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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
第四章 疑心暗鬼のマーシナリー
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LV.026 赤い色って綺麗だなって思いました

 食事の準備を手際良く進めた俺は、なかなか戻って来ない飲んだくれ達を迎えに酒場へと向かう。

 相変わらずアーシャ達は人使いが荒い。

 マジ鬼畜。


「お、アルルじゃないか。本当に生きてたんだな」


 酒場に着くとさっそくデボルが俺に気付く。

 彼女の前には大量の空き瓶が……。


「ふふ、おかえりなさい、アルル。ナユタから聞いたわ。大変だったみたいね」


 少しだけ上気した顔でこちらを見上げるレム。

 色黒のダークエルフだからどれくらい酔っているのかは見た目では判断が付かない。

 だがしかし。

 とろーんとした目と少し荒い吐息がまたなんともエロい。

 流石はダークエロフ。


「……だから、アルル? どうして私の胸ばかり見るのよ……」


 俺の視線に気付き胸を隠すレム。

 いやお前、隠すくらいならもっと普段から上着を着ておくとかだな……。

 そんな水着みたいな格好で隠されても……。


「けっ、男って奴は……ぐびび」


 悪態を吐きながらも酒を煽るデボル。

 竜人族は酒にめっぽう強いらしいから、それに付き合うレムも大変だろうなとか思ってしまう。


「ナユタは? 一緒じゃないのか?」


 確か酒場に向かってデボルとレムを風呂に誘うとかなんとか言っていなかったか……?


「ええ、さっきまで一緒に飲んでいたわよ。お風呂にも誘われたけれど、デボルが行かないって言うから……」


「風呂になんか入る暇があったら、私は酒を飲むぞ」


「……ね? こんな調子だから、あの子一人でお風呂に行っちゃって……」


「……はぁ。そういう事か……」


 深く溜息を吐いた俺は踵を返す。


「お前ら、飯の準備は出来ているから酒は程々にして宿に戻れよ。俺はナユタに伝えて来るから」


「あ、じゃあ私も行くわ。このままデボルに付き合っていたらキリが無いし」


「けっ、ああいいさ。行け行け。私はもう少し飲んでから宿に戻るからな」


 ヒラヒラと手を振りながら酒を煽るデボル。

 その様子に再度溜息を吐く俺。


「ふふ、じゃあ行きましょうか、アルル」


 レムに促され宿を後にする俺。

 そして隣の銭湯へと向かう。





「……あの、レムさん?」


「なあに?」


 上気した顔で俺を見上げるレム。

 うん。色っぽい。

 ……じゃなくて!


「……何故、腕を組まれているのですかね」


 つい敬語でそう言ってしまう俺。


「ふふ、どうしてかしらね……」


 そう言ったレムは、更に俺の腕にしがみ付く。

 うん。

 胸が当たってる。

 ていうか、焼けるように肌が熱い。

 そうとう酒飲んだなこれ……。


「……お前、酔ってるだろ」


「ええ。だって仕方が無いでしょう? あのデボルに付き合わされたのだから」


「まあ……確かに」


 そういい俺に寄り掛かってくるレム。

 細い身体に引き締まった腹部。大きな胸。

 上気した彼女の身体から直に伝わってくる熱。

 やばい。

 なんかムラムラしてきた。


「……アーシャ。喜んでいたでしょう?」


「え?」


 不意にアーシャの名前を出されたじろぐ俺。


「貴方が無事に戻って来て、きっとアーシャも安心したに違いないわ」


「……そう、かな」


 確かにアーシャは喜んでくれた。

 俺が食事の準備をしているときも、引っ切り無しに話し掛けて来たし。

 シュシュとローサはトランプとかやって遊んでたけど……。


「貴方がいなくなってから、ずっと貴方の心配ばかりしていたのよ。魔王に殺されていないか、奴隷の様に働かされていないか、とか」


「奴隷の様に……か」


 アーシャも俺や姉さんの事情は良く知っている。

 あの《訓練場》での地獄の日々。

 《勇者》という名の奴隷を育成するためだけの、監獄の様な場所――。


「でもホント、良く生きて帰って来れたわね。あの魔王ルージュが狙った獲物を逃がすなんて、ね」


 レムが俺に顔を近付ける。

 綺麗な顔立ち。

 しかし、その言葉の真意が分からない。

 何かを疑われているのか……?


