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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
第三章 奴隷遊戯のマリオネット
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LV.017 魔王城を探索したことを後悔しました

「あー……。暇だなぁ……」


 ベッドでごろごろしながら一人そう呟く俺。

 ティアラが起き出す夕刻まではまだ時間がある。

 流石に一人で《魔法の鍵マジックキー》を使い異界に向かう訳にはいかないし……。


「ちょっと城内でも探索すっかぁ……」


 ルージュからは言われているのは『魔王城から外には出るな』という事だけだ。

 せっかく《魔族》が俺を襲ってこないのだ。

 良い機会かも知れないし、それに――。


(奴が何を考えているのか……。ただ単に俺の《命令の力》が欲しいだけなのか、それとも……)


 俺は今までの人生で何度も人に騙されて来た。

 血反吐を吐く様な『訓練』の日々から逃げ出し、気楽に生きていける《無職》の道を自ら選んだ。

 本当は俺が『職』に就くことができないなんて事は、最初から分かっていた。

 《勇者の血族》。

 俺が就く事の出来る唯一の職業。

 それが《勇者ブレイバー》だったのだから――。


「よっと」


 ベッドから起き出し部屋を出る。

 

 この迷路になっている魔王城を当ても無く彷徨っても迷うだけだ。

 俺は目星を付けた部屋を1つ1つ確認して行く。


「あ、宝箱」


 ためしに開けようと近づくが躊躇する俺。

 流石に怒られるだろ……。

 しかし場所だけ覚えておけば、アーシャ達と合流出来た際に役には立つ筈だ。

 俺は頭の中に宝箱が置いてある部屋を記憶させる。


 記憶――。


 何故、俺が《命令》すると相手は記憶を失うのだろう。

 ……いや、思い当たる節はある。


 そもそも《霊媒師ミスティック》という職業自体が超が付くほどの希少な職業なのだ。

 その《霊媒師ミスティック》が生涯を掛けてたった一人に与えられる《力》。

 それが《命令士コマンダー》という謎に満ちた職業ならば、その存在が世間に明るみになってはまずい筈――。


(《命令の力》が発動したという事を隠すための・・・・・処置・・なのか……?)


 命令によりその間の記憶を失うという事は、命令により・・・・・行動させられた・・・・・・・事実も隠蔽出来る・・・・・・・・――?

 つまりは《命令士コマンダー》という職業そのものの隠蔽にも繋がる話だ。


「《絶対循守ダーク・ドレイク》の命令か……」


 もしもその名の通りの《命令の力》なのだとしたら――。


「この世界を……この腐り切った世界を……俺の《力》で変える事が……」


 ……。

 やめよう。

 俺は《勇者ブレイバー》になる事から逃げ出した臆病者だ。

 ただただひっそりと暮らしたい。

 アーシャ達のパーティに同行したのだって、日銭を稼ぐためのアルバイトに過ぎないのだし。

 荷物持ち兼食事係。

 それでいいじゃないか。

 もう面倒事に巻き込まれるのはごめんだ。


「……。……はぁ……。もう巻き込まれちまってるんだけどね……」


 深く深く溜息を吐き、俺は再び魔王城の探索を続ける。




◆◇◆◇




 しばらく周辺を探索していると、地下へ向かう階段を発見する。


「地下か……。別に降りたって大丈夫だよな……」


 薄暗い石造りの階段を一段ずつ慎重に下る。

 延々と続く地下への階段。


「ひっ!」


 首筋に水滴が落ち、ちょっと悲鳴を上げてしまう俺。

 んだよ……。冷たいなぁ……。


 しばらく進むと、弱弱しい光が前方に確認出来る。

 あれは……灯篭の光か?


 人の気配を察し、緊張する俺。

 誰かが喋っている……?


「はぁ……。ねーえー、ナユタ~。私達、一体何時になったらここから出られるのよ~」


「俺が知るかよ……。レムとも逸れてからしばらく経つし……。アーシャ達も今頃どの辺りまで来ているのか……」


 灯篭の光が零れているその先の牢に入れられている2人の人物。

 俺の良く知っている人物――。


(ナユタにローサ……! どうして2人が魔王城の地下牢に……!)


「ナユ――」


 彼女らに声を掛けようとして思い留まる俺。

 いまここで、俺が出て行ってどうなる?

