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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
第三章 奴隷遊戯のマリオネット
20/65

LV.019 逢いたかった人に逢えました

「さて、と……。ティアラ、いつもの頼む」


 《異界の部屋》へと到着し《魔法の鍵マジックキー》を取り出す俺。

 ぶすっとした表情で杖を取り出すティアラ。

 もういい加減機嫌直して下さい……。


『まったくまったく……。アルルは女子おなごの気持ちを全然分かってはおらん……ブツブツブツ……』


 何か文句を言いながらも杖でトントンするティアラ。

 そして再び《魔法の鍵マジックキー》のステータスが出現する。



====================


【魔法の鍵】 LV.1295

『異界』 失笑者の森 LV.6

     愚鈍者の峠 LV.10

     調律者の丘 LV.18

     聖職者の墓 LV.21

     ・

     ・

     ・


====================



「次はどの『異界』にすっかぁ……」


 リストをスクロールさせながらも悩む俺。

 この『鍵』で向かう事の出来る異界は、ざっと見積もっても100以上はある。


『ここなんかはどうじゃ?』


 ようやく機嫌を直したティアラが俺の思考に割って入る。

 彼女が示したのは『偽欺者の塔 LV.51』。

 異界のレベルが高すぎる気がするが、出てくるモンスターのレベルは異界レベルとは比例していない。

 うーん。

 どおすっかな……。


「偽欺者、か……。『失笑者』が笑蜘蛛、『水浴者』が巨大温泉卵? 今度の異界のボスは一体どんな奴なんだろうな……」


 異界のネーミングとその世界のボスとは関係性がある事は検証済みだ。

 異界のレベルは恐らく、鍵自体のレベルと関係性があるのだろう。

 例えば俺の『命令士』としてのレベルが7になると『ささやき LV.7』が使用出来る様になるのと同じで。

 鍵レベルが100になればレベル100の『異界』へと向かえる様になるって感じか。


『取り敢えず行ってみれば分かるじゃろうて。……というかワシ、どうして異界探索に普通に協力しておるのじゃったか……。確か城を脱出する方法を考えておった気が……』


 しきりに首を傾げるティアラ。

 『俺に協力する』という《命令》により、俺にとって都合の悪い部分だけが記憶から抜け落ちてしまっている。


(《命令》による記憶欠損……。もしもティアラに別の《命令士》が命令をしていたら――?)


 俺が幾ら《命令の力》を駆使した所で、彼女自身の・・・・・記憶に無い内容・・・・・・・を聞き出す事は出来ない……?

 それが先ほどの《ささやき》での『返答無し』という結果に繋がるのか?

 命令士にもレベルの概念が存在する。

 そしてレベルが99になると習得する《絶対循守ダーク・ドレイク》の存在――。


(まさか……対命令士用の・・・・・・スキル・・・とか言うんじゃないだろうな……)


 普通に考えれば、よりレベルの高い《命令》の方の効果が優先される気がする。

 そして『絶対循守』とはその名の通り、絶対に守られるべき内容という意味なのだろう。

 つまりは他の《命令の力》を跳ね返す、絶対的な・・・・命令の力・・・・――?


「……」


『アルル? 便秘かの?』


「違う」


『あそう。ならさっさと行こうでは無いか。《偽欺者の塔》へ』


 思いっきり思考を中断させられた俺。

 狙ってやっているのか天然なのか。

 今の俺では判断がつかない。


「……期待してるぜ、ティアラ。またお前の無双で俺のレベルアップに協力してくれよな・・・・・・・・


『……ああ。勿論じゃよ……』


 スキルの発動にもだいぶ慣れて来た。

 いちいち周りの風景が白黒になったり、時間が一瞬止まったりするのが気持ち悪いのは確かなのだが。

 通常の会話で勝手に《命令の力》が発動する事も無くなったし、ある程度は熟練されてきたという事なのだろうか。


 俺は鍵を鍵穴に差し、念じる。

 

 そして『偽欺者の塔』へと――。




◆◇◆◇




「うわ……」


 目を開けると、そのあまりの景色に絶句する。

 『塔』という名称からある程度は想像していたのだが……。


『ほう……。ここは《天空都市ゼグラム》じゃの。滅多に来られる土地では無いから、ワシも今までに一度しか立ち寄った事は無いわ』


 《天空都市ゼグラム》……?

