LV.014 ボスに失笑されました
『失笑者の森』を更に奥に進み。
俺達はついにボスのいる開けた場所へと到着する。
「・・・」
『なんともまあ……。腹の立つ顔のボスじゃのぅ……』
『ボスの間』で待っていたのは大きな蜘蛛の様なモンスター。
周りの木々には巨大な蜘蛛の巣があちらこちらに張り巡らされている。
そして蜘蛛の背の部分に――。
『キッシャッシャッシャッシャッ!』
「・・・」
『……失笑……されとるの、お主…………ぷっ』
「……おねがいだ、ティアラ。自分自身に《回復魔法》を掛けてくれ」
静止する世界。
白黒になる世界。
『……良いぞ……《ヒール》! ………………はっ! ああッ! 溶けるっ! ワシの身体溶けるッ! やめて! まだ成仏しとうないわ! イヤーーーーーー!』
悶えるティアラ。
やはり幽体となったティアラは《不死腐獣》と同じカテゴリーに分類されるらしい。
ならば《治癒師》であるミレイユは天敵という訳か。
勉強になりました。
『キッシャッシャッシャッシャッ!』
ボス蜘蛛が徐々にこちらに間合いを詰めて来る。
よく見ると、奴の口からボタボタと紫色の液体が滴り落ちているのが見える。
(あれは『毒』だな……。噛まれたら全身に回って一気に昇天、ってか……)
もしくは蜘蛛の糸で動きを封じてから徐々に毒で侵し捕食するつもりなのか。
どちらにせよ間合いを取りながらの戦闘を心掛けるに越したことは無い。
「ティアラ。奴のステータスが知りたい。いつもの杖で宜しく頼む」
『お、ちょ! そんな事よりワシ溶けてる! お主は鬼畜か! 嗚呼ッ! 身も心も溶けてしまうっ!』
はぁ、と溜息を吐きアイテム袋から《魔水》を取り出しティアラにぶっかける。
《魔水》とは《聖水》と対極の位置にある呪われた魔法水だ。
普段使うことは滅多に無いからホコリを被ったまま袋に入ったままになっているのだが。
『ふぃー。いや本気で昇天するとこじゃったわ……。アルル、マジ鬼畜』
「いいから行けよ早く……」
『……何だかワシ、Mに目覚めそうじゃ……どれ』
こちらに間合いを詰めていたボス蜘蛛に飛んで行くティアラ。
そして杖を使い奴の頭上の空間を叩く。
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【NAME】久遠なる最後の失笑者★/LV.215
【HP】21600/21600
【SP】10300/10300
【MP】0/0
【ATTRIBUTE】『闇』
【TYPE】『斬』
【SKILL】『ギロチン/LV.199』『捕食/LV.154』『毒の牙/LV.78』『蜘蛛の毒糸/LV.212』
【MAGIC】---
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『ほう……。★が付いているという事は、こいつがこの森の主か』
成程。
ボスクラスのモンスターには名前の横に★のマークが付くのか……。
そしてスキルを見る限り、やはり厄介なのが『毒攻撃』と蜘蛛の糸での『拘束』……。
(『蜘蛛の毒糸』ってことは、あの糸自体にも毒が塗られている可能性が高いな……)
やはり距離を取って戦うのが懸命だろう。
しかし、試してみたい事がある。
果たしてレベルが200を超えているボスモンスターにも効果があるのかどうか――。
「ティアラ。お前さっき『Mに目覚めた』って言ってたよな」
『な、何を急に……。ま、まさかお主……! ワシを無理矢理……!』
頬を両手で覆い『やーだー///』だの『きゃーのきゃーのー///』だのと喚いているティアラ。
俺はそれを完全に無視し説明を続ける。
「俺の《命令の力》を奴に試したい。奴の気を引いて隙を作ってくれないか?」
『……なんじゃ、そっちか。どうすれば良い? ま、まさか……! ワシに裸になれと……!』
頬を両手で覆い『どうしよー///』だの『はだか自信なーい///』だのと喚いているティアラ。