 彼女らは不思議に思うだろう。

 パーティの役立たずとしての烙印を押されている俺が、たった一人、魔王城の地下室にいる事を。


 特にナユタは怪しむだろう。

 勘の鋭い彼女ならば、俺が魔王ルージュとある意味『契約を交わした事』にも気付くかも知れない。


「あーあ。おなか空いたわぁ……。アルルちゃんのご飯が恋しいわね~……」


 大きな胸を揺らしながらもローサは大きく溜息を吐く。

 強力な攻撃魔法を駆使する《聖魔師ソーサラー》であるローサ・レグザイム。

 大抵俺はパーティの最後尾に位置するローサの盾となりながら、彼女の魔法のチャージが終了するのをひたすら待つ役回りだったのだが。

 とにかく防御に集中出来ないのだ。

 彼女の大きな胸が背中に当たって。


「アルルか……。あいつはもっと精進しないと使い物にならないからな……。男のくせに悔しくないのかあいつは……。女だらけのパーティで、女の尻に隠れているだけなんて……情けない」


 同じく溜息を吐きながら俺を揶揄する《刀剣士ソードマスター》であるナユタ・ガルーンハイド。

 腰に二本の小太刀。

 背中には大太刀と苗刀が一本ずつ。

 状況に応じて大中小の刀を使い分けるのがナユタの戦い方だ。

 自身の事を『俺』と呼んではいるが、れっきとした女性剣士。

 そしてパーティの中央で戦況を見極め行動する、戦闘のエキスパートでもある。


 前衛のアーシャ、中衛のナユタ。

 俺達のパーティはこの2人の指揮により連戦無敗を記録してきた傭兵団だと言ってもいい。

 ついこの間までは・・・・・・・・


「もう~。ナユっちはアルルちゃんに厳しいんだから~。本当はああいう華奢な男の子、好きなんでしょう?」


 ニヤケ顔でナユタに近づいて行くローサ。

 ナユタが……俺の事が、好き?


「な、何を馬鹿な事を……! 俺はああいうナヨナヨした男が大嫌いなのだ! それと『ナユっち』はやめてくれと何度も言っているだろうが!」


「え~? じゃあナヨっちの方がいいかなぁ~。アルルちゃんが『ナヨナヨ』で~。ナユタちゃんが『ナヨっち』? あはは~♪ 何だかお似合いの二人だね~」


「な、ナヨっち……!」


 頭を抱え蹲るナユタ。

 一体何をやっているんだあいつらは……。


(……でも、どうしてルージュはナユタ達を捕らえていた事を俺に黙っていたんだ……?)


 単純にナユタとローサが俺の仲間だと知らなかったのだろうか?

 いや、でも確か、前にティアラが『魔王ルージュはお主らの事には気付いている』と言っていた筈。

 もしかしたら、俺がルージュの提案を呑まなければ、彼女らを人質にして――?


「じーーー」


「こ、今度はなんだ……ローサ……」


 ナユタ達の会話で思考を中断する俺。

 なんだ?

 ローサがナユタの顔をじっと見つめている……?


「私、前から思ってたんだけどさ~。ナユっちって、女の子なのに男の子みたいで格好良いわよね~」


「だ、だから何だというのだ…………ひっ!」


 何故か知らんがナユタの耳に息を吹きかけたローサ。

 あいつまさか……。


「いやん♪ 『ひっ!』だって~。可愛い~♪」


「おい! ここは牢――ちょ、おい! やめろ! どこ触ってるんだよローサ! ちょ、あっ、やめ――!」


 ・・・。


「ほら、暴れないでよナユっち~。こんな人気の無い牢に閉じ込められたらさぁ~。男好きな私が耐えられる訳ないでしょう~?」


「そんな事俺が知ったこと――んっ! ちょ、こら! 俺は女だ! ちょ、聞いてるのかローサ!」


 ……なにしてんのこいつら……。


「だーかーらー。もう男とか女とかそんな事どうでもいいでしょう~? 男っぽくて可愛いナユっちなら私、綺麗にご馳走様出来るよ~」


「ご馳走様って何だ! ちょ、やめ、やだっ! あんっ!/// ま、待ってローサ! くそ、何でこんなに力が強いんだよお前! くっ、待て! 話せば分かる! 落ち着こう! 落ち着いてここから脱出する方法をだな――」


「ああん/// もう、ナユっちったら……。こんなに固い刀の柄を私に向けて~。えっち~」


 ……馬鹿だ。

 こいつら……馬鹿だ……。


「違うだろ! お前が勝手に俺の刀の柄に……こら! 汚いからそんな事するんじゃない! お、ちょ! 看守! 看守は何してるんだよ! ちょっとこの変態を別の牢に……ああっ! 駄目っ!!///」


「えーい///」



 俺はそっとその場を離れる事にした。


 

 そして俺は今日この時ほど、《命令の力》を自身に掛け、記憶を封印してしまいたいと思った事は無い――。


















アルル:なにも見ていない……。俺は何も見ていない……。

ナユタ:ビクンビクン///

ローサ:ビクンビクン///

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