LV.025 無事、仲間達に再会できました
「や~っと着いたぁ……!」
俺の後ろで大きく伸びをするローサ。
あれから丸2日俺達は延々と歩き続け、ここ《グレイロック》の街へとやってきたのだ。
「んーー……っと。流石に俺も疲れたな。一風呂浴びてゆっくりしたい気分だ」
同じ様に大きく伸びをするナユタ。
俺はその光景を眺めながらも、多少後ろめたさを感じてしまう。
すでに彼女らには2つほど《命令》を掛けている。
1つは《魔剣ニーベルング》の存在を忘れる事。
彼女らの目には、俺の装備している剣がただの黒剣としか映っていない。
あの森の中でたまたま手に入れたとか、適当な嘘でごまかして今に至っている。
そしてもう1つは《グレイロック》の街にアーシャ達が滞在しているとの情報を、途中で立ち寄った街のギルドで入手したという『偽の情報』。
これにより、彼女らは全く疑うこともせずに《グレイロック》の街まで最短距離で向かってくれた訳だ。
(……アーシャ……)
幼馴染の顔が脳裏に浮かぶ。
そういえば、こんなに長い間彼女の顔を拝まなかったことなど、今までに一度も無かったかも知れない。
ユフィア姉さんが死んだ後、何だかんだと俺の事を気に掛けてくれていたアーシャ。
「ぶぅ……。アルルちゃん、いまアーシャちゃんの事考えてたでしょう~」
「う……」
下から覗き込むようにローサが頬を膨らませながらも言う。
「だからローサ……! そんなにアルルに顔を近づけるなと……!」
「え~、なんで~? 良いじゃん別にぃ……。それともアレかなぁ? ナユっちの許可を取らないと、アルルちゃんとイチャイチャしたらいけないとかなのかな~?」
「ぐっ……! そ、それは……そんな事は……無いが……」
追求するローサにたじろぐナユタ。
何をしているんだこいつ等は……。
「あああ! もう良い! 何でもない! 行くぞ!」
「あ、逃げた~! こーら、ナユっち~! 話はまだ終わってないぞ~!」
ずんずんと先に進むナユタを、巨乳をゆさゆさと揺らしながらも追うローサ。
うん。
こいつらといると平和だな、とか思ってしまうから不思議だよな……。
「……さ、俺も行くか」
重い魔剣を担ぎながらも彼女らの後を追う。
もうすぐアーシャ達に逢える……。
彼女らはどんな顔をして俺を迎えてくれるのだろうか。
そんな期待感が俺の心に満ちていた。
◇
「ニャニャニャニャ~~~!? アルルが戻って来たニャ~~~!!」
街に入って早々、猫娘に再会する。
「よう、シュシュ。良い子にしてたか」
「ニャニャ!? ニャんだアルル、その馬鹿でかい剣は……! お前みたいなもやしっ子が私の《剛破大斧》に匹敵するくらいの大きさの大剣なんて担げる訳が――」
さっそく俺の担ぐ《魔剣ニーベルング》に喰い付くシュシュ。
まあ、当然か……。
俺は深く溜息を吐きながらもシュシュに近づく。
「にゃ、ニャんだ……! やるのかニャ……!」
謎の構えを取るシュシュ。
そして俺は彼女の猫耳にこう、囁く。
「なあ、シュシュ。これはな、ここに来るまでの道中でたまたま手に入れた黒剣なんだ。だから余計な詮索とかするなよな」
世界が、静止する。
白黒に支配される。
「ニャ……ニャあああん……/// わ、分かったニャン……! ニャウぅん……///」
恍惚の笑みを浮かべながらも、何故か俺の腹にそのまま頭をスリスリし出すシュシュ。
完全に猫だなこれ。
「…………はっ! わ、私は一体ニャにを……!」
《命令の力》により一瞬の記憶を失ったことにより、何が何だか分からないといった表情のシュシュ。
俺は彼女の頭を優しく撫でる。
そして思いっきり肉球で弾かれる。
……うん。
凄く痛い……。
「……何をやっているんだ、お前らは」
呆れた表情のナユタが後ろから声を掛ける。
「ねぇねぇ、シュシュちゃん~。皆はどこかな~?」
「ニャ! これは行方不明になっていた『男女』と『おっぱいエロ』ニャ!」
「誰が男女だ!」「ひどい~! シュシュちゃん~!」
ナユタとローサに同時に責められるシュシュ。
いや、特徴をそのまま述べただけだろシュシュは……。
「い、痛いニャ! やめるニャ! ぼ、暴力反対ニャ~!」
ひょいとナユタに襟首を持ち上げられ抵抗出来ないシュシュ。
