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命令士アルルの異世界冒険譚  作者: 木原ゆう
第三章 奴隷遊戯のマリオネット
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LV.016 ささやくと高熱状態になるみたいです

『熱い! 温泉卵熱い! ワシの柔肌焼けちゃう!』


「遊んでんじゃねぇティアラ! ほら! ラスト一撃!」


『まったく……。霊使いが荒い奴め……。良いじゃろう! この巨大温泉卵野郎! くらえい! 《玄翁とんかち》!』


 露天風呂に突如現れた巨大な卵型のモンスター。

 その遥か上空に現れたこれまた巨大な鉄槌。

 ホント、霊媒師のスキルって……。


『《破砕クラック》!』


 超高速回転をしながら急降下してきた巨大鉄槌。


ゴイーン……!!!


 耳を劈く様な音が辺り一面に響き渡る。


『グググ……! グアアアアァァァァ……!!!』


『おっし! やったぞアルル! 卵野郎をやっつけたぞ! ワシが!』


 ガッツポーズのティアラ。

 そしてその瞬間、バスタオルがはらりと落ち――。


『あ』


「あ」


 そしてお約束の――。



『嫌あああああああああああああああああああ!!!』





◆◇◆◇




『……しゅん』


「いい加減に機嫌直せよ……。しかたねぇだろう? 温泉入って酔っ払ってた所を奇襲されたら、誰だってまともになんか戦えないって」


 しかもあれは『水浴者の泉』のボスモンスターだったし。

 なので無事ボスを倒した俺達は《異界の部屋》へと再度戻って来れた訳で。


『……そういう問題違う』


「……はぁ……」


 溜息を吐きながらも俺はうな垂れたままのティアラに近寄る。

 そして、こう《おねがい》する。


おねがいだから・・・・・・・、機嫌を直してくれよティアラ。それにもう夜が明ける。そろそろ寝る時間だろう? 俺も徹夜して眠いから、どこか部屋を探してそこで仮眠するから」


『……アルルがそう言うのならば、分かった……。ワシは先に休ませて貰うぞ……』


 そう答えたティアラはそのまま徐々に消えて行く。


「ああ。お休み、ティアラ。また今夜な」


『ああ……お休み、アルル』


 ティアラの気配が完全に消える。

 俺は深く溜息を吐き、《異界の部屋》から外へと出る。


 そして長い廊下を来た道順どおりに戻り、最初に魔王に招かれた部屋へと戻る。


「……はぁ。マジ疲れた……」


 早速ベッドに横になり目を瞑る。

 戦闘に次ぐ戦闘。

 『失笑者の森』と『水浴者の泉』の2つの異界のボスも倒しクリアした。

 流石に2回目は余計だったと反省する。


「でも……ティアラの裸……」


 徐々に意識が遠のく中で、先ほど見たティアラの肢体が脳裏に浮かぶ。

 あの口調と実年齢さえ聞かなければ、俺好みの美少女であることは確かだ。

 しかし、疑心暗鬼になっている俺の心とあの人を小馬鹿にしたような態度のせいで俺は――。


(何を考えているんだ俺は……。あいつは……ティアラは俺を……騙しているのかも……しれ……ない……)


 強烈な睡魔に敵わず、そのまま眠りに着いてしまう俺。

 今夜はとんだ徹夜だった。

 魔王ルージュに今夜の出来事を報告する約束だったが、まあいい。

 

 このまま、寝てしまおう……。




◆◇◆◇




『ねぇ、アルル。私達は由緒正しき《勇者の血》が流れているのよ』


 ユフィア姉さんが俺を優しく諭してくれる。

 これは、夢だ。

 まだ俺達姉弟が『訓練場』にいた頃の夢――。


『確かに特訓の毎日で今は苦しいけれど、いつか必ず私達は皆に祝福されて《人間族》を救うことが出来るのよ』


 そういった姉さんは痣だらけの腕で俺の頭を優しく撫でる。

 

 ……何が『祝福される』だ。

 何が《人間族》を救うだ……!

 こんな暴力を毎日毎日受けて……。

 何が! どこが! 《勇者》なんだよ姉さん!

 これじゃ奴隷じゃないか!

 俺達は……《勇者の血族》ってだけで利用されてるんだよ!


『……アルル。分かって頂戴。私達しかいないのよ。世界を救う事が出来るのは……』


 どうして……?

 どうしてユフィア姉さんはそんな事が言えるんだよ……。

 俺、知ってるんだ……。

 見ちゃったんだよ……!

 ユフィア姉さんが……!

 姉さんを……あいつらは……寄って集って……!


 どうしてそんな奴らまで救ってやらなきゃならないんだよ!

 どうして姉さんは笑っていられるんだよ!

 どうして姉さんは――――!