 初めて聞く名だ。

 ていうか天空に都市があるってどういう事ですかね。


『ここの地盤はの。《浮遊鉱石》という特殊な石で出来ておるのじゃよ。様は《魔法石》じゃな。膨大な魔法の力が込められた空に浮かぶ都市。ほれ、そこらへんの建物も全部浮いておるじゃろう? 足場には気をつけるのじゃぞ。お主はワシと違って空を飛べんのじゃから』


 ティアラが指差す先には、大小様々な建物が宙に浮いているのが見える。

 そして俺が今立っている場所。

 一際目立つ、馬鹿でかい塔のてっぺんの広場。

 ていうかちょっと傾いててバランスを崩すと転びそうになるのですが……。


「こんな足場の悪い所で戦うのかよ……。いきなり嫌気が差してきた……」


『文句を言うで無いわ。戦場では常に何が起こるか分からんのじゃぞ。これも訓練の1つじゃて』


 ティアラの『訓練』という言葉に一瞬眉を顰める俺。

 ……駄目だな。

 すぐに暗い過去の事を思い出してしまうのは、俺の悪い癖だ。


「……ん? あれ? 誰かあそこに立ってねぇか?」


 広場の先。

 この傾いた塔の尖ったてっぺんに佇む人影。

 女か……?

 逆光になっていて良く見えない……。


『ほう……。いきなりボス戦かの。……いや、あれは……!』


「え――?」


 女がニコリと笑った気がした。

 そして徐々に光が傾いて行って――。


 蒼銀に輝く崇高な光を奏でる鎧。

 毛先で綺麗に纏められた白銀に輝く長髪。

 そして右手に持った世界に2つと無い剣。

 《聖剣デュラハム》――。



「姉……さん……?」



 俺の思考が停止する。



『アルル! くるぞ!』


 ティアラの叫びが俺には聞こえない。


 もう一度ニコリと笑った女剣士――勇者ユフィアは、俺の姉さんは――。


『くっ! 阿呆が! 本物のユフィアの訳がある筈ないじゃろうて! さっそく騙されおって……! 《塗壁ぬりかべ》!』


 剣を突き出し突進して来る姉さんの攻撃を突如現れた巨大な壁が遮る。

 でも、こんな壁、姉さんの前ではまったくの無意味だ。


「――《神なる欲望デザイア》」


 姉さんの左手から放たれる《勇者ブレイバー》のスキル。

 相手の防御系スキルを完全無効化させる、姉さんの得意なスキル。

 そしていとも簡単に消滅した巨大な壁。


『ちぃ! 偽者勇者風情が! やるではないか!』


 壁の消滅と同時にユフィア姉さんへと向かって行くティアラ。

 なあ、ティアラ。

 何故お前はあれが偽者だと断定出来るんだ・・・・・・・

 どこからどう見たってユフィア姉さんじゃないか。


 姉さんは生きていたんだ。

 やっぱりティアラは俺に嘘を吐いて――。


『《梔子くちなし》!』

「――《聖なる灯火ブレイズン》」


 姉さんの全身を覆う蔦を同じタイミングで業火が包み込む。

 あの戦い方……。

 相手の攻撃と同時にそれを無効化する反応速度とスキル――。


『おいこらアルル! こいつはちと手強いぞ! ぼーっとしておらんと、お主も手伝え!』


 猛攻と猛攻のぶつかり合いの最中でも俺の事を気にする様子のティアラ。

 でも姉さんは俺にニコリと視線を向けるだけ。

 どうして?

 姉さんは俺の事を忘れてしまったの?


「姉さん……」


『! 無防備に近づくでないわ! 阿呆!』


「あ――」


 俺の頬を姉さんの突きが掠める。

 そしてよろめき尻餅をつく俺。

 今一瞬、首を傾げなかったら、俺の脳天は姉さんの聖剣で貫かれて――。


「姉さん……。俺を……恨んでいるの?」


『ああもう! お主の姉は当に死んでおる! こいつは偽者じゃとさっきから――!』


「――《天なる裁きラグナロク》」


『しまっ――!』


 一瞬の隙を突き、姉さんが左手を上空に翳す。

 そして天空からの光に包まれる俺とティアラ。

 嗚呼、これは姉さんの得意魔法の1つ――。



 そして光に包まれた俺が考えていた事。


 それは――。



 ――あの日逃げ出した俺を、姉さんが殺しに来たのだと――。


















アルル:茫然自失

ティアラ:ぬりかべが効かない!?

ユフィア?:ニコリ

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