俺はそれを完全に無視し説明を続ける。
というか《命令》する。
「おねがいだ、ティアラ。奴に『蜘蛛の糸』を使わせて捕食されてくれ」
◆◇◆◇
『・・・』
『キッシャッシャッシャッシャッ!』
『……あのー……』
『キッシャッシャッシャッシャッ!』
『・・・』
作戦どおりティアラは蜘蛛の糸でグルグル巻きにされながらもボス蜘蛛に捕食されている。
『……あのー……。凄く……ベタベタで……臭くて……』
「(我慢しろ! もう少しで終わるから!)」
餌に意識を集中しているボス蜘蛛の死角から徐々に近づく俺。
事前にティアラに《無足》という気配を消す補助魔法を唱えてもらっている。
というかこんな便利な魔法があるのならば、さっさと最初から唱えておいて欲しかったのだが……。
『……早くして貰えると……嬉しいです……』
『キッシャッシャッシャッシャッ!』
バリバリと音を立て、ティアラを捕食し続けるボス蜘蛛。
あの様子ならば恐らくティアラは全くダメージを受けてはいないのだろう。
大きな音は自身の頑丈な糸を牙で破壊している音なのだろうし。
「(よし……。この位置なら……)」
上手い事ボス蜘蛛の背後に陣取った俺。
しかし――。
パキッ。
『キシャ……?』
「あ」
小枝を踏んだ俺を、ボス蜘蛛が振り返る。
「……あ」
『キシャアアアアアアアアア!』
『お、ちょ! なにしとるんじゃアルル!』
糸でグルグル巻きにされてしまった俺。
苦しい。
死ぬ。
『お主はアホかあああああああ! 同じ失敗を繰り返してどないするんじゃ!』
『キッシャッシャッシャッシャッ!』
糸の隙間からボス蜘蛛が大きく口を開けるのが見える。
嗚呼、確かに臭いな。
毒液と腐液が混ざった様な臭い。
『くっ……! アルル! くそっ……! 間に合わんか……!』
ティアラが必死に毒糸の拘束から抜け出そうとしているが、どう考えても間に合わない。
そして俺の眼前には既にボス蜘蛛の大きな口が――。
『キシャアアアアアアアアアアア!』
『アルル!』
そして俺は一言、こうささやく。
「死ねよ」
世界の時間が静止する。
ぐにゃりと白黒の画面に覆われる世界。
『…………』
何が起こったのか理解していないのだろう。
大きく口を開けたままのボス蜘蛛は。
記憶を失ったまま、絶命する。
『……これは……お主……《ささやき》を……』
ティアラが安堵の溜息を吐きながら、蜘蛛の糸から脱出し俺に近づいて来る。
そう。
既に先の数度の戦闘で《ささやき》をマスターしていた俺。
要はそのスキルをボスで試してみたかっただけなのだが。
『どれ……』
ティアラが俺を解放し、杖で頭上の空間を叩く。
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【命令士】 LV.14
『スキル』 おねがい LV.3
ささやき LV.7
ゆうわく LV.18
絶対循守 LV.99
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『ほう……。これまた一気にレベルが上がったのう……』
しきりに身体中に付いたボス蜘蛛の唾液を気にしながらもティアラは言う。
「ホントだ……。一気に5くらいレベルが上がったよな……。まあ、あのボスのレベルが200以上だったし……」
同じくベタベタの身体を気にしながら答える俺。
そして次なるスキルは《ゆうわく》。
一体どんな効果が得られるのかは分からないが――。
『お? 転移が始まるみたいじゃな』
空間にノイズが走り、身体全体を浮遊感が襲う。
取り敢えずは魔王城に戻って、まずは風呂にでも入らなきゃな……。
第二章 有象無象のフェイクトゥルース fin.
次章 奴隷遊戯のマリオネット
【失笑者の森クリアボーナス】
12500G
笑蜘蛛の毒牙×1
笑蜘蛛の毒糸×3
笑蜘蛛の鋭鎌×4
腐敗した消化液×6
頑丈な節足×3
失笑者の森の勲章