なんか両頬をローサに思いっきり抓られているし。
はぁ……。
◇
「アルル……! ナユタにローサまで……! 無事だったのね貴方達……!」
シュシュに連れられ、街の中央にある宿まで案内された俺達3人。
ちょうど買い物帰りだったのだろう。
アーシャは大きな紙袋を3つほど抱えて宿に戻るところだったようだ。
「! その剣は……!」
紙袋を地面に落とし、腰に差した小剣を抜こうとするアーシャ。
無理も無い。
彼女はこの魔剣の脅威を嫌というほど味わったのだから。
俺は何も言わずに彼女に近づき、こう告げる。
「ただいま、アーシャ。お願いだから、今はこの魔剣の事は忘れてくれ」
《おねがい》が発動。
世界の時が静止し、一瞬のうちに白黒となる。
「……分かったわ。魔剣のことは、全て忘れる……」
小剣を鞘へと戻し、何も無かったように紙袋を拾い上げるアーシャ。
(……やっぱ、アーシャに《ささやき》は使いづらいよな……)
万が一《おねがい》が効果を為さなかった場合は《ささやき》の使用も考えたが、上手く行った様だ。
俺はほっと胸を撫で下ろし、彼女の持つ紙袋に自然と手を伸ばす。
「……あれ? 私いま、何か言おうとしなかったかしら……」
きょとんとした表情のまま俺に紙袋を手渡すアーシャ。
苦笑いをしながらもそれを受け取る俺。
いつもの光景。
いつもの、俺の役割。
「デボル達は? 宿にいるのか?」
未だに後ろでギャーギャーやっているナユタら3人を無視し質問する。
「え? ……あ、デボルとレムは酒場に行っているわ。ミレイユは司祭様の所だと思う」
「そうか……」
「?」
皆、無事だったんだな。
もう一度俺は、このパーティに戻ることが出来るんだ。
そう。
また元の生活に戻れるんだ。
彼女達の世話をしながら、尻に敷かれつつも幸せな日々を――。
「……何泣いてるのよ、アルル……」
「へ?」
アーシャに言われ、初めて気付く。
いつの間にか俺の頬には一筋の涙が流れていた。
「あ~ん! アーシャちゃんがアルルちゃんを泣かした~!」
いつの間にか俺達の背後に立っていたローサが大声を上げる。
「ちょ、違うわよ! 私じゃないったら! アルルが勝手に――」
「アーシャは鬼畜ニャ。きっと戻って来たばかりのアルルに酷い事を言ったのニャ。もう一度言うニャ。アーシャは鬼畜ニャ」
「こらシュシュ! あんたの『またたびご飯』の材料の買出しに行ってあげてたのに、そんな事を言うの! もう作ってあげないんだから!」
「……私が悪かったニャ」
一瞬で撃沈するシュシュ。
ていうかアーシャがシュシュの『またたびご飯』を……?
彼女が料理が出来るなんて、一度も聞いたことが無い。
それは本当に料理としての形を成しているのだろうか……。
「はぁ、俺はもう疲れたぞ。この街には温泉はあるか、アーシャ?」
溜息を吐きながらも会話に加わってくるナユタ。
「え? あ、うん。酒場の横に銭湯があったと思うけど……」
「じゃあ、飲んだくれ2人を無理やり誘って、一風呂浴びてくるぞ、俺は」
そう言い残し去って行くナユタ。
飲んだくれ2人……。
デボルとレムの事か……。
「あ、ちょっとナユタ! もう……。せっかく無事に再会出来たっていうのに……」
「……」
「な、何よアルル……」
「……いや、なんでも」
変わらない。
アーシャもシュシュも。
きっと、デボルもレムもミレイユもそうだろう。
俺は、戻って来たんだ。
いつの間にか、俺の顔には笑みが零れている。
「……気持ち悪いわね、まったく……」
アーシャの嫌味も今の俺には心地良い。
今夜は再会祝いだな。
目いっぱいご馳走を作ってやろう。
「シュシュ、ローサ。今から街に買出しに行って来るから、お前ら手伝って――」
「嫌ニャ」「や~だよぅ」
「…………あそう」
「私もパス。でもせっかくの再会祝いですもの。ご馳走をたんまりと用意して貰わないとね♪」
「…………ですよねー」
そう、予想通りの答えが帰って来た訳で――。
アルル:食事の準備に入ります
ナユタ:風呂、行きます
ローサ:「おっぱいエロはひど~い~!」
シュシュ:にゃうーん
アーシャ:「お腹空いた……」
デボル:飲んべぇ
レム:飲んべぇ
ミレイユ:礼拝中
ティアラ:???




