LV.023 ローサがいると食事の準備に便利です
「わーい。アルルちゃんの手料理、ホント久しぶりね~」
「ふん……。まあ、料理の腕だけは確かだからな、アルルは」
魔王城を無事脱出した俺達は、アーシャ達と合流する為に薄暗い森を抜け。
足が痛いと喚きだしたローサの為に、休憩がてら早い夕食となった訳なのだが――。
「結構モンスターの食材も手に入ったからな。山菜もキノコも採れたし」
ローサの《火魔法》により薪に火を付け。
ナユタの私物の小刀を包丁代わりに借り、下ごしらえを始める。
ルージュに拉致された時に俺の荷物は全部置いてかれちまったからな……。
俺の手元には《オオジロハクブタの肉》、《鬱孤閨の卵》、《小豆色の粉》、《バーン粉》、《慢陀羅油》、《くしゃみの出る粉》、《無重色の塩》が用意されている。
「ええと、ローサ。ちょっと杖貸してくれないか?」
「私の? うん~、良いけど……」
ローサの魔道杖である《邪杖ネクロスレビュート》を受け取り、《オオジロハクブタの肉》を叩いて良く伸ばす。
「ああ~! 私のネクロちゃんを~! ひど~い! アルルちゃん~!」
ポカポカとローサに後ろ頭を叩かれるが俺は気にしない。
「くく……、ローサの邪杖を……くく……、料理の道具に……」
なんか腹を抱えて笑っているナユタ。
いや、お前の懐刀である《絶・水無月》も包丁代わりに借りてるんだけど……。
十分に肉が柔らかくなった所で、《くしゃみの出る粉》、《無重色の塩》を適量まぶす。
この二つの素材は食材の味付けに非常に重要な役割を果たす。
アーシャ達が言うには、俺の作る料理は、この二つの素材の塩梅が丁度良いのだとか。
次に俺は《小豆色の粉》を取り出し、肉に丁寧にまぶして行く。
「あ~ん♪ おなかが空いてきたよぅ~」
「すぐに出来るからもう少し待てって」
ローサを宥めた俺は、次に《鬱孤閨の卵》を割り容器に盛る。
そこに《慢陀羅油》を適量入れ、混ぜ込む。
「ナユタ。《鉄巨人の鋼肩板》を薪に翳して、《慢陀羅油》をひいといてくれないか」
「断る」
「……あそう」
頼む相手を間違えたようだ。
うん。
どうせ誰も手伝ってなんてくれないよな……。
溜息を吐きながらも即席の鉄鍋に油を流し込む。
「あ~ん♪ おなかが空いてきたよぅ~」
「お前そればっかりだな! そう思うなら少しは手伝えよ!」
「あ~、アルルちゃんが怒った~! ぶぅ~」
「……はぁ」
もう一度溜息を吐いた俺は、十分に熱した油にひとつまみの《バーン粉》を入れて温度を確認。
「こんなもんか……」
そして味付けした肉を卵に付け、《バーン粉》をまぶし。
そっと油の中に肉を落とす。
「おお、美味そうな音だな」
ジュワっと小気味の良い音が辺りに響き渡る。
俺は続けざまに肉を油の中に落として行く。
今はアーシャもデボルもシュシュもいないから、そんなに大量に夕食を作る必要は無い。
手ごろな大きさにカットした木の枝を使い、肉が狐色になるまでしっかりと揚げていく。
その間、聖水で綺麗に洗った《健胃玉草》をナユタの小刀で千切りにして行く。
《健胃玉草》は元々薬草として使うのだが、食材としても使うことが出来る万能薬でもある。
というか俺達のパーティではもっぱらサラダの材料として使用しているのだが。
「おい、アルル。こっちは揚がったみたいだぞ」
鍋を見つめていたナユタが俺に声を掛ける。
いやお前……鍋から取り出すくらい……。
……いや、いい……。
狐色に揚がった肉を取り出し、千切りにした《健胃玉草》を和えて完成。
その間に作っておいた特製のソースをかければ――。
「わーい。いっただっきまーす」
「美味そうだな。俺も貰おう」