「……まあ、俺も運が良かったんだろうよ。すぐにレムやローサとも再会出来たしな。あいつらが魔王城に捕らえられていなかったら、たぶん俺は今でも……」


 それとなく真実を交えながらも受け流す俺。

 魔王ルージュとの契約。

 霊媒師ティアラの事。

 それらをレムに話す訳にはいかない。

 でもいつかきっと、彼女らには『真実』を打ち明けようと思う。


 こんな俺でもパーティに入れてくれた彼女達。

 顎で使われ尻に敷かれてはいるが、《無職》だった俺が生活していくには彼女達は必要不可欠だったのだ。

 当然感謝もしている。


「そう……」


 そこから先は無言になってしまったレム。

 とりあえず、今はこれで良い。

 問題を解決したら、その時は笑い話にでもしてやろう。

 というか――。


「……なあ、レム。そろそろ腕、放してくれねぇか?」


「うん? どうして?」


「……いや、どうしてって……」


 風呂屋の入り口に到着した俺達。

 さっさとナユタに声を掛けて宿に戻らなくてはいけないんだが……。


「レム。ナユタに声を掛けて来てくれよ。飯の準備が出来てるからって」


「ふふ、なら一緒に行ったらいいじゃない」


「はあ?」


「ここね、混浴よ」


「・・・」


 ……いま、なんつった?





「どうしてこうなった」


 俺の両脇には2人の女性がいる。

 一人は髪を丁寧に縛り上げた倭国の美女――もとい俺っ子剣士が。

 もう一人は同じく長い銀髪を縛り上げたダークエロフ――もといダークエルフが。

 二人ともバスタオルを巻いて入浴している。

 そして俺は間に挟まれ入浴している。

 うん。

 なにこれ。


「ナユタ。貴女、相変わらず長風呂なのね」


 俺越しに横にいるナユタに話し掛けるレム。


「当たり前だろう。俺のいた国では『風呂』というのは特別なんだぞ。ゆっくりと浸かり、気持ちを静め、精神を研ぎ澄ませ――」


「近い」


 ナユタの講釈に横槍を入れる俺。


「? なにがだ?」


「近いんだよお前ら! なんで俺を挟むようにして風呂に浸かってるんだよ! ていうか何で俺、風呂に入ってるんだよ!」


 ナユタに飯の準備が出来たと伝えに来ただけだったのに……!

 なんか流れで風呂に入っちゃったけど……!


「耳元でデカイ声を出すなアルル」


「ふふ、そんなに顔を真っ赤にして……。いいじゃない、減るもんじゃないし」


「そういう意味ちがう!」


 風呂の中でもしっかりと俺の腕にしがみ付いているレム。

 そして何故かレムの真似をしてナユタまでもが俺の腕にしがみ付いている。

 なにこれ。

 なんで俺、俺っ子とダークエロフに腕組まれて風呂になんて浸かってるの?


「あ、なんか、すごい」


「どこ見て言ってるの! レムさん!」


 彼女の視線は何故か湯船の下の――。


「……まあ、俺の懐刀くらい、かな」


「だからなにが! やめて! 見るな! お前ら!」


 両腕をがっちり捕まれ、身動きの取れない俺。

 レムの柔らかく大きな胸と、ナユタの丁度良い手ごろな大きさの胸が――。

 やばい。

 色々やばい。


「手が滑ったら、ごめんね、アルル」


「なにを先に謝ることがあるの! ねえ! なにが!」


「おい、レム。お前だいぶ酔ってるだろ……。あ、しまった。手が滑っ――」


「嫌あああああああああああああああああ!」



 その後、俺は仕方なく《命令の力》を使い、窮地を脱した事は言うまでも無く――。





 宿に戻り、食事を済ませた俺は、一人夜風に当たりに街に出る。

 少し頭を冷やさないと、先程の風呂の件を思い出してしまう……。


「はぁ……。あいつらちょっと、はしゃぎ過ぎなんじゃないか……?」


 でもまあ、魔王に捕らえられていた仲間が皆無事に戻って来たのだ。

 気持ちは分からなくも無い。


 ……これから俺は、どうすれば良いのだろうか。


 ふと今後の事を思案する。


 ルージュから託された《魔剣ニーベルング》。

 彼女はこれを使い《命令士》としての錬度を上げて行けと言った。

 彼女の思惑が何なのかは定かではないが、俺に拒否権は無いのだろう。

 恐らく今でも俺は監視されている。

 魔王城から俺を解放したのにも何か理由がある筈だ。


 そしてティアラ。

 ルージュは『別の場所に転移させた』と言っていた。

 別の場所、とは何処の事なのだろうか。

 俺は彼女に再会する事が出来るのだろうか。

 命を掛けて俺を守ってくれたティアラ。

 

 俺は彼女に本当に騙されているのか?

