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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
第五章 残虐無情のクリミナル
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LV.027 疑心暗鬼の中、決意しました

《!CAUTION!》 残酷描写が御座います。ご注意ください

 痙攣するローサの身体。

 鮮血にまみれる石作りの地面。

 転がり落ちる、ローサの――。


「……あれ? 俺は一体何を……?」


 崩れ落ちた彼女の背後に立っていたのは――。


「ナユタ――」


 ――愛刀である《骨喰斬丸ほねくいざんまる》を横一線に振りぬいたナユタの姿が。


「はは……あれ? なんだ、これ」


 そのまま膝から崩れ落ちる様に蹲るナユタ。

 大太刀がその手から地面へと滑り落ちる。


「なあ、アルル? なん、だよ、これ……」


 俺とナユタの目の前には首を刎ねられたローサの遺体が――。


「俺が……俺が……やった、のか……?」


「ナユ――」


 いけない。

 止めなければ・・・・・・

 駄目だ、ナユタ。

 これは・・・罠だ・・


「俺が……俺がローサを……俺が……」


「ナユタ!」


「俺がっ!」



ザクッ!



「俺がっ! ローサを!」



ザクッ!



 やめろ……。

 もう、やめろ……。

 やめてくれ……。



ザクッ!



「俺が……この手、で……ローサ……を……」



ザクッ!



「やめろ……」


 懐刀を何度も何度も。

 自身の腹部へと刺し続けるナユタ。

 彼女の臓腑は至る所に撒き散らされ――。


「もうやめろ! やめてくれ! ナユタ!」


「…………アルル…………たすけ――――」


 涙で濡れた顔をようやく俺に向けたナユタ。

 そして彼女はそのままの姿勢で《雷鳴阿國らいめいあごく》と《水響吽國すいきょううんごく》を脇から抜き出し――。


「あ」


 ――そのまま両手を自身の首へと交差させ、勢い良く振り抜いた。






 目の前に転がる2つの遺体。

 先程まで、共に楽しく食事をしていた仲間達。


「どうして……」


 俺はその場で力無くうな垂れる。

 辺りに充満する血の匂い。

 俺の足元に流れて来る温かい液体。

 赤の、液体――。


「ローサ……ナユタ……」


 俺は両手で顔を覆い尽くす。

 ローサが俺に告白した直後、ナユタは大太刀で彼女の首を刎ねた。

 何故だ?

 答えは・・・決まっている・・・・・・


命令・・……されていた・・・・・……のか?」


 ナユタがローサを恨んでいた筈が無い。

 二人とも子供じゃ無いんだ。

 ローサが俺に「好きだ」と告白したくらいで逆上して殺すことなどありえない。


「告白……そうか……」


 ローサの『告白』。

 俺を「好きだ」と言ったあの言葉。

 あれが・・・ナユタがローサを・・・・・・・・殺害する為の・・・・・・スイッチだったのだ・・・・・・・・・


 俺は立ち上がる。

 足が震えて、上手く立てない。


「誰だ……? 誰がナユタに《命令》した……?」


 いや、それよりも、何時・・命令された・・・・・

 魔王城に囚われていた時か?

 ならばやはり、魔王ルージュがもう一人の《命令士》か?

 ならば何故、こんな回りくどい真似をする?

 俺を捕らえた時点で自身の配下にすれば済む話だろう。


「彼女じゃない……。ルージュは《命令士》では無い……」


 よろよろと立ち上がる。

 しっかりしろ。

 早くアーシャ達にもこの事を伝えなければ。

 もう、彼女達に黙っている訳にはいかない。


 魔王ルージュとの事も、ティアラの事も。

 俺の《命令の力》の事も、全て――。


「いや、違う……。そうじゃ、無い」


 俺は頭を振り、考えを改める。

 深呼吸。

 血の匂いにむせ返りながらも、幾分か気持ちを落ち着かせる。


 ローサが告白をした直後、いやな予感がした。

 俺は知っていた――?

 こうなる事を、どこかで分かっていた?