まだ後片付けをしている俺を無視し食べ始める二人。
うん。
いつもの光景ですね……。
「あとは何かデザートでも作るか……」
揚がった肉を摘みながらも残りの材料に目を通す。
《レッドベリーの実》、《業天同地の粉》、《獰猛牛の乳》、《獰猛牛の濃乳》、《天使の粉》……。
「ローサ。《水魔法》」
「うん? なになに~? デザート? わーい。《水よ》」
ローサの唱えた魔法により鍋に一定量の水が出現する。
俺はそこに《業天同地の粉》を振り掛ける。
次に《獰猛牛の乳》を火で沸かし、《天使の粉》と水でふやかした《業天同地の粉》を入れ、鍋で溶かして行く。
十分に溶かしたら火から上げ、ある程度冷ました後に《獰猛牛の濃乳》を入れ、泡立てない様に混ぜ込む。
「これを手ごろな容器に入れて、と……。ローサ。《氷結魔法》。ちょっと弱めで」
「はーい。《氷よ》」
容器ごとローサの氷結魔法により急速冷凍される。
そしてあっという間に完成する。
「あとはソースか……」
手元に残った《レッドベリーの実》を残った《天使の粉》と混ぜ、思案する。
いつもなら時間を掛けてソースを作るのだが、ローサがいる事だし……。
「ローサ。これを《圧縮魔法》と《火魔法》に掛けてくれないか?」
前にも即席でデザート用のソースを作るときに成功したはずだ。
短時間で素材を煮立たせ、ソース状になるお手軽ダブル魔法。
「もう~、アルルちゃん私をこき使いすぎ~」
「いいだろ別に。ローサだってすぐにデザート食べたいだろう?」
「むぅ……。そうだけど~……。仕方ないなぁ~」
文句を言いながらも《圧縮魔法》と《火魔法》を同時に繰り出すローサ。
異空間に閉じ込められ、加熱された素材はあっという間にジャム状へと変化する。
「あ、最後また《氷結魔法》でちょっとだけ冷やしてね」
「もう~」
ローサがジャムを冷やしている間に俺は出来上がったデザートを器に用意する。
「おお、冷えてて美味そうだな」
その間ずっとニヤニヤしながら眺めていたナユタ。
どうも俺がローサをこき使うのが嬉しいらしい。
どうしてかは知らんが……。
「はい、アルルちゃん~。出来ましたよ~」
「サンキュ、ローサ」
手渡されたソースをデザートに掛け完成。
即席にしては、まあ上出来かな。
「いっただっきまーす」
「お、美味いなこれも」
案の定、俺が後片付けをしている最中に食べ始める二人。
うん。
もう何も言いません。
「さ、喰って少し休んだら先に進もう。まだ夕暮れには時間があるからな」
頬いっぱいに俺の手料理を詰め込んでいる二人に向かいそう告げる。
まあ、美味そうに食ってくれている分には悪い気はしない。
(……アーシャ達は無事なんだろうか……)
残りの肉とデザートを摘みながらも思案する。
よほどの事が無い限り、彼女達が死ぬなんて事は無いだろう。
ナユタやローサを連れ戻った俺を見て、彼女達は安堵してくれるだろうか。
(まあ、とにかく合流が最優先だな……)
あと一刻もすれば日が落ちる。
そしたらまたティアラが俺の前に現れるのだろう。
これから俺は一体どうすれば良いのか――。
この時の俺はまだ、今後起こりうる《悲劇》に対し、何も心の準備が出来ていなかった訳で――。
【レシピ】
『オオジロハクブタのとんかつ~シャキシャキ健胃玉草和え~』(3人前)
オオジロハクブタの肉 ×3
鬱孤閨の卵 ×2
小豆色の粉 ×1
バーン粉 ×1
慢陀羅油 ×1
くしゃみの出る粉 少量
無重色の塩 少量
健胃玉草 ×2
※とんかつソースは秘伝により未掲載
『業天同地のパンナコッタ~フルーツソース和え~』(3人前)
レッドベリーの実 ×3
業天同地の粉 ×1
獰猛牛の乳 ×2
獰猛牛の濃乳 ×1
天使の粉 少量