……うん。なんかいきなりビカーって光ったから驚いて叫んじゃって……」
それとなくそれらしい言い訳で誤魔化す俺。
声を殺しながら俺の後ろで笑うティアラ。
声を殺さなくてもこいつらには聞こえないだろ! お前の『声』も!
「何でも無いのだったら私は寝るぞ……。嗚呼……頭が痛い……」
こめかみを押さえながらさっさと寝床に戻っていったデボル。
起こしちゃってごめんね。
「うーん。やっぱりさっきからずっと《魔力》を感じるのですが……。アルルさんの背後とかに……」
相変わらず納得の行かない表情のミレイユ。
「こ、怖いことを言わないでよミレイユ! さ、さっさと寝るわよみんな!」
「どうしたのニャ? そんなに真っ青な顔をして…………ニャひぃ!」
「いいから寝るわよシュシュも!」
ひょいっとアーシャに首根っこを持ち上げられた小柄なシュシュ。
完全に猫だなアレ。
「アルルは一晩中起きて警備を怠らないように! 以上! 解散!」
そう叫んだアーシャは逃げる様にテントへと向かう。
それに引っ張られるシュシュとミレイユ。
そして1人闇夜に取り残された俺――。
『……面白いメンバーじゃな』
うんうん、と俺の肩を叩き頷くティアラ。
なんか初めてティアラと心が繋がった感じのする俺――。
「(――じゃなくて! 説明しろよ! 俺に何が起きたんだよ!)」
生死の境を彷徨ったんだよ!
ていうかさっきの『声』は誰なんだよ!
《命令の力》?
なんだよそれ!
『ふむ……。説明するよりも、自身の状態を調べてみる方が早いじゃろうて』
ティアラは何処からか取り出した杖で俺の頭上にある空間を叩く。
え?
空間って叩ける物なの?
「お前何やって…………うお!?」
そして俺の目の前に出現した文字。
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【命令士】 LV.0
『スキル』 おねがい LV.3
絶対循守 LV.99
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「…………なにこれ」
【登場人物③】
NAME/デボル・ラグナロク
SEX/女
RACE/竜人族
JOB/槍撃士
SIZE/B103W71H98
驚異的な腕力を持つ竜人族の女槍使い。
前衛・中距離攻撃特化型である《槍撃士》という職業に就いている。
条件により竜へと姿を変え敵を殲滅する。
驚異的な強さを誇る竜人族だが、寝覚めが非常に悪く、起床後2時間は本来の力をほぼ発揮することが出来ないという弱点を持つ。