『……アルル……』



◆◇◆◇



「……アルル」


「ん……」


 声を掛けられ目を覚ます。

 全身にびっしょりと汗を掻いている事に気付き、今の今まで眠っていた事を理解する俺。


「夢でも見ていたか? 随分と魘されていた様だが……」


 魔王ルージュがそっとベッドに腰を掛け、俺の事を心配してくれる。

 果たして本当にこいつは俺の味方なのか。

 それとも――。


「……大丈夫だ。悪いな、ちょっと疲れちまって寝ちゃったみたいだ」


「構わん。で、早速で悪いのだが、報告を頼む」


 真剣な表情で俺の顔を覗き込むルージュ。


「……ああ。ちゃんとティアラは俺に『協力』してくれているよ。お前が言っていたとおり、彼女の『力』は本物だな……。最初に彼女にかけた『俺に協力をする』という《命令》と、《おねがい》、《ささやき》のスキルを駆使して、どうにか順調にレベルはアップして行っている」


「そうか。『記憶』の方は?」


「そっちも問題無い。ここが『魔王城』であることも、俺がお前とコンタクトを取っている事も、彼女は知らない」


 ありのままに報告する俺。

 相手は魔王だ。

 いくら『俺を絶対に殺さない』という《命令》をこいつに掛けたからといって、『殺さない程度の瀕死』、もくは『監禁や軟禁』状態にする事は可能だろう。

 既にルージュからは『魔王城の外には出るな』という条件を付けられてしまっている。

 言ってしまえばそれは『軟禁状態』となんら変わらないのだから。


「そうか……。ならば今後も同じ様に《命令士》としてのレベル上げに勤しんでくれ」


 そう言いベッドから立ち上がろうとするルージュ。

 俺はその手を軽く掴む。


「? どうした?」


 特に警戒した様子では無いルージュ。

 普通、異性の男に急に腕を掴まれれば眉くらいは顰めると思うのだが……。


「……1つだけ聞かせてくれ。ティアラはユフィア姉さんが確かに死んだ・・・と言っていた。真実はどっちなんだ?」


「……」


 俺の真剣な表情から悟ったのか。

 ルージュは再度ベッドに腰をかけ、俺に優しく語りかける。


「勇者ユフィアは確かに生きている。これは『真実』の情報だ」


 ルージュは真っ直ぐに俺の目を見ながらそう言い切る。

 どうする……?

 ここで《命令の力》を発動し、本当に彼女が真実を述べているのかを見極めるか……?


「……」


「……ふっ。信じられんか。ならば《命令の力》を使い聞くが良い」


「……いいのか?」


 意外な答えに少し驚く俺。

 それだけ嘘偽りが無いと自信を持って答えているという事なのか……。

 ……。

 いや、それ自体が俺を誘導する『嘘』の可能性もある。

 俺が魔王ルージュを信じ、都合の悪い『真実』から俺を欺く為の――。


「……悪いがそうさせてもらう」


 俺は彼女の耳元でささやく・・・・


勇者ユフィアが・・・・・・・生きているというのは・・・・・・・・・・本当の事か・・・・・?」


「うっ……あ……ああっ!/// ほ、本当の……事、だ……」


 一瞬大きく痙攣したルージュ。

 ティアラと同じ反応だ。

 何か《命令》とは違った効果が現れているのだろうか……。


それはどこかに・・・・・・・監禁されているとか・・・・・・・・・瀕死の状態で・・・・・・なんとか・・・・生きているとか・・・・・・・そういう事では・・・・・・・無いのだな・・・・・


「あっ、あっ、あああっ!/// そ、そう、だ……。んっ! か、彼女は監禁な、ど……! されては、いない……んんっ!/// 生命活動、に……! し、支障も特に、はッ……!///」


 俺の腕の中で切なく喘ぎながらも彼女は答える。

 ユフィア姉さんは本当に生きている……?

 ならばティアラは純粋にその事を知らないだけだったのだろうか……。


「分かった。有難う、ルージュ」


 彼女を解放する俺。

 そしてすぐにベッドに倒れ込むルージュ。


「はあっ、はあっ、はあっ/// な、何だ……? 何をしたアルル……? 何でこうも我の身体は……?」


「? 身体がどうかしたのか? 俺は普通に《命令の力》を使ってお前に質問しただけなんだが……」


 当然質問中の記憶が無いルージュ。

 やはり身体に何か影響が出ているのだろうか……。


「い、いや、なんでも、無い…………あ」


 立ち上がろうとした瞬間、よろめいて俺の方へと倒れ込むルージュ。

 息が荒く、身体中が熱い……?

 まさか《ささやき》のスキルで相手に《命令》すると『高熱状態』にするスキルなのか……?


「大丈夫か?」


「さ、触るな! あんっ!///」


「え?」


 軽く肩に触れただけで、大きく喘ぎ声を漏らしたルージュ。

 え?

 今……『あんっ!///』って言わなかったか……?

 魔王が……?


「な、なんでもない……。ちょっと……い、痛かっただけ、だ……」


「そ、そうか……」


 そのまままたヨロヨロと起き出し、部屋の外へと出ようとするルージュ。

 どうにも足取りが重いというか……。

 なんで内股で歩いているんだ……?


「肩を貸そうか? なんか俺の《命令スキル》の副作用か何かなんじゃ――」


 ベッドから起き出しルージュに近づこうとした所で――。


「寄るなと言っている!」


「うわ!」


 強烈な爆風が突如俺を襲い、俺は部屋の奥へと吹き飛ばされてしまう。


「いつつつ……。何なんだよ……一体……」


 頭を抑えながらも置き出す俺。

 何が起きているのかさっぱり理解出来ない。


「わ、悪い……つい……。我は大丈夫だ……。大丈夫だから、引き続きお前はティアラを上手く誘導し、《命令士》としてのスキルを上達させるのだ……。では、我は用事があるのでこれで……」


 バタン、とドアを勢い良く閉め、小走りで廊下を駆け抜けて行ったルージュ。

 そしてキョトンとした表情で部屋に取り残された俺。


「何だったんだ……あいつ……」



 そう独り言を呟いた俺は――。



 ――今夜に備え、もう一度仮眠を取る事にした訳で。


















アルル:何がなんだか

ティアラ:はらり

ルージュ:ビクンビクン///

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