LV.012 霊媒師の戦いぶりに驚嘆しました
『ぐすん……』
蹲り床にのの字を書くティアラ。
ちょっとやり過ぎたか……。
「悪かったよマジで……。でもティアラって綺麗な肌――」
『もう言うな! 絶対言うな! ワシ……もうお嫁に行けない……』
「死んでるんだからどうせ行けないだろ」
『だからうっさいわ! うわあああああああああん!』
地雷踏んだみたい。
ババアなのかガキなのかさっぱり分からん。
しかし、今はこいつの協力を得なくては駄目だ。
まあ、ある程度は強制的に得られるのだけれど。
「ほら、おねがいだから機嫌を直せよ。で、いつもの杖でこの《魔法の鍵》をトントンしてくれよ」
『ぐすん……。仕方ないの。ホレ』
涙目を擦りながらも杖を取り出し《魔法の鍵》から文字を出現させるティアラ。
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【魔法の鍵】 LV.1295
『異界』 失笑者の森 LV.6
愚鈍者の峠 LV.10
調律者の丘 LV.18
聖職者の墓 LV.21
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ずらっと並べられた『異界』へのリスト。
カーソル? が一番下まで届かない位の量だ。
一体この《鍵》一本で、どれくらいの数の『異界』へと旅立てるのか……。
「うーん。どれも城の外には繋がっていなそうだよな。あ、でもここでレベル上げしちゃえばいいじゃん。うん、そうしよう。なんでか知らないけどこの城、モンスターとか全然出てこねぇし」
『あ、ああ……。そう……じゃな』
何だか納得いかない表情のティアラだが、俺は構わず《鍵》を《鍵穴》へと差し込む。
「当然強い『異界』には行けないよな……。まずは一番レベルの低い『失笑者の森 LV.6』でレベルをあげて《ささやき》が使える様にするか」
『あ、おい! アル――』
ティアラの静止を無視し、俺は念じながらも《鍵》を回す。
そして一瞬のうちに何処かへと飛ばされた様な感覚。
ルージュからの説明では、この部屋ごと『異界』へと転移するそうなのだが……。
『……まったく……。少しは躊躇とかせんのかお主は……』
はぁ、と溜息を吐くティアラ。
俺は苦笑いをしながらも部屋から出、外の様子を確かめる。
「ここが……『失笑者の森』……」
部屋の外は鬱蒼と生い茂る森が続いていた。
そこかしこで獣の鳴き声の様なものが鳴り響いている。
さて。
「なぁ、ティアラ」
『ビクッ! な、なんじゃ! また《おねがい》か! ま、まさか今度は全裸にでもなれと……!』
身を縮こませる様にしながら後ずさるティアラ。
俺は一体どんな鬼畜なんだよ!
「違います」
『……違うのか。あそう』
なんか残念そうな印象を受けたが俺の勘違いだろうきっと。
「お前と俺は一心同体なんだろう? だったらレベル上げに協力してくれるよな。お前も知ってのとおり、俺にはまったく『戦闘能力』が無いんだよ。《命令スキル》だって個の戦闘ではそこまで使い勝手は良く無いんだろう? 流石の俺だってそのくらいは分かるさ」
『……協力……。ああ、するぞ。ワシはアルルに協力する……。確かにお主は《命令士》としてはまだまだひよっこじゃ。熟練の《命令士》でもその名のとおり、《命令》に特化した職業じゃからな。強力な盾役となる《前衛》、奇襲にも対応出来る《万能型》、即座に回復や強化魔法を唱える事が出来る《回復役》、スキルポイントやメンタルポイントが尽きた時に緊急回避出来る《アイテム使用役》。これら《命令士》の手足となる強固なパーティを組んでこそ、お主の真価は発揮されるのじゃから』
俺の《命令士》としての真価……。
強固なパーティ。
それはまさしくアーシャが集めたメンバー達の事だ。
アーシャ、デボル、シュシュが《前衛》。
奇襲に即座に対応するナユタとレム。
《回復役》のミレイユに《後衛高火力》のローサ。