 それとも俺を騙しているのは魔王ルージュの方なのか?


 もしくは――。


「……もう一人の《命令士》……」


 俺以外にも《命令士》が本当に存在したら――?

 全てがそいつの策略で、ティアラも、魔王ルージュでさえも利用されていたとしたら――。


「あああああ! もう訳わかんね! 何なんだよ《命令士》って! あまりにも謎が多過ぎるんだよ!」


 つい叫んでしまう俺。

 頭の中がグチャグチャになって、考えれば考えるほど泥沼に嵌って行っている気がしてしまう。


 そしてふと、人の気配に気付き振り返る。


「? ……ローサ?」


「えへへ~。気付かれちゃった~」


 そこには笑顔で俺を見返しているローサの姿が。

 食事の後、風呂にでも入ってきたのだろう。

 髪を解き、洋服も魔道着ではなくラフな格好をしている。

 こうやって見てみると、どこにでもいる普通のお姉さんのような感じだ。


「いつからそこにいたんだ?」


「う~ん? 今さっきだよ~」


 人懐っこい笑顔でそう答えるローサ。

 なんだ?

 俺に何か用事でもあるのか?


「……なんだよ、ローサ。そんな薄着で夜風に当たると風邪引くぞ」


 とりあえず当たり障りの無い返事をする俺。

 いつもと雰囲気の違うローサに少しドキドキしている事を悟られない様に。


「……やっぱ、優しいね。アルルちゃんは」


「え?」


 少しだけ頬を染め、上目使いでそう言ったローサ。

 なんだ……?

 またいつもの悪戯か?


「アルルちゃんと出逢って、もう2年くらいになるよね」


 不意に思い出話を始めるローサ。

 なんだろう、この感覚。

 懐かしい様な、心を締め付けられるような、そんな感覚――。


「最初は頼りない、《職》にも就いていない、情けない子だな~って思ってたんだ、アルルちゃんのこと」


 心が、苦しい。

 何故だ?

 《無職》だと言われたから?

 いや、違う。

 なんだ、この感覚は?

 何故、こんなにも息苦しいんだ?


「でもね、アルルちゃんと旅を続けていく中で、随分と印象が変わったんだよ~。意外にも料理の腕が凄かったりとか~、何だかんだで優しい所とか~」


 やめろ。

 それ以上言うな。

 ……何故?

 ローサは俺の事を認めてくれているだけなのに?

 俺は何を、やめろ・・・と?


「……私ね。アルルちゃんに言っておかなきゃいけない事があるの」


 俺にしっかりと視線を向けるローサ。

 やめてくれ。

 俺にその純粋無垢な目を向けないでくれ。

 それ以上、言わないでくれ・・・・・・・――。


「私――――」


「ローサっ!!」


「――――アルルちゃんのことが、好きなんだ」


 ローサの、告白。

 少し恥ずかしそうに頬を染め。

 それでもしっかりと俺の顔を見て、そう言ったローサ。

 ああ……。

 多分、俺は彼女の気持ちに気付いていた。

 そう。

 気付いていて、気付かないフリをしていた。


「……ローサ。俺は――――」



ザシュッ――!



 ――一閃。

 空間が、引き裂かれる音――。

 なにかが、切断される、音――。


「あ、れ……?」


 宙に舞うローサ。

 いや、違う。

 正式には、宙に舞う・・・・ローサの頭部・・・・・・


「ああ……ああああああああ…………!」


 俺は呻く。

 

 一瞬の静寂の後。

 膝から崩れ落ちるローサの身体。

 鮮やかに舞う鮮血。

 月明かりの照らす街並みに広がる、鮮やかな赤――。


 俺はこの時、こう思ってしまったんだ。


 

 嗚呼、なんて綺麗な赤い色なんだろう、と――。

 














第四章 疑心暗鬼のマーシナリー fin.


次章 残虐無情のクリミナル



















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