 前に考えていた事。

 以前に俺は・・・・・命令士に・・・・命令されたことがある・・・・・・・・・・――。

 その可能性が拭いきれていない。


 俺はこうなる事を・・・・・・記憶していた・・・・・・

 そして姉さんが死んだあの日、命令士により命令されて記憶を失って・・・・・・――?


 でも、それはおかしい。

 未来の記憶・・・・・など、存在するはずも無い。

 しかし、何かが引っ掛かる。

 俺は、何者だ――?

 何故、ローサが殺される事を知っていたんだ・・・・・・・


 ローサだけではない。

 ナユタの自害も、俺は知っていた?

 罠……?

 そう、俺はさっき『これは罠だ』と考えた。

 何故、そう思考した?


「……おねがい・・・・だ。教えてくれ。俺は、何を知っている?」


 世界が白黒に変わる。

 俺は、自身の脳に《命令の力》を使用する。


「……駄目だ……。何も思い出さない……」


 世界が再び動き出す。

 《命令》のレベルが低いからなのか?

 それとも俺の思い違いなのか?


 どうする?

 何故、俺はアーシャ達に打ち明けようとしない?

 何故、躊躇する?

 長年、共に旅をしてきた仲間達だというのに。

 俺はそんなにも彼女らの事を信頼して来なかったという事なのか?


 アーシャ。

 ミレイユ。

 デボル。

 シュシュ。

 レム。


「……?」


 何かが、引っ掛かる。

 何だ……?

 俺の心が、彼女らに『真実』を告げる事を拒否している。

 何故――。


「……まさか……」


 まさか、彼女らの中に《命令士》がいるとでも言うのだろうか?

 そいつがナユタに《命令》を――?


「馬鹿な……そんな馬鹿なこと……」


 俺は頭を抱える。

 しかし思考は止まらない。


 心では彼女らの事を信じろと強く願い。

 頭では彼女らの事を疑えと強く警告される。


 何が真実で何が偽りなのか。

 俺はどうしたら良い?

 いまの俺に出来る最善の選択は――。


『叶うぞ。いとも簡単に』


 ふと最初に出会った頃のティアラの言葉を思い出す。

 そうだ。

 俺は《命令士》なのだ。

 もう、逃げ出した勇者候補でも、《無職》でも無いのだ。

 自身の力で問題を解決する事が出来る――。

 俺はその《力》を手にしたのだから。


「今の俺に出来る《命令》は……」


 記憶を手繰り寄せる。

 ティアラがいない今、俺の《命令士》としてのステータスを見ることは出来ない。

 俺の記憶が正しければ、今の俺のスキルは3つ。

 

 《おねがい》。

 《ささやき》。

 そして《ゆうわく》。


「《ゆうわく》……。まだ使ったことのないスキル……」


 このスキルを使って真実を暴く?

 これは彼女達に対する裏切り行為なのだろうか。

 俺の能力を隠し、魔王ルージュとの契約を隠し、《命令の力》を彼女らに使う――。


「……今更、何を言っているんだ、俺は……」


 既に世界中の『期待』を裏切ってきたんだ。

 ユフィア姉さんに全てを押し付けて。

 逃げて、逃げて、逃げ続けて。

 職にも就けず、ただただ毎日をダラダラと過ごして。


 アーシャとミレイユには感謝している。

 こんな俺を雇ってくれたのだから。

 しかし、既に俺ははみ出し者なんだ。

 今更、善人になるつもりなど、無い。


 俺は空を眺める。

 まだ夜は深い。


 このままアーシャ達を起こして、ローサとナユタの遺体を埋めよう。

 事情はそれなりの事を伝えれば良い。

 もしも納得してもらえなければ《命令》を使えば良い。


 街で殺しがあったと騒ぎが広まっても困る。

 一人ひとりに《命令》し、記憶を封じるのは骨が折れるだろう。

 まだ俺は集団に対し一度に《命令》を掛ける事は出来ない。

 何度か戦闘中に試したが、無理だった。


「今、俺がやるべき事は――」


 唇を噛み締める。

 絶対に、許さない。

 誰だか知らないが、俺を、俺の心を乱す阿呆め。

 思い知らせてやる。


 

 俺のこの《命令の力》を駆使して、跪かせてやる――。


















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