そして切り札の《竜化》と《獣化》――。
そこに俺の成長した《命令士》としての能力が加われば――。
「アーシャ……」
つい幼馴染の名を呼んでしまう。
あれだけ頑丈な奴らだ。
恐らく魔王ルージュも手加減をした筈だから、大事には至ってはいないのだろう。
アーシャ達を殺してしまっては、俺の協力が得られない事を彼女は分かっているのだろうから。
『お。感傷に浸っている暇は無さそうじゃな』
ティアラの言葉で意識を戻す俺。
前方にはこちらに気付いたモンスターが涎を垂らしつつ近づいて来るのが見える。
「因みに確認しておくけど、《霊媒師》ってのは戦闘にも特化している職業なんだよな?」
『当たり前じゃろうて。ワシは一人で魔王城へと向かい――――あれ……? なんの話じゃったか……?』
《記憶喪失》の副作用に掛かるティアラ。
そうか。
戦闘能力にも長けているのならば、存分に協力してもらうとしよう。
じゃあ、まずはどんな《命令》をしようか――。
◆◇◆◇
『ギャギャギャアアア!』
鳥型の猛獣が空から急襲して来る。
「ティアラ! お前の能力を見せてくれ! お前の《霊媒師》としての能力を!」
『むぅ……。なんか良い様に使われている感じが否めないのじゃが……。まあ良いわ』
ふわっと宙に浮いたティアラ。
まあ、幽霊なんだから普段から宙に浮いているんだけど。
『ギャギャギャ!』
『五月蝿いのぅ……。まずはその口を塞ぐか』
何かの魔法を詠唱するティアラ。
《霊媒師》は魔法主体の戦闘スタイルなのだろうか。
『《梔子》!』
『ギギョェッ!?』
突如モンスターの顔から無数の蔦が出現。
みるみる内にモンスターの鋭利な嘴を縛りつけて行く。
『縛りは完璧じゃの。ならば次はこうじゃ! 《蝋攻》!』
増殖し続ける蔦は、嘴だけでなく身体全体を縛り上げモンスターは急降下。
地面に激突と同時に上空に巨大な蝋が出現する。
あれは……熱いってモンじゃ無いぞ……。
『ギギ……ギギギィィィィ!!』
『ほーれほれほれ! ええんか! こういうのがええんか! ほれほれ!』
「・・・」
これが《霊媒師》の戦い方……?
想像してたのと全然違うのですけど……。
『むぅ……。意外に体力あるのぅ、お主……。どれ』
蝋まみれになっているモンスターに近づき上空を杖で叩くティアラ。
そして出現するステータス。
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【NAME】オオワライドリ/LV.54
【HP】1231/7520
【SP】1500/1500
【MP】780/780
【ATTRIBUTE】『火』
【TYPE】『打』
【SKILL】『急下降/LV.34』『くちばし/LV.45』『炎の爪/LV.12』
【MAGIC】『ファイアブレス/LV.29』
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「……おい……これって……」
敵の情報がこんな簡単に得られるのか……?
もしかしたらあの『杖』こそが《霊媒師》の最大のチート……?
『ほう。HPが7000オーバーとは……。これは退屈せんで済みそうじゃわい。フォッフォッフォ』
怪しげなティアラの笑いが『失笑者の森』に響き渡る。
そして絶命寸前の、縛り上げられ蝋攻めを受けているモンスターの呻き声も。
(相手の状態を常に把握し、最も効果的な攻撃方法を選べる、か……)
まるで《命令士》と《霊媒師》とは2つで1つのセットの様な《職業》だと思う。
いや、だからこそティアラは《命令士》と成り得る人物を生涯を掛けてまで探して来たのか……。
『ほれ! ええんかい! これがええんかいの! の!』
俺は奇声を上げて楽しんでいるティアラを横目に見ながら――。
――いつまで彼女を騙し続けられるかと考えていた訳で。
アルル:ティアラ頑張れー
ティアラ:ええんか! これがええんか!
オオワライドリ